召喚師 屍魎己~魔都東京   作:律子

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第9話 依頼・前編

 COMPの時計を見ると19時を過ぎていた。

 Dr.スリルの秘密研究所は、砧公園の近くにある。公園は芝生に覆われ樹木が点在している。

 サッカー場、野球場が併設されて、世田谷区内でも有数の広さを誇る。雑木林が高い塀に囲われて不気味だ。環状8号線から離れているので車や人通りは少なく時折、遠くから聞こえるだけだ。

 蔦が絡まるコンクリート製の古びた塀に沿って歩いていると、淡い街灯の光が俺の影を揺らしている。周囲は全く静かでブーツの音が響くだけだ。やがて正門の前に出た。見回すと表札の類は見当たらない。メアリさんのデータによると間違い無い。ゴシック調の頑丈そうな鉄製の扉が目の前にある。

 

「このまま進んだら死亡フラグバッチシで、バッドエンド直行になりそうだ。こ、怖いし……家に帰って風呂に入って寝たい……でも」

 

 業魔殿で依頼を受けてから、装備を取りに一度如月商会に戻った。事務所で竜也さんからは『ビビってフケたり、ヘタ打ったら即刻クビで、アケミの娼館に引き渡してやる』と脅され、まどかさんは『こんな事前調査不要の依頼は滅多に無いわよ♪ 男の娘でしょ。ガンバ♪』と背中を思い切り叩かれたよ全く。

 

「ゲームの主人公ならこのまま突撃だけど。そうだ、誰か応援を呼ばないと……」

 

 つい独り言が口から漏れてしまう。心当たりは1人しかいない。COMPを操作して電話帳から黒井の携帯番号に発信する。女性に電話をするのは、久し振りなので緊張して手が震える。

 数秒の呼び出し音の後に声が聞こえた。

 

『深町君、何か用でも?』

『あ、あの、じ、実は……』

 

 ヤバ、いきなり電話して不味かったか。

 

『依頼を受けて、その手助けをしてくれと言うわけね』

『エッ!!』

 

 ど、どうして知っている?

 

『まどかさんから連絡があって、深町君が依頼を受けたから、もし電話があれば手助けをしてね、と言われたのよ。それと私から絶対に電話をするな、と念を押されたわ』

『そうだったのか、頼れるのは黒井さんだけだし、断られたらどうしようって思ったよ』

『もし連絡が取れないとか、私が断ったらどうしたの?』

『その時は後日にするか、まどかさんに相談するよ。幸い、期限は切られていないから』

 

 そう、期限は言われていなかったけど、この手の依頼は相手の印象が大きく変わるから早いに越したことはない。それに相談をしては駄目と言われていないし。

 

『確かにね、これだけは言っておくけど、深町くんは試されているわよ』

『ああ、言わずもがな、だ』

『それでどうするの? 豊にも手伝わせようと思ったけど、今日は吉祥寺にあるお寺に行って戻るのが明日の夕方よ』

『……』

 

 ①今日、黒井だけで探索する。しかし今の姿を見られてしまう。

 ②中止して後日、大門さん達と探索する。やはり今の姿を見られてしまう。

 

『早く終わらせたいから……助けてほしいけど』

『分かったわ。フフ、深町くんのドレス姿を楽しみにしているわ』

『ゲッ!! な、何で知っている?』

『まどかさんから聞いたわよ。今、用賀駅を出て向かっているから15分も掛からないわ。場所はまどかさんからメールで貰っているから大丈夫』

『……』

 

 手伝う気が充分じゃねーか。後でね、って通話は切れたけど、今の姿を見られるのは恥ずかしくて死にそうだ。着替えに戻るにしても親に見られてしまう。待っている時間が長いようで短い。

 街灯の下に人影が現れた。近くなるにつれて服装と顔の輪郭が明確になる。真っ黒のジャケット型セーラー服を着た黒井だ。鼓動が激しくなり足が震えてくる。

 今の俺は、頭は銀色に輝くシャギーが入ったセミロングのフェアリーウィッグに、つばの広いウィッチハットを被っている。身を包む漆黒のロングドレスは、濡れたような光沢感があり胸元が大きく開き、襟が羽のように伸びていて肩と背中を大きく露出している。スカート部分の丈は踝まで長いが、フロント部分に大きくスリットが入っているので歩きやすい。

