召喚師 屍魎己~魔都東京   作:律子

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893者に絡まれたら怖いです。


第2話 遭遇

 

「えっ? えぇ!?」

 

 なんだよこれ。

 

「チッ!! 遅かったか!!」

 

 浦木さんは鋭く舌打ちをした。街灯の淡い光に照らされた住宅街が消え、黒い霧らしき『モノ』が周囲を渦巻いている。まるで通常空間から切り離されたみたいだ。俺はただ見ているだけ。

 

「俺の側から離れんじゃねぇぞ!!」

「はっ、はぃいい」

 

 思わず声が裏変ってしまった。浦木さんは懐から、お札らしい物を取り出して身構える。

 

 そ、そうだ、こんな時は身を隠すんだ!! って誰かが言ってたな……全く。

 

 何かが俺達を囲うように近づいて来る。そして黒霧の中から小柄な人影が現れて、ビックリした。

 そいつらの背丈は幼稚園児位だが、手足が極端に細くて短く腹が異常に膨らんでいた。肌が異様にドス黒く、目だけは異様に輝いて俺達を見ている。数は6体で鋭い牙と爪が怖い。友好的どころか、獲物を目にして今にも飛び掛ろうとしている。こ、こいつら人間じゃねぇ。

 

「うらっ!! 浦木さん……こっこいつらってまさか……あれっ!! アレ?」

「ああ、こいつらは幽鬼の一種で『餓鬼』だ。襲われたら骨も残さず喰われちまうぞ」

 

 浦木さんは怯えるどころか不敵の笑みを浮かべている。地獄の亡者が何でこんなトコにいるんだよ!!

 

「フンッ、こんな雑魚で俺を()れると思ったのか!!」

 

 浦木さんが何かを低く唱えるとお札は青白く輝き、光が近くの餓鬼に命中した。

 餓鬼は奇怪な絶叫を上げて消滅。続けて唱えると2体の餓鬼が消えたが、お札も消えた。まっまずいよっ!! 浦木さんは両手を合わせ、印を結ぶ動作をした。

 

魔破斬魔(マハ・ザンマ)!!」

 

 突然、凄まじい衝撃波が発生して残りの餓鬼達をバラバラに引き裂き、そして悲鳴を上げる間もなく消滅した。

 

「す、すごっ!! 一撃で……凄すぎる!!」

「はぁ、はぁ……」

 

 浦木さんは肩で荒い息をしている。今の『術』は気力、体力を激しく消耗するみたいだ。小説、マンガやゲームに出てくる『術』を見て、夢でも見ているようだ。恐怖と興奮なのか俺は身体の震えが止まらない。黒い霧は消えて、夕闇に包まれた住宅街が戻った。

 

「クソッたれが!! 餓鬼は囮か!!」

 

 浦木さんは忌々しそうな顔をした。車が2台、俺達を挟むように近づいて来てヘッドライトが眩しい。

 

「俺が奴らの囮になるから、お前は逃げろ!!」

「で、でも……」

「馬鹿野郎!! 死にてぇのか!!」

 

 躊躇する俺を突き飛ばす。浦木さんはホルスターから拳銃(コルト45オート?)を抜くと俺を見た。まるで獰猛な獣のようだ。

 

「必ず、竜也(たつや)に渡してくれよ」

「は、はい必ず!!」

「早く行け!!」

 

 俺は聞きたい事があったけど、全速でその場から逃げる。背後で車の激突音と銃声、叫び声が響いたが、構わず家に走った。

 

「たっだいま……みっみず……」

 

 俺の家は2階建てのプレハブ住宅で築40?年以上経っている。玄関を開けて靴を脱ぐと、奥から香ばしいカレーの匂いとお袋の声がする。台所に入って冷蔵庫から麦茶のペットボトルを出して飲むと一息ついた。

 

「お帰り。どうしたの? もうじき夕ご飯が出来るわよ」

「分かったよ」

 

 2階に続く階段を上がろうとした時、お袋が呼び止めた。

 

「今日、涼ちゃん宛に荷物が届いていたので机に置いといたわ。通販でまた変な物買ったんじゃないわよね?」

「んなモン、わざわざ買わないよ。言っただろ? 応募した例の『あれ』が当たったんだよ」

「本当かしら?」

 

 疑わしそうな目で俺を見る。まぁ前科があるから仕方ないか。

 

「マジだってば、後で現物を見せるから」

 

 俺はお袋の声を無視して自分の部屋に入った。机の上に小包が置いてあるが、俺はダブルベッドに寝転んで天井を見るとアニメキャラのミーシャが最高の笑顔で迎えてれる。

 

 地獄の亡者……破魔札……魔法……拳銃……あんな事、現実には有り得ない。性質(たち)の悪い夢だよ全く。

 

