召喚師 屍魎己~魔都東京   作:律子

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第13話 悪魔合体

「ご無事に戻られましたね。ヴィクトル様がお待ちしております」

「俺達が来たのが良く分かったね」

 

 俺の問いにはメアリさんは答えず、地下への階段に向かったので後に続く。俺が抱いている少女は眠っているが時々何か呟いている。俺、炉離じゃないけどちょっと可愛いよ。

 

「業魔殿へヨーソロ。若きサマナーと魔女見習い、無事に戻ったな」

「く、黒井日菜子と申します。偉大な錬金術師であり、悪魔研究家にお会いできて光栄です」

 

 あの黒井が緊張しているよ。しかし2人は俺の服装に何も言わない、変だと思わないのかよ全く。

 俺はヴィクトルに研究所で起きた事を報告した。

 

「申し訳ありません。結界に阻まれて悪魔には気づきませんでした」

 

 メアリさんは俺に謝罪した。まぁ何とか戻れたから気にしていないですよ。

 

「深町君は良い経験をしたわよ。依頼主からの事前情報が全て正しいとは限らない事があるのよ。最悪は全く違う事があるわ」

「そ、そうなのかよ……」

 

 まぁ、退魔師が出てくる小説でもそんな描写があったような。

 

「ふむ、ドリーカドモンは無かったか。その人形……少女からは人ならざる気を感じる。フフ、土塊の人形よりも興味深い」

 

 眠っている全裸の少女を見つめ、含み笑いするヴィクトルに思わずドン引きになるよ。

 

「お前に苦労をかけたな。その少女とカードは私がじっくりと調べよう。まどかから伝言を預かっている。今日はそのまま帰宅してかまわないとの事だ。今回は特別にこちらで車を手配してある」

「直帰ですね、分かります」

「その少女とカードを預かります」

 

 俺は眠っている少女とカードをメアリさんに渡すと彼女は、慣れた手つきで奇怪な形のメスや用途不明の器具が置いてある手術台? に寝かせた。ま、まさか解剖してホルマリン漬けとかしないよね。

 

「完璧とは言えないが、依頼を達成したのでお主に報酬を与えよう」

 

 やった!! な、何が貰えるのかな。期待してヴィクトルを見た。

 

「私から、体力の香1つと、火除神符1枚です。黒井様は魔石1個です」

「深町君と差が大きいけど、ま、貰えただけ良しとしておくわ」

 

 メアリさんから奇妙な文字で書かれた御札と線香みたいな物を受け取った。

 

「火除神符は、自分への火炎攻撃のダメージを半減する効果があります。体力の香は異能者である深町様の体力値を少し上昇させ、ダメージを完全回復させる効果があります。戦闘中は使用する余裕がありませんので注意して下さい」

「なるほど、ありがとう」

「私から以上です」

「この私からは300マッカに山羊屋の福引券10枚だ。10枚で1回引けるから暇な時にやってみるといいだろう。マッカはデータマネーでCOMPに入れてある」

「ありがとうございます。ところで1マッカは日本円でいくらなんですか?」

「深町君、1マッカは千円よ。覚えてね」

 

 黒井が代わりに教えてくれた。と言う事は……30万円か、凄い。

 

「それと山田一郎が使っていたCOMPのメモリーにある悪魔をお前に与える。これは如月竜也からの要望でもあるのだ。奴曰く『碌な仲魔がいないクソガキに俺様から愛のプレゼントだ。土下座して受け取れ』とな」

「はは、あの人らしい物言いですね……」

 

 鼻で笑うしかないよ全く。竜也さんからすれば大した価値が無いのかも知れない。

 

「お主に与える悪魔だが、COMPの破損が予想以上に酷く渡せるのは2体だけだ。幽鬼オキクムシはすぐ召喚使役可能だが、もう1体の鬼女リャナンシーは今のお前では扱えぬだろう」

「それは俺が弱いから……つまりレベルが低いからですか?」

「その通りだ。『悪魔は己より弱き者には従わない』使役するには、深町涼太、お前が『主』として相応しい強さになるか、不安定でリスクがある『反発合体』で別の悪魔にするしかない」

 

 ヴィクトルは鋭い目で俺を見ている。これは悩む。あの秘密研究室で弱さを思い知ったから少しでも戦力になる方を選ぶべきだろう。

 

「ではオキクムシを召喚するから仲魔にするがよい」

 

