ルイズアドベンチャー~使い魔のガンマ~   作:三船

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お待たせしました次の話です。 これが今年最後の投稿になりますが、来年も続けて書いていきます。良いお年を。


ミッションー116:ガンマの一日

チッチッ……チチチッ……

 

 

 

 

―――――朝の光が窓に差し込み、外から小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 

 

 

 

この時間帯はほとんどの生徒が目を覚ましたり、自分の使い魔に起こしてもらったりして起床している頃であるのだが

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

部屋の主であるルイズは、そんなすがすがしい朝を迎えているにも関わらず、ベッドの中ですやすやと寝息を立てている。

普段回りからゼロとバカにされながらも気丈に振るまっている彼女も、こうやってあどけない寝顔で眠っている姿はとても可愛らしいものだ。しかし、眩いばかりの光が窓から照らされているのだが、一向に目覚める気配がない・・、主人を起こす役目を持つガンマの姿は部屋にはなく、待機場所としている寝床の"ニワトリの巣"(ガンマが卵みたいな形をしてるからルイズがそう名づけた)も蛻の殻だ。

 

 

ガチャッ……パタン

 

 

すると、部屋の扉が開かれ、水の入ったバケツを提げたガンマが戻ってきた。 どうやらちょうど洗濯と水汲みを同時に終わらせてきたようで、手に提げたバケツに注がれた水がチャプチャプと音を立てて揺れている。

緑のカメラアイでベッドに未だに寝ているルイズを視認し水の入ったバケツを床に置くと、ルイズの身体をユサユサと優しく揺さぶるとルイズはうっすらと目を覚ました。 ピンクのブロンドの髪が朝日に照らされてキラキラと輝きながらゆっくりと上半身を起こす。

 

 

「ふぁあ~・・・」

 

 

まだ眠たそうにあくびをしながら目をくしくしと擦り、視線を横に向けると己の使い魔であるゴーレムのガンマの綺麗な緑の目が、ルイズの瞳に映った

 

 

 

「オハヨウ、マスター」

 

「ええ・・おはようガンマ…」

 

 

 

 

 

 

―――――この世界でルイズの使い魔としての生活を始めてから一週間が立ち、ガンマの一日は毎朝このように始まっている。

 

 

 

 

 

まずルイズよりも先に起動し、朝一番にやらなければならないのは以下の三つ・・"洗濯"と"水汲み"と"ルイズを起こす事"である。

 

最初の二つの洗濯と水汲みは井戸で同時に行えれるため、主人を起こす前に先に終わらせるようにしている。最初は上手くいかなかった洗濯も、シエスタに頼んでレクチャーをしてもらったおかげでだいぶ出来るようになり、一週間も続ければもうやり方をマスターしたようで片手だけでも手際よく洗濯物を洗っていくことができるようになった。 だが下着の洗濯だけは未だに力加減が難しく、たまに破りそうになる時がある、もしこれでまた破ったりでもしたらルイズに怒られてしまうため、ガンマにとっては一番困難な任務なのだ。

 

二つの任務を終えて部屋に戻れば、次に寝ているルイズを起こす事だ。 起こされたルイズはガンマに指示をだして着替えを取らせ、下着はルイズ自身が着替えるが制服を着せたり靴を履かせたりするのはガンマの仕事になっていた。着替えが終われば次にガンマが汲んできた水で顔を洗い、歯を磨くのである。

水道があれば顔を洗うことも歯を磨くこともその場で済むし、わざわざ汲みにいく必要もないのだが…部屋にはそんな気の利いたものが引かれているはずもない。電気さえも通ってないのだからこの世界の技術レベルを考えれば当然だろう。

 

そしてもちろんルイズは、自分で顔を洗ったりはしない。 顔を洗うのもガンマにやらせているのだ。

ガンマは用意していた水の入った小さな桶に、左手でタオルを水で濡らしてギュッと搾り出し、ちょうどいい絞り具合の濡れタオルでルイズの顔を拭くのである。 人間の手と違ってロボットのガンマの手では顔を洗いづらいため、濡れタオルで洗顔を行っている。

 

 

「マスター、痛クナイ?」

 

「んーん。ちょうどいいくらいよ。あんたもだいぶ加減が分かるようになってきたわね」

 

ルイズは顔を拭かれながら心地よさそうに顔をほころばせる。 この一週間雑用の仕事をやらせてみたが、このガンマは覚えるのが早いし手際がよく、文句も言わずちゃんと主人の気の利くように行動しているため ルイズはガンマをとても気にいっていた。

 

ガンマの抜けたような性格を抜きにしても、こんな優秀な使い魔はそうそう居ないだろう。 そこいらのゴーレムやガーゴイルよりも知能が高く、それに見た目とそぐわず強いと来てるんだから文句のつけ様がない。 あの決闘騒動から同級生達はあまりバカにしなくなったし、一部の土メイジの生徒はガンマを羨ましそうに見つめたりしていたのだ。 相変わらず爆発しか起こせないが、ルイズはそんな自分が高位のゴーレムのガンマを召還し、自分に忠実に従ってくれてることである種の優越感に浸り、ニコニコと上機嫌だ。

