召喚師 屍魎己~魔都東京   作:律子

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中島と白鷺の話が出てきますが独自設定です。


第14話 病院

『ねぇ、涼ちゃんはあたしの事、愛している?』

『なっなんで、いきなり、何言ってんだよ?』

『あたしの目を見て!!』

『そ、そりゃ双子の姉弟だから嫌いじゃないよ……』

『嫌いじゃないって……あたしの事、愛していないの?』

『くっ苦しいよ姉ちゃん!! そ、そこだけはやめて!!』

『さぁ、答えなさい』

『ア、アイ、シテイマスヨオネーサマ』

『あぁ、良かった!! もし嫌われていたら……』

『んな大げさな!!』

『でも涼ちゃんは他に好きな女の子が出来て、その子とセックスするのね』

『えっ?』

『ねーちゃんだって、男と付き合っているんだろ?』

『あたしは涼ちゃん以外の人間は興味無い。涼ちゃんがいてくれたらそれで満足なの……』

『でも、涼ちゃんに彼女が出来たら……あたし、その子を……』

『……』

『あたしは涼と未来永劫深く激しく愛し、身も心も1つになれるなら世界が滅びてもかまわないわ』

『ね、ねーちゃん……マジで、ンな事考えてんのかよ? それ、なんてヤンデレヒロイン?』

『忘れないでね、あたしは涼ちゃん、涼ちゃんはあたしと2人で1人なのよ』

『ンな事言ったってわかんねぇよ!!』

『あははははははは、冗談よ、冗談!! ほんと、涼ちゃんをからかうと楽しいわ』

『ざけんなよ、クソ姉貴!!』

『だ・れ・が・ク・ソ・姉貴なのかしら? 生意気な事を言う口は、この口かしら』

『ひゃい、ひゃい、ご、ごめんひゃい美人で素敵なお姉さま!!』

『ふふ、よろしい』

『今日の夕食はあたしが作るから楽しみにしていてね』

 

 いつの間にか巨大な劇場の座席に座っていた。周囲は静かで薄暗く他に誰もいない。

 

「ここは誰? 私はどこ? 確か学校……あれ?」

 

 ぼんやりしていると突然、スポットライトがステージを照らすと、ハイテクの車椅子に座った灰色のスーツを着た男が現れた。眼鏡を掛けて知的な雰囲気があり学者みたいだ。髪色からして日本人では無いけど、どこかで見たような気がする。

 

『深町涼太君、私はスティーブン。憶えているかね?』

「スティーブン? あの映画監督かな?」

『君は寝ボケているのかね? まぁいいだろう。観させて貰ったが、ヴィクトル氏の依頼もクリアして上出来だよ』

 

 スティーブンが少し一瞬、イラッとしたみたいだ。あ、思い出した。夢に出て来た学者だ。ゲームの出来事じゃなかったんだ。おK、してから悪魔召喚プログラムがメールで送られてきたんだっけ。

 

「あ、あの、質問があります」 

『私にかね? 答えられる範囲でなら応じよう』

 

 ①ここはどこ?

 ②貴方は何者?

 ③悪魔召喚プログラムを自分に送った理由。

 ④悪魔全書とは? 名前が読めない悪魔について。

 ⑤爆発事故

 

 この人ならあの事故の真相を知っているかも。

 突然、周囲の風景が変わった。劇場から無限に広がる大宇宙……無数の輝く星々や銀河が広がっていた。プラネタリウム以上の迫力がある。

 

『①ここは普遍的意識の世界。『魔界』や『幻想郷』とは別世界で、簡単に言うなら意識と無意識の狭間。全ての生命の精神が繋がっている場所、もしくは心の海と思ってほしい。人の意識はここから生まれ、そして帰る全人類共通の故郷……』

 

 確かに無数の星々を見ていると無限に広がる大宇宙の一部になったみたいで、心が安らぐよ全く。

 

『②私はスティーブン、東京は狙われている……』

「それなんてエイジ?」

『これは滑ったかな、私は物理学者として、ある組織と提携して極秘の研究に携わっていた。それは永年の夢だった瞬間物質移送システムのターミナル設計開発である』

「まさか!! 映画『クライング・フライマン』に出てくる瞬間物質移送機ですね……って、それかなりヤバクね?」

 

 主人公の科学者が蝿男になってしまう話だ。スティーブンは苦虫を噛み潰したような顔で俺を見る。

 

