まどかさんと俺は、サーバー室の前に辿り着いた。中から異様な雰囲気が漂ってくるのが、超ド素人の俺でも分かるほどだ。彼女は俺を見る、真剣な眼だ。
「さすがダークサマナーね。中に入ったら、あいつを倒すまで出られないわ。覚悟は出来ている?」
「は、はい、大丈夫です」
ラスボス戦がきた。
先に仲魔を召喚しようとしたけど、まどかさんに止められた。召喚して警戒されるより、隠し玉にした方がより効果的と言うのだ。
不安そうな顔をしている俺に比べ、まどかさんは余裕の表情だ。おそらく数々の修羅場をくぐり抜けて来たに違いない。
「私の後ろでサポートを頼むわよ」
「ま、任せてください!!!」」
まどかさんは、ドアを思い切り足で蹴ってダイナミックに入ると、俺も後から続いた。
発電機が復旧したのでサーバー室は明るい。奥にあるコンソールデスクの前に、山田一郎が腕を組んで腰掛けている。
「お久し振りですねぇ、まどかさん。パートナーの竜也君は一緒じゃ無いのですかぁ?」
まどかさんを見るとニッコリ笑っているよ。
「本当にお久しぶりね山田さん。竜也なんかがいなくても私だけで充分よ。今すぐ降伏して異界化を解けば半殺しで許してあげるわ」
山田は腕を組んだ状態で首を横に振った。
「それは、ご遠慮しますよ。そんな趣味は無いですからね」
どうやら2人は知り合いらしい。気軽に話しているみたいで、腹ではお互いの隙を窺っているみたいだ。それと山田が俺の存在に気がついたのか、細い切れ長の目を更に細め、口を三日月型に歪める。
「おや、まどかさんの後ろに隠れているのは、涼太君じゃないですかぁ? フフ、わたしのモノになれば、君だけ助けてあげよう。さ、早くこちらに来なさい」
「ふ、ふざけんな!! アンタみたいな、変態ホモ野郎と一緒にいられるかよ!!」
山田は深い溜息をついて肩をすくめ、悲しげな顔で俺を見る。ああ、勃起してこっち見んな。
「ふぅ、やれやれ、わたしの耽美で崇高な嗜好を理解出来ないとは……君の為、特別に用意した素敵なウィッグとドレスが無駄になってしまった。キツイお仕置きをしなければならないわたしは悲しいよ」
「うわっ!! やっぱこいつガチでイカレテやがる!!」
あの狡猾そうな山田が1人だけとは怪しい。絶対、何か罠を用意しているに違いない。
「さようなら山田さん」
ホルスターからグロック21を抜くと立て続けに発砲した。45口径の弾丸を食らえば即死、だが1体の悪魔が現れ、山田の盾になって防いだ。ガキは大ダメージを受けて消滅した。
「チッ、相変わらずエゲツないやり口ね」
「ウフフ、褒め言葉として受け取りましょう。それでは彼らと遊んでもらいますよ」
指をパチンと鳴らすと、サーバーラックや柱の隠れていた4体の悪魔が俺たちの背後に現れた。あらかじめ召喚していたみたいだ。
「餓鬼2体にボディコニアン2体、会話で説得出来ないですか?」
俺が小声で言うと、まどかさんは首を横に振る。
「サマナーに使役されている悪魔は無理よ」
「そ、そんな」
まどかさんは懐からお札を取り出して構えた。
「破魔!!」
餓鬼の1体が光に包まれ消滅した。もう1体の餓鬼が鋭い爪を光らせ、襲い掛かってきたが、紙一重で避けてお札を直接当てると、餓鬼は奇怪な絶叫を上げて消えた。
「如月謹製の破魔札は1枚で2回攻撃出来るのよ」
「ほほぅ、やりますねぇ。彼女達を後回しにしたのは裏目に出たようですよ」
やはりトラップを用意していたのか。
2体のボディコニアンは狂ったように高笑いすると、2体の悪魔を召喚した。1体は餓鬼。もう1体は赤黒い肌で頭に角が1本生え、口から鋭い牙を剥き出しにしている。凶悪な面構えで、悪役レスラーみたいに筋骨逞しい巨漢だ。ボロい服を着ている。
右手に持っている黒い、太い棘のついた極太の金棒がとても凶悪だ。あれで殴られたら即死だよ。
「フフ、彼女達の高笑いは、この場に封じた悪魔をランダムで召喚するのですよ」
「う、嘘だろ!! あれって昔話に出てくる……」
「そう、妖鬼オニよ。あいつは物理攻撃のダメージを半減する。ここで魔法は使いたくないけど……」
ふと突入する前にステータスを見て思いついた。オニは金棒を振り回して獣のような雄叫びを上げている。
