召喚師 屍魎己~魔都東京   作:律子

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第10話 依頼・中編

『そこで物は相談だけど、アタシの依頼を受けてくれるなら一時的に仲魔になってあげる。どうよ?』

 

 妖精である自称チャム・ファウ? にどうよと言われ、俺と黒井は顔を見合わせた。

 

「まさか、悪魔から依頼をしてくるなんて……予想もしていなかったよ」

「好みや気分次第によってはあり得ると、まどかさんから聞いた事があるけど、実際、目にするのは初めてよ」

「ど、どうしよう……」

 

 妖精は俺の返事を待っているようで動かない。

 

「決めるのはサマナーである深町君よ。私からのアドバイスとして、ピクシーは気まぐれで悪戯好きな妖精だけど、自分に恵みを与えた者には正しく報いると言われているわ。それと先に依頼内容を確認するべきね」

「なるほど、分かった」

 

 俺は返事を待っている妖精に顔を近づけた。

 

「先に依頼の内容を話してくれ。決めるのはそれからだ」

『んー確かにそうね、分かったわ。腐ってもサマナーって言う訳か』

 

 妖精は小さな肩をすくめた。チャム・ファウの依頼は、この研究所のどこかに捕らわれている仲間の救出だそうだ。現在、妖精達は代々木公園内に人間界へ悪戯をする拠点を築いている最中で、仲間の1人が偵察中に行方不明になった。当初、他の悪魔に殺されたのだと思われたが、近所の地霊達の話によると、関西弁を話す怪しい漫才師みたいな人間に捕まったらしい。コネを使ってこの研究所を見つけたが、問題は異界化して大量の悪魔がいるので、並のピクシーでは近づけない。高位の妖精はマグネタイトの確保が不十分な現在、代々木公園から一歩も動けないとの事だ。

 

『そこで、経験、場数を踏んだエリート・ピクシーであるこのアタシが派遣されたのよ。ここまでの話は理解出来たかしら?』

「なんとなく理解出来た」

 

 チャム・ファウは小さい身体をフルに生かして、空調の換気ダクトを抜けて各部屋を調べたが仲間は見つからない。後は地下の秘密研究室だが、エレベーターが動かないと結界が解除出来ない。困っていたところに俺達が現れたのだと言う。

 

『で、どうよ。アタシの依頼を受けるの? 受けないの?』

 

 よほど困っていたのか強気の口調と違って、ヘルメットから見える目は潤んでいる。そんな顔をされたら断れないじゃないかよ全く。自分でも呆れるくらいのお人好しだと自覚している。それにこの妖精は可愛い。俺は溜息をつくと肩をすくめた。

 

→①受ける

 ②受けない

 ③この場で戦う

 

「分かったよ。依頼は引き受ける。その代わり俺達にも協力して貰うぞ」

『やったー!! 嬉しいな』

 

 嬉しいのか周囲を飛び回り、ヘルメットを外すと俺の頬にキスした。妖精の髪は赤味が掛かったセミロングで前髪は額の上に跳ね上げている。

 

「よ、よせよ照れるじゃないか」

「エヘヘ、お礼のキスよ。では改めまして、アタシは妖精のエリート・ピクシーであるチャム・ファウよ。短い期間だけどよろしくね」

 

 俺達も少しでも戦力が欲しいから、この判断は間違っていないはずだ。多分。

 

「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。で、成功の報酬は? タダ働きは勘弁な」

 

 これはサマナーとして当然の事だ。この程度は要求しても罰は当たらないよ。チャム・ファウはヘルメットを被った。

 

「うん、報酬は人間の可愛い男の子を虐めるのが大好きなティターニア様が、直々に下賜されるから楽しみにしてね」

 

 俺が話すと黒井は切れ長の目を見開き、口が震えている。

 

「ティターニアって言ったら、あの『真夏の夜の夢』に出てくる妖精女王の名前じゃないの!!」

「そ、そんなに凄いの?」

「当たり前よ。魔王にも匹敵するそんな高位の妖精からなんて……なんで深町君の癖に……だからサマナーはもう……」

 

 日頃表情を変えない黒井が、俺を羨ましそうに見ているのが妙に微笑ましい。これで報酬が楽しみだ。

 