『想定外の事故が発生したのだ。私は蝿男にはならなかったが、後遺症で歩けない身体になった……』

「……」

『③の悪魔召喚プログラムを送った理由は、1980年代後半、東京の吉祥寺に住む男子高校生が開発した悪魔召喚プログラムで個人的な復讐の為、魔王ロキを召喚し大量の死傷者を出す事件を起こしたのだ。その影響なのかGPが上昇、【人ならざるモノ……悪魔】が急激に現れた。私は最悪の事態に備えての警告と、せめての手助けになればと、改良した悪魔召喚プログラムを、メールで送付とDDS-NET内で配布したのだが、活用した者はほとんどいなかった……』

 

 ロキって北欧神話に出てくるトリックスターみたいな奴だっけ?

 

「で、その高校生が原因かよ……スゲー迷惑な話だよ全く。もしかしてその人は中島って人?」

『中島朱実はクズノハと神宮の森、陸上自衛隊が派遣した対悪魔部隊によって、恋人の白鷺弓子と共にテロリストとして極秘裏に処理されてしまった』

「そりゃ自業自得だよ。普通、そんなメールが届いたら性質の悪い悪戯かウィルスと思って削除しちゃうよ」

 

 スティーブンはさらに苦悩に満ちた顔をしたので、それ以上言えなかった。 

 

『ある人物の助言で、見込みのある者に夢と言う形で接触し、戦う意思を示す者に悪魔召喚プログラムを送る事にした。君の召喚リストにある悪霊の名前が読めないのは、予想外のバグで文字化けしている為だ。何者かの介入なのか……原因は私にも分からない。文字が赤いのは君の力量では召喚、使役出来ないだけだ』

 

 なるほどね。それとも特定のフラグを立る必要があるのかな?

 

『悪魔全書とは、登録した仲魔の由来、ステータスが載っているデータでもある。さらにマッカとマグネタイトを支払えば、登録した悪魔を召喚出来るのだが、邪教の館の主殿に話を通さないと使えない。詳しい事は彼に尋ねてほしい』

 

 邪教の館って、名前からしてなんかカルトでヤバそうだよ。

 

『邪教の館は、業魔殿と同じく悪魔合体を行なう施設で、都内にもあるが全国各地に存在する。⑤あの爆発事故。日曜の銀座、歩行者天国で起きた原因不明の爆発……私の情報によると背後に大掛かりな組織が関わっているらしいが詳細は不明だ……』

「そうですか……」

 

 目をそらしても、心に蠢く何かを抑えるのが辛くなってくる。スティーブンは一瞬、嘲るような顔をしたが気のせいかな。

 

『今の君はその件に関わらない方が身の為だ。もし犯人が生きていたとしても返り討ちに遭うのが関の山だ。今は地道に経験を重ね、……量を上げるのが先だ』

「……」

『今は焦る必要が無い。サマナーとして活動して名を馳せれば、先方から……って来る筈だ』

 

 いつの間にか劇場に戻って俺は座っていた。

 

『話を最初に戻るが、君は本来、別の……補……に入れる機会を何……入で失った。前が……スの聖でもなければ理を曲げ……いでも無い。』

 

 姿がブレだし、声が聞き取れなくなってきた。

 

『古……家でもなく。銃器を扱……ストでもない普通の学生だ』

 

 現実にそんな学生がいてたまるか。あ、いるかも知れない。

 

『そんな君を援護してくれる……と……える警……入……注、最後に……る』

「もしもし、もしもし!!もしも~し!!」

 

 途端に意識が途絶えた。

 目を開けると知らない天井が見えた。

 

「あれ? ……どうして?」

 

 慌てて身体を起こして周囲を見ると壁、床が白い。家具や調度品の類が見当たらない。清潔で無機質な雰囲気が漂う、どうやら病室みたいだ。俺はベッドに寝かされていたらしい。朝のダルさも今は無い。

 

「懐かしいのと変な夢を同時に見たようだよ。何でここにいるんだろう? ってうわっ!! えっえ、俺、素っ裸?」

 

 下着も何も身に着けていない状態だ。着替えが置いてないか病室の中を捜すがベッドはクッションだで、身体を包む物が無いと何か頼りなくて情けない。

 

「お、俺の着ていた服はどこいったんだよ。こっCOMPが無い!! うわーー最悪だ!!」

 

 股間を手で隠して室内をウロウロする。おっ落ち着け、こ、こんな時は両手を広げ、3回深呼吸して素数を数えるんだっけ? でも、どうしてこうなった。

 