 首には髑髏と逆十字架をデザインした首輪のようなチョーカーを巻きつけている。足は太腿まで覆うブーツを履いている。両腕は二の腕の付け根まで覆っているロンググローブだ。全身黒尽くめで色白の肌とよく似合う。材質は分からないけど肌にフィットして着心地は軽く快感だけどスカートは、久しぶりなのでストッキングを履いていても頼りない。

 

「おまたせ……へぇ、濃い目のメイクはまどかさんが直々にしたのね。シャギーの入ったウィッグが深町君の癖に超生意気って感じ。実際に見るとシックなドレスね……お姉ちゃんのお下がりを着ているみたいに見えるけど、女の私から見ても憎たらしくなる程似合っているわよ」

「エッそれだけ?」

 

 黒井は真面目に見ている。逆の立場だったら、腹痛ぇって笑い転げるけど……

 

「まどかさんから連絡を受けた時に、深町君の画像もメールで貰ったから。電車内で笑いたいのを抑えるのが辛かったわ」

 

 畜生、やっぱりか。

 

「真面目な話、深町君の身許を隠すのにはベストな選択よ。ダークサマナーに狙われているのよね?」

「ああ、そうだ」

 

 命だけでなく尻の穴もロックオンされているよ、とは黒井に言えない。

 

「似合わなかったら、まどかさんも無理に女装をさせないわよ。そのドレスは防御力が高いから今の深町君には最適な装備ね」

「そ、そうかな……」

「じゃあ、行きましょう」

 

 鉄製の扉を両手で、ゆっくり押すと耳障りな軋む音を立てて開いた。闇の中で魔物達が俺を待ち構えているようで怖い。ガクガクと震える足で敷地内へ入ると、途端に空気が変わったのを肌で感じた。何て言うか重苦しくてネットリとした空気が肌に伝ってくる。ヘッドバイザーを装備して悪魔召喚プログラムを起動すると索敵・暗視モードに切り替えた。

 エネミーソナーは、危険度のランクを人型のアイコンで4段階に色別されている。

 青:悪魔がいない

 緑:自分より弱い悪魔

 黄:自分と同等の悪魔

 赤:自分より強い悪魔

 アイコンも青は動かないが、緑→黄→赤の順になると激しく動くらしい、今は黄色でゆっくり左右に回転している。門から建物へは砂利道が続いて、周囲に覆い茂る木々の手入れがされていないのか枯葉で覆いつくさていた。

 

「深町君、事前に仲魔をを召喚した方がいいわね」

「分かった。俺の仲魔を見て驚くなよ」

 

 DEGITAL DEVIL SUMMON SYSTEM OK

 MAG BATTERY OK

 CONDITION OK

 SUMMON OK

 GO

 

 ヘッドバイザーのモニターに、六芒星と2重の円を描く召喚魔法陣が青白く輝き、激しい閃光と共に屍鬼のナオミが実体化に成功すると、続いて幽鬼ガキも召喚した。

 

「ヤッホー!! 涼太クン……なんで女の格好しているワケ?」

「ウガガ……ンナ? ウガ?」

 

 ナオミは不思議そうな顔で俺を見てガッキーは首をかしげている。

 言うな、それ以上言わないでくれ……俺だって死ぬほど恥ずかしいんだよ。こっこれは怖い竜也さんの業務命令だから嫌々で仕方なくだ……けっ決して好き好んで……キモい女装マニアじゃ……

 ナオミとガキに大笑いされると思って頭を抱え座り込んだ。

 

「何で座り込んでるの? もしかしてお腹が痛いワケ?」

「ウガガ?」

「ナオミ……俺の格好見て変と思わないのかよ?」

「変って? よく似合って素敵なワケ」

「素敵って……俺が……女の服着てるんだぞ」

「似合えばいいワケ。そりゃダッサい格好だったら笑っちゃうけどねー。ガッキーもそう思うでしょ」

「ガ?」

 

 ガキ、お前もか……って首捻っているから分かってないな、こいつ……

 

「涼太クンが着てるの黒蝶ドレスなワケ!! よく手に入れたね。マジもんのレアよ!!」

「そ、そんなにレアなのか?」

「マジよ、耐氷結に優れて更に凍結無効なワケ。色が地味で婆臭いけど。で、その女は何者?」

 

 ナオミが黒井を睨んでいる。鋭い爪を伸ばして威嚇する。

 

「あ、ああ、彼女は黒井さんだ。敵じゃない。何て言うか仕事仲間だ」

「黒井日菜子よ。よろしくね」

「涼太クンの仲間なら、敵じゃないワケ。ナオミは屍鬼だよ」

 

