「~。~」
「マ、マジか。よっし、ようやくメルビーがべホイミ覚えてくれたか!」
ヘロヘロになったテリーが言った。
「たった1日半で50回くらい戦闘するなんて無理があり過ぎだよ。もう夜になったじゃん。早く宿に行って寝ようよ」
「ま、まずは、食糧の補給を・・・。テリーが昼飯抜いてノルマさっさと達成しちまおうとか言ったんで朝からぶっとうしで歩き回って、戦い続けて、今日1日で13時間くらい休憩なしで労働してますよ。労働現場の改善を要求します」
「もうちょっと効率のいいレベル上げを・・・。次に仲間になってくれる奴には(くちぶえ)覚えてもらおうな。とりあえず歩き回らなくていいから・・・」
50回目の戦闘でようやく僧侶のメルビーはべホイミを覚えた。クタクタになった一行はルーラでクリアベールに行き、飯をたらふく食って泥のように寝た。
結局昼過ぎまで寝ていたので超過料金を取られてしまった。
「うががががが・・・、ひょっとしていつもの夕方位に戦闘を切り上げて、朝早く起きて、またレベル上げに行くというパターンの方が良かったってか・・・」
「昨日はフワフワのベッドに寝れてサイコーとか言ってたくせに・・・。まー、資金は十分あるからいいじゃない。さて、サンマリーノに馬車取りに行こうよ」
「そうですよ。レベル上げの後、馬車取りに行ったら今度は知り合いに会う前に汚れちまったから、フロに入って服も洗濯するとか言いだして、また遅れるのがオチですよ。サンマリーノで優雅に海鮮ランチでも食べて、余裕ある感じで馬車を引き取りに行きましょう」
ピエールの言葉にあっさりと納得したテリーは宿を出て全員でサンマリーノに飛んだ。
「うーむ、やっぱりサンマリーノの飯はうまいな。ハッサンがここに住んでなくて顔合わさずにすむのなら拠点をサンマリーノにしてもいいんだが・・・」
「テリー、間違ってもそれをクリアベールの食堂で言っちゃいけませんよ。海鮮類が珍しいからより美味しく感じているだけです。なんだかんだで肉や野菜をバランスよく出して栄養も偏らず飽きない料理を出してくれるクリアベールの食堂の料理人の方に感謝すべきです。あ、このサラダとパスタ追加でお願いします」
「普段より倍近く食ってるやつに言われたくねーな」
満腹になったテリー一行はハッサンの家に向かうことにした。お土産の製造元が違うことをJAROに訴えるなどとテリーは言ったが、あれを見抜くことができるのはテリーだけだと魔物たちが褒めたらおとなしくなった。
「よーし、ハッサン家に着いたな。ごめん下さーいって、あっ!」
1階が工房になっているハッサン工務店の中に大きな馬車があった。
「おー、テリー達早かったな。こういうのは期限の日の夕方ギリギリに取りに来るのが職人への暗黙のルールだぞ。まあいいか。どうだ、たいしたもんだろ」
ハッサンは誇らしげに自分で製造した馬車を指した。
「うんうん、まあ、いいんじゃない」平静を保っていたがこれで自分も馬車のオーナーかと思うとニマニマしそうになる口元をおさえるのが精一杯のテリーだった。
「あっ、テリー、これ請求書」ハッサンが紙をテリーに渡した。
「馬も手配してあるからな。すぐに持ってこれるんで今日から乗れるからな。御者は・・・、ピエールできるだろ?」
「ええ任せて下さい。それにしてもこのような立派な物を短期間で・・・。ありがとうございました」
「ファルシオンがひいてた馬車よりも少し大きくて頑丈そうだね。中も広々としているし、色々載せても大丈夫みたい。ハッサンは本当にすごいよ!すごいよ!」
「~!~!」
魔物たちは口々に馬車を褒めた。
「おい、お前ら・・・、そんなに褒める必要ないぞ。こっちはきっちりとゴールドという対価を払うんだからな。でもな、ハッサン・・・。なんだこの金額は。サンマリーノじゃインフレでも起こってんのか?」
テリーはプルプルと震えながら請求書を見せた。
(馬車、馬1頭合わせて15,000ゴールド)と書かれていた。
「それ位するに決まってんだろ!馬車で10,000ゴールド、馬で5,000ゴールドだ」
「馬車って大体5,000ゴールド位でくるんだぞ。なに相場の3倍の値段とってんだよ!」
「そりゃおめえ、そんじゃそこらの作業員が作った馬車だろうが。この馬車にはハッサン工務店のベテラン職人の匠の技術が詰まってんだよ」
「ベテラン職人って、ジョセフって奴、つい最近入社したって言ってたじゃねーか!」
ギャーギャー言い争いをする2人を見てピエールは思った。普通こういう1品もののオーダーメイド品は製作者側が最初に値段を提示して、この値段ならこの位のグレードでオプションを付けようと思ったらこれ位値段が上がりますとか、もしくは依頼者側がいくらまでなら出せるからその範囲で作製してくれという話し合いをして、製作者側が製図を作り、それを改善点やコストカットできるところを何度も話し合いをした後、手付金として前金を払ってようやく製作にとりかかり、中間あたりで依頼者を呼び、もう一度このまま進めていいかと判断を仰いだ上で、完成品を作るに至るのだ。今回はいろいろと端折り過ぎているから買い手と売り手の間にトラブルが起きても仕方ないケースであった。