 ヴィクトルが制御盤を操作すると、六芒星の魔法陣が描かれた台座に悪魔が1体実体化した。長い黒髪で上半身が裸で後ろ手に縛られ、妖艶な雰囲気がある女性で下半身が醜い芋虫の悪魔だ。

 

「あぁ、わたしは幽鬼『オキクムシ』あぁ……かわいい主に乳を飲ませたい。今後ともよろしくお願い致しますわ……」

 

 なんか濡れたような艶のある声と、潤んだ瞳で見つめられ背中がゾクゾクするよ。オキクムシは光の粒子になってCOMPに吸い込まれた。

 

「反発合体はダーク悪魔と非ダーク悪魔を合体させると、非常に不安定な合体結果となる」

 

 不安定な合体結果、と言われてもピンと来ない。ヴィクトルは制御盤に備え付けられたメカニカルキーボードを操作しするとモニターに文字が表示された。

 ①ダーク悪魔もしくは非ダーク悪魔が1~2ランクアップするかランクダウンする。

 ②低確率でスライムになる。

 ③スキルは通常の合体と同じで継承する。

 ④仲魔にしている同族がいる場合、例としてスライムが仲魔にいればスライムにはならない。

 

「例えば、リャナンシーとダーク悪魔を合体させるとお互いの拒絶反応が起こり、スライムになってしまうか、どちらかの悪魔がランク・アップかランク・ダウンしてしまう。ここまでは理解できたかな」

 

「その~~ランク・アップとダウンは同じ種族で、と言う事ですか……リャナンシーは鬼女だから他の鬼女になるのか……その場合はスキルは引き継がれ、アップの場合は仲魔になるのかな?」

 

 ヴィクトルがニヤリと笑うと怖い。

 悪魔合体って本当に奥が深いですね……少しだけ分かりました。俺は腕を組んで考える。

 

「こりゃマジでリスクが大きいな。このままCOMPに移したら召喚できないし……悩むよ黒井さんどうしたらいいかな?」

「私に振らないでよ。今の深町君は仲魔が少ないわ。即戦力にしたいならリスクがあっても合体させるべきね」

「そ、そうだよな。それ元々あのオッサンの悪魔だし」

 

 ヴィクトルは俺を見ている。

 

「決めた。リャナンシーを反発合体させるよ」

「承知した。初回限定特別大サービスで、もう1体のダーク悪魔はこちらで用意しよう。合体する場合、悪魔によってはサイズが大きい者もいるが台座に収まるように出力が調整されるのだ」

 

 ヴィクトルは怪しげな装置を操作すると、六芒星の魔法陣が描かれた台座に、腰まで届く金髪に胸元が大きく開いた黒のドレスを着たリャナンシーが実体化した。もう1体はガキだ。

 

『このベリーナイスな美貌とスタイルを誇る私が、汚らわしいガキと合体なんて……とてもおぞましいですわ』

『ウゲゲ、オレウ、レシイ』

 

 リャナンシーはこの合体がかなり不満そうだが、ヴィクトルは無視して何か呪文を唱え、制御盤のレバーを操作すると、台座にいる2体の悪魔は宙に浮かび、ゆっくりと横に回転を始めた。そしてスピードが少しずつ速くなり、やがて目に止まらない猛スピードで回転する。そして台座の中心に寄って原型を留めない1個のドス黒い肉塊になった。それから何か脈打つ鼓動が耳に響く。

 

「悪魔合体……2体の悪魔を粘度細工みたいに、こうグチャグチャとこねくり回し、別の悪魔にする。なんて背徳的だ……」

 

 茫然と見ているだけだ。回転を終えた肉塊は伸縮し『ドクンッドクンッ』と音が大きく聞こえる。

 そして肉塊は音を立てて弾けると一瞬、閃光に包まれた。

 

「うぉッまぶし!!」

 

 目を開けると、腰まで届く長い黒髪に純白の着物姿をした女悪魔がいた。前髪は眉毛の上で切り揃え、顔立ちは人形の如く無機質で切れ長の目に赤味を帯びた瞳が冷たいよ。

 

「私は、鬼女『雪女郎』。今後ともよろしくね、坊や。フフ、身も心も凍らせてあげる……」

 

 えっえっ? これってまさか? 『失敗』それとも『超当たり』なの? ヴィクトルは軽い驚きの表情を浮かべている。黒井とメアリさんは無表情だけど。

 