 黒井の顔が強張っている。

 

「まさかと思うけど……深町君の仲魔ってこれだけなの?」

「そうだけど」

 

 もう1体いるけど赤文字で召喚出来ないし、何、溜息ついているんだ? 黒井が俺の耳元で囁く。

 

「ガキとゾンビって、何考えているのよ。と言うよりどうすれば仲魔に出来るの?」

「会話してだけど……」

 

 黒井は溜息をついてる。

 

「ダーク系の悪魔は会話で仲魔にならないのよ。それに自我のある屍鬼がいるのも変よ!!」

「変って言われても……」

「まどかさんが私に依頼したのはこの為か……はぁ、前途多難よ」

 

 黒井は腕を組み俺を見る。

 

「この話は置いといて、私も協力するから、依頼を無事に達成しましょう」

「ああ、よろしく頼むよ。黒井さん」

「2人でコソコソ話しているのは怪しいワケ」

 

 ナオミが胡散臭そうな顔で見ている。

 

「話は終わったから先を急ごう」

「ナオミが先頭でレッツらゴー!!」

 

 続いて俺、黒井、最後尾はガキだ。武器はゲームの主人公みたいに、いきなり刀や弓を扱えない。

 そこで竜也さんが護身用にと改造したコードレスの釘打ち機、通称ニードル・ガンを用意してくれた。遠距離攻撃は無理だが、接近戦ではかなりの威力を発揮すると言われ、持って来たのだ。釘の入ったカートリッジはセットすると最低でも100本打てる。

 まどかさんからは、これは初回限定特別サービスと、消費アイテムは敵前逃亡用のくらましの玉を多めに5個と、ダメージ回復用の傷薬と魔石に解毒剤のディスポイズンを各種類5個貰った。改造釘打ち機を手にした俺は、危険な雰囲気を漂わせるデビルサマナーに見えるだろう。

 突然、警告音が響き、ヘッドバイザーのモニターに『DANGER』の赤文字が現れた。レーダーに赤い点が2個表示される。

 

「ナオミ!! ガッキー!!」

「来るワケ!!」

「深町君!!」

 

 ナオミは爪を伸ばすと構える。前方から獣のような低い唸り声が聞こえると、吐き気を催す腐敗臭が漂ってきた。暗闇からシェパードとドーベルマンが現れた。よく見ると耳が千切れていたり顔半分が欠けていて脳と目玉が出ている。どいつも酷い泡みたいな涎を垂らして俺達を見ている。

 

「ゲッ!! こっこいつら……」

「ウガガ、サ、マナーキ、ケン」

 

 ガッキーもかなり警戒している。グロくて描写出来ない。データ照合をしなくても良く分かる。

 

「こいつら、ゾンビドッグだよ。頭がパーだから涼太クンが話しても無駄なワケ」

 

 あの淀んだ目は、俺達を今夜の晩飯と見ていやがる。間合いを詰めて一気に襲い掛かるつもりだ。

 動きが早く、ゾンビドックは先頭のナオミに襲い掛った。ナオミは腕での防御が間に合わず、鋭い爪で身体を引き裂れた。ガキが飛び掛ったが後ろ足で跳ね飛ばされた。

 

「マハ・ラギ!!」

 

 黒井の掛け声と共に炎の塊が複数現れ、一瞬で2体のゾンビドッグを焼き尽くした。

 

「す、凄いって、うわっ!!」

 

 隠れていたのか横から飛び掛ってきた1体に腰を抜かしたが、釘打ち機の先端を押し付け、引き金を引いた。パシッパシッと乾いた音を立てて釘を打ち込むとゾンビドックは、悲鳴を上げて転げ回り、やがて動かなくなった。さすが特別に清められた釘は威力ある。 

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 心臓の激しい鼓動と身体の震えが止まらない。冷や汗が肌を伝わって不快だ。

 

「涼太クン、大丈夫なワケ?」

「ウガガゲン、キガ?」

 

 ガッキーとナオミが来て俺は立ち上がると足はまだ震えている。必死で1体倒したのに比べて、黒井は2体倒したので自分でもちょっと情け無い。

 

「さっさと先に進まないと新手が来るワケ」

「そ、そうだよな。立ち止まっていたらヤバイな」

 

 研究所まで約20メートル。一気に走ろうと思ったら警告音が鳴り響いた。

 

