「諸君! 決闘だ!」
"うおぉーーーーーッ!!!"
ギーシュが薔薇の造花を掲げ、そう宣言すると周りから壮大な歓声が巻き起こる
ここヴェストリの広場は魔法学院の敷地内で、五つの塔の中の『風』と『火』の塔の間にある中庭である。西側にある広場なので、そこは日中でもあまり日を差さず、決闘にはうってつけの場所である。
普段ならばここまで騒がしくはないのだが・・・アルヴィーズの食堂でギーシュとガンマが決闘をするという噂を聞きつけたのか、たくさんの生徒達で溢れかえっている。
その場の空気は普段の貴族らしい気品のあるものではなく、普段見られることができない決闘に興奮を隠せず熱気の渦に包まれていた。彼らは貴族らしく上品な振る舞いを求められ娯楽というものがなく、このような刺激あるものに飢えていたようだ。
「ギーシュが決闘するぞ!相手はゼロのルイズのゴーレムだ!」
生徒の一人がそう言うと、ざわざわと騒いでいる人だかりの中からギーシュの友人に案内されて連れて来られたガンマが姿を現し、そのガンマに歓声が上がる。
「がんばれよへんてこゴーレム!」
「精々壊されないようにな!」
などと、やっぱりこのガンマの姿を見て弱いゴーレムと思ってる生徒が多く、ガンマには勝ち目などないと思ってるようだ。だがガンマは気にした様子もなく、緑のカメラアイで周りを見ていた。
「スゴイ人ノ数・・」
ガンマは自分の周りを埋め尽くしている観客の数に驚いていた。 自分がまだ目覚めたばかりの頃…ファイナルエッグで訓練を終え、エッグマンに空中要塞エッグキャリア搭乗クルーの選抜テストを行われ、そのクルーの座をかけてE-101β(ベータ)と戦ったことがあったが、あの時は見ているのはエッグマンだけで、今回の規模はそれ以上でこんなにたくさんの人間達に見られながら戦うのは初めてだ。
それにこの盛り上がりよう…まるでお祭りか何かのようにこの決闘を楽しんでる風にも見える。ステーションスクエアにある遊園地トゥインクルパークもたくさんの人間達が楽しそうに入っていったのを見たことがあるから、きっとそれと同じなのだろう。
それに改めてみると・・・学年が分かれているとは言え、生徒一人一人の年齢に差があるようだ。主人のルイズとキュルケも同じ学年のクラスではあるが、見た目だけでもキュルケのほうが年上に見えるし、発育も圧倒的だ。魔法学院ではそのような年の差にはあまり関わらないものなのだろうか? …とこんな決闘場のど真ん中にいるにも関わらず、ガンマはのん気にそう考えていた。
「よく来たね、ゴーレムくん」
ギーシュは腕を振って歓声にこたえていると、やっとガンマに気づいたという風にガンマの方に向いて余裕そうに言う。
「とりあえず、ここまで逃げずに来たことは誉めてやろうじゃないか。」
ギーシュは薔薇の杖をガンマに向け、キザったらしく格好をつける。いちいちあんな動作をしないと喋れないのだろうか? それに、決闘のミッションを受けた以上その任務を放棄する気はないし、ギーシュに女性二人を騙したことと主人のルイズを侮辱したことを謝らせなければならないのだから、逃げる理由などない。
「勝敗条件ノ説明ヲ求メマス」
「ルールは簡単。僕のこのメイジの命である薔薇の杖を落とすか、もしくは降参すれば君の勝ち。そして君が降参するか、壊れて動けなくなれば僕の勝ちってことさ。まぁ、僕がゴーレムとの戦いに負けるだなんてありえないだろうけどね」
たしかに簡単な内容だ。・・・しかし、このギーシュの余裕はなんなのだろう?普通の人間ならば生身で戦闘ロボットと戦うなど無謀だ。 だが、相手は魔法を使うメイジだ。たしか食堂で生徒がギーシュのことを『土』系統だと言っていたから、シュヴルーズと同じ系統魔法を使ってくるはずだ。 だけどシュヴルーズの魔法は物質変換と粘土を飛ばすところしか見ていないため、『土』系統で使える魔法と言うものがそれだけとは考えにくい・・・・もし攻撃用に使ったらどうなるのだろうか?
