召喚師 屍魎己~魔都東京   作:律子

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第12話 脱出

 蜘蛛女……女郎蜘蛛の身体が溶けるように崩れだして消滅し、同時に周囲も元の研究室に戻った。

 

「勝ったのか俺達……本当に……」

 

 し、信じられない、俺がその場にヘナヘナと座るとナオミが抱きついてきた。

 

「涼太クン、やったワケ!!」

「この頭脳明晰、冷静沈着なエリートピクシーであるこのアタシがいたから当然よ」

 

 見るとあの2人も抱きついているよ。

 

「今回はキツかったわぁ。エンジェル」

「あたし達だけだったらヤバかったのは間違い無いわ、彼女達のおかげよ。あの子達……やるわね」

 

 俺は深々と頭を下げた。もし彼女達がいなかったら勝利どころか今頃、女郎蜘蛛骨も残さず喰われただろう。

 

「あの2人もそうだけど、黒井さんとチャムがいたから俺達は勝てたんだ。あ、ありがとう」

「え、ちょっとそこまでしなくても、アタシもリョウ達が、ここまで来れたからお互い様よ」

 

壁に寄り掛かっている黒井も同意している。

 

「そうよ、この勝利は全員が協力した賜物ね」

 

 黒井の笑顔がちょっと可愛いぞ。2人がそう言ってくれると少し気持ちが楽になる。ふと女郎蜘蛛がいた場所に光る物が2個落ちていた。拾って手にすると1つは宝石みたいだ。本物の宝石なんて初めて見るよ。もう1つは丸い石みたいだ。

 

「凄い、アメジストなワケ」

「……」

 

 黒井が両腕を組んで俺をジト目で見ている。

 

「リョウって運がいいわね。宝石は悪魔との交渉で要求される時があるから、売らないで持っているといいよ」

「へえ、そうなんだ。知らなかったよ」

 

 チャム・ファウの話によると、悪魔との交渉や仲魔へのギフトの他に、ある店では宝石と引き換えに特殊なアイテムと交換するのに必要になるらしい。実はチャム・ファウにお礼であげるつもりだったのだ。

 

「あとこれは何だろう?」

 

 宝石ではない。黒井はハッとした顔で、チャム・ファウは溜息をついている。エンジェルとリリムは俺達を無視してデジタルカメラで撮影や機器類を調べている。

 

「本当にリョウは運が良い子ね。それはソーマドロップよ」

「名前からして飴玉みたいだけど?」

 

 龍角散喉飴みたいな物かな。

 

「深町君……それは別名『ソーマの雫』と呼ばれ、体力回復と精神力をその半分回復するアイテムよ」

「つまりボスドロップのレア・アイテムか」

 

 レア消費アイテムゲットだ。

 

「レアと言うより、ミディアム・レアね。アイテムを扱っている専門店でも絶対に手にはいらないわ。この場が異界化していたのと、高位の女郎蜘蛛が所持していたから必要最低限の入手条件が揃ったのかも知れないけど……」

「涼太クン、カードが1枚落ちているワケ」

 

 ナオミから受け取るとプラスチック製のトランプカードみたいだけど、表側は奇妙な紋様が描かれ、裏は女郎蜘蛛のイラストが描かれている。 

 

「黒井さん、このカードは何だろう?」

「私よりチャムさんが詳しいんじゃないかしら?」

「えっアタシが何だって?」

「このカードは何か知っている?」

「デビルカードよ。それがどうしたの?」

「何に使うのか教えて欲しい」

「ん~とね、アタシも良く知らないの。あの2人に聞いてみるか、邪教の館にいる爺さんに聞いてみれば」

 

 敵では無いけどあの2人はまだ信用出来ない。別に急ぎでないから後回しでもいいだろう。

 

「さて、リョウ。結界も解けたし、この部屋のどこかに仲間が捕らわれているから捜すの手伝ってよ」

「ああ、もちろんだ。って、こんな時間かよ!!」

 

 COMPの時計を見ると22時半を過ぎていた。本当に時間が経つのが早い。どうしよう明日、学校があるんだよ。研究室は広いがピクシーはすぐ見つかった。手術台の上に大きな鳥篭が置いてあり、その中にいた。俺が鍵を壊すとピクシーは飛び出してチャム・ファウに抱き付き、大喜びで部屋中を飛び回った。

 

『チャム様ぁ、怖くて寂しかったですぅ』

「ほら、もう大丈夫だから泣かないで。あの子達が手伝ってくれたからお礼を言うのよ」

『は~い』

 