「ゲッ!! 今度は20体以上かよ!! マジヤバ」

「あの数は私でも無理よ」

 

 俺達は、研究所まで走った。普通の犬に比べて動作が鈍いので余裕で入り口まで辿り着いた。研究所は、蔦の絡まったレンガ造りの古めかしい洋館でなくて、3階建の全面ガラス張りで未来的な建物だ。その建物も照明がついていない今は墓標みたいで不気味だ。

 運良く開き戸の入り口は開いていたが、ゾンビドッグ達が入らないようにロックした。ドアは厚い強化ガラスなので簡単には破れないだろう。ロビーらしくソファと受付のカウンターがあるだけだ。使われなくなって日数が経つのか、結構埃が溜まっている。COMPの索敵・暗視モードがなかったら身動きが取れないだろう。突然、背後で叩く音したので振り向くと無数のゾンビドッグがドアを破ろうと体当たりしていた。ホラー映画で似たようなシーンがあったのを思い出した。

 

「これじゃあ、外に出られないよ……」

「それは後で考えましょう。今は、依頼が先よ」

 

 Dr.スリルの秘密研究室は、地下3階より下にある為、専用のエレベーターを使わなければならない。最初に地下3階の機械制御室に行って、エレベーターの電源を入れる必要がある。俺は機械制御の知識は無いが、データによるとコンピュータによる完全制御なので、パスワードがあれば専用の端末から操作出来るらしい。現在は予備電源で作動している。

 当然、パスワードはデータに入っている。ロックを解除してから3階にある所長室の専用エレベータで地下に直行だ。問題は異界化して広くなり悪魔がいるので、移動するのにかなり時間を喰う事だ。

 

「どうか悪魔が出て来ませんように……南無散」

「このナオミ様がいるから大丈夫、問題無いワケ」

「ウガ」

 

 ナオミを先頭に俺、黒井、最後がガキの順で廊下を警戒しながら歩いていると、左手にエレベーターが見えるが今は使えない。やがて前方の左手側に階段が見えた。階段の脇に何かが落ちている。よく見ると軍隊で使用する戦闘服みたいで7人分が床のあちらこちらに落ちている。更によく見るとアサルトライフルが落ちていた。手にした銃はズシリと重量感がある。

 

「スッ凄い!! ホッ!! 本物だよ」

 

 緊張と興奮で手に汗がにじむ。構えて引き金を引いたが、カチンカチンと音がするだけだ。銃の詳しい知識は無いけど、安全装置は外れていて全弾発砲済みだ。他の銃も同じだった。

 戦闘服のポケットを探っても身分証明書らしき物は無い。おそらくどこかの国の特殊コマンド部隊か、企業に雇われた傭兵部隊かも知れない。

 

「研究所のデータを手に入れる為、侵入したけど悪魔に返り討ちにされたのね」

「ああ、でも服だけ残っているのは変だよ」

 

 まさか裸になって逃げるとは思えないし、ゾンビ達に襲われたのなら遺体や服に血の痕があるはずだ。エネミーソナーのアイコンは黄色でゆっくり動いている。ナオミが警戒しながら階段を降りると俺も後に続いた。降りて、やっぱりと言うか下に続く階段が無い。ナビを見ると通路の突き当たりに下り階段がある。もし時間制限があったら確実にゲームオーバーだよ全く。

 通路を10メートルも歩くと突然、ヘッドバイザーに『DANGER』の赤文字が現れた。レーダーに3つの赤点が表れた。

 

「悪魔が出たワケ!!」

「分かった」

 

 目の前に、アメーバー状の生物が3体現れた。色は水色でグニャグニャ動いて、怖いと言うよりキモい。デビル・アナライズを起動しデータを照合する。

 悪魔名称:スライム   レベル:06

 種  族:外道系、外道

 神  族:不明

 ステータス:物理・銃撃耐性。破魔・氷結弱点

 スライムは雑魚キャラの代名詞と言われているけど、それは某RPGゲームでの話だ。目の前にいるヤツはかなり大きく、俺なんか簡単に飲み込んで骨も残さず溶かしてしまいそうだ。

 

「まいったな、こりゃヤバイ……ここに入った兵隊達もこいつに溶かされたんだ」

「物理攻撃も効きにくい、私は氷結魔法は使えないし、破魔札も無いわ」

 

 冷静な黒井が不安な顔をしている。表面がグニャグニャなので表情は判らないが俺達に警戒しているようだ。

 