「これは所謂『競馬で穴馬が的中した』のと同じだな……フフ、フハハハハ、このようなケースは久し振りだ。ハハハハハ」

 

 何が面白いのか笑い続けている。まぁ、あれだランクアップだな。ビギナーズラックと言うやつだ。 新たな仲魔が2体増えたからこれで満足だ。あ、大事な事を忘れていた。

 

「悪魔合体の手間賃と言うか利用料ですが、マッカで支払うのですか?」

 

 もしかしてかなり高額なのかも。

 

「我等の秘術は未だに完璧とは言えぬ。より多くの実践データを必要としているのだ。我々の目的は合体秘術の追求にある。したがってお前からは金を取らぬ。お前は合体施設の利用客でなく協力者なのだからな」

「……」

 

 COMPの時計を見ると23時半を過ぎていた。お台場から自宅へ帰るにはりんかい線でJR渋谷駅に出るか、JR大井町駅で東急大井町線乗り換え、二子玉川駅に出る必要がある。りんかい線は区間距離が短い割に料金がメッチャ高いんだよ全く。

 

「悪魔合体は奥が深い。業魔殿は全てのサマナーの為に24時間年中無休で開いている。お前も初仕事で疲れたろう。今日は早く眠るべきだ」

「着替えを用意してありますので、部屋へご案内致します」

「最後に1つ、デビルサマナーとして必要な事は仲魔との絆や強力な装備、アイテムの他にコネだ。よく憶えておくがよい。ボンボーヤジ」

 

 俺はメアリさんの後について工房を出るとホテルの一室に入った。広い部屋でベッドの上に俺の服、床にスニーカーが置いてあった。軽くシャワーを浴びてメイクを落とすとスッキリした。自分の服に着替えるとドレスとウィッグを用意してくれたバッグに入れた。

 着替え終わると深町涼太に戻った。やっぱり普段着が最高だよ全く。

 

「深町様のドレス姿は良くお似合いですよ。さすがあの方の血を受け継ぐのですね」

「えっ!! だ、誰ですか?」

 

 気になるけど、それ以上答えるつもりは無いみたいだ。黒井が入り口で待っていた。

 

「ドレス姿が似合うのに……」

 

 黒井に似合うと言われてもちっとも嬉しくない。タラップから降りると正面に流線型の黒い大型車が止まっていた。良く見ると何とロールス・ロイスだよ、凄い。俺と黒井はドアが開いている後部座席に座るとメアリさんがドアを閉じると静かに動き出した。車内は広くて座り心地も格別だ。生まれて初めて最高級の外車に乗って緊張するよ全く。外を見るとお台場のホテルとレインボーブリッジに芝浦のビル群の夜景がとても幻想的だ。黒井は無言で外を見ている。

 あ、運転手は俺の住所を知っているのだろうか? 運転席とはガラスの仕切りがあるので開けて運転手を見た。帽子を被った後姿なのでよく分からない。

 

「あの~家の住所なんですが……」

「存じております。世田谷区玉川台……ですね」

 

 年配のオッサンだと思ったけど意外にも若い女の声だ。日曜日の夜なので道路は渋滞も無く流れて快適だ。外の流れる夜景を見ているとウトウトと眠ってしまった。

 

「……よ。深町様、ご自宅へ着きましたよ」

「深町君、起きなさいよ」

「えッ!!」

 

 俺はハッとすると、間近に笑みを浮かべている運転手がいた。男装の麗人、宝塚の向日葵組みたいな人だ。カッと熱くなって思わず反対側のドアに後退りした。

 

「死んだように眠っていましたよ。よほど疲れていたようですね」

「す、すみません」

 

 慌てて降りると家の前だ。運転手がトランクルームからバッグを降ろしてくれると受け取った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 頭を下げた。

 

「いえいえ、これが私の仕事ですから。では良い夢を、それでは失礼致します。」

「深町君、お疲れ様。ネットゲームなんかしないで寝なさい」

「あ、ああ、黒井さんもお疲れ様。また明日」

 

 運転手は深々と一礼し、車に乗るとゆっくり走り出した。俺は手を振ってから玄関を開けて家に入った。居間で親父とお袋が深刻な顔で話している。テレビはついていない。

 

「ただいま。今日は疲れたよ」

 

 2人は驚いたような顔で俺を見た。

 

「りょっ涼太!! アルバイトで夜遅くまで残業お疲れ様。如月さんて優しそうな声ね。涼ちゃんを褒めていたわよ」

 