「浦木さん無事かな……?」

 

 気になるけど再びあの場所には行きたくないし、それにこんな事、他人に話しても信じてくれないだろう。軽く10分ほど目を閉じて考えたが良い考えが浮かばない。

 着替えもしないで椅子に座る。包みを破ると化粧箱が現れたので震える両手で開けると、ついに『あれ』とご対面した。

 あれとはサイバース・コミュニケーション社が来年、全世界に向けて発売する最新鋭のCommunication Player『COMP』と呼ばれる次世代携帯モバイルである。

 サイバース・コミュニケーション社は通信事業では最大手の多国籍企業で、文字通り世界規模で販売を展開している。

 自慢では無いが俺の使用しているパソコンは自作で、マザーボードとビデオカードはサイバース社製だ。

 

『COMP』は従来のスマートフォンを遥かに凌ぐ高性能で低発熱、省電力の中央演算処理装置と長寿命のバッテリーで、基本スペックは1世代前のデスクトップパソコンより遥かに上だ。

 画期的なのは、専用のヘッドバイザーを接続して使うと、画面が立体的に表示される事だ。立体テレビは販売されているが、まだ大画面のみ対応で高価格だ。COMPは操作も専用リモコンを使い、画面がヘッドバイザーに表示され、視線を変えずに文字入力が出来る。

 テレビ通話機能は当然装備されていて、ヘッドバイザーか本体に付属のカメラか会話できる。

 サテライト・ナビゲーション・システムも有り、ゲーム機能も当然対応して『家庭用ゲーム』からオンラインゲームまで楽しめる。

 もちろん、欠点と言うべきか短所を挙げると『専用』のプロバイダーに加入しないと立体機能とテレビ通話の恩恵を受けられない事である。

 サイバース社のメンバーに登録するのは当然として、別途に年会費が掛かるとの事だ。インターネットをしている人は、変更するかプロバイダーを2つ持つ事になる。

 具体的な金額はまだ発表されていない為、不明だけどネット内の『噂』ではかなり高額になるらしい。

 現在、俺が手にしているCOMPは発売に向けての最終完成品で抽選によって特別モニターに選ばれた者にだけ送られた製品だ。特別モニターは世界主要国72ヶ国で1つの国に付き13名。

 つまり俺は国内で選ばれた13人の内、1人という訳だ。倉橋やタケが羨ましがるのも無理は無いよ。浮かれた気分で送付案内書を見る。

 

「拝啓、深町涼太様。

 厳正な抽選の結果、特別モニターに当選されましたので、弊社が来年発売する『COMP』を発送させて頂きました。ご使用につきましては最初に会員登録をお願い致します。

 登録が完了されませんとご使用は出来ませんので予めご了承下さい。

 尚、特別モニターの期間中、弊社プロバイダー及び会費は無料ですのでご存分に堪能して下さい……か……」

 

 俺はCOMPを手にすると、ニヤつく笑みを押さえられない。本体は折りたたみ式で、カラーはとても渋い木目調、手触りはまるで木製の製品みたいだ。重さも今使用しているスマートフォンより『少し重いかな』って感じで、違和感は無い。大きさも携帯ゲーム機とほぼ同じで、ズボンのポケットに入れにくいが専用ケースが付属しているのでベルトに通せば問題無い。

 ヘッドバイザーは未来的なデザインで、ヘッドホン・マイクにスポーツ・サングラスを足した感じだ。眼鏡を掛けていても圧迫感は無い。グラス部分は角度の調節が可能、使用しない時は上に跳ね上げる事が出来る。

 ヘッドバイザーを被ると早速、バッテリーを本体にセットして電源を入れると軽快な音楽と共にサイバース社のロゴが飛び出た。

 

「スッ!! スゲーじゃん!! 本当に飛び出てるぜ」

 

 感動していると艶のある女性の声が響いてきた。

 

《……ご購入頂きましてありがとうございます。お客様の登録をお願い致します……》

 

 見るとユーザーナンバーとパスワードの入力画面が現れた。マニュアルの最後に載っているので迷わず入力するが、初めての感動と緊張に慣れないリモコン操作で手早く入力出来ない。

 

「涼ちゃん、ご飯出来たわよ」

 

 下からお袋の声が響く。俺は返事をするとそのまま台所に降りた。

 

「当たったのはこれだよ!! これ」

 

 俺はお袋に送付案内書を渡した。

 

「嘘っ!! 本当に当たったのね。信じられないわ、まさか当たるなんて……」

 

 驚いているのか、呆れているのか分からない声で俺と案内書を見比べている。

 俺はカレーライスを食べながらフフンと鼻で笑う。自慢じゃないが、この世に生まれてから懸賞とかで当たった事が無い。むしろ親父とお袋の方が当たっている回数が多いぐらいだよ。