「もしもだけど、その捕まっている仲間がすでに研究材料にされ、ホルマリン漬けとかにされていた場合はどうするんだ?」

「その場合はアタシ達妖精、魂の故郷バイストンウェルじゃなくてフェアリーランドに戻るだけよ。ま、霊体のダメージが大きいからすぐ人間界へ悪戯しには来れないけどね。帰還した連絡は受けていないから、こちらで実体を保っているわ」

 

 なるほどね、俺の知らない事ばかりだよ全く。未知の世界をちょっと覗いた感じだ。

 

「黒井さん、この判断で良かったかな?」

「決めるのは深町君だから、私からは何も言えないわ」

「あッ!! いっけなーい、ガキの回復するの忘れていたわ」

 

 ガッキー哀れなヤツ。俺もうっかり忘れていたよ。チャム・ファウから暖かい光が出るとガッキーは回復したが怒って暴れだした。

 

「ゴメンゴメン、そんなに怒らないでよ。リョウの仲魔になったからアンタとはドーリョーってわけ。短い期間だけど一緒にがんばろうね。チュッ!!」

「ウガ」

 

 投げキッスで納得したみたいだ。安い、安過ぎるぞ。

 

「それでリョウ、これからどーするの?」

「地下4階の秘密研究室に行く為には、ここで専用エレベーターのロックを解除しないと駄目なんだ。そのまま所長室に行っても無駄だから」

 

 機械制御室は主電源が停止中で、わずかな非常灯がついているだけだ。ヘッドバイザーが無いと暗い。今は予備電源でセキュリティが動いている。このままだと解除出来ないので、主電源を復旧させるしか無い。それにはパスワードを打ち込む必要がある。

 

「じゃ、早くそのパスワードってヤツを打ち込んでよ。ほらッ早く、早く!!」

 

 俺は部屋の中央にあるコンソールデスクの椅子に座った。黒井は俺の後ろで腕を組み、液晶パネルのモニターを見ている。モニターにはパスワードの入力画面が現れている。そしてCOMPのデータにあるパスワードをキーボードから、緊張に震える指で打ち込む。チャム・ファウが急かすが、こんな時は慌てたら負けなのよ。うっかり間違えたらセキュリティ・ロックがかかってしまう。ここまで調べたメアリさんはタダ者ではない。もしかしてメイドは仮の姿で実はスーパーハッカーなのかもしれない。モニターに文字が現れた。

 

『パスワード認証、システム・オールグリーン、主電源を待機モードから復帰します』

「やった、成功だ」

 

 どこかで低く唸る音と共に部屋が明るくなって俺は、専用エレベーターのロックを解除した。

 

「問題は、この部屋から3階までは異界化してかなり距離があるわ。幸い地下はスライムだけみたいだから、深町君が交渉して戦闘は回避出来るけど」

 

 黒井は俺を見て言う。確かにその通りだ。

 

「チャム・ファウ。上の階はどんな悪魔がいるんだ?」

「そうね、白い服を着た屍鬼がうろついていたけどあいつら雑魚だから、あっそうだリリムが1体いたから気をつけてね」

 

 悪魔召喚プログラムからアナライズ・データを起動させて、リリムを検索するとヘッドバイザーに表示された。

 

 悪魔名称:リリム   レベル:23

 種  族:魔族系夜魔

 神  族:バベル神族

 ステータス:電撃無効、氷結弱点

 所持スキル:??? ??? ??? ??? ??? ??? ??? ???

 HP:??? MP:???

 

 更に詳しく検索したが、情報不足の為かこれ以上は表示されない。

 

「アタシの電撃もアイツには効かないから厄介なの。氷結が弱点だけど、アタシはブフ系は使えないし、リョウの仲魔には期待してないから、遭遇したら会話で回避するか逃げるしかないわね」

 

 ブフとは、氷結属性の単体攻撃魔法で決まると凍結するので危険だ。

 アギ(火炎系)ジオ(電撃系)ザン(衝撃系)があるとの事だ。

 俺達は機械制御室を出る。電源が回復したので通路が明るくて眩しい。

 

「あ、そうだ。エレベーターで3階に行こう。移動時間も少なくなるし」

「そうね、動けばいいけど」

 

 電源が回復したので、エレベーターの階を表示する明かりが3階に点いている。俺は呼ぶボタンを押そうとしたら降りて来た。

 