 俺の前に止まると頭を下げた。このピクシーは青色のハイレグレオタードにロングブーツ姿でロンググローブをしている。髪型は茶色のショートヘアで可愛い顔をしている。

 

『アタチね、ベル・アールって言うの。助けてくれてありがとう』

「あ、ああ。気にしないで、良かったね」

『エヘヘ、優しいのね。お姉ちゃんみたいな人間がいっぱいいればいいのに……そうだ』

「はいはいストップよ。リョウは良い子だから仲魔になりたい気持ちは分かるけど、ティターニア様が心配しているからぎょーむほーこくしてからよ」

『は~い。お姉ちゃんありがとうね』

 

 俺は男だけど……まぁいいか。チャム・ファウの依頼はクリアした。後はヴィクトルの依頼の物を手に入れるだけだ。俺達は色々と設備の隙間とか調べるが、それらしい物が見つからない。

 あの2人は研究室の壁側にある端末で調べている最中だ。

 

「エンジェル、例の項目は見つけたけどパスワードが必要よ」

「ハッキングでは?」

「う~ん、プロテクトが堅固で時間がかかるわ。下手をすると何これ、ロックされて自動焼却システムと連動しているの?」

「まさか、セキュリティが作動するとエレベーターと換気口が封鎖され、研究室を焼却するって事。参ったわねぇ」

 

 封鎖、焼却、ヤバそうな話が聞こえる。リリムが端末の前に座り、液晶のモニターを見ながらキーボードを操作している。白いレオタード姿のリリムが、コンピューターを操作している光景はミスマッチだ。

 

「予想していたけどね。あの所員から手に入れたシステム管理部のマスターコードディスクを手に入れたから使ってみて」

「サンキュー、それがあればいけるかも」

 

 リリムはディスクを受け取り、開いたトレイに置いて閉じると、キーボードから入力すると早い速度で文字と記号が流れている。

 

「お目当てのファイルが見つかったわ。コピーすれば完了よ」

「これで依頼達成ね。あらリョーコちゃん、どうしたのかしら?」

 

 この女に相談したく無いけど相談するか。

 

「依頼された物が見つからないんです」

「ああ、依頼って確かドリーカドモンだったわね、リリーちゃん、そちらから検索して調べられない?」

「オッケー任せて……見っけ。3号シリンダーに保管されているわぁ」

 

 リリムが指差す先にはガラスの円筒形が3本ある。近寄るとチャム・ファウが俺の左肩に止まった。

 

「リョウ!! これじゃないの?」

「でも、データの画像だと奇怪な形をしているし、違うな……」

 

 円筒形のガラスケースは泡立つ青色の液体で満たされ、確かに『人形らしいモノ』が浮いている。

 良く見ると人形と言うより少女みたいだ。全裸で身体のあちこちにチューブが差し込まれていた。研究材料の為、死んで標本になっているより、目を閉じて眠っているようだ。他を捜していたナオミと黒井も見つからないと言う。

 

「これだけ調べて見つからないから手ぶらで戻るより、この少女を連れて行ってヴィクトルに調べてもらうしかない」

「それしか無いわね」

 

 問題はどうやってガラスケースを開けるかだ。叩いてみると分厚い強化ガラスで簡単には割れない。

 

「これはドリーカドモンじゃないわよ」

「貴女、知っているの?」

 

 黒井が胡散臭そうな目で言う。エンジェルは妖艶な笑みを浮べている。

 

「フフ、蛇の道は蛇よ、リリーちゃんに端末から調べさせたから、最初はここに保管されていて間違い無いわ。ほらッ下に小さいラベルが貼ってあるじゃない」

 

 あ、本当だ、英語で書いてある。気が付かなかったよ。エンジェルは腕を組んで考えているようだ。

 

「断定は出来ないけど、もしかしたらドリーカドモンが少女に変化したのかもね」

「開ける方法が分からないんです」

 

 この場は協力してもらう為、丁寧に話す。

 

「あら、いいわよ。あたし達に協力してくれたから、報酬代わりって事で。リリーちゃん開けてよ」

「オッケー!! あん、駄目だわ、システムの系統が違うわぁ。専用の鍵が必要よ」

「こりゃ弱ったな」

 

 分厚い強化ガラスみたいだからナオミでも割れないかも。

 

「あの程度のガラスなら壊すのは簡単よ」

 

 チャム・ファウがフラグを立てそうだ。

 

「何か嫌な予感がするけど……他に方法が無いし……頼むよ」

 