 

「やだ、まだ着替えてないの?」

「飯、食い終わってから着替えるよ」

「あっそうそう、涼太が帰ってくる前に京子ちゃんから電話があったわよ」

「qあwせdrftgyふじこlp?!」

 

 俺は盛大に、食べてたカレーを吹き出して激しく咳き込む。

 

「あ、あいつが何の用だって?」

「クリスマスに遊んであげるから感謝しなさいって言ってたわよ」

 

 お袋は最高の笑みを浮かべてくれるよ全く。

 

「親戚で涼ちゃんを心配してくれる女の子は……京子ちゃんだけなんだから感謝しなさいよ」

「冗談じゃねーよ」

 

 思わず声を荒げてお袋に文句を言う。

 

「そんな事言うんじゃありません」

「どーせ男に振られた腹いせで、俺に八つ当たりでもすんじゃねぇーの!!」

 

 言うだけ言って俺は自分の部屋に戻った。着替えながらあいつの事を思い出して不愉快になり、当選した感動が霧散しちまいやがった。

 

 京子。私立の女子校に通う3年で俺より1個年上だ。

 お袋の妹の娘。つまり俺の従姉だ。小さい頃はいじめられて泣かされていた……幼い頃から空手を習っていて、今では空手部の主将になり大会に出て何度か優勝しているらしい。

 最近、同人誌に手を出してコスプレやらサークル活動している。(俺は関わり合いたくないが……)

 お袋の前では猫を被っているから性質(たち)が悪い。

 あいつ曰く『弟を可愛がってるんだから感謝しろ』って言いやがる。

 あだ名はスケ番お京で、制服のセーラー服にスカートの長さが足の踝まである事から由来するらしい。

 年配の先生には懐かしい目で見られているそうな。

 1980年代じゃあるまいし今時、そんな奴いねーよって言うと、あいつ曰く『短いスカートが主流だけど、これからはロングが流行るのよ。アタシはその先駆けってワケよ。オホホホホ!!』だとさ。

 あいつの事は一旦忘れてCOMPの初期設定を続ける。パスワード入力後は住所、氏名、年齢、ニックネーム、職業の入力欄が現れた。全て入力しないと設定の完了が出来ない。

  

「やった!! エラー無しで無事再起動した!!」

 

 俺はシステムのカスタマイズを始めた。COMPで直接、データを扱える様になり自宅のパソコンを使わなくても済むのである。

 

「あ、そうだ。AT-LOWさんとレッドマンさんに当選した事を教えなきゃ」

 

 俺は設定したDDS-NETを立ち上げ、ログインする。

 

 >こんにちは、レッドマンさん。ついに例の『COMP』が届きまして、そこからメールを送ってます。こいつは凄いッス最高です。感動の連絡です。

 

 続いてAT-LOWさんに同じ内容を送信すると、返信が来た。早い。

 

 >おめでとうございます\(^o^)/まつたけごはんさん。13人の1人ですか、大変羨ましいです。私も応募したのですが外れました(T_T) もしよろしければ使用した感想のスレッドを立ち上げてみたらどうでしょうか? 楽しみにしています(^_^)

 

 >おめでとう!! まつたけごはん。羨ましいぜ畜生!! オフ会があったら持って来いよ。俺が分解してやるよってのは冗談だ。俺を含めて友達は外れたんだ……クソッ!! 本当に羨ましいぜ……

何か分からない事があったらメールくれよな!! じゃまた(^_^)/~

 

 まつたけごはんは、俺のハンドルネームだ。そしてDDS-NETは昔のパソコン通信時代からの老舗で、面白い板が多くある。特にゲーム、アニメ、オカルト、ホラー関係ではトップクラスの情報が充実している。AT-LOWさんとレッドマンさんはネット仲間で、一番親しいから喜んで俺は何か暖かい物を感じた。2人とはリアルで会った事は無いけど昔、ネット内で『教えてクン』だった俺に親切だったので特別だ。スレ立ては他の人が立てるだろうし、サイバースの公式サイト内にレポートの項目があるから様子見にしよう。

 とにかく浮かぶ立体画面は感動的だ。厚いマニュアルを読んでいると、いつの間にか帰宅した親父が部屋に来た。

 

「お帰り、父さん」

「涼太、風呂が沸いたから先に入れっ……おっ!! COMPが当たったのか? 凄いな。父さんの会社でも応募した人はいたが、誰も当たらなかったぞ」

 

 うん、まぁそうだろうね。

 

「風呂は父さんが先に入れば? 仕事で疲れている筈だろ」

 

 見るとまさに疲れた企業戦士、サラリーマンだ。

 

「俺は一杯やってるし……母さんは、後片付けがあるから最後でいいって言うからな」

「じゃあ俺が先に入るよ」

「ところで……涼太。今、楽しくやってるか?」

「なっ!! なんだよ急にそんな事言って……どうしたの?」

 

