ガンディーノの町の周辺で、熟練度と経験値を得るための戦闘を行う日々が続いていた。ガンディーノの町についてはいい思い出がない為、町の中に入ることはなかった。ただ、今のテリーのレベルで熟練度が得られる丁度いい魔物の狩り場がここなのである。ガンディーの町に入ってギンドロ組の者と会い、昔の事で軽口でもたたかれたら、そいつを殺してしまうかもしれない、そんな心配がテリーの中にあった。今はそれは簡単なことであるし、デスタムーア討伐パーティーの英雄の一人とされている自分はそれほど罪には問われないかもしれない。相手はヤクザ者でもあるし。しかし、それをしてしまえば、自分自身が損なわれるような気がする。育ての親の老夫婦にも会いたくなかった。育ててくれたことには感謝しているが、ミレーユが当時のガンディーノ王の所へ連れて行かれたことに関してはどうにかならなかったのかと責めたい気持ちもある。結局自分は、色々考えたくなくて逃げているだけなのだと思う。
戦闘の際、単体の魔物と遭遇した場合は、レイルーラで魔物の背後にまわり、パラディンの際に覚えた「しんくうは」で攻撃。魔物が反撃をしてきたら、レイルーラでかわし、魔物が死ぬまでしんくうはを使った。複数の魔物たちと遭遇した際は、レイルーラで魔物たちの死角へ飛び、同じくしんくうはで魔物を攻撃。これを繰り返した。魔物たちを殺し、全滅させるまでレイルーラ・しんくうはを共に3~5回程使用した。
「はぐれメタル」の職業によって、体力が大幅に落ちている(8割減)ため、魔物たちの攻撃をくらうわけにはいかない。よって敵に接近できない。ましてや力も落ちている(4割減)ので、剣で攻撃したところでたいしたダメージは与えられない。今はこれしかできないという戦い方だった。やれやれ、剣の腕が落ちてしまうなと思い、腰につけた剣を握りしめた。デスタムーア討伐の旅の際は、レック達より譲り受けた剣を使っていたが、今テリーの腰にある剣は「雷鳴の剣」である。今現在、なぜこの剣を持っているのか?理由は簡単、好きだからである。振りかざすと勇者の使う「ライデイン」と同じいなずまを発するこの剣を持つと、自分は勇者になった気がする。この剣は自分の力で手に入れた誇りであり、現在の相棒なのだ。
1人で魔物たちと戦闘を行う日々は誰に気を使う訳でもないので気楽ではあったが、レック達とパーティーを組んでいたころよりも当然のことながら効率が悪かった。一回の戦闘に時間が掛かり過ぎるし、魔物たちの攻撃が集中するため、緊張を維持しなければならない。
ドランゴを仲間にするか?そんな考えが頭をよぎった。ドランゴのいる場所はわかる。自分が連れて行ったのだから。ドランゴは今、人里離れた山奥にいる。せっせと自分の卵を産み育てて、人間から攻撃を受けなければ、人を襲うこともないだろう。もちろん、テリー以外の他のメンバーもドランゴを目の届かない所に放してしまって大丈夫なのかという心配はあった。しかし、デスタムーア討伐の功労者の一員であるドランゴを、魔王を倒したからもう用無しと、処分するような発想を持つものはいなかった。なので、ドランゴやその子供たちが人を襲えば、自分たちがドランゴやその子供たちを倒しに来ると言っておいた。人語を理解するドランゴはうんうんと何度も頷いた。そんなことにはならないよなとテリーがドランゴの頭をなでるとドランゴは気持ち良さそうに目を細めた。
そのドランゴを仲間にすれば、戦闘は早く済むようになるだろう。ドランゴは今もドラゴンのマスター職のままだ。魔物たちの注意をテリーが引き付け、おとりとなり、ドランゴはただ「かがやくいき」を魔物たちに向けてはいてくれればいい。テリーの見立てでは「かがやくいき」は「しんくうは」の2倍ほどの威力だ。魔物たちを倒す時間は半分になるだろう。
そしてもう1人、そばにいてほしい人物がいる。バーバラである。バーバラはムドー城での戦いに参加していない。よって早い段階で他のメンバーとレベルの差がついてしまったため、なにより体力(HP)が少なかったため、早い段階で後方支援担当となった。まずは回復役として僧侶、次に本職ともいえる魔法使い、賢者となり持前の大いなる魔力(MP)により、呪文のエキスパートとなった。
そんなバーバラを変える出来事が起こる。「グリンガムのムチ」の入手である。これによりバーバラは当時のパーティートップクラスの物理攻撃力を手に入れる。しかもそれは単体ではない、複数の敵・グループ攻撃の出来る武器であったのだ。賢者をマスター職とした後、バーバラは「戦士」となりその物理攻撃力は大いに発揮された。前衛で物理攻撃により魔物たちをなぎ倒す役割を持った。「戦士」をマスター職にして「魔法戦士」となった。
だが、元々の体力の低さ、強力となっていく魔物たちの攻撃により、バーバラは再び元の後衛での攻撃・回復・支援呪文担当となった。メラゾーマ・イオナズン・マダンテといった強力な呪文や特技はいわゆるボス戦では重宝されたが、普段の旅の中での戦闘においては体力のある者が戦闘の前線に立った。
テリーはそんな、自分の力がまた必要とされなくなってきている、とバーバラが感じている時期に彼女に出会った。自己顕示欲が強いのに、実力が伴っておらず、悔しい思いをしているところは自分とそっくりだと思った。(実際のところバーバラは豊富な魔力によって後方での攻撃・回復・支援呪文担当という重要な役割を果たしていたのだが)
レックとバーバラが好きあっているということは、すぐに分かったため、テリーは自分からバーバラに話しかけるということはなかった。そうしている間にデスタムーア討伐の旅は終わった。
自分が前衛で敵をひきつけ戦い、少し後方でドランゴがブレス攻撃、後衛でバーバラが攻撃・回復・支援呪文。時には自分とドランゴが位置を交代してもいい。バーバラが前衛で戦いたいって言い出したら、自分が「かばう」で守りながら戦闘をしてもいい。などと色々な戦術を妄想してみる。
バカなことを、と思った。ドランゴを山奥から引きずり出して、こんな大義も何もない、ただ自分(テリー)の自己満足のために、本来ドランゴの仲間である魔物と戦わせるなどできないし、バーバラはもう、この世界にいない。いたとしてもこんな無益な戦いに参加させたくない。
仮にバーバラがこの世界にいたとしたら、レイドック王子の妻になっているのだろうか?そしてなにも持っていない自分は遠くからそれを見るしかないのだろう。もし、自分がレックより先にバーバラに会っていたのなら、バーバラは自分のことを好きになってくれたのだろうか?最初は格好良いなんて言ってくれてたからな。もしそうであったとしても、後からあらわれたレックが勇者となり、王となっていくのを見て、結局バーバラはレックのことを好きになるのではないか?そして自分はそれを止めることができないだろう。
考えると頭がぐちゃぐちゃしてきた。
戦うことを止められない、戦うことしか知らない。たくさんの人たちから認められたい。そしてそれを誇れる自分自身でありたい。勇者になりたい。自分の力で栄光をつかみたい。そう考えながら今日もテリーは魔物たちを狩っていった。