「ナオミを召喚して彼女のセクシーダンスで足止めします」
「確か……精神攻撃ね、それならオニに、効果あるわ。頼むわ」
俺は悪魔召喚プログラムから、召喚をリモコンで操作してクリックする。
DEGITAL DEVIL SUMMON SYSTEM OK
MAG BATTERY OK
CONDITION OK
SUMMON OK
GO
六亡星の召喚魔法陣が現れ青白く輝き、激しい閃光と共に屍鬼ナオミは無事に実体化した。
「はぁ~い、おまたせって? ……ゲッ!! もしかして戦闘中なワケ?」
「それもボス戦よ、あなたのダンスでオニをメロメロにして!!」
「バーカ!! アンタの命令は聞かないよ」
ナオミが無視していると、オニが体当たりして来た。
「うわっ!!」「きゃぁ!!」「あぐぅ」
俺とナオミは間一髪で避けたけど、まどかさんはモロに食らって壁に叩きつけられた。
「まどかさん!!」
まどかさんは、とっさに受身をとったが苦しそうだ。
「頼む!! 得意のダンスでオニを悩ましてくれっ!!」
「涼太クンの命令なら何でも聞くよ。はぁ~いオニさんこちら!! 手の鳴る方へ!!」
ナオミの悩ましげなダンスを見るオニの表情が変化した。例えると鼻の下を伸ばした中年オヤジみたいだ。
「あいつらをやっちゃえ!!」
『(`ω´)グフフ』
オニはフラフラして仲間のボディコニアンに近寄ると、金棒で滅多打ちにすると餓鬼を一撃で倒した。す、凄いパワーだ。
「ほぅ、涼太君がサマナーだったとは、さすがのわたしも気づきませんでしたよ。しかもプライドの高い、特注品のナオミを仲魔にしていたとは……」
山田も驚いたみたいだ。
「おや、君がつけているのはヘッドバイザーみたいだが、そうかサイバース社のCOMPを持っているのか? 君みたいなのが当選してたとは、チッ!! やってくれましたね~」
忌々しそうだが最後の言葉は俺以外に向けたらしい。
「アギラオ!!」
炎の塊が現れ、オニに直撃すると絶叫を上げて倒れ、消滅した。残り1体のボディコニアンがステップを踏み出したが、まどかさんが、抜く手を見せずにグロック21を発砲すると倒れた。
「ほぅ、その銃の弾丸はもしかして」
「ええ、如月特製の神聖弾よ。屍鬼と幽鬼には絶大な威力を発揮するわ」
「もう、あんたには仲魔がいないぞ」
山田は気味の悪い笑みを浮かべた。
「フフフ、今までのは余興ですよ。これからが本番、逝きますよ」
スマートフォンを懐から取出し、しなやかな指で操作すると、床に青白く輝く召喚魔法陣が連続して現れ、悪魔達を召喚した。
正面はオニ2体で、俺達の背後には初めて見る女悪魔が3体現れた。
左側は白いレオタード姿に、蝙蝠みたいな羽を持つ女悪魔でちょっと可愛い。
中央は金髪碧眼の美女で腰まで届くロングヘアに、胸元が大きく開いた漆黒のロングドレスを着て宙に浮いている。
右側は上半身が裸で後ろ手に縛られ、下半身が巨大な芋虫の女悪魔。こいつはちょっとキモイよ。
「鬼女リャナンシー、夜魔リリムに幽鬼オキクムシ……さすがダークサマナーってとこかしら」
「マジやば!! アタシより強いのばっかりなワケ!!」
あのナオミも驚いている。すぐに仕掛けてくるかと思ったが、こちらの出方を見ているようだ。
「あいつは楽に勝てると思ってるわね。誰に喧嘩を売ったのか教えてやらなくちゃ」
まどかさんの言う通りだ。
「長期戦になるとこっちがジリ貧になるわ。私が一気に5体を始末するから深町君とナオミさんは、あいつからCOMPを奪って壊すのよ」
「そ、そんなの出来ないっスよ!!」
俺は右手を全力で振る。ケンカもまともにした事が無い俺に、無茶言ってくれるよ。この人。
「私だと警戒しているから無理だけど、深町君の事は見下して舐めきっているから成功するわ」
「た、確かに、そうかも……しれないですけど……」
それでも不安だ。もし失敗したら、どうしよう。
「面白そうじゃん、あいつアタシらを奴隷みたいにコキ使ってくれて、前から気に食わないワケ」
ナオミは鋭い爪を伸ばすと口を歪め、ニヤリと笑う。俺もあいつに一泡吹かせたい。
だから……こうして……と俺達はヒソヒソ話をする。
「ただし、チャンスは1回だけよ、失敗したら同じ手は使えないから」