「俺、朝の教室で……あぁっ!! そ、そうだヒロ子さんが乱入して騒ぎになってそれから……」

 

 脳内再生開始。

 突然、ドアが乱暴に開いて白衣姿のヒロ子さんが入って来たのだ。右手には黒皮の鞭が握られている。当然、教室は大騒ぎだ。「あの人誰?」「保健の先生かしら?」とか「すっすげーボインのパツキン美人じゃん!!」とか口々に叫んでいる。羽生先生はヒロ子さんに詰め寄った。

 

「ちょっとアンタ誰ですか? 関係者以外が勝手に入って来ては困るんだ。すぐ出て……うぐっ!!」

 

 ヒロ子さんの腕を掴んだ羽生先生は、当身を食らってその場に倒れた。教室は大騒ぎになり、何人かが外に逃げ出したら突然倒れた。鞭を振り回して思い切り床を叩き、こちらを睨んでいる。

 

 ヤバッ!! 彼女の目当ては俺だ。

 

 ドアに殺到した連中はバタバタと倒れた。ハリウッドセレブやスーパーモデル顔負けの美貌とスタイルに誰も手を出せない。彼女の顔は怒りに燃える鬼だ。に、逃げなきゃ逃げなきゃ……ドアに向かって走ったが彼女の方が素早かった。ヒロ子さんは俺の胸倉を掴んで顔を近づけた。嗜虐心で満ち溢れたとっても素敵な笑顔だが、青い目は笑っていない。女臭と香水の混ざった匂いで鼻を刺激する。

 

「はっ!! 離せよ!! 俺が何したっていうんだよ!!」

「と~ても壊したい王子ちゃま~優しい白衣の女王サマがお迎えに来たでちゅよ~」

 

 彼女の瞳が輝くと俺の意識が途絶えた。

 

 ヒロ子さんが、まさか教室に乱入するとは思わなかったよ全く。今頃、大騒動になって警察が来ているだろうなぁ……。

 

 衝撃のクラス!! 鞭を持った白衣姿の金髪女性が乱入、男子生徒を拉致!!

 

「すると、ここはあのチョビヒゲの病院かよ。でもこんな病室は無かったよな」

 

 ベッドの脇にあるナース・コールのボタンを押してみるが返事が無い。俺は一瞬、最悪の想像をしてしまった。眠っている間にバイオハザードが発生したのだ。部屋の外に未知のウィルスに侵された感染者達が、新鮮な血と人肉を求めて徘徊しているのだと……苦難の末脱出して目に映る光景は、感染者が暴れまわる街だった。なんてどこかのパニックホラー映画のオチは勘弁だよ。着る物を捜すがベッドの下に白い紙袋があった。開けるとピンク色の服らしき物が入っていた。

 ベッドの上に出してから服を広げて目が点になった。

 

「こ、これを着ろってのかよ!!」

 

 それはとても鮮やかなショッキングピンク色のジャージーだった。

 

「これは一種の羞恥プレーなんですね。もう僕には理解出来ないです」

 

 選択の余地は無い。

 素っ裸で動くよりこれを着て他の服を探すしかない。しかし着るのに若干、心の抵抗がある。逆に考えるんだ、ドレスや水着を着るより遥かにマシだ、と。サイズは問題無い。着てからスリッパを履き、ドアに向かうと音も無く開いた。顔を出して通路を見るが誰もいない。もしオートロック式だと通路に出たら病室には戻れない。

 室内を丁寧に捜すが、何も出て来ないので仕方なく病室を出た。閉じたドアはやはり開かない。

 通路は一面白色に覆われて地上か地下なのか分からない。病室を出て右の通路を歩く。白衣姿の人影は全く無い。監視カメラで見られているのかもしれない。バイオハザードだと照明も非常灯になり、隔壁が降りているだろう。通路を進む途中にあるドアは開かない。やがて十字路が見えた。

 COMPが無いので、選択次第ではバッドエンドになりそうだよ。

 

「どうしよう……ええい左だ」

 

 左へ曲がってしばらく進む。周囲は静寂に包まれ不気味だけど、照明があるのでまだマシだよ。その先にエレベーターが見えてきた。急いで向かうと人影が現れ、見ると看護師みたいだ。

 顔は黒いショートヘアで白い眼帯とマスクをしている。首にネックギプスをしていて両足は義足なのか両手で松葉杖を突きながらかチャカチャ音を立てて俺に近づいて来た。そのぎこちない動作は不気味で痛い。

