召喚師 屍魎己~魔都東京   作:律子

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 この作品は、以前にじファンに投稿していたのを加筆修正しました。TRPG,真・女神転生魔都東京200Xの設定が中心になります。スキル装備品の名称変更があります。
内容はフィクションであり、実在もしくは歴史上の人物、組織、地名などとは一切関係ありません。また特定の思想、信条、宗教を擁護、または『批判』する目的はありません。


第1話 逢魔ヶ刻

「さて、授業も終わったし早く帰らないと」

 

 俺は立ち上がるとロッカーに向かう。掃除当番は先週だったので、急いで帰り支度を終えると教室を出た。廊下では他のクラスの連中が所々に集まってお喋りしている。授業が終わってのんびり出来る時間でもある。

 

「「深町」」

 

 振り向くと同じクラスの武原直之と倉橋一也だった。

 

「俺達は掃除当番なんだが、もし終わるまで待ってくれたら駅前のゲーセンで遊んでいかねぇか?」

 

 箒を持った倉橋が言うと、ネクタイを外し首にタオルを巻いた武原も眼鏡を掛け直して頷く。

 

「以前、店で貰ったチラシによると、新作のバイオマスターが今日入る予定なんだ。で、俺達はさっそくプレイしようと思ってお前も誘ったんだ」

 

 武原が誘ってくれるが今日だけは都合が悪い。俺は周囲を見回すと小声でいかにも『非常』に申し訳無いと表情をして2人に事情を話した。

 

「実は、な……ほらっ以前、3人で秋葉原のPCショップのイベントで応募した例の『あれ』が当たったんだよ……」

「おいっ!! マジかよ!!」

 

 2人が信じられないと言う顔で俺を見る。まぁ無理も無いよ。

 

「スゲーじゃん!! 俺なんか当たんないぞ!! いいなー!」

「シーー!! 2人とも声がでかいってば」

 

 大声で話す2人に周囲の生徒が俺達を見る。慌てて俺は2人の背中を押して教室の中に押し戻した。幸い、教室内の連中は俺達に関心を払っていない。

 

「……と言う訳なんだ。ゲーセンなら明日付き合うよ」

「まぁ、それじゃ仕方無いよな。……もし俺だったら待ちきれず仮病でとっとと早退するぜ。なぁ、そうだろタケ?」

 

 倉橋が同意を求めるように言うと、武原は肩をすくめる。

 

「そりゃそうだ。で、明日でもいいから絶対に俺達にも触らさせてくれよな、な」 

「おK、了解した。でも学校に持ってくるのはヤバイから俺の家でな。では、また明日」

 

 おどけて右手で敬礼をする。

 

「じゃあな」

「おう、明日楽しみにしているぜ」

 

 2人の声を背にしてそそくさと階段に向かった。倉橋と武原は中学からの親友で同じ趣味仲間だ。

 俺達の教室2年C組は2階にある。急ぎ足で降りると、昇降口で上履きから通学用の革靴に履き替えようとした時だった。

 

「深町君」

「なんだ黒井さんか……俺、急いでいるんだけど」

 

 いつの間にか同じクラスの黒井日菜子が立っていた。艶やかなセミロングの黒髪で前髪を眉毛の上で切り揃えている。端正な顔立ちはへちゃむくれ顔の女子連中の中で人1倍目立つ。そしてなにより目立つのは着ている制服が黒いセーラー服だ。リボンタイにボタンが付いている所謂ジャケットで、丈の長いスカートとストッキングも真っ黒。離れて見ると全身黒ずくめで某マンガの敵キャラみたいだよ。

 ちなみに、ここの制服は男女共に紺のブレザーで水色のネクタイだ。男はグレーにチェック柄が入ったスラックスで、女子はグレーのチェック柄ジャンパースカート。俺が脳内で描写していると、黒井は腕を後ろに組んで俺の前に来た。ほのかな香水の香りが鼻腔を刺激する。