 チャム・ファウの指先から青白い稲妻が走ると、音を立てて簡単に割れて青い液体が床にこぼれた。

 突然、背筋が寒くなるような警報音が鳴り響くと同時に、照明が消えて赤色の非常灯に切り替わった。

 

「な、なんなワケ?」

 

 デスクに腰掛けてショットガンをいじっていたナオミが周囲を見ていた。

 

「ま、まさか!! セキュリティシステムが作動したの!!」

 

 エンジェルが驚いている。どこからか無機質な女の声が聞こえた。

 

『緊急警報、侵入者の逃亡阻止の為、エレベーターと換気ダクトを封鎖しました。ラボラトリーを焼却後、永久封鎖します』

「と、閉じ込められた!!」

「早く!! 逃げるのよ」

 

 俺達はホールに向かったがドアが開かない。リリムがジオンガでセンサーをショートさせて出たが、エレベーターのボタンを押しても開かない。これがトラップか? ど、どうしよう、ヤバイ。

 

「うわっ!! エレベーターが登って行っちまって降りて来ないよ」

 

『5分後に焼却開始します』

 

 カウントダウンが始まった。

 

「絶対絶命なワケ!!」

「ピクシー!! ど、どうしてくれるの?」

 

 冷静な黒井が同様している。

 

「アンタ達!! 責任取りなさいよ」

 

 エンジェルが叫ぶ。

 

「し、知らないわよ!!」

 

 苦労してあの蜘蛛女を倒したのに。こ、こんな所で死にたくない。俺達は慌てまくりだが、チャム・ファウは落ち着いていた。

 

「アンタ達、落ち着きなさいよ」

「こ、これが落ち着けるかよ!! お、俺達焼け死んじゃうよ」

 

 俺とナオミはノイローゼになった動物園の熊みたいに周囲をウロウロする。

 

「そうよ、アンタが壊したのが原因じゃないの!!」

「リョウは幸運よ。アタシがいるから」

「そんな事言ったって、どこかのアニメキャラみたいに瞬間移動が出来るのなら別だけど……」

「ふふ、出来るって言ったらどーする?」

 

 希望が見えた。一瞬、チャム・ファウが小さな女神に見えたよ。死のカウントダウンは続いている。

 

「このアタシはトラポートと言うスキルがあるのよ。結界が解除されたから脱出出来るわ。ただし、アタシの知らない場所へ転移は無理よ」

「ここから脱出出来ればどこでもかまわないわ」

 

 黒井の言う通りだ。

 

「そ、そうだ、チャム・ファウは業魔殿を知っているか?」

「もちろん知っているわ。アタシは合体で生まれたから。あの無愛想な女造魔がいるホテルでしょ」

 

 本当に超ビギナーズ・ラッキーだ。これでチャム・ファウに頭が上がらないな全く。

 

「ベルを連れて早く代々木公園に戻りたいけど、まっいいわ。あの人形も一緒に脱出するわよ」

「無理言ってすまない。ありがとう」

「それとアンタ達はどうよ?」

 

 あの2人に尋ねる。エンジェルは俺達を見ている。

 

「選択の余地は無いわ。お願いね。リリーもそうよね?」

「……」

 

 無言で肩をすくめた。

 

「じゃ、みんな目を閉じて」

 

 謎の幼女はナオミに抱えてもらう。

 俺達は互いの手を握ると研究室から無事に脱出した。瞬間移動した時の感覚は、例えるなら高層ビルのエレベーターで急上昇してから急に下降する感覚に似ている。

 目の前は業魔殿の広間だ。遅い時間なので間接照明の淡い光が周囲を照らしている。

 

『リョウ、着いたよ。懐かしいわ、ここに来るのは何年振りかしら』

「チャム、ありがとう。えぇっとその……何て言うか」

『ストップ。リョウの言いたい事は分かるよ。このまま仲魔でいてくれって事でしょ。アタシもリョウ達が気に入ったから一緒にいたいけど、それだとリョウがアタシに頼りっぱなしになって成長しないから将来、苦労するわ』

 

 うっ!! 正論なので言い返せないよ全く。

 

「地道に経験を積んでレベルアップしろってか……先が長いよなぁ」

『悪魔は【己より弱き者】の仲魔にはならないからね。今回は特殊な例外よ。リョウはサマナーの素質があるから、アタシが以前契約していたサマナーより強くなるよ。大変だけど頑張ってね』

『バイバ~イ』

 

 チャムは俺の唇にキスをすると仲間と一緒に消えた。とたんに寂しさに襲われる。

 