「涼太クン、あいつはまともに話せないから戦うしか無いワケ」

「彼女の言うとおりよ。スライムはマグネタイトが不足して、実体化に失敗した悪魔の成れの果て」

「分かった。先手を取ってこちらから仕掛けよう」

 

 ナオミとガキが近くの1体を鋭い爪で引き裂こうとしたが、効いていないようだ。

 改造釘打機も、こいつには効きそうにも無い。話しかけたが、モニターには意味不明の文字が表示されただけだ。

 

「アギ・ラオ!!」

 

 掛け声とともに、大きな炎の塊が現れてスライムに命中すると、蒸発した。黒井は肩で息をしている。

 

「さっきのマハ・ラギとかで一掃したほうがいいんじゃないか?」

「火炎弱点ならともかく、1体ずつ倒すほうが確実よ」

 

 ジャイブ・トークプログラムがあるのを思い出し起動させた。ナオミとガッキーには、会話が決裂した時に戦えるように待機させた。

 

『シンニュウシャエサオ……マエカラマノニオイガスル……』

『ハナシガアル。ナカマニナッテホシイ』

 

 俺の言葉がジャイブ・トークプログラムによって、特殊変換されるとスライムに反応があった。

 

『キサマハサマナーカナラバマセキヲヨコセ』

 

 アイテムの入った袋から紫色の石を1個取り出すとスライムに放り投げた。

 

『サマナーキマエガイイナ。ソウダナアト90マッカヲヨコセ』

 

 リモコンを操作して90と入力すると身震いしているが、顔が無いので喜んでいるのか怒っているのか分からない。

 

『イイダロウサイ、ゴニシツモンダキサマニトッテアクマトハナンダ?』

 

 いきなり哲学的な質問だ。常識で考えると悪魔は人間にとって恐るべき敵だ。しかし悪魔を召喚、使役するデビルサマナーから見れば必ずしもそうとは言い切れない。現に屍鬼のナオミや幽鬼のガキは俺の仲魔だからだ。

 

『ベストパートナー』

『ベストパートナー……カトモニアユムトイウコトカ……』

 

 何か思案中みたいだ。

 

『ヨカロウキサマヲシンジテナカマニナロウ』

『ニンゲンノコトバデアイサツシヨウ』

「ワタシハ、スライム。コンゴトモヨロシク……」

 

 スライムがCOMPに吸い込まれると、俺は力が抜けて座り込んだ。

 

「ふう、成功だ」

「へぇ~会話もまともに出来ないあのスライムを仲魔にするなんて、やっぱ涼太クン凄いワケ」

「ウガ、サ、スガサマナー!!」

「……」

 

 屍鬼と幽鬼であるナオミとガッキーも驚いている。黒井は……頭を抱えている。ジャイブトーキンって本当に凄いですね。突き当たりにある階段でスライムが2体現れた。

 

「きゃあ!!」

「なっナオミ!!」

 

 スライムが身体を伸ばしてナオミを包み込んだ。ヤバッ!! このままだと溶かされてしまう。

 

「何なワケこいつ!! ああぁん!! そっそこに挿入はダメェェ……イッちゃう」

 

 スライムに飲み込まれて悶えているナオミは、かなりエロいって見てる場合じゃない。

 

『ヤメロ!!』

『ヌウキサマハサマナーカンドウヤラドウホウヲツレテイルナ……ドウホウニメンジテコノバハミノガシテヤロウシキヨウンガヨカッタナ』

「はぁはぁ……こんど会ったらイチゴゼリーにして食ってやるワケ!!」

 

 中指を突きたてて捨て台詞を吐いた。粘液で全身グチャグチャになって妙にエロい。

 

「涼太クン、魔石を使って欲しいワケ」

「あ、ああ、ほらよっ」

 

 ナオミに魔石を軽く投げた。その後、スライムが3体現れたが、黒井のアギ・ラオで2体倒し俺の会話で切り抜けて地下3階の機械制御室の前に辿り着いた。とにかく精神的に疲れたよ全く。

 ドアに鍵穴は無く、カードリーダーも無い。0から9まで表示している数字のボタンが付いている。

 

「涼太クン開かないワケ」

 

 ドアを押しているが開かない。

 

「セキュリティがかかっているからな。暗証番号を入力しないと開かないよ。で、番号は、9719224#3……と」

 

 ヘッドバイザーに表示されている番号を入力すると、カチッと音がしてドアは抵抗も無く開いた。

 