「テリーも仲間だから相場より少し割り引いてくれるかなという下心があったんだろうね。大きい建設会社に直接仕事を頼んでもその下請けが仕事をするだけで、中間マージンが高いからって、直接下請けに仕事を頼んだら、値段そんなに変わんないわ、親会社の看視がないから仕事はテキトーだわって時があったけど、感覚的にそれに近いよね」
「~、~。(口約束よりもきちんと文書で契約書を書いてからお互いの判をうった上で、仕事に取り掛かるべきだった)」
魔物たちはそれぞれの感想を抱いた。
こりゃ、テリーがキャンセル料払うとか言いだすなと思いピエールが言った。
「テリー、15,000ゴールドというのはハッサン殿だけに支払われるわけではありません。こちらに勤めておられる従業員の方々、そしてその方達が税金を納めるサンマリーノの町の方々に払うのです。テリーの支払う15,000ゴールドによってサンマリーノの船は改修工事ができて性能が上がり漁獲高も増え、新鮮でおいしい海鮮類がサンマリーノだけでなく、各国に行きわたる様になります。テリーは資本家としてこの世界自体に投資をしているのです」
「・・・百理ある」テリーは納得した。
「でも俺、15,000ゴールドなんて大金持ち歩かねーからな。持ち歩く金は3,000ゴールドまでって決めてるから。ゴールド銀行に行って金おろしてくるからな。待ってろよ」そう言ってテリーは走って行った。
「ピエール、相変わらず、口うまいなー」
まあ、ナイトですからねというピエールにハッサンは続けて言った。
「そんなお前にプレゼントだ。受け取ってくれ」
ハッサンはメタルキングの剣を持って来てピエールに渡した。
「これは・・・、いいんですか?この世界に1本しかないものを・・・」
「いいってことよ。この剣だって、飾られてるより使ってもらう方がうれしいだろ」
実際、ハッサンは応接室にメタルキングの剣を飾っていて、はじめこそ客との話し合いのネタになり重宝していたが、そのうち同じような話ばかりして飽きるわ、商談に入るまで無駄に時間が掛かるわで持て余していたところだったので、手放すにはちょうどよかった。ピエールにしても、現在装備している(きせきのつるぎ)は手に馴染んでいるし、攻撃するたびに回復はしてくれるし、単純に剣による攻撃なら追加効果のある(ふぶきのつるぎ)の方が合計すれば高いダメージの数値を出せることは知っていたが、空気を読んで余計なことは言わなかった。そうしているうちにテリーが戻ってきた。
「ほら、きっちり15,000ゴールドだ。領収書を書いてくれ。保証期間は1年付けろよ」テリーはハッサンに言った。
「テリー、見て下さい。ハッサン殿からメタルキングの剣を頂きました」
「ん?あっそ。つーか、使わねーんだったら最初からさっさとよこせってんだよ。頂きましたもなにも、そもそもそれハッサンの私有物じゃねーからな。デスタムーア討伐組の共有財産だから。預かり主が変わっただけだから、そんなに感謝する必要ねーぞ」
そう言うと、(賢者の石)とか(時の砂)とか持って行っちまったバーバラは罪だよなーとテリーは思った。
「んーだと、コラァ、お義兄さんありがとうございますと素直にいえねーのか!?」
「だれがお義兄さんだ!人んちの姉ちゃん勝手に妄想婚約者にしやがって!テメーはさっさと部屋とYシャツを気にするアマンダと結婚して、寝言で別の女の名前を言って、毒入りスープでアマンダと一緒に逝きやがれ!」
古いネタを・・・と魔物たちは思った。
「次に仲間にするのは・・・アイツか。上の世界のカルカドか・・・。はい、スラリンよろしく」
「・・・。まずはダーマ神殿の井戸に行かなきゃね。ルーラ」
一行はカルカドに到着した。
「もう夕方近いから早めに仲間になってほしいよね・・・」
「宿屋が嫌な予感しかしねーからな。そりゃしあわせの国とか言われたら逃げ出したくなるわ、この町・・・。でも、なんだかなー、俺の物欲センサーが井戸の近くに何かあるって言ってるんだけど・・・」
「さっさと仲間にしましょう。この辺りもメルビーしか熟練度が入りませんよ」
という訳でカルカドの町周辺で戦闘をすること数回、スーパーテンツクが仲間になった。
「クエッ、クエッ」
「おう、よろしくなツンツン。踊りが好きなのか。補助係として期待しているぞ。でも最初は遊び人としてくちぶえを覚えてもらうぞ」
「クエッ、クエッ」
「そうだな、その後、踊り子からのスーパースターだろうな。毎回ハッスルダンスやってくれるだけで戦いが安定するからな。遊び人だから戦闘中遊ぶんで、行動の予想がつかないからその間は馬車だけど我慢してくれ」
「クエッ、クエッ」
「うーん、確かにしあわせの国なんてものに騙された人間たちは馬鹿だったのかもしれねえ。目が覚めた人間の男が幸せを考えた時、(母ちゃんの作ったシチューを食べる)ってのも魔王との戦時中ってのを考えればそりゃ普通じゃなく、最上級クラスの幸せだよって俺も思ったもん。(1杯のかけそば)と逆だよ。外食でかけそば1杯を家族で食うってのを幸せだ、贅沢だっていうんなら、普段家で何食ってんだよって話だよ」
「魔物の僕ですら、クエッ、クエッって言ってるようにしか聞こえないんだけど!」
「どーせ我々がわからないと思ってテキトーにしゃべってません?」
「~!~!(どんだけあのマンガが好きなんだよ!曖昧な記憶でしゃべると後で大恥かいて、全部修正する羽目になるぞ!)」
テリーとツンツンの会話に他の魔物たちはつっこんだ。