 一言で表すなら『痛いナースコスプレ』だ。これだけは絶対に分かる、看護師では無い。それに友好的雰囲気は零だ。

 

「ヤバイ、逃げなきゃ、逃げなきゃ」

 

 来た道を引き返した。十字路を真っ直ぐに走った。突然、後ろから声が響いた。

 

『コラー!! そこの純情可憐なボーイ』『お待ちになって旦那様』『このッ!! スカポンタン!!』 『人の顔見て逃げんじゃないわよ!!』

 

 意外、女のアニメ声だよ。不気味な雰囲気と、どこかで聞いた甲高い声がミスマッチだ。

 

「待てと言われておとなしく待つ奴がいるかよ。この不気味女」

 

 正面右手に梯子が上に伸びて開いたハッチが見える。よじ登ると木造の廊下に出た。

 

「1階か……あ、見覚えがあるぞ。……先生の病院か」

 

 下の方からカチャカチャと音が響いてくる。ヤバ!! あの不気味ちゃん? 意外に足が速い。出口に向かって走ったが変だ。天馬先生の個人病院はそれほど広くは無い。これだけ走れば、受付と待合室が見えるのに果てしない廊下だけだ。でも、この病院はあんな女いたっけ?

 

「もしかして閉鎖空間……異界化なのか?」

 

 異界化。現世の一部が、魔界の一部と融合する現象。空間・電磁場に強い影響をおよぼす為、無線通信が不可能になり、周囲が迷路のようになってしまい悪魔が徘徊していると、まどかさんが教えてくれた。予感が正しければマジでヤバイ!! 武器が無い、COMPも無い今の俺は無力な一般人。悪魔と遭遇したらアウトだ。背後からカチャカチャ音が聞こえたので走り出したが、目の前にアメーバー状のスライムが1体現れ、背後にもう1体が逃げ道を塞ぐ。

 超絶体絶命。

 スライムは、仲魔にしているが、COMPが無い今はどうなるか分からない。スライムは身体の一部を触手状に伸ばし、俺の身体をペタペタ弄る。俺はドキドキして動けない。しばらくするとスライムは消えた。へなへなと座り込んだ。手元にCOMPが無くても、仲魔にしていれば見逃してくれるみたいだ。あの研究所で仲魔にしていなかったら、この場で消化されていただろう。

 

『見ぃつけたぁあああ……』

 

 振り向くと不気味ちゃんが俺を見ていた。慌てて逃げようとしたが、身体が痺れて動けない。

 

『シバブー』『直撃を受けたら』『フハハハハハハハ!!』『無駄無駄無駄ァァァァァ!!』

 

 こいつの喋り方は言葉をつなぎ合わせたみたいだ。

 腰に手を当てていた不気味ちゃんはカチャカチャとゆっくり近寄ってきた。駄目だ動けない。

 俺の目の前に来た。眼帯とマスクで表情が分からない。ただ冷たく見つめているだけだ。

 俺の前にしゃがみこむと右手を掴む。ヒンヤリとした冷たさが伝わる。義足の少女は痛々しく見ていられない。一瞬、目を逸らした時、カチャッと金属音がして見ると手錠が掛けられていた。

 

「おいっ!! ふざけんな。これを外せよ!!」

 

 幸い口だけは動かせる。不気味ちゃんは冷たい目で見つめるだけだ。ムカッときて突き飛ばそうとしたが、まだ痺れて動けない。

 

『Shut up!!』『You take someone to where the Doctor』『Do you understand?』

 

 いきなり英語で言われても聞き取れないよ全く。それもどこかで聞いた渋いオッサン声。

 

「身体が痺れて動けないんだよ……ってあれっ?」

 

 いつの間にか痺れが無くなっていた。ノロノロと立ち上がると、不気味ちゃんはカチャカチャ音を立てて歩き出した。手錠でつながれているので俺も後に続くしかなかった。

 

 不気味ちゃんは俺に背を向けて歩いている。

 今なら首か腕を捻り上げ脅し、鍵を奪って逃げられんじゃね?