「あれ? 押していないのに降りて来るよ」

「誰か乗っているのかしら? でもこの研究所は悪魔以外、誰もいないはずよね?」

「ああ、データが正しければ無人だよ。それか誰かが呼んだけどアクシデントが発生して、そのままになっていたとか……」

 

 無人なら問題無いけど、某ホラー映画でゾンビが大量に乗っていたシーンがあったのを思い出した。

 チャム・ファウが正しければ、乗っているのがゾンビでもエレベータの大きさからして最悪10人前後の可能性はある。

 

「リョウ、どーするの?」

 

 チャム・ファウが俺の左肩に乗って訊く。この場は最悪の想定をするべきだ。

 

「ゾンビが乗っていると思うから、ここで迎え撃つ。そしてこのエレベータで3階に行くよ」

「そう、無人である事を願うわ」

「アタシに任せて」

 

 ここなら待ち構えている俺達の方が有利だよ。表示ランプが1F……1BF……と移動して、地下3階に着くとチンと音がしてドアがゆっくり開くと同時に腐臭が鼻を刺激する。

 

「何て言うか、予想通り乗っていやがった」

 

 そいつらは壊れた操り人形みたいに身体を震わせていた。服装と帽子から見て警備員だが、右手に拳銃を持っている。それも4人共だ。

 

「警備員が拳銃を持っているなんて変だよな?」

「ここは極秘の研究所だから特別に所持の許可があったのかも知れないわ。ゾンビ・コップならぬゾンビ・ガードマンと言う訳ね」

 

 ゾンビ・ガードマンは低い唸り声を上げると向かって来た。俺とガキは身構える。

 

「先手必勝!! マハ・ジオンガ乱れ撃ちぃいい!!」

「えッ!!」

 

 チャム・ファウの掛け声と同時に、小さい人差し指から複数の稲妻が轟音と共に発生すると大きく広がり、一瞬でゾンビ達は倒れ消滅した。

 

「い、一撃で、たったの一撃で倒すなんて……必殺技みたいだ」

「う、嘘!!」

 

 思わず唾を飲み込む。黒井を見ると俺以上に驚いている。

 

「そ、そんな、あり得ないわ、ピクシーが範囲魔法を使えるなんて……深町君、あのピクシーのステータス画面を見せて貰えるかしら?」

「あ、ああ。いいよ」

 

 俺はCOMP本体を取り出すと、悪魔召喚プログラムのメニュー画面から仲魔のリストを選択、ステータス画面を表示させると黒井に見せた。

 

「な、何よこれ!! どうすればこんなに……」

 

 悪魔名称:ピクシー  レベル:26

 種  族:魔族系妖精

 神  族:ダヌー神族

 ステータス:電撃耐性

 所持スキル:ジオンガ、マハ・ジオンガ、メ・ディア、??? 2分の魔脈、格闘武器、???

 HP:174 MP:215

 

 レベルから判断すると、チャム・ファウはリリムより少し強いと言う事だ。

 

「2人共どうしたの? そんなに驚いた顔をして?」

「リストに表示されているレベルの意味を知りたい。これは単純な強さでいいのか? 例えばチャム・ファウのレベルが26なんだけど?」

 

 チャム・ファウは両腕を組むと考える仕草をする。

 

「う~ん、そうね。強さの指標とすればいいわ。ざっくりと10は下級、20から35が中級って感じね。45以上からは上級クラスよ。相性の問題もあるけど、10レベルも差があるとパーティを組んでも勝ち目は低いわね」

「……」

「ジオンガなら納得出来るけど、ピクシーが範囲魔法のマハ・ジオンガと万能魔法のメギドを所持しているの? 絶対に有り得ないわ」

「貴女は……黒井さんだっけ? 良い質問をするわね。アタシ達、人ならざるモノ……悪魔と人間の違いから話せばいいのかしら。人間は時間の経過で成長するじゃない。それと修行すると技術は覚えるけど、悪魔は時間で成長、進化はしないの。出来ないと言ってもいいわ」

 

 俺達は無言で聞いている。

 

「種族の壁が大きすぎてね……でも異能者……サマナーの協力があれば可能よ」

「サマナーの協力って?」

 

 言われても俺にはピンと来ないよ全く。ガキも首を捻っている。

 