 背の高さはやや小柄な俺より少し低いだけで女子生徒の中では平均だ。まるで獲物を狙うような鋭い目で俺を見つめる。

 

「もっ、もしかして俺に愛の告白かとじゃないよな……たぶん」

「……」

 

 俺の冗談に黒井は鼻で笑うかと思ったが、視線を向けたまま短く囁く。

 

「今日は何処にも寄り道しないで帰りなさい」

「なっ!!」

 

 黒井は背を向けると階段に向かった。他の奴なら笑って済ませるけど、あいつに言われると非常に気になる。追いかけて腕を掴むと一瞬、不愉快そうな目で俺を睨む。

 

「それ、どういう意味だよ?」

「今日の昼休みにタロットカードで占った結果だけど、深町君は運命の岐路に立っていると出たのよ。当選したんでしょ? 例の『あれ』」

 

 こ、こいつ、どうして知っているんだ。

 

「なっ、何で分かったんだよ?」

「あの2人が大声で話していたから……もし当選から外れていたのなら……占いも違う結果が出て、私もここまで追いかけて警告なんかしないわよ」

「……」

 

 俺が無言でいると黒井は話を続ける。

 

「普通の生活を続けたいのなら、学校を出てから誰からの頼みや手助け求めてきても無視して家に帰りなさい。一晩過ぎれば今迄通り、平凡だけど普通の生活が送れるわ」

 

 それだけ言うと黒井は階段を上がりだした。

 

「もし……警告を無視したらどうなるんだ……?」

 

 あいつは俺に背を向けたまま。

 

「悪魔との戦いに巻き込まれて最悪、深町君に死が訪れる」

「なん……だと……」

 

 黒井は立ち去った。いつの間にか昇降口の周囲は静寂に包まれ、誰もいない。まるで俺一人が取り残されたみたいだ。

 

「ったく、あの女、何様のつもりだ!! 俺が死ぬなんて……それに悪魔なんているわけねーよ!! お前はアニメやゲームに出てくる謎の女か!! これだから嫌だねー占いオタクって奴はよ」

 

 下校する他の生徒に混じって校門を出ると、ゆるい坂道を下り住宅街を歩きながら、つい口に出して毒づく。

 秋も11月下旬を過ぎるとかなり肌寒くなり、さすがに制服の上着だけでは辛くなってくる。

 先月まで明るかったこの時間帯も今ではかなり薄暗くなってきた。夕暮れ時は『逢魔ヶ刻』と言い、昼から夜に移り変わる時刻で、眠りから覚めた魔物と出会う確率が高くなるそうだ。

 

 『涼太や、逢魔ヶ刻までには家に帰るんだよ』って死んだ婆ちゃんが言ってたな……ってあいつのせいで、よけいな事思い出しちまったじゃねぇかよ……

 

 黒井日菜子。今年の9月に転校して来た生徒で、美人だが神秘的で近寄り難い雰囲気があって当初は孤立していたが、昼休みにタロットカードで占いを始めると、興味を持ったオカルトマニアの倉田由香と町田園子が話しかけてから今では複数の女子生徒に囲まれている。彼女達の話だと結構的中するらしい。

 

 俺達の通う光陵高校は東京、世田谷区の上用賀の高台にある。いつもなら駅前のゲームセンターで遊ぶか、用賀タワー内にある書店に入ってコミックや雑誌の立ち読みをするが、今日は『あれ』が届いているので、寄らずに真っ直ぐ家へ向かって早足で歩く。学校から自宅迄は徒歩で約20分だ。

 

「フッ、1日がこんなに長く感じたのは久しぶりだぜ。『どこでもドア』が欲しいよ全く……」

 