『見敵必殺!! スーパーイナズマキィィィック!!』

「うぉっ!! な、何だ?」

 

 突然、女の子の叫び声? と共に顔を蹴飛ばされてのけぞる。次々と殴られたような痛みを感じたがドレスの装備効果? で大した事は無い。何か羽が唸るような音がして通り過ぎた。

 

「新手なワケ!!」

 

 ナオミとガッキーは身構える。どうやら相手は虫みたいに小さい悪魔だ。素早い動きなので釘打ち機の狙いをつけられない。

 

『とどめよ!! 必殺パワー!! サンダーブレイク!!』

「ウギャァァァァ!!」

 

 ガッキーが直撃を受けて倒れた。

 

「ガッキー!! クッ、コ、コイツすばしっこいワケ!!」

 

 いきなり閃光が走ったがほんの数秒、偏光フィルターの作動が遅れた為、俺はヘッドバイザーを外して顔を押さえて、たまらず叫んだ。

 

「目がぁ!! 目がぁぁぁ!!」

 

 激しい閃光で目が見えない。おまけに履き慣れないブーツなので転んでしまった。

 

『オーラ斬りでやっちゃえ!! メン、メン、メーン!!』

「痛い、痛い、やめろ!! 俺たちは敵じゃない。話せば分かる。頼む、やめてくれ!!」

 

 俺の声にソイツは、飛び回るのをやめて目の前に止まる。4枚の虫の羽を生やした小人で俺の手のひらに乗りそうだ。外見は、赤茶色の鎧みたいなのを着て、フルフェイスみたいなヘルメットを被り、右手に針みたいな剣を持っている。その姿はファンタジーゲームに出てくる妖精みたいだ。

 

『へぇ、アンタ。アタシの言葉が分かるの? もしかしてデビルサマナー?』

「そうだ。俺はアンタの敵じゃない。話せば分かる」

 

 コイツは腕を組み、胡散臭そうな目で見ている。ナオミは爪を伸ばして今にも襲い掛かりそうだ。

 

『ふーん、クズノハでもなさそうだし、ファントムでも見ない顔ね。もしかして新人? それなら後ろにいる頭の悪そうな屍鬼をとっとと引っ込めてくれない? 話はそれからよ』

 

 ナオミは、馬鹿にされ、怒り心頭で伸ばした爪をギチギチさせて怖いよ全く。ガッキーは昏倒しているので俺に選択の余地は無い。

 

「ナオミ。この場は堪えてくれ。なっ頼む!!」

「だけど涼太クンがアイツに誘惑されそうでナオミ、心配なワケ……」

 

 甘えた声で言うと俺の腕にすがりつく。

 

「俺なら大丈夫だ。そうだ今度デートしよう。な、頼む」

 

 言ってから己の迂闊さを呪った。ナオミは、ニンマリと薄く笑う。

 

「今の言葉、確かに聞いたワケ。嘘ついたら涼太クンでも絶対に許さないワケ」

 

 俺の言葉に納得すると自分からCOMPに戻ったよ。

 

『さて、お邪魔虫は消えたし交渉の続きをしましょう。アタシの名前は妖精のチャム・ファウ。アンタの名前は? それと所属組織は?』

「俺は深町涼太。如月商会所属で一応サマナーの見習いみたいな者だ」

『フカマチリョウタね。んー何か言いにくいからリョウと呼ぶわ。如月商会ってクズノハの尻拭いをしている弱小組織ね。それとこの建物に入り込んだ理由を説明しなさい』

 

 腕を組んで俺を見ている。ナリが小さい癖に態度がデカイぜ。このおチビちゃん。

 

『何かアタシの事、舐めてるみたいだけど、次にそんな事思ったらきっつい電撃食らわすからね』

 

 ゲッ!! なんで俺の考えバレたんだ?

 

『厚化粧してもリョウの顔に出てるから分かるわよ。で明瞭簡潔に述べなさい。嘘ついたら電撃よ』

 

 コイツに隠す理由は無いので、ヴィクトルから依頼の件を全て話した。

 

『ふーん、なるほどね。ドリーカドモンを欲しがるのは、あの陰気なおっさんか邪教の館の爺さんくらいよ。まっ、リョウの顔は嘘をついていないから信用するわ』

 

 ウンウンと腕を組んで頷いている。本当、コイツ態度がデカイよ。

 

『そこで相談だけど、アタシの頼みを引き受けてくれるなら一時的に仲魔になってあげる。どうよ?』

 

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