「それには2つの手段があるわ。悪魔召喚師、デビルサマナーの仲魔になって魂の契約って言うのかしら……『ソウルリンク』すれば悪魔もサマナーと共に成長出来るし、スキルも成長、進化させられるのよ。もう1つの方法は『邪教の館』か『業魔殿』で合体して別の悪魔になる事。新米サマナーのリョウでも知っているわよね?」

「ああ……」

 

 邪教の館は知らないけど。

 

「では貴女は悪魔合体でスキルを継承したのね。他の妖精から精霊合体でランクダウンしたの? それとも……今のサマナーは?」

「アタシは初めからピクシーよ。あるサマナーの協力で御霊合体で強化したわけ。今はサマナーの仲魔を辞めたから……リョウは2体の悪魔を使役出来るみたいだけど、2体共成長させられるのかしら?」

 

 俺は首を横に振る。真剣な眼差しで見つめられても答えられない。

 

「それは分からないよ……でもチャム・ファウが強い理由は分かった」

 

 チャム・ファウを使役していたサマナーが最低でも26以上と言うのが気になるけど。

 

「チャム教授の悪魔生体学の講義はこれで終了。エレベーターで3階に上がりましょう」

「その前にガキを戻してナオミを召喚するよ」

 

 DEGITAL DEVIL SUMMON SYSTEM OK

 MAG BATTERY OK

 CONDITION OK

 SUMMON OK

 GO

 

 ヘッドバイザーのモニターに、六芒星と2重の円を描く召喚魔法陣が青白く輝き、激しい閃光と共に屍鬼のナオミが実体化した。

 

「何でアイツが仲魔になっているワケ?」

「あ、ああ、チャム・ファウの依頼を受けたから臨時で仲魔になっただけだよ」

「リョウの言う通りよ。アンタとは短い間だけドーリョーって事。よろしくね」

「ふん」

 

 俺達はエレベーターに乗ると3階のボタンを押すとドアが閉まり上昇し始めた。突然、止まる不安はあったけど、無事3階に到着してドアがゆっくり開くと腐臭が漂ってきた。通路にいたゾンビ達が低い唸り声を上げてノロノロと俺達に向かってくる。血と肉片で汚れた白衣を着たゾンビは、ここの所員だったのかもしれない。

 

「哀れな生ける屍に……永遠の安らぎを……」 

 

 黒井の言葉に一瞬だけど黙祷した。少し前の俺だったらキモいよと言って怯えただろう。今はチャム・ファウ達がいるから恐怖感は多少薄れている。

 

「必殺パワー!! サンダーブレーク!!」

 

 チャム・ファウが叫ぶと右手の人差し指から発生した雷の嵐が、ゾンビ達に大ダメージを与えると、俺とナオミで感電して動けないゾンビの後始末する。ナオミは不満で文句を言う。

 

「妖精なんかの手伝いをするのは、何かムカつくワケ」

 

 鋭い爪でゾンビを切り刻み喉を食い千切る。俺はゾンビに改造釘打ち機で打ち込む。

 

「負担が減ったんだから文句言うなよ。クッ!! こ、この野郎!!」

 

 書類棚の影に潜んでいたゾンビが俺に襲い掛かってきたが、黒井のアギラオであっさり燃え尽きた。

 

「サンキュー!! 助かったよ」

 

 目的の所長室は一番奥の部屋に入った奥にある。

 

「うッ!! こ、これは?」

 

 部屋には10体のゾンビが倒れて血で染まっていた。腐臭が漂い、肉片が飛び散り、内臓がはみ出ていたりする。頭が割れて脳が出ていたり顔が半分無いのもした。あまりにも無残な姿と臭いに吐き気がこみ上げて口を押さえた。

 

「ちょ、ちょっとリョウ。どうしたの? 顔色悪いよ」

 

 チャム・ファウが心配してくれるが、我慢出来ず胃の中の物を汚れた床に吐いてしまった。辛くて涙目になって嘔吐が止まらない

 

「食べるにしても、もう少し上品に食べればいいワケ」

 

 ナオミが背中をさすってくれてありがたいが、それちょっと違うぞ。黒井を見ると顔色が蒼白だけど吐いてはいなかった。

 

「もう大丈夫……先を急ごう。黒井さん、それにしてもどうなっているんだ?」

「こいつら共食いしたみたいね。でも変だわ、屍鬼はそんな事しないけど」

 

