ヴェストリの広場での決闘騒動が終わり、午後の授業を終え……ルイズはガンマを連れて部屋に戻った頃には外はすでに夕暮れになり、淡い夕日の光が窓から差し込んでガンマの緑のカメラアイに映りこんでいた。
「はぁぁ・・・今日はとんだ一日だったわね」
部屋に戻ったルイズは自分の椅子に座るやいなや、机に突っ伏し深くため息を吐く。
あの決闘の後教師達に呼び出され、騒ぎを起した上に学院で禁止のはずの決闘をしたギーシュとガンマの主人であるルイズは教師達にカンカンに怒られた・・・。先に決闘を仕掛けてきたギーシュには罰として荒らした広場の手入れと掃除を命じられたが、特にルイズのほうはガンマの右腕が銃であったことが問題だったらしく、生徒への被害や学院側のものを壊さなかったからお咎めなしで罰を受け無かったものの、主人が自分の使い魔の能力を把握していなかったことを咎められ厳重注意を受けたのだ。 あんなゴーレムを一撃で破壊できるような銃をガンマが所持していたのだから危険と思われるのは当然だ、知らなかったとはいえ、たとえ罰を受けても文句は言えないだろう。
「申シ訳ナイ、マスター。ボクノセイデ、怒ラレタ・・・」
「もういいわよ、済んじゃったことなんだから。それにあんたが戦闘用のゴーレムだって信じなかった私も悪かったしね」
謝罪するガンマに、ルイズは机から顔を上げてそう言った。 この使い魔が騒ぎを起したことや右腕が銃だったことを言わなかったのは問題だが、主人である自分にも責任がある。 生涯を共にするパートナーであるガンマを、外見だけで"貧弱な執事のゴーレム"程度にしか認識していなかったのだ、もしちゃんとガンマの能力を事前に知っていればギーシュだって決闘をしなかったかもしれないし、ガンマも傷つくことはなかったのだ。
今もガンマの体に残っている決闘で受けた傷を見て・・・顔には出さなかったが、プライドの高いルイズは使い魔の主人として、それを怠っていたことを恥じていた。
「デモ、今日ハオカゲデ魔法ノ情報ヤ、メイジトノ戦闘データヲ得ル事ガデキタ。 ソシテ、ボクノ想定以上ニ、メイジガ通常ノ人間ヨリモ強イト言ウノガワカッタ。」
ガンマは今日の出来事を振り返りそう判断する。ギーシュとの決闘に勝利はしたものの、場所の条件や魔法に対する警戒もあったが・・・メイジの戦闘能力を低く見積もりすぎてしまったのだ、このミッションの戦績データに評価をつけるならEランクもいいところだろう…もしあの時この使い魔のルーンの能力が発動していなかったら、勝てたかどうかわからない。
ギーシュがメイジのレベルで"ドット"メイジという一番レベルの低いメイジらしいが、それでもあれほどの動きができる兵士や武器を生み出せれる時点で、シエスタのような力をもたない人間が太刀打ちできないのはたしかだ。 まだ魔法に関する情報は不十分だし、メイジの強さは計り知れない・・。
「ギーシュを返り討ちにしたあんたも十分強いと思うけどね・・。 でも、またあんな騒動を起されるのはごめんよ、今回は許してあげるけど…またあんなことしたら鞭だけじゃ済まさないわよ?」
ルイズは姿勢をガンマに向け、きつめに注意をする。
「了解、マスター。心配シテクレテアリガトウ」
「っ…と、当然でしょう…!あんたは私が苦労してやっと呼び出した使い魔なんだし、壊れてもらっちゃ困るじゃない。それにあんたにはまだまだ使い魔として躾けなきゃならないことがたくさんあるんだからね!そこを勘違いするんじゃないわよ!」
「ウン、理解シテル。デモ、ソレデモ嬉シイ・・・」
ガンマのその純粋な言葉に、ルイズはプイっと顔を背ける。
「ま、まぁ・・ちゃんと理解してくれるのなら助かるわ。今後は気をつけなさいよ?」
「アイアイマムッ」
「でも、あんたにはホントに驚かされてばっかりだわ。貧弱なゴーレムかと思えば腕が銃になってるし、斧や槍を使いこなしちゃったし・・・平民だけの国のゴーレムってみんなそうなのかしら」
今のガンマは自分の魔力で動いているが、きっと以前は魔力以外のものを動力として動いていたのかもしれない。それに決闘で見たあのガンマの戦い方は魔法で作られたゴーレムやガーゴイルとは一線を越している。その国の戦闘用のゴーレムということは、このガンマを作ったカガクシャってやつは・・・スクウェアクラスのメイジに相当するんじゃないだろうか?