 ああ、まどかさんはね。竜也さんはメッチャ怖いよ。

 

「しかし、アルバイトでこんな時間になるなんて……正社員並みだな」

 

 そりゃそうだ。普通のバイトとは違うからな。

 

「急な仕事が入ったので遅くなったんだ。特別に家まで送ってくれたから助かったよ」

「そうだったの良かったわね。明日は学校だからお風呂に入ってすぐ寝なさい」

「うん……そうするよ」

 

 2階に上がろうとした時。あっ運転手の名前を訊くのを忘れちゃった。

 

「実は、お前に大事な話があってな。教会の佐々木さんがお前の身体があの事故で、助かる為に普通で無い事になったのを気にしておられてな。その、特別転入の話が来ているのだ。学費は教会からの全額負担で返済は無いから、そう悪い話とは思わないが……」

「べ、別に今、ここで決めなくていいから……ね、よく考えて」

「疲れているから、風呂に入って寝るよ……」

「そ、そうね。明日は学校もあるし……お休みなさい」

 

 自分の部屋に戻るとベッドに寝転んだ。クタクタだしダルいよ……ごめんね、パトラッシュ、もう疲れたよ。いつもならこの時間はパソコンを立ち上げ、DDS-NETやニッコリ動画でMADムービーやゲームの攻略動画を見て、適当にコメントしているけど、今はそんな気にはなれない。

 覚悟はしていたけどデビルサマナーの仕事はマジで超ヤバイ。無事に戻れたのが不思議だよ全く。

 

 メールが届いていた。

 倉橋からはバイトの件だ。まどかさんに一目惚れなんてお前とは釣り合わないよ。忘年会はバイトの身分だから分からない。こんな俺の心配をしてくれるのは今では家族親戚以外では2人だけだ。

 武原からは12月下旬に開催される冬コミ参加の件だけど、真冬に水着姿をした露出系の女装コスプレはマジで勘弁してくれよ、な。夏コミで1回限りだからって言うから嫌々引き受けたんだぞ。 

 ヒロ子さんのは……見ないで全部削除した。

 

「特別転入……か。ま、いいか」

 

 風呂から出ると、パジャマに着替えてベッドに入るとすぐ睡魔に襲われた。 

 翌朝。目覚まし時計のアラーム音で目が覚めると、大きなあくびを掻いて起きるが、身体が妙にダルいのだ。

 

「ヤッベッ、風邪でもひいたかな?」

 

 特に喉が痛いとか寒気や熱は無い。とにかく顔を洗う為、部屋を出て1階の洗面所に向かった。

 

「お、おはよう涼ちゃん。食事は出来ているから早く食べてね」

「ああ」

 

 台所のテーブルにはバタートースト、ベーコンエッグ、味噌汁、トマトとレタスサラダに、バナナヨーグルトが並んでいた。液晶テレビは朝のニュースが映っている。親父は『痛勤電車』が嫌なのと職場が遠いので早くから出勤だ。

 

「目黒区大岡山と調布市で猛獣による死者8人かよ。物騒だなー」

「都内で猛獣に襲われたなんて信じられないわ」

「どうせ、どこかの馬鹿な金持ちが内緒で飼っていたのが逃げたんだよ」

 

 滅多にないが、ワニが下水道で発見されたとか、動物園から逃げ出した猿が暴れたとか、地方で熊が家の中に入って来て騒動になった事件を思い出した。他の三面記事は男子中学生がいじめによる自殺事件や、クビになった派遣労働者が、JR品川駅の広場で突然錯乱し、止めに入った警官と乱闘になったとかを大きく取り上げていた。明るい話題はないのかよ全く。

 食事を終えてお茶を飲み干すと、自分の部屋に戻って制服に着替え、髪を整えると学校に行く用意をしたがCOMPは絶対に手放せない。

 

「ハイテク・デビルサマナー。COMPが無いとただの人、か」

 

 自嘲気に言うと携帯とCOMPをポケットに入れ、ヘッドバイザーを胸のポケットに、カバンを手に取って部屋を出ると階段を降りた。

 

「行ってきま~す」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

 

 お袋の声に送られて家を出た。

 

「うぅッ 寒くなったな」

 

 11月もあと数日で終わりだ。吐く息が白くなってきた。COMPでお気に入りのゲーム音楽を聴きながら早めに学校へ向かった。晴れた青空の下を歩いていると、昨日の秘密研究所、業魔殿の出来事が夢みたいだ。

 

