アマルム処刑場。ゲント族ですら慈悲をかけることを諦めた罪人を処刑するために造られた公開処刑場である。ここで処刑された罪人の名と罪状は世界中に知らされ、永遠に極悪人としての名を残すことになる。
ザンテがアマルム処刑場に送られる日となった。ザンテはマホトーンをかけられ、牢から引きずり出された。ザンテは毒入りの食事と空気のせいで筋肉が無くなり痩せ細り、骨と皮だけの体となっていた。髪の毛を剃っていた頭からは銀色というより灰色の髪が生えていたが、半分以上抜け落ちたようになっていた。ザンテの体は清められることなくそのまま牢と同じように魔力封じの施されている馬車に入れられた。その馬車には兵士が4人付き、ザンテを運んで行った。4人の兵士達の首にはある魔力の込められた首輪が付けられていた。その馬車の前方と後方に監視のためのゲント族の僧侶や兵士用の馬車が付き、後方の馬車にチャムが乗り込んだ。そうやって進むこと2時間。アマルム処刑場に到着した。
馬車から出され、4人の兵士に囲まれたザンテの目の前にチャムが立った。
「ザンテ、お前の罪状は反逆罪だ。族長であるわしに逆らった挙句、自分をゲント族の族長にせよと迫った。・・・温情をかけて育てた我々ゲント族を裏切ってくれたな・・・」
かろうじて意識の残るザンテの頭の中で、そんなことはないと否定した。
「この処刑場では一方的な罪は与えん。もしお前がこの地の神に愛されているのならお前は無実ということになる。あちらに一本の柱が見えるだろう。ここからあそこまで歩いていき、あの柱に触れることができればお前は無実だ。だが、有罪である者には神の怒りとして爆発が起こる。爆発が起こる場所は1箇所であるとは限らん。・・・ここはそういう場所なのだ」
チャムは一息入れて続けた。
「ふむ。ザンテ、今のお前は1人では立つこともできまい。そこの4人の兵士達、ザンテを抱えてあの柱まで行くのだ。ザンテが無実ならば、お前たちもゲント村に帰ることができる。多少の傷は我々が治してやる」
兵士達は絶望的な雰囲気を出しながらも観念した様にうつむいた。
チャムによる刑の説明後、見張り用のゲント族の兵を数人残して、チャム達ゲント僧侶はアマルム処刑場を見下ろすことのできる丘に立っていた。背後より武器商人のジグがチャムに話しかけた。
「アマルム処刑場が使われるのは久しぶりですな。そしてこの(煉獄)という名の処刑方法、おそろしい限りです。チャム様に言われた通り、このアマルム処刑場の地に(ばくだん石)を地雷として何十個も埋めております。あの兵士達にも逃亡防止用に(メガンテのうでわ)を改造したもの、メガンテの首輪を首に付けております。逃亡を確認次第、メガンテの首輪を発動させ、兵士の首を吹き飛ばすことが可能です」
「ふん・・・、嬉しそうな顔で話すでない。お前の仕事ぶりには期待しておるよ」
イオラ程の爆発を起こすといわれているばくだん石の開発に成功したジグに対し、チャムは言った。
1人では立つことのできないザンテを2人の兵士が左右の肩を担いで抱え、前後に2人の兵士が付いた。
「用意はできたな。では煉獄の刑を開始する」
チャムがそう言うとゲント族の兵士達は一斉にザンテ達から離れた。だが、ザンテを囲む兵士達は怯え、そこから一歩も先に進もうとしなかった。
「うわ・・・、あっ、・・・あああっ!!」
その中の先頭にいた兵士の1人が発狂した様に声をあげその場から逃げだした。それを見たチャムは仕方ないとばかりに右手の人差し指を逃亡する兵士に向けると兵士の首に付いたメガンテの首輪が光りボフッと爆発しその兵士は倒れた。兵士はバタバタと手足を動かしていたがやがて動かなくなった。
もう少し魔力を増やしておけば苦しまずに死なせてやれたとチャムは思った。元々ザンテの周りにいるように配置してメガンテの首輪を付けた兵士達は死刑確定の罪人なのだが。
「あうっ・・・、うううっ・・・」ザンテと残り3人になった兵士達は柱を目指し、ゆっくりと歩き出した。
「ううっ、あっ・・・、あああっ・・・!!」ザンテの左肩を抱えていた兵士が声を上げた。土とは違う、硬い物を右足で踏んでしまった感触があったのである。ドゴオオンッと音を立てて地面が爆発した。ザンテ達は爆風で全員が吹き飛んだ。
「うあああっ!!俺の足がああっ・・・!!」ばくだん石を踏んでしまった兵士の右膝から下はすでになく、腹から下もやけどで爛れていた。ザンテも傷を受けていたが他の兵士達ほどではなかった。チャムを含む、ゲント族の者たちは驚愕していた。あれほど体を弱らせたのにまだ魔力に対する耐性が残っていたのか。一方でジグはばくだん石の威力に満足しながらも上からでは爆風により、負傷具合のわかりにくい今の状況に苛立ちを感じた。ばくだん石は今のままではまだコストが掛かり過ぎる。大量生産ができるようになるまであとどれ位の月日が必要だろうか?そんなことも考えていた。
兵士達はばくだん石を踏み、傷を負った兵士をその場に置いて、ザンテを抱え再び歩き出した。このザンテさえあの柱のところに連れて行けば無実となり傷も癒してくれるというゲント族族長のチャムの言葉を信じて。
(行かねば・・・。あの柱まで)何度の爆発をくらっただろう?そばに付いていた兵士達はもう動くこともできない為、ザンテは1人這いながらチャムの言っていた柱に向かった。私があの柱に着けば終わるのだ。私の罪のせいであの兵士達を死なせるわけにはいかん。ザンテは力を振り絞った。足はすでに動かないため匍匐前進のように手の力だけで前に進んだ。左の手が硬いものに触れてしまった。(ああっ、しまった・・・)ザンテが嘆く間もなくばくだん石は爆発した。(ううっ、あううう、あっ、あああっ、私の手が・・・)ザンテの左手は皮と肉が吹き飛び、骨が見える状態になっていた。顔も火傷で爛れ、視界が狭くなっている。これでもう、医者としての仕事はできんかもしれん。だがまだ右手がある・・・。生きるのだ。生きて、ゲント族の族長に・・・。頭の中で何度も回復呪文を使おうとしたが使えず、魔の力を使おうとしてもチャムの顔が頭をよぎり使うことができなかった。これは試練だ。チャム様が私に、ゲント族族長となるために試練を与えているのだ。ザンテは自分にそう言い聞かせ、右手の力だけで這って進んだ。ぞわりと腹に嫌な感触がした。腹の下に何か硬い物が・・・。そう思った時にはばくだん石は爆発していた。うつぶせのザンテは吹き飛び、仰向けの形となった。爆風により柱に少し近づくことができたが、ザンテは絶望的な自分の身体の状態に気付いた。腹の傷が開き、内臓が飛び出そうとしている!右手はもうピクリとも動かない。もうダメだ・・・。私は罪人としてここで死ぬのだ。申し訳ありません、チャム様。済まなかったアンナ。4人の兵士達・・・。私がいなければ、生まれてこなければ・・・。
懺悔とともに生を諦めたザンテの頭の中に声が聞こえてきた。
(遂に見つけたぞ!我が器となる肉体を持つものを・・・)
爆発によって吹き飛ばされた地面から邪神を象った像が見えた。