 

『ミーに不埒な真似をしたら』『真空回し膝蹴りが炸裂!!』『あ~んど、お前はもう死んでいる』

 

 ゲッ!! 見抜かれている。外見で侮るとヤバイよこの不気味ちゃん。

 

 目の前にドアが現れ、不気味ちゃんが慎重にノックをすると聞き覚えのある男の声が響いた。

 彼女の後に続いて俺も中に入った。

 目の前に白衣を着た貧相な小男が立っていた。その右横に白衣にマスク姿のヒロ子さんが腕を組んで睨んでいる。背の高さが極端に違うので違和感があり過ぎる。

 この2人は、俺の関わり合いたくない人物の脳内リストのベスト5位と4位だ。

 

「久しぶりだね。涼太クン」

「天馬先生も……相変わらずで……」

「君ぃ!!我輩をドクターペガサスと呼びたまえと言ったではないか!!」

 

 顔に似合わず甲高い声で喚く。男は短く刈り上げた髪型で丸い黒縁の眼鏡を掛けていて特徴と言えるチョビヒゲを生やしている。見た目が某総統にそっくりだ。

 

「……であるからして、おい、我輩の話を聞いているのか?」

「聞いていますよ。天馬博士。ちょっと脳内で処刑していたので……」

「ふん、君の妄想癖は姉上譲りだな。いい加減に妄想と現実の区別をしたまえ」

 

 アンタに言われたかねーよ。このクソチョビヒゲ。いっぺん死んでミルか?

 

「君に施した処置で我輩に対して反感を抱いているのは分かる。しかし命の恩人に対しては敬意を払うべきではないかな。なぁヒロ子クン?」

 

 ヒロ子さんに同意を求めたが無視して俺達の前に来ると殺意の篭った目で右手を上げた。

 

 ヤベ!! 殴られる!! 親父にも殴られたことは無いのに……

 

 が、平手打ちを食らったのは不気味ちゃんだ。続いて膝蹴りを受けた。

 

「卑しい変態メス奴隷の分際で何、手錠を掛けていやがる。とっとと外せよコラー死ねってヤツ」

『即、解除いたしますわ』『ああっ白衣の女王様!! 醜くて卑しいこのメスブタにお仕置きを……』

 

 外してくれたけど、もうヤダ……この人たちの会話は心を汚されるよ全く。

 

「どこまで話したかな……ああ、命の恩人には敬意を払うべきだったな、君が『深町涼太』としてこの世界に存在出来るのは我輩の超心霊医術と生体医工学の賜物だと、それも思えば今は亡き小夜子さんの資産と他から惜しみない資金援助があってだな……」

 

 天馬博士の演説もどきを上の空で聞いている。

 命の恩人……確かにそうかもしれない。以前と変わらない身体で生き返れていたのなら、偉大な医学者として尊敬しただろう。しかし俺の身体は……

 

「永遠に偉大な博士サマ、とっとと座ってお茶でも飲むべきじゃねーかこん畜生って感じ」

「おお、そうだったな。零(ゼロ頼むよ」

『おK、把握致しましたでありんす』

 

 零と呼ばれた不気味ちゃんは、深々と頭を下げると退出し俺達は来客用のソファに座った。

 

「我輩に何度も話させるのかね? 君は『あの日死んだ』のだよ。肉体が四散して、どれが姉上か弟か解らなかったのだ。幸運にも君は、突然の死を理解していなかったので深町涼太として認識させることが出来たのだよ」

 

 俺は黙って聞いている。ヒロ子さんは腕を組み、足を組んで目を閉じているって、この人寝ているよ。

 

「君が現在この場にいるのは、ご両親の熱意とヒロ子クンの脅迫、亡き小夜子さんのおかげだと忘れちゃいかんよ。あの悲しみは我輩から見ても辛かった……2人の子供を一瞬で失ったのだからな」

『お待たせ致しましたでございます』

 

 零が淹れたてのコーヒーをカップ3人分、お盆で運んで来ると手際良くテーブルに並べた。ソファには座らず、従者の如く背後に控えている。

 

「泣きながら我輩にすがりつくのだよ『どんな手段でもいいから生き返らせてください』とな。それで我輩がこう言った『譲渡と2人の肉片で1人分しか再生出来ない』と言うと、それでも構いませんと了承したのだよ。ただ誤算だったのが、眠りから覚めるのに1年半近く過ぎた事と、姉上が覚醒しない事だがな」

「それで、博士は報酬を要求したのですか?」

 

 当然、莫大な費用が掛かっているはずだ。博士はコーヒーを一気に飲み干すと真剣な顔で俺を見る。

 

「我輩が医大生の頃から学費や生活費の援助をしてくれた小夜子さんは、肉親以上の恩人でもある。こんな我輩でも受けた恩は忘れんよ。それ以上の理由は無い」

 

 小夜子さんとは俺の祖母で、中学生の時、心不全でこの世を去った。葬儀の時一番嘆き悲しんだのは博士だけだったのは覚えている。あまりの激しさに周囲がドン引きしていたからな。