 ありふれた日常の生活は、失ってから初めてありがたいと感じるのだ。

 俺も春休みに、あの事故に遭うまでは日常は当然だと思っていたから……

 

 古びたコンクリートの塀に沿った道を歩いていると登校する生徒の数が増えてきた。

 私立光陵高校は、その周囲を馬事公苑、陸上自衛隊の用賀駐屯地や国立の衛生試験所、海上自衛隊東京音楽隊の建物に囲まれている。全て合わせた広大な土地は戦前、陸軍の衛生材料廠が置かれていて、その地下には秘密の研究施設があるという噂がある。

 教室に入ると窓側で倉橋が佐藤や岩田達と話している。佐藤と岩田は1年の時、倉橋と同じクラスで武原とも親しくなった。当時、事故で入院していた俺は2人ほど親しくなれていない。中学の友達は公立の高校や、他の私立に進学したのでこの学校で友達と呼べるのは、倉橋と武原だけだ。今の俺は転校して来て半年にならない転校生みたいな存在。本来なら1年生で復学するはずだが、事情があの事情なので学校側の特別な計らいで2年になれたのだ。などと考えていたらポンと肩を叩かれた。

 

「よっ、いつもより早いな。何、黄昏ているんだよ。黒井ならまだ来ていないぜ」

 

 武原が曇った眼鏡でニヤニヤしている。

 

「バカ!! 違うって。今までのブランクと今後の事だよ」

「そ、そりゃ仕方が無いよ。あの事故で生きていられただけでもありがたいんじゃね?」

「タケにだけは言われたくねーよ全く」

「で、冬コミのコスプレを引き受けてくれよな、な、頼むよ。この通りだ」

 

 武原、拝むようなポーズをして俺を見るなよ。こっちは悩み事で頭がパンクしそうなんだから。

 

「周さんも『深町氏は男役女役をこなせるいいレイヤーになる』って褒めていたし。批評に辛辣なあの人が言うなんて珍しいよ。レイヤーのエミさんが作品で喧嘩して、サークルに来ないからコスプレする奴がいないんだ。無理を言っているのは分かっている。でも後悔はしていない」

「タケさんよ、まさかと思うが安受け合いして『あの深町なら俺が言えば即、引き受けるよ』なんてふざけた事言ってねーだろーな」

 

 いいレイヤーになるって言われてもちっとも嬉しくない。今の俺は竜也さんモード全開だ。

 

「ダ、ダンナナニイッテンデスカソンナコトワタシイワナイアルヨヒトコトモ」

 

 嘘付け、視線がメチャ泳いでいるぞ。もし俺が短気で粗暴な性格だったら、胸倉を掴んで締め上げているよ。俺は溜息をついた。

 

「もしも俺が『だが断る』と言ったらどーなるんだ?」

「そ、そしたら俺、周さんから冷たい目で見られちまう。あの人、結構キツイとこがあるんだ……」

「つまり立場が無くなるわけだ。」

 

 武原がコクコク頷く。俺も呆れるくらいのお人好しだな。オーケータダでは絶対に引き受けないぞ。

 

「周さんがこの条件を飲めるなら引き受けるよ。露出系と病んだ変態系は絶対不可。コスプレするキャラと衣装を事前に説明する事。バイト代として2万円と、打ち上げの飲み会とカラオケ代を無料だ。それと周さんの知り合いでオカルト、特に神話や悪魔関係が詳しい人を紹介してくれる事。これが最低条件だ」

「わ、分かったよ。当たり前だけど厳しいなぁ。今、メールするよ」

 

 武原が俺の目の前でメールを打つと即、返信が来た。おっ早い。

 

「えぇっと『深町氏の条件は理解した。バイト代として2万円+α交通費その他、掛かる金額は当サークルが負担する。コスプレのキャラと衣装の画像は添付した。オカルト、悪魔関係に詳しい人物を紹介については理由を直接伺いたいので、会える日時を連絡されたし』か、このオカルトって何なんだよ?」

「そ、それはだな……」

 

 説明しようとした時、担任の羽生先生が来たので、皆、慌てて席に着いた。

 

「起立、礼、着席」

 

 朝のホームルームが始まった。来月の行事の説明が終わると俺を呼んだ。

 

「深町、お前に話がある。放課後、職員室に来てくれないか」

「分かりました」

 

 来たか。冬期の特別補習の件かも知れない。

 

 突然、教室のドアが乱暴に開いた。

 

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