 

「? ルイズ、ドウカシタ?」

 

「いえ、なんでもないわ。もういいわよ」

 

「了解」

 

ルイズは誤魔化すように洗顔を終わらせると、立ち上がって鏡の前に座り、ピンクのブロンドの髪をヘアブラシで梳かし始める。 ルイズは普段化粧を必要としておらず鏡をほとんど覗かないのだが、ガンマが手際よく準備をこなしてくれたため朝食に行くにはまだすこし時間があり、その間に髪の手入れをしているのだ。

 

 

 

「これでよしっと・・・それじゃ行って来るわね」

 

「行ッテラッシャイ、マスター」

 

 

そうこうして、身支度が整ったらルイズは朝食を取るために食堂へと向かう。 部屋に残ったガンマは掃除をするためにシエスタから貰ったどこぞの家政婦が着用するエプロンを身につけ、掃除用具を取り出し部屋の掃除を開始する。

床を箒で掃き、机や窓を雑巾で磨くのである。 午前中の仕事は主に『洗濯・水汲み・ルイズを起こす・身支度・部屋の掃除』で、この部屋の掃除が終わればあとはやることがなくなり、ガンマにとってゆういつの自由時間とも言える。

この時間を使ってガンマはこの世界についての情報収集を行ったり、この学院の中を見て回ったり、他の使い魔達を観察したりと、ガンマにとって一日の中の楽しみでもあった。

 

 

「シカシ・・・コマッタ・・・」

 

 

ガンマは掃除の手を止め、机の上に並べられた一冊の本を手に取り、机に置いてパラパラとページを捲りだす。そのページに描かれた文字を緑のカメラアイをチカチカと点滅させ読み込もうとする

 

 

「(データナシ・・・解読不能。・・・・ヤッパリ、読メナイ)」

 

 

この一週間情報収集をして気づいたことがあった・・・この世界の文字が読めないのだ。 数日前に興味を持って本を読んだところ、本に書かれている文字がガンマのデータにはインプットされていない見たことのない言語で書かれていたのだ。 これでもガンマには元の世界にある世界各国の言語もインプットされているため、何度も照らし合わせて解読を試みようとしてみたものの・・・まったく解読できず、エラーしか表示されない。

ガンマ自身が戦闘用として特化しているため、そこまでハイスペックじゃないのも理由ではあるが、データ自体が少なすぎるのだ。ミスティックルーインの前線基地にあるメインコンピュータに接続すれば解読は可能だろうが・・・現在のところ自分だけでは解読はできそうにない。

 

生活や情報収集する上で、文字が読めないのはかなり痛手だ。この学院には大きな図書館があるが、文字が読めなければ魔法のことやこの世界についてのことを調べようがない・・、ルイズと一緒に魔法の授業を受けて四大系統や基礎の魔法についてはある程度学ぶことができたが、それでもまだ齧った程度でしかないのだ。 今度ルイズに頼んで、文字を教えてもらうべきだろうか・・?

 

 

ガンマはそう考えながら本を閉じ、元の場所に戻して掃除を再開しようと箒を手に取るが、そこで何かに気づいたようにピタッと立ち止まる。

 

 

 

「(・・・文字ガ読メナイナラ・・・・何故、"ルイズ達ノ言葉ガ分カル"?)」

 

 

 

言語自体が違うのであれば、言葉だって通じないはずだ、それなのに普通に喋れている・・。 今の自分はルイズから見れば英語で喋っているのだ、ルイズだってこの世界の言葉で喋っているはず・・・それなのにお互いが共通しているかのように言葉を交わしているだなんてどういうことだろう・・?

 

 

そこでガンマはふと、左手に刻まれた使い魔のルーンに視線を向ける

 

「ソウイエバ、ルイズハ・・・・」

 

 

 

――――『使い魔と契約したときに、特殊能力を得る事があるって聞いたことがあるけど、それなのかしら』

 

――――『例えば、黒猫を使い魔にしたとするでしょう? 人の言葉を喋れるようになったりするのよ』

 

 

 

「・・ット言ウコトハ・・コレモ、ルーンノ"特殊能力"ノ一ツト言ウ事ダロウカ・・?」

 

もしこのルーンの特殊能力で、ルイズ達の言葉が分かるようになったとそう考えれば、可能性は高いかもしれない。 仮に違ったとしても、言葉が通じるのは幸いだ、もしこれで言葉も分からなかったらコミュニケーションをとるのに一苦労していただろう。

 

「(言葉ガ通ジルノニ、文字ガ共通ニナラナイナンテ、偏ッテル・・)」

 

文字が読めないのは残念だが、逆に考えれば学習する課題が増えたと思えばいい。 ガンマは自我に目覚めてからは好奇心が旺盛になり、どんな小さなことでも、一般の人間ならばめんどくさがるような事も子供のように興味を持つのだ。いずれこの世界の文字も習得できるようになるだろう。

 

 

「掃除任務、再開…」

 