 家の近くまで来ると周囲の住宅街や駐車場は夕闇に包まれ、点灯した街灯の淡い光が晩秋の寂しさを強調する。まさしく逢魔ヶ刻だ。まぁ確かに魔物が出て来てもしてもおかしくない雰囲気だ。人通りも無く、『あれ』の事を考えながら最近竣工したアパートの角を曲がった時に、他人とぶつかってしまった。俺もぼんやりしていたので悪かったが、その人も急いでいたみたいなので互いに顔を押さえて尻餅を付いた。

 

「痛っうぅぅぅ、だっ大丈夫ですか?」

 

『その人』は黒のソフト帽を被り、上下黒のスーツを着ている。ガッシリした体格で髪は短く精悍な顔つきの男だ。左の頬に生々しい切り傷の跡がはっきり分かる。歳は30代から40代位だろうが、どう見ても真面目なサラリーマンに見えない。時々、新聞の三面記事を賑わす『任侠業界』の人だ。

 

 \(^O^)/(オワタ)

 

 俺はこの人に良くて怒鳴られて済むか、最悪は殴られ事務所に連れて行かれ法外な慰謝料を請求されるのかと想像して身震いした。

 

 選択肢を1つ選びなさい。

 ① とにかく低身低頭、ひたすら謝る

 ② 万難を排してでもその場から逃げて近くの交番に飛び込む。

 ③ 通りすがりの親切なおじさんが助けてくれる

 

 俺の選択肢は②だ。常識なら①だけど、とにかく関り合いたくないし家に帰りたい一心の気持ちでいっぱいだ。人通りが無く③を期待するほど甘くない。

 とにかくこの場から離れようとした、が。

 

「うひゃっ!!」

 

 男に腕を捕まれて情けない声を出した。その厳つい外見に相応く、強い手で掴まれて逃げられない。

 

「ごっ、ご免なさい、ご免なさい、ご免なさい、事務所に連れてくのは勘弁してください。死にたくないです……」

 

 恐怖で頭がパニックになって恥も外聞も無く謝り続けた。そんな俺を見て男は怒鳴るどころか呆れた目で見てくれている。

 

「……」

 

 男はゆっくりと立ち上がるが右手で左脇を押さえている。怪我をしているのかもしれない。無言で俺を見ているが何か決心したのか頷く。周囲の住宅は夕闇に包まれ、こんな時に限って誰も通らない。

 

「お前の……名前は?」

 

 男の声は低いが充分にドスが効いて有無を言わせぬ迫力がある。と、とにかく怖い。

 

「ふっ!深町涼太です。高校生やってます。はい……」

「セイガクか、俺は浦木だ。新宿の……でしている」

「……」

 

 聞き取れなかったけど、浦木と名乗った男は俺を冷たい目で見ていた。上着の内ポケットからボールペンと名刺を取り出して何か書いている。俺は黙って見ているだけ。

 

「こいつを今、名刺に書いた名前の男に渡して欲しい……」

「えっ?」

 

 いきなり刑事ドラマに出てくる台詞を言われても困るよ、オッサン。俺が黙っていると浦木さんは前より辛そうな表情をしている。

 

「今の俺には届ける力が無い……お前なら俺の……これをあいつに渡してくれ……」

「警察に持っていけ「サツは、ヤバイ!! 奴等の」……」

 

 鋭い口調で遮られた。

 上着のポケットから何かを取り出して俺の手に握らせた。見ると折り畳んだB5サイズ? の茶封筒に硬い物が入っているようだ。俺が関わり合いたく無い表情をしているのが分かるのか、浦木さんは奇妙な笑みを浮かべて悪魔の囁きをする。

 

「無事に届けてくれたら『謝礼』が出る。本来なら俺が受け取る筈だが……お前に『全額』を渡すように名刺に書いた」

「了解しました。万難を排してでもお届けします」

 

 またやってしまった……駄目な俺……

 

「頼む、それがあれば奴等に一泡吹かせてやれる……これで俺は……」

 

 厳つい表情が緩み、どこか遠くを見ているようだ。突然、周囲の景色と音が消えた。




拙い作品ですが、今後ともよろしくお願いします。
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