「は、はい」「オッケー」
山田は余裕があるのか欠伸をしてやがる。畜生、今に見ていろ。
「作戦会議は終わりましたかな? まどかさんでもわたしの仲魔には勝てませんよ」
「あら、山田さん。逆転サヨナラ勝ちと言う言葉はご存知かしら?」
まどかさんはスーツのポケットに手を忍ばせている。
「ふ、そんな戯言知りませんよ。オニ共はタル・カジャと暴れまくり、リャナンシーはマカ・カジャ、
リリムはマハ・ジオ、オキクムシはマハ・ムド。そし……うぉっ!!」
凄まじい閃光が発生した。
ヘッドバイザーのお陰で、山田と仲魔達は動揺しているのが見える。その隙に俺とナオミは飛び掛った。
「この変態ホモ野郎!!」
「今までの礼なワケよ!!」
不意を突かれた山田を思う存分、殴り、蹴り、噛みつき、引っ掻いてまどかさんの後ろに隠れた。
「アバズレにクソガキめ!! よくもわたしの美しい顔に傷つけたな!! こっこれは!?」
光の嵐が収まると悪魔達は消えて、5枚のトランプカードが宙に浮かんでいた。
「魔力魔法のシャッフラー……まさか、クズノハ以外に使える人間がいたとは……」
黒いサングラスを掛けているまどかさんは、思い切りどや顔をしている。
「山田さん、切り札は最後に取って置く物よ。それに敵前逃亡用のくらましの玉は、こんな使い方もあったりして」
「ねぇ、今どんな気持ち、ねぇったら返事するワケ」
ナオミが追い討ちを掛ける。
「クッ!!」
凄いよ、まどかさん。余裕こいていた山田は顔を真っ赤にして、拳を握りしめ悔しそうだ。
「そして、マハ・ラギ」
巨大な炎の塊が複数現れ、カードを全て焼き尽くした。
「さて、お次はどんな仲魔を出してくるのか楽しみですわ。山田さん」
山田は余裕の笑みを浮べている。
「さすが元マジシャンと言ったとこですか、次に出す悪魔はさらに強力で……ん?」
山田は何か探しているみたいだ。
「探し物は、これなワケ?」
サングラスを掛けたナオミの手に、スマートフォンが握られていた。
「ナオミ……スリで飯食っていけるよ」
「きっ貴様!! それを返せ!!」
ナオミはニヤッと笑うと床に叩きつけ、ハイヒールで踏んだ。これで使えない。
「おっおのれ!! よくもわたしを怒らせたな!! こうなればお前達を皆殺しにしてやる」
山田は両手で印を結び、何かブツブツと呪文を唱えている。まどかさんから余裕の表情が消えた。
「まさか!!」
「えっ?」
何なのか分からない。
「早く!! ここから離れて!!」
俺を突き飛ばした。
「おっと、逃がさないですよ。呪緊縛!!」
「うわっ!!」「きゃっ!!」「いゃん」
俺達は見えない縄で縛られたのか身動きが取れない。つまずいて床に倒れると、何か巨大な円形で意味不明の文字が描かれている。
「これって魔法陣?」
「そうです。それも強力な呪殺魔法陣ですよ。一瞬にして人間の心を砕く、必殺の呪詛魔法。屍鬼には効かないが、人間には絶大な威力ですよ」
「うわっ!!マジヤバじゃん、ま、まどかさん!!」
「フフ、このわたしが何の対策もしていないと思ったら大間違いですよ」
まどかさんは山田を睨みつけているが、呪縛されて動けない。それとも策があるのか、俺を見て微笑んでいる。これは信用するしかない。
「それでは死んでもらいますよ。苦しむのは一瞬だけ、発動、マハ・ムドオン!!」
魔法陣が一瞬、光ると、どす黒い瘴気が包み俺達の命を奪う筈だが、なんとも無い。
「バッ馬鹿な!! そんな、ありえん!!」
冷静な山田が動揺している。いい気味だ。
「こんな事もあろうかと、呪殺を無効にするデビル・コルセットを着けているのよ。彼が無事なのは………まぁ、アンタがヘマしたって事よ。広範囲の呪殺魔法は、絶大な威力だけど成功率が低いわ」
いつの間にか動けるようになった。でもそれって……
「だからこそ念入りに準備したのに……それを……」
「さて、次は何かしら? 氷結系、電撃系、メギド系かしら、それとも封印系?」
「クソッ!!」
懐から銃を抜こうとしたが、まどかさんの方が早かった。頭に2発、身体に2発、45口径弾を叩き込む。確実に相手を殺すコロラド撃ちだ。頭の右半分と脳髄が飛び散り、全身血塗れでコンソールデスクの後ろに吹っ飛んだ。