 考えても仕方ないので先に進む。通路や開いている部屋を見るとゾンビは共食いで倒れている。その後は襲われず所長室の前に来た。

 入ろうとしたら、急にチャム・ファウが俺の左耳を引っ張る。

 

「こ、こらっ痛いぞ」

「ちょっと待って、中に人の気配がするよ」

「えッ!!」

 

 別に物音とか声は聞こえない。

 

「まさか、リリムがいるの?」

 

 黒井がハッとしてチャム・ファウを見た。

 

「違うわ。リリムだったら強力な魔力を感じるから。部屋にいるのは人間よ」

「コイツの言ってるのはムカつくけど、間違い無いワケ。それも1人よ」

「研究所は無人のはずだけど、もしかしてデーター目当ての賊? かも」

 

 入るべきか……こっちは俺を入れて4人で、数ではこちらが有利だ。どんな奴なのか分からないのでかなり緊張する。ドアをゆっくり開けて部屋に入ると立ち止まってしまった。

 

「ようこそ、お嬢さん達、待っていたわ」

 

 女が1人、机に腰掛けて腕を組み、俺達をにこやかな顔で見ている。

 立ち上がるとゆっくり近寄ってくる。年齢は20代後半か30代前半みたいだ。ウェーブのかかった茶色に染めたセミロングの髪形でかなりの美人だ。顔立ちは整っていて口元にほくろがある。着ているのは、身体にピッタリとフィットした光沢感のある黒のライダースーツで腰には太いベルトを巻いている。フロントファスナーを首元まで閉めて豊かな胸が苦しそうだ。

 

「そ、それ以上、近寄るな!!」

 

 俺は改造釘打ち機を構えると、ナオミ達も油断無く身構える。女は戦う意思が無いのを示す為か、両手を上げて立ち止る。

 

「私は貴女達の敵じゃないわ。お話くらいさせてよ」

「嘘よ、絶対この女何か企んでいるワケ」

 

 ナオミがヒソヒソと言う。こんな場所に1人でいるのが怪しい。

 

「アンタの名前とここに来た目的は何だ?」

「私はフリージャーナリストの『エンジェル』。『この業界』ではその名で通っているわ。ここに来たのは、マッド・サイエンティストのDr.スリルが行なった人体実験のデーター入手よ」

「どうやって3階まできたのよ。アタシが来た時、アンタはいなかったわよ」

 

 チャム・ファウが油断無く尋ねる。

 

「上からよ。上」

 

 俺達は顔を見合わせた。

 

「相棒のリリーちゃんに抱きかかえられて屋上に降りてからここに来たのよ。でも運が良かったわ。貴女達が専用エレベーターのロックを解除してくれたおかげで、機械制御室に行く手間が省けたから感謝するわ」

「上からって、アンタどこかの怪盗かよ」

 

 無謀って言うか異界化している研究所へよく無事に降りれたな。リリーちゃんってもしかして。

 

「私からも質問せてもらうわ。素敵なドレスを着ている『お嬢さん』はデビルサマナーね。一緒にいるのは仲魔の妖精ピクシーと屍鬼……かしら? 顔に似合わずいい趣味しているわね」

 

「なッ!! 何でそれを……」

 

 まさか、この女もサマナーかよ?

 

「フフ、『蛇の道は蛇よ』この業界にいると色々コネがあってね、表では手に入らない情報も集まってくるのよ。お嬢さんの名前と目的は?」

 

 ここで本名を名乗るのは絶対にヤバイ。幸い、俺を女と思っているから適当な名前を名乗るか。

 

「リョーコ。この世界ではリョーコで通っている」

「リョーコ……ね。私の情報にその名は無いわ。もしかして新顔かしら?」

「それはアンタの想像にまかせる。依頼でここにあるモノを手に入れる為、来ただけだ」

 

 女の笑みが深くなった。俺達にゆっくり近寄る。

 

「どうやら利害が一致しているみたいだから『私達に』協力してくださるかしら?」

「もし断ったら……」

「ふふ、その前にあのゾンビ達が共食いした理由が分かるかしら」

「そ、そんなの知らないわよ」

 

 冷静な黒井も警戒している。

 

「本当に素敵なドレスね……羨ましいわ。触らせてもらえるかしら?」

「リョウ!! 騙されないで!!」

 