「騒がしいヤツだったけど、いなくなると何か寂しいワケ」

「そうだよな。ナオミ、お疲れ様。今日は助かったよ」

「お疲れ様~またなワケ。忘れないでよ」

 

 何だっけ? まぁいいか。

 

「さて、あたし達も引き上げるわ。業魔殿には興味あるけど、今はデータをクライアントに渡すのが先よ」

「そうよねエンジェル。いつものホテルでお互いに愛し合うましょうよ、今夜は覚悟してね」

「ウフフ、リリーに器具を使って責められるのも悪くないわ。お嬢さん達、ありがとう。貴女達の協力で、目的のファイルが手に入れられたから感謝するわ。あっそうだ」

「何ですか?」

「これも何かの縁だと思うの、あたしの名刺を渡すわ。それと携帯の番号とメールアドレスを交換しないかしら?」

「私よりふか、リョーコがするべきね」

「えっ? お、に振るのかよ」

 

 ヤバイ、うっかり俺と言いそうだった。

 

「リョーコが今後、サマナーとして動くのなら彼女達と知り合った方が便利よ。どうせ、お2人さんも、それを狙っているのでしょう」

「ええ、その通りよ。私がサマナーである貴女を利用するように、あたし達をを利用してもかまわないわ。最も情報収集と交渉がメインだから、戦闘は貴女達に任せるわ」

「フフフ、エンジェルは貴女達とはギブアンドテイクの関係になりたいのよ」

「自分から相手に利益を与え、その代わりに自分も相手から利益を得る。公平なやり取り・譲り合い・歩み寄りなどを意味する……リョーコ、どうするの?」

 

 胡散臭い2人だけど知り合いになるのは決して損ではない、か。ハッキリ言ってくれる方が良いし。上手くすればあの事故の真相が少し分かるかもしれない。

 

「ええ、構わないですよ」

「良かった。はい、あたしの名刺よ、よろしくね。あとリリーちゃんの名刺を渡しておくわ」

 

 エンジェルは胸元が大きく開いたライダースーツに付いているポーチから名刺入れを取り出した。

 

 怪談社……月刊『妖』編集部 エンジェル・小町

 鳴海探偵社代表取締役、鳴海夢子

 

「何が言いたいのか分かるから説明するけどリリーちゃんは人間よ。今は悪魔変身してリリムの姿になっているけどね」

 

 えっ!! 黒井を見ると平然としている。

 

「悪魔人間かと思ったけどアウトサイダーなのね」

「あら、良く知っているわねぇ、魔女っ子ってかしらぁ」

「じゃあ、生きていたらまた会いましょう」

「バ~イ、お2人さん」

「さ、さようなら」

「……ふん」

 

 いつの間にメアリさんがローソクの光で揺れる燭台を手にして立っていた。

 

「ご無事に戻られましたね。ヴィクトル様がお待ちしております」

 




DDS-NETです。メールが3件届いています。

 倉橋一也様から
 >涼、如月さんと同じ仕事場でのバイトが羨ましいぜ。あの人、美人でスタイルが良くて俺のマジ好みなんだ。タケのやつには内緒だぞ。忘年会があったら俺も誘えよ、なマジで。それとタケから冬コミの話があっても断ったほうがいいぞ。俺は家族で田舎に帰るから参加は無理だけど、お前はマジで女装のコスプレさせられるぞ。夏のアレが大好評だったらしくてよ。俺は警告したからな。それからな病院には行ったのか? ヒロ子さんの怖さは知っているだろ。

 武原直之様から
 >よう、バイトは大変だったか? 給料もらったら俺達に奢れよ。ところで大事な話なんだが、周さんのサークルが今度の冬コミに当選してな、年末なのかメンバーの何人かが仕事や転勤とかで参加出来ないらしい。そこで俺が助っ人で手伝う事になったんだ。で、お前にも手伝って欲しいんだ。佐藤や倉橋達には断られたんだ……あいつら……って仕方がないよな。詳しい事はメールよりも学校でな。

 天馬ヒロ子様から
 >近い昔、心優しい白衣の女王、ヒロ子は、壊したいほどかわいい王子様が、お城に訪問するのを待っていました。けれど待っても来やがりません。そこで手紙を出しましたが、生意気にも無視しやがったようです。そこでヒロ子女王はバッチグーなアイデアがオツムに点灯しました。来ないなら自分が漆黒の馬車でとっとと強制連行すれば即解決じゃねと。そして逃げないように王子様の目と耳を潰し、四肢を切断して首輪を着けました。それからの王子様はヒロ子女王の激しい攻めを受ける日が続くのでした。めでたしめでたし。
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