魔法の銃だけでもすごいのに、あんな動きをするゴーレムを作れるその国の技術力は凄まじいものだとルイズは関心するが、ガンマはそれを否定した。
「ソレハ違ウ、本来ボクハ射撃用ロボットデアリ、接近戦ニ対応サレテイナイシ、アノヨウナパワーヲ持ッテイナイ」
ルイズはその言葉に眉を顰め、腕を組んだ。
「何言ってんのよあんた。あの時、槍と斧を自在に操ったじゃない」
「ボクモ、ソレガ不思議。今マデボクハ銃以外ノ武器ヲ使ッタコトガナク、アノワルキューレノ槍ヲ掴ンダ途端、ソノ槍ノ情報ガボクノ頭ノ中ニ流レコンデ、マルデ最初カラ知ッテルカノヨウニ動カセタ」
ガンマはギーシュとの一戦を思い出し、その時感じた疑問を口にする
「ソレト同時ニ、性能ヲ遥カニ上回ルパワートスピードヲ得ラレテイタ。本来ノボクデハ 歩行モードデアノヨウナスピードヲ出セズ、重イ青銅ノ斧ヲ早ク振ルウ事ハ不可能」
「じゃぁ何? あんたホントに剣とか槍をもったことすらなかったの?」
「経験無シ。今回ガ初メテ」
「ふーん・・・・・」
何か思い当たる節があるのか、ルイズは考え込んだ。
「ドウシタ?」
「そういえば・・・使い魔と契約したときに、特殊能力を得る事があるって聞いたことがあるけど、それなのかしら」
「特殊能力・・?」
「そうよ。例えば、黒猫を使い魔にしたとするでしょう?」
ルイズは指を立て説明することにし、ガンマはコクリッと頷く。
「人の言葉を喋れるようになったりするのよ」
「言葉ヲ・・・」
喋る猫を想像して、ガンマはエメラルドコーストで見かけた釣竿を持った大きな猫を思い出した。あの時はカエル捕獲任務で、ターゲットのカエルをもっていた大きな猫から横取りした時に喋っていたが、あれはソニックのような種族と同じ亜人種だから、普通の猫とは違って元から喋れるから例外だろう。
「デモ、ボクハ猫デハナイシ…生キ物デモナイ」
「知ってる。古今東西、サモン・サーヴァントではハルケギニアの生き物、普通は動物や幻獣が呼び出されるんだけど・・ゴーレムを使い魔にした例はないし・・・。だから、何が起こっても不思議じゃないのかもね。銃以外の武器を使ったことがないあんたが、自在に操れるようになるぐらいのこと、あるかもしれないわ」
そんなことありえるのだろうか? 元の世界で作られた自分が、改造されたわけでもないのに、武器を握っただけで情報をダウンロードできる上に戦闘能力が向上して、まるで羽みたいに自分の体が軽やかに動いた。 それにあの青銅できたワルキューレもれっきとした金属だ。パワーが上がったからと言っても、片手だけであんなに簡単に金属の塊を切り裂けるものなのだろうか?
「でもおかしいわね・・・アンタの"右腕の銃"もちゃんとした武器のはずでしょ? それなのになんの反応もしないの?」
ルイズが疑問に思ったのがそれだ。ガンマの右腕だってれっきとした武器なのだ。何度かガンマが左手で右腕の銃を持つように構えたりしてたのだが、能力が発動した様子など見られなかった。
「恐ラク、ボクノ右腕ハ 体ノ一部トシテ認識シテイルタメ、ソレデ反応シナイノデハナイダロウカ? 現ニ、発動スルノデアレバ、コノルーンガ光ッテイルハズ」
「体の一部ねぇ・・まぁ、腕にくっついてるんだからきっとそうなんでしょうね」
あの決闘の後、ガンマは自分の右腕を握ったりしてルーンが反応するか試してみたが、全くルーンが光らなかった。 銃自体が右腕になっているが、物を持つ時や洗濯の時だって"腕"として使っていたのだ、だからもしかすると、『武器』としてよりも『腕』としての認識が強いのかもしれない。もしルーンの能力が発動しているのなら、召還された時にも何らかの反応が出ていたはずだ。
ガンマは困ったように頭を抱えた
「シカシ…魔法トイウ未知ノ力《ちから》ハ、コノルーンモ含メテ不思議ナ事ダラケ。現在ノボクニハ理解不能」
「そんなに不思議なら、トリステインのアカデミーに問い合わせてみる?」
「アカデミー?」
ガンマは首を傾げ、ルイズに緑のカメラアイを向ける
「そうよー。王室直属の、魔法ばっかり研究している機関よ」
魔法の研究機関…名前からして、この世界の組織のようなものだろうか? 王室直属ということは、貴族の中でもさらに上級の貴族なのだろう。・・だがガンマはなんとなく嫌な予感がして、ルイズに問いかける