 

「博士、無駄話はとっとと終わらせ、可憐なヒロ子さんの本題に入りやがれっていう感じ」

「うげぁあ!!」 

 

 退屈して眠そうなヒロ子さんは博士に肘打ちを食らわせた。

 

「すっすまんなヒロ子クン……で、何故、彼女のメールを無視したのだね? 君にコケにされたと怒り狂って宥めるのに、我輩が全裸逆さ吊りで激しい鞭責めを一晩受けたのだよ」

「……」

「君の生体維持・認識データ更新なので、調整槽に入っても10日かからないとご両親にも話してある。どうしてだね?」

「それは……どうも病院が苦手なので……その、スミマセンデシタ」

 

 2人に謝る。自分でも下手な言い訳だった。アンタ達と関わり合いたくないからとは言えないよ。

 

「君の身体は我々の所有であることを忘れちゃいかんよ。二度とこんな無視はしないと約束すれば、我輩からは言うことが無いが……ヒロ子クンは、君にペナルティを課さないと納得しないのだよ」

「純情可憐な王子サマを鞭打ち100回か、四肢切断して人犬を激~しく希望」

 

 恐ろしさで震え上がった。ヒロ子さんの眼は冷酷無慈悲な女王サマで俺を見ている。

 

「小夜子さんの孫に惨い事はしたくない。君はデビルサマナーになった事は、我輩としても実に喜ばしい、貴重な実践データが取れるからな。そこで君のモニター兼サポートとして『ドール』を貸与する。これならヒロ子クンも納得するだろう」

「ヒロ子さんとってもい~子だから今回は我慢……24時間年中無休で王子サマを視姦できるからとっても満足♪ ヒロ子さんが選んだ下着と服以外を着るのは絶対禁止。でも次に破ったら絶対可憐に許すべからず」

 

 ハイヒールを鳴らして院長室から出て行くと俺と博士は溜息をついた。うわっこれから24時間年中無休で監視されるのか。

 

「ドールとは、人造人間の名称で、コードネーム『OLGA03』。元々は、とある企業からの依頼で身障者、老人の介護・支援を目的の為なのだが、製造費用と運用コストの面で企業側と折り合わなくなり量産計画が見送られのを、我輩が悪魔召喚システムを搭載し、対悪魔戦用人造人間に改良した」

「人造人間なんて映画や小説、アニメ、ゲームの中に出てくるだけだと思ってましたよ」

「ロボット工学やサイバネティクスを含む最先端技術の分野は、君が思っている以上に進んでいるのだよ。アメリカでも人型とは、かけ離れた姿の身体介護・支援ロボットは実用化されているのだ。その一部は軍事目的もあるのだが、我輩達の共同開発したドールを廃棄するのは惜しい。我輩が費用は全て受け持つと話して預かった、どうだね見たいだろう?」

「ええ、是非」

 

 博士の『どや顔』気に食わないが、興味はあるよ。

 

「では一緒に来たまえ。零、後片付けを頼む」

『合点承知でありんす』

 

 院長室を出て廊下を進むとエレベーターが見え、俺達は地下3階に降りると通路を歩く。

 

「廊下が異界化していたのは何が原因ですか?」

「我輩の研究成果を狙う不届き者がおってな、アポもとらずに訪問するので、零が異界化させて閉じ込めたのだよ」

「まさか、その人達って……」

「外資系の製薬会社に雇われた傭兵部隊やある北国の工作員。招かれざる客人は皆、スライムの餌だよ」

 

 事も無げに言うので突っ込めないよ全く。物理無効のスライムは銃や格闘戦では倒せない。

 

「でも病院の地下にこんな施設があるなんて……今まで知らなかった」

「ここは1980年代後半、あるガイア系の宗教団体が、来るべき核戦争に備えて造られたシェルターだよ。9割方完成間近になって、資金不足と教団の内部抗争で、半ば放棄されたのを我輩達が安値で買い叩き、秘密研究施設にしたのだ」

「都内に核攻撃って、本気で信じていたんですか?」

「あの頃は、本気で信じている者が多かったのだよ。件の教団も核戦争後に、自分達の王国を築く夢を見ていたカルト狂だったからな」

 

 博士は肩をすくめて溜息をついた。マジかよ、ここで生き残ってもストレスとかで病みそうだよ。

 十字路を左に曲がって進むと突き当たりにドアが見えた。

 

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