そうガンマが考えていると・・・
「ガンマッ!!」
後ろから主人のルイズが人込みを掻き分けて飛び出してきた。
「マスター・・?」
「おおルイズ! 悪いな。君の使い魔をちょっとお借りしているよ!」
ギーシュは悪びれた様子もなくルイズに声をかけるが、ルイズはズカズカと決闘場の真ん中に居るガンマへ近づいていく。
「どうしたんだい、ゼロのルイズ。 まさかとは思うけど・・・ここまで来て決闘を中止しろだなんて言わないだろうね? そんなにこのゴーレムくんのことがお気にめしているのかな?」
相変わらずキザったらしく薔薇を弄りながら、ルイズをバカにするかのように笑みを浮かべている
「うるっさいわね! アンタは今は黙ってなさいよ!この『二股のギーシュ』!!」
「っ!!?」
そうルイズが怒鳴ると、ルイズの言葉を聴いて周りに居た生徒達の空気が凍りつき、そしてその意味を理解したと同時に爆笑の渦に飲み込まれた。
ギーシュは顔を真っ赤にさせて顔を引きつらせているが、なんとか怒りを抑えようとプルプルと震える。二股をしてしまったのは事実のため、このまま怒ればさらに恥をかいてしまうということを理解したのだろう。
だがルイズはギーシュを無視してガンマから視線を外さず、じっと睨むように見上げる。
「アノ・・・マスター?」
「ガンマ、あんた言ったわよね? 私に"信じて"って」
「・・・ウン」
ルイズは目を閉じて軽く息を吐き、そして決心したように再び目を開けガンマを見る
「……なら、アンタの事を信じるわ。自分の使い魔を信じるのも、主人の役目だもの。・・ただし!」
ビシッとガンマに指差し、無い胸を張ってガンマを真っ直ぐ見る。
「命令するわ! 勝ちなさい! あんたが弱いゴーレムじゃないってところを、私に見せてちょうだい!」
ルイズは、ガンマに何を言っても止まらないだろうと分かっていた。でも、本当はガンマに戦わせたくはなかった。 こんなにも主人に忠実で、真面目で、心優しい使い魔が壊れるところを見たくないと思っていた。
だが、誰も信用できなかった自分に・・・この使い魔は「信じて」と言ったのだ・・・教室であの時自分の事をただの『ゼロのルイズ』じゃないと言ってくれたのに、その使い魔の言葉を信じないで、何が主人だ。
ならば、自分に出来ることはただ一つ…この優しい使い魔を信じるしかないのだ。
「アイアイマムッ、マスター・ルイズ。 必ズ勝利スルト、約束スル」
ガンマは右腕を構えるように左手で持ち、はっきりと返事をする。
ルイズはガンマのその返事にコクリと頷き、邪魔にならないようギャラリーのほうにまで下がっていった。
「・・・話は済んだかい?」
「オ待タセシマシタ、ミスタ・ギーシュ。イツデモ始メレマス」
ガンマがギーシュのほうに振り向くと、雰囲気が変わっていることに気づく。
ギーシュは先ほどまでと同様に笑みを浮かべてはいるが、その目には凄まじい怒りが篭っていた。食堂だけではなく、学院の生徒全員の前にまで己に恥をかかせたのだ。本当なら適当に痛めつけてやる程度で済ませるつもりだったが・・・もうそれだけでは収まらない。
今後ルイズが生意気な態度を取れないように、目の前で使い魔の貧弱なゴーレム風情が『土』系統のメイジである自分に逆らったどうなるか、思い知らせてやる。
「さてと・・では、始めるか」
―――バッ!
ギーシュは薔薇の花を振ると、花びらが一枚宙に舞った。
一体何をする気なのだろう?とガンマは疑問符を浮かべていると、驚くことが起こった。
なんと一枚の花びらが形を変えて大きくなり、人間と同じくらいの大きさの甲冑を着た女戦士の人形になったのだ。淡い陽光を受けて甲冑がきらめいており、それが金属でできているのがわかる。
「コレハ・・・ガーゴイル?」
ガンマはたった一枚の花びらでこのような大きな金属の人形を作り出せることに驚愕した。スキャンして見た所、どうやらこの人形は中身は空洞だが体がアルヴィーズの食堂の人形と同じ青銅で出来ているようだ。
まさか魔法でロボットのような兵士を作りだすことができるだなんて・・・たしかにこれならシエスタがメイジを恐れるはずだ。
「ふふん、残念。これはガーゴイルではなく、僕の自慢のゴーレム…『ワルキューレ』さ。驚いたかい?君と違って鮮麗されてて美しいだろう?」
ギーシュはガンマが自分のゴーレムに驚いていることにご満悦のようだ。 そしてその女戦士のゴーレムは両手の拳を構え、ガンマと相対する。
「言い忘れてたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
そう言うとワルキューレに指示を出し、ワルキューレはガンマに向かって突進していった。だがガンマは動こうとはせずワルキューレを見つめたままだ。
「な、何ボーっとしてるの!早く避けなさい!!」
ルイズが後ろから叫び、ガンマに避けるよう指示するが、それでも動こうとしなかった。
「よーく見てるんだなルイズっ! 君のゴーレムが、ただの鉄くずに変わるのを!!」
―――グワッ!
あと数メートルと言う距離にまで近づいたところで、ワルキューレが大きく腕を振りかぶり、ガンマへその鉄の拳を振り下ろそうとした。
ギーシュから見て、このガンマはいくら精密な構造をした特殊なゴーレムだろうと、あれだけ細い手足では防御しようがないと踏んでいた。あの変わった形の右腕も気になるが・・メイスの可能性があろうとあれでは大した脅威にならない。
それにワルキューレが攻撃しようとしてるのに、避けようとするそぶりも見せないとは少々興醒めだ。きっとこのゴーレムは戦ったことがないからどう動けばいいのかわからないのだろう。このワルキューレ一体だけで十分だと判断した。
――――しかし、ガンマの"右腕の正体"に気づかなかった時点で、ギーシュのその判断がすぐ間違いであると思い知らされる
チャキッ
ガンマは右腕を突っ込んでくるワルキューレに向けて構え、頭に装着しているスコープがワルキューレを捉える
「ターゲット、ロック。発射」
――――ドウゥーーーンッ!!
ヴェストリの広場に、一発の銃声が鳴り響いた。
次回、初戦闘回