「任務完了っと」
「ウゥッ!! グ、グロイ死に方ですね……」
スプラッタ状態で絶対に見れない。これはオーバーキルですよ……まどかさん。
まどかさんは平然とグロック21のマガジンを交換する。何も殺さなくてもよかったのでは? と思ったけど、吐き気を我慢するのに精一杯で言えなかった。凝視したら必ず吐く自信はあるよ。
「やったじゃん、これでリエ達もここから開放されるワケ。アタシら時間を忘れて踊りたいだけなのに、あの女に売り飛ばされ、ここに封じられたの。更に警備みたいなことをやらされて皆、頭にきてたのよ。でもこれで以前のように踊り続けられるワケ」
「そうか良かったね」
踊り明かすのはいいけど、人をムシャムシャ食べるのは勘弁な。
「でもアタシは涼太クンの仲魔になったから、これからもずうっと一緒。今後ともヨロシクね」
屍鬼のナオミに抱きつかれて何か複雑な気分……でもこれで家に帰れる。時間は23時を過ぎていた。
そう思うと急に空腹になって腹の虫が鳴った。
「これで部屋から出られるわ。竜也達と合流してから引き上げましょう。途中で軽く食事して、家まで送っていくわ」
「ありがとうございます」
「バイバーイ、またね」
俺はナオミを帰還させ、サーバー室から出ようとしたがドアが開かない。
「ドアが開かないですよ」
「そんな筈は、ウッ!!」
銃声が響き、まどかさんは右脇腹を押さえてしゃがみ込む。全身血塗れ、頭の半分吹き飛んだ『山田だったモノ』が右手で拳銃を構えていた。
「ウグェッ!! グ、グロすぎ……」
吐き気がこみ上げて、口を押さえた。とても描写なんて絶対無理。見たら確実にSUN値直葬だよ。
「キィサマラカトウナサルノブンザイデヨクモグロウシタナソノツミバンシニアタイスル」
「こっこいつ、人間じゃない!!」
「まさか!! 悪魔と合体していたなんて……」
さすがのまどかさんも驚きが隠せない。俺も仲魔を召喚するのを忘れて呆然とする。
「コノウラミノコモッタジュウデシネェェェェェェェェェェェェェ!!」
「駄目だ!! やられる!!」
積んだ。
目を閉じて、まどかさんにしがみついた。
銃声は響いたが、俺とまどかさんは無事だ。目の前に腰まで届く銀髪に黒装束の女性が現れ、日傘? で銃弾を弾いたらしい。山田だったモノは右手を押さえ、拳銃は床に落ちていた。
「キッキサマハ!! ナゼジャマスル?」
「その美少年は主達の所有物ですのよ。とっとと危害加えると我が主達の敵と認識致しますのよ。オッケー?」
「ヤツカ? オンナミタイナクソガキニソレダケノカチガアルノカ!!」
「ノーコメント」
山田だったモノは問い詰めるが、その女性は平然と受け流す。後ろ姿で分からないけど、この声どこかで聞いた様な感じ。誰だっけ?
「グヌヌヌヌ、イイダロウキィサマニメンジテコノバハミノガシヤル、サルドモイノチビロイシタナ」
そして俺に鋭い鍵爪を向けた。
「ゼッタイニオマエハカチクニシテヤル!!」
捨て台詞と共に山田だったモノは消えた。銀髪の女性は振り向くと見覚えがある。端正な顔立ちに碧眼で俺を見ている。
「ヒロ子さん、た、助けてくれてありがとう」
「礼必要ない。涼太は主達の所有物だからとっとと死ぬ困る。ただそれだけだ」
天馬ヒロ子さんは先生の助手で、いつもは白衣姿にマスクをしている。今はマスクと漆黒の着物姿だ。どうやってここに俺がいる事を知ったんだろう?
まどかさんは、グロック21を構え彼女を睨んでいる。その美貌に余裕は無かった。
「白衣の女王。助けてくれたのは感謝するわ。でも中立の貴女がここに来るなんて何が目的?」
「黙れ!! 糞ブス女。お前に話す事はナッシング」
「!!」
一瞬、怒髪天をついたまどかさんが怖い。さすがに引き金は引かなかった。
「主からの伝言『早くじっくり診せろ』の事だ。以上とっとと帰る」
ヒロ子さんがサーバー室から出ると、入れ替わりに竜也さん達が入って来た。
本日の戦利品
950マッカ、163マグネタイト、餓鬼玉、黒蝶ドレス、フェアリー・ウィッグ、壊れたスマートフォン、南部十四年式自動拳銃(後期型)
特殊イベント戦なので、あっさり終わりました。もし主人公だけでしたら積みです。