とりあえず、まずは部屋の掃除を終わらせるのが先決だ。 ガンマは再び箒を動かし始め、サッササッサと床を掃きだした

 

 

すると

 

 

 

 

―――――コンコンッ

 

 

 

ドアからノック音が聞こえだす。 この時間にはルイズは朝食を終えて授業に行ってるはずだし忘れ物をしていないからルイズではないだろう。 だが、ガンマはこのノックをしてくるドアの向こうの人物が誰なのかが分かっていた。

 

 

「ドウゾ」

 

ガチャッ

 

 

一声掛けてドアを開けると…そこに立っていたのはこの魔法学院で働いているシエスタだった。

 

 

「おはようございます。ガンマさん。 ミス・ヴァリエールの服をお持ちしましたわ」

 

「オハヨウ、シエスタ。イツモアリガトウ」

 

ペコリと頭をさげながらガンマに挨拶をし、シエスタは籠に入っている綺麗にたたんだルイズの衣類をガンマに手渡す。 シエスタはガンマが部屋の掃除をあらかた終わらせている時間帯にやってきて、主人のルイズの服を届けにきてくれるのだ。

 

 

「どうですかガンマさん、お仕事のほうは上手く行ってますか?」

 

「順調。ダガ、マダ改善ノ余地アリ。マタ、シエスタニレクチャーヲ頼ンデモイイダロウカ?」

 

「もちろんですよ!私にできることがあったら、何でも言って下さい!」

 

 

ガンマのお願いに、シエスタはニッコリと笑顔で返事をした。 あの決闘騒ぎの翌日、シエスタはガンマの元に来てあの時逃げてしまったことを謝ってきたのだ。 平民が魔法を使える貴族を恐れるのは理解していたため気にしなくてもいいと言ったのだが引いてくれず、何故か尊敬の眼差しで見つめ「私に何かできることはありませんか!」と詰め寄られ、どう対応すればいいのかガンマは困ってしまった。

そこで、ちょうどガンマは雑用任務での掃除や洗濯のやり方のコツがわからなくて上手く出来ずにいたため、それでシエスタに雑用などのレクチャーを頼んでみたところ快く引き受けてくれた。 今では彼女はガンマにとって先生のようで、よく雑用などのアドバイスを貰ったりしているのだ。

あいかわらず彼女の愛嬌のある優しい笑顔が緑のカメラアイに眩しく写り、ガンマはじっと彼女の顔を見る。

 

 

「あの、どうしました?ガンマさん」

 

こちらをじっと見つめてるガンマにシエスタは声を掛けた

 

 

「今日モ、シエスタノ笑顔ハ、トテモ綺麗」

 

「え・・・ッそ、そんな綺麗だなんてっ!私は、別に・・・」

 

「?」

 

シエスタは突拍子もなくまさかいきなり綺麗だなんて言ってきたガンマに、手をわたわたと振って頬を赤くさせる。相手はゴーレムだと言うのはわかっているが、普段言われ慣れてないことを真正面から言われて照れてしまったようだ。そしてガンマは自分の思ったことをそのまま言ったつもりなのだがシエスタの反応がよくわからず首をかしげるだけだ。

 

「トコロデシエスタ、"アレ"ハマダ、残ッテル?」

 

ガンマはあいかわらず気にした様子もなく、"あれ"のことをシエスタに問いかけ、シエスタはハッと我に返り見っとも無いところを見せてしまったと恥ずかしそうにしながら答える

 

「は、はい!まだ残っていますよ。 ガンマさんのために料理長が取っておいてくれたそうです」

 

「了解。ソレデハ、部屋ノ掃除任務ガ終ワッタラ食堂ニ向カウ。アリガトウ、シエスタ」

 

ガンマは掃除を再開しようと箒を取りに行くと、シエスタが後を追ってきた

 

 

「それなら、私もお手伝いします」

 

ガンマは振り返り、緑のカメラアイをシエスタに向ける

 

「エ、デモ…シエスタニハ、他ノ仕事ガアルノデハ・・?」

 

「大丈夫ですよ!ちゃんと片付けは終わらせていますし、時間にも十分余裕がありますから安心してくださいっ」

 

そうシエスタは、ニッコリとガンマに笑顔を浮かべる。ガンマは少し迷ったが、シエスタのほうが自分よりも掃除が上手いし、シエスタの気持ちを無下にするのもよくないと思い、手伝いをお願いすることにした。

 

「ソレデハ、ボクハ床ヲ掃除スルカラ、シエスタハ、窓ヤ机ヲ拭クノヲ頼ム」

 

「わかりました。 早く終わらせて、一緒に食堂に行きましょう!」

 

「アイアイマムッ・・」

 

 

 

 

 

 

 

―――――モシ、エッグキャリアニイタメイドロボットモ、ココニ来テイレバ、シエスタ達ト仲良クナレタダロウカ・・・・っと、シエスタを見ながらガンマは、今頃海底に沈んでいるエッグキャリアの中で、掃除を続けているメイドロボットのことを思い出していた。


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