 チャム・ファウが女の企みに気がついたが俺の反応が遅かった。一瞬に背後に回られると左腕を捻られ、喉にナイフが突きつけられて身動きが取れない。うっかり釘打ち機を床に落としてしまった。

 

「形勢逆転ね、おっとピクシーちゃん。ジオを使ったらこの子の喉をかき切るわよ」

「クッ!! 卑怯者!!」

「ハ~イ、屍鬼ちゃん。動いちゃダ・メ・ヨ♪」

「キャッ!! な、何なのアンタ? ナオミを離すワケなの!!」

 

 どうやって隠れていたのか、蝙蝠みたいな皮膜状の羽を2枚持ち、白いレオタード姿のリリムが現れて、ナオミの背後に回って左腕を捻り上げた。有利のはずが、どうしてこうなった。

 

「クソッ!! 離せよ!! こいつ!!」

「あらあら、お嬢さんが男みたいな口を叩くと下品ですわよ。うふふ」

 

 こ、こんな女に一杯食わされて悔しい、畜生。

 

「リリーちゃんご苦労様。言う事を素直に聞いていればこんな目に遭わなかったのにね」

「お、俺達を殺すつもりか?」

「私が殺し屋ならとっくに喉をかき斬ってるわよ」

「リリムなんか連れているなんて、アンタやっぱりデビルサマナーなのね!!」

 

 チャム・ファウが叫ぶと、エンジェルと名乗る女はニッコリ笑う。

 

「前にも言ったけど、私はサマナーじゃないわ。リリーちゃんは……まだ内緒ね」

 

 サマナー以外に悪魔を使役出来るなんて……分からないよ。

 

「さて、話の続きだけど、お嬢さんの依頼主と内容を教えてくださるわね?」

「耳に息を吹きかけるな」

 

 背筋がゾクゾクするよ全く。今の俺に選択の余地は無い。

 

「依頼主はヴィクトルからで内容は、ドリーカドモンを手に入れる事と、チャム・ファウの仲間の救出だ」

 

 女は整った眉毛をひそめた。

 

「ヴィクトル? ホテル業魔殿……あの国籍年齢経歴不詳の男か。ふふ、なるほどね」

 

 女が俺の腕を離すと、リリムもナオミの腕を離した。クッ腕が痺れる。

 

「この部屋のどこかに隠されている専用エレベーターに乗って、私達と同行してもらうわ」

 

 見えるのは所長の大きな机に来客用のソファとテーブルだけで、壁際の書類棚には何も無い。

 

「ここに隠し扉のスイッチがあるから、これを引けば現れるわ」

 

 書類棚左下の角にスイッチがある。それを押してから書類棚を押すとエレベーターのドアが現れた。 




「まどか、あのガキを調べたか?」
「ええ、これが報告書よ」
「ふん、いかにも平凡に甘やかされて育ったクソガキだな。ん、お、おいこれは?」
「記載されている通りよ。あの子、生き残りの1人よ」
「マジかよ。あの事件は知っているが凄惨だったぞ……」
「彼の父方の祖母は教会の元最高幹部で教主代理だったのよ」
「それでガイア系でないニュートラル系のあいつらが俺達の周辺を嗅ぎ回っていたのか……変だと思ったぜ」
「それで竜也、あの子はクズノハに報告するの?」
「……いや、報告はしない。久々に現れたCOMP持ちサマナーだ。手放すのは余りにも惜しい。報告なんぞしたら、取り上げられるのが目に見えて分かる。上から目線のムカつく連中だぜ」
「その気持は私も分かるわ。どこの組織も異能者と覚醒者、特にサマナーを欲しがっているからね。でもバレたら唯では済まないわよ」
「それぐらい屁でもねぇよ……キョウジさんだけには裏でナシをつけとくか」
「レイさんと銀子さんにもね」
「当たり前だ。他の奴等は雑魚だがあの3人は別格だ」
「ふふ」
「な、何笑う?」
「かって愚連隊で恐れられた狂犬竜也が、あの3人には頭が上がらないと思うと、笑いたくもなるわよ」
「うるせぇ!! 俺にだって苦手なモノくらいあるさ」
「はいはい(笑)」
「チッ!! あのガキが久々の逸材になるか、唯の厄種になるか楽しみでもあるがな」
「……」
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