「モシ、ソコデ研究サレタ場合、ドウナル?」
「そうね・・人間だったら色んな実験をされるでしょうけど、あんたの場合は異国のゴーレムだから、体中を調べられるでしょうね。体をバラバラにされたりとか」
「拒否スル」
ズザッとガンマは後ずさり、即答する。
「安心なさい、アンタをそんなところに送ったりしないから。」
そんなガンマを見てルイズはイタズラっぽく笑った
「でも、その特殊能力のことはあまり人には言わないほうがいいわね。魔法の銃だけでも珍しいのに、使えなかった斧や槍を振れるようになったゴーレム、だなんて。じゃないとホントにバラバラに解体されちゃうわよ?」
「了解、マスター・・」
ガンマは重々しく頷く。 ルーンを調べるのにその代償でバラバラにされたのではたまったものではない。その研究機関とやらもエッグマンと同じような人間たちが居るのだろうか・・。ルイズの言うとおり、安全に暮らすためにもこの力のことは公にはしないほうがいいだろう。
未知のエネルギーがルイズの魔力であることはわかったが、ルーンは結局わからずじまいだ・・・。幸い、このトリステイン魔法学院は魔法に関する情報が山のようにある。本当なら元の世界に帰れる方法をすぐにでも見つけたいところだが・・・ルイズの使い魔である以上勝手な行動はできない、ルイズに事情を説明して協力を求める手もあるが……自分が別の世界から来たなどと流石にそれは信じてはくれないだろうし、さらに混乱を招いてしまうだけだ。 使い魔の任務をこなしつつ地道に情報収集するしかないだろう
「(デモ、コノ世界ノ生活・・・悪クナイ)」
それに、そんなに慌てる必要はないのかもしれない・・・洗濯や掃除もいい経験で、魔法や色んなことを知ることができるし、ギーシュとの一悶着はあったが、それ以外はとても平和な時間でもあったのだ。 なによりも、この主人のルイズは怒るととても怖いが優しい人物だ・・・最初は使い魔任務をちゃんとやれるか不安であったが、この調子でこなせればこの異世界でルイズと上手くやっていけるかもしれないと、ガンマはそう思った
「さてと、話が長くなっちゃったわね」
ルイズはもうこの話はおしまいと言わんばかりに立ち上がり、「ん~~・・」っと背伸びをする。窓の外を見れば、日がほとんど沈んでしまい、夕暮れの赤い空が暗くなっていき、星空が見えてきてる。
「私はお風呂に入ってくるから、あんたはその間に部屋の掃除をしたあと、水を汲んできてちょうだい」
部屋の隅に置かれた空のバケツを指差す。ガンマはその言葉に緑のカメラアイをパチクリと点滅する
「エ・・・・マダ、アルノ?」
「バカね、当たり前でしょ。今日やったことはほんの序の口!雑用は他にもまだまだたくさんあるわ」
そう言うとルイズは長いピンクのブロンドの髪を揺らし、ガンマの近くにきて無い胸を張り、指を立てた
「あんたが以前は遠い国の戦闘用のゴーレムだってことは信じてあげる。だけど、今のあんたはわたしの使い魔のゴーレムなんだからね! それに、決闘のことはいいけど…私の命令を無視したことは許してはいないわ、だから今後はヘマをするごとに使い魔とはなんたるかをビシビシ叩き込んでやるからそのつもりでいなさい!」
どうやら使い魔任務はあれだけではなかったようだ。つまり、メイドたちがやるような家事全般を行わなければならないと・・。料理は食堂で済ませれるからいいが、任務の難易度が上昇したような気がする。
だが、これも使い魔としての大事な任務なのだからちゃんとこなさなければならないだろう、とガンマは素直に従った。
「了解、マスター。部屋ノ掃除ト、水ノ回収任務ヲ実行スル」
「わかればよろしい。もう水汲み場の場所はわかってるでしょ? 私が部屋に戻る前にちゃんと済ませておいてよね」
満足そうに頷き、ルイズはドアを開け部屋を後にしようとするが、何か思い出したように振りかえる
「あ、それとまた今朝の時にように私の下着を破ったら、今度は鞭じゃなくて鈍器で罰を与えるからそのつもりでね♪」
パタンッ
さらっと恐ろしいことを笑顔で言い残し、ドアを閉めルイズは部屋を後にした。
そして、部屋の中心でポツンと一人(一体)残されたガンマ・・・・・
「・・・・使イ魔任務、トテモ大変・・・・」
――――――――こうして、使い魔のガンマの長い一日が終わった。
休みほしい・・・_(:3」∠)_