 俺は顔を少し背けてぞんざいな口調で言う。

 

「いや、何がって言うと、『事故』で助かる為とはいえ、お前の身体は……」

 

 親父は辛そうな目で俺を見る。親父とお袋の気持ちはよく分かるよ。

 

「気にしてないってば、あの処置があったからちょっと不便な事はあるけど、生きていられるから感謝してるよ。でも今になってそんな言うの?」

「昼休みに、ニュースで特集していた青少年のいじめや自殺、猟奇犯罪が多発してる統計を観てちょっと憂鬱になったんだよ。父さんの子供の頃にもいじめや自殺はあったが今ほど酷くない……」

 

 真剣な目だ。俺がこの身体のせいで、学校でいじめられていると思ったのだろう。心のどこかでキリキリと痛い。

 

「俺はこの身体が原因でいじめられたりしてないし、自殺したいなんてこれっぽっちもないよ。姉さんの分も生きるんだから大丈夫!! 問題ないよ」

 

 俺がガッツポーズすると、安心したのか親父は嬉しそうだった。

 

「すまんな、父さん達もお前の為に頑張らなければならないな」

 

 部屋から出て行った。親父にはああ言ったが、全く気にしていないのは嘘だ。風呂に入るのは今でも精神的な苦痛がある。風呂で裸になると、自分の身体が普通で無い事を思い知らされるからだ。

 

 姉さん……脱衣所の鏡を見てつぶやく。

 

 風呂から出てパジャマに着替え、ニッコリ動画でゲーム攻略の動画を観ながら、コメを入れてふと思い出す。帰る途中、出会ったガラの悪いオッサンの事だ。COMPと京子の件でうっかり忘れていた。

 制服のポケットから預かった物を出して机の上に置くと、折り畳んだ茶封筒から取り出した。薄くて長方形の形をしている。何かの部品らしい。

 

「これってSSDじゃねーか?」

 

 SSDはパソコンに使われるメモリディスクで、従来のハードディスクに替わる記憶装置の一種だ。

 以前は容量が少ない割りに高価格なのと、書き込み回数に上限があったが、色々と改良されて現在ではデータ保存の主流になっている。それと容量も年々増えている。中に何が入っているのか非常に気になるので、パソコンに接続して確かめる、が。

 

「ヤッパ無理か……当然だわな」

 

 液晶のモニターにはパスワード入力の画面が表示されている。プロテクトが掛かっているのでコピーも不可能だ。さて、これをどうするか。

 

「親父とお袋に話せば警察に届けろって言う筈だ。それが無難だけど……浦木さんはヤバイって言うし……名刺に書いてある人まで届けるか……って住所は、ゲッ歌舞伎町かよ!!」

 

 (有)如月商会 如月竜也 新宿区歌舞伎町9−11……

 

 授業が終わってから歌舞伎町に向かうと完全に日が暮れてしまう。あの繁華街は夜になると別世界になるから行くのがちょっと怖い。日曜まで、あと4日あるから早く届けたい。

 

 明日、学校をサボッて届けるか。倉橋とタケに付き合ってもらうか、そうすると謝礼が……メールを入れとけば問題無いよな。突然、睡魔に襲われた。

 

 何だ? 急に……あぁ眠い……駄目だこりゃ。

 

 不思議な夢を見た。

 巨大な劇場の座席に座っていて他に誰もいない。突然、スポットライトがステージを照らすと1人の男が現れた。ハイテクな車椅子に座ったグレーのスーツ姿の男で眼鏡を掛けている。知的な雰囲気があり学者みたいだ。髪色からして日本人では無い。

 

『はじめまして、深町涼太君。私の名はスティーブン。君が浦木の依頼を受諾した為、普遍的無意識の世界を通して介入させてもらった。現在、君の住む世界……東京で異変が起きつつある。そして君は悪魔達との戦いに巻き込まれ、命を失うだろう……』

 

 スティーブンと名乗る男はとんでもない事を言う。

 これは以前やったネットゲームのオープニングですね、よく分かります。

 

『君が浦木の意志を受け継いで戦うなら、悪魔に抗う手段を与えよう。どうだね?』

『いきなりどうだね? って言われても困るよ。メガネのオッサン』

 

 まぁ、夢だからどーでも良いだろうと思い、『承諾』の意思を示した。スティーブンは満足気に頷く。

 

『それでは君のCOMPにあるプログラムを送ろう。悪魔と戦うには、悪魔の力を利用する事だ。それと……スにを……う。きっと君の力に……だ』

『ナーって?』

『……るから……ろ……』

 

 聞きたい事があったが、そこで俺の意識が消えた。




よろしくお願いします。
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