ルイズアドベンチャー~使い魔のガンマ~   作:三船

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おまたせしました次の話です。 いつのまにかもう四月・・・未だに花粉が辛くて鼻水出っ放しです。 


ミッションー119:恋ってなに?

――――――その日の夜・・。

 

 

 

 

 

「マ、マスター、少シ待ッテ・・」

 

「つべこべ言わずにさっさと出なさいってば!あんたは重いんだから!」

 

 

 

ルイズの部屋に戻り、今日一日の多忙な使い魔任務も完了させて、就眠の準備に入ろうとしたところ・・・・どういうわけか、ルイズに突然「出て行って」と言われ、ぐいぐいと背中を押され困ったようにおろおろしながら部屋から追い出されているガンマの姿があった。 追い出されるといっても、825kgもあるガンマを小柄なルイズに動かせれるわけがないので、ガンマ自身が押される形で部屋を出てるだけである。

 

そうして廊下に出されると、ルイズはガンマの寝床としてる藁束も廊下にほっぽり出した。

 

 

「アノ、マスター。一体ナニヲ・・?」

 

「ガンマ、あんたはちゃんと仕事をしてるから我慢してたけど、最近授業中の不真面目な態度が目に付くわ。」

 

困惑してるガンマに、ルイズはビシッと指を指す。

 

 

「いいことガンマ、ここでは"メイジの実力をはかるには使い魔を見ろ"って言われてるくらいで、メイジにとって使い魔はパートナーであると同時に、己自身の鏡でもあるの。 私の護衛を勤めてる最中に使い魔と遊んでるだなんて、あんたがそんな体たらくじゃご主人様である私の面子が立たないじゃないの!」

 

授業中にラッキー達と日向ぼっこしてたさいに、そのガンマに余所見をしたおかげで怒られたことをルイズは言ってるようだ。完全に八つ当たりみたいなもんだが、なんとも根に持つ少女である。

だがガンマは今一怒られてる理由を理解できていないようで首をかしげていた

 

「シカシ、授業ノ内容ハ、チャント記憶シテ・・」

 

「それとこれとは話が別っ!」

 

「ハイ・・」

 

ルイズは形のいい眉を吊り上げて言い放ち、ガンマはシュンっと落ち込む

たしかにここ数日、護衛任務中にラッキーや他の使い魔達と戯れたりすることが多く、ちゃんと任務に就いていたとは言いがたいかもしれない、授業が終わった時もルイズの機嫌が少し悪かったのはそれが原因だったのだろう。

 

 

「だからあんたには、罰として新しい仕事を与えるわ。」

 

「新シイ仕事?」

 

伏せていた緑のカメラアイを向ける。

 

「そうよ、今夜一晩この部屋の扉を守る門番よ。あんたのようなゴーレムやガーゴイルにとって本職とも言えるわね」

 

 

ガンマはメモリーに記録してある『土』系統の魔法に関するデータにアクセスしたところ、現在持っている情報ではガーゴイルはゴーレムと違ってある程度の擬似的な意思を持っているため、メイジが操作しなくても魔力を供給されていれば自立行動が可能のようだ。 用途も様々で、アルヴィーズの食堂に飾られてる魔法人形のように踊りを披露したり、ロボットのように貴族の敷地内から侵入を防ぐセキュリティ・ガードとしても用いられているようだ。

エッグマンのメカであるサル型エネミーのキキも、レッドマウンテンの入り口の監視として設置されていたのだから、ロボットである自分もそれに当てはまるというわけだ。

 

 

「デモ・・マスターヲ守ルノナラバ、ボクガ傍ニ居タホウガ良イノデハ…」

 

「だったら、誰も部屋に入れないようにすればいいわ。 命令よ、私が寝ている間 朝までちゃんとここを見張っていなさいっ。」

 

「・・了解、マスター」

 

 

バタンッ

 

 

ガンマが返事をすると、ルイズはドアを閉めて中からがちゃりと鍵をかける音が聞こえる。 完全に閉め出されてしまったようだ・・・

 

 

――――ヒュゥゥゥ・・・

 

 

人気のない夜の静寂な廊下の中、空いた窓から夜の冷たい風が吹きこむ。昼間と違い夜は気温が著しく下がり、ガンマの金属のボディをひんやりと冷ましていった

 

 

「部屋ノ防衛任務、実行・・・」

 

 

とりあえず部屋の扉の前に立って、ガンマは警備モードに移行する。 しかしルイズには見張っていろとは言われたが・・・ここには敵対勢力などいないし、学院には衛兵が巡回してるのだから見張っている意味などあるのだろうか? 暇になるだろうから時間をつぶすためにこのまま朝まで待機モードになっていてもいいのだが・・・・・

 

 

―――――――『今度は鞭じゃなくて鈍器で罰を与えるからそのつもりでね♪』

 

 

「(リスクノ可能性アリ、危険ト判断)」

 

あの時言ってた恐ろしい言葉を思い出し、ガンマは待機モードになっているところをルイズに見られた場合を予測したため止めておくことにした。 これ以上怖いルイズを怒らせるようなことをしてしまったらどんな罰を受けるかわかったものではない。

今日油を補給したばかりだったが、これだけ働かされるとまた新しい油で身体をリフレッシュする必要がありそうだ。

 

「ツヴァギ油、飲ミタイ・・・」

 

ガンマは扉の前で軽く溜め息を吐く仕草をした

 

 

 

 

―――――ガチャリッ

 

 

 

 

すると突然、その静寂を破るかのようにキュルケの部屋の扉が開いた。

 

「?」

 

ガンマはキュルケの部屋に緑のカメラアイを向けると・・開いた扉からサラマンダーのフレイムが出てきた。 暗い廊下を尻尾の炎が明るく照らし、まるで松明のようである。

こんな時間にどうしたのだろう? 召還された使い魔達は夜行性の生き物が多いようで、フレイムも他の使い魔達のように授業中に寝ていることがあるから、サラマンダーも夜行性なのだろうか・・? と不思議そうに考えていると、フレイムは尻尾の炎を揺らしながらちょこちょことガンマのほうへ近づいてきて、足元で座り込んでガンマを見つめた。

 

「コンバンハ、フレイム。」

 

緑のカメラアイを向けて挨拶をしながら、ガンマはゆっくりと手を差し出す。フレイムはガンマの左手に鼻を近づけて少し匂いを嗅ぎ、鼻をすりつけ始めると、ガンマはフレイムの頭を優しく撫でた。

 

「きゅるるぅ~・・」

 

昼間の時とは違ってフレイムはガンマの手を受け入れ、気持ちよさそうに甘えるような声を出す。 見た目はこんな大きなトカゲなのに警戒心も害意も無く、人懐こいようだ。

 

「ドウシタノ、フレイム。 ボクニ、何カ用?」

 

 

そう問いかけると、フレイムは口を大きく開き…カプッ とガンマの撫でていた左手をくわえ込んだ。

 

 

「? フレイム、オ腹空イテル? ボクノ手ハ、食ベ物ジャナイ」

 

ガンマがそう言ったが、フレイムはそれでも離そうとはせず、まるでついてこいと言わんばかりにぐいぐいと手を引っ張っている。

フレイムのその行動が気になったガンマは、ふとキュルケの部屋のほうに目を向けると、部屋の扉は開けっ放しだった。

 

「・・・モシカシテ、ミス・キュルケノ部屋ニ?」

 

「きゅる!」

 

フレイムはくわえ込んでたガンマの手を離して返事をするように鳴いた。 その様子から察するにフレイムのきまぐれでは無く、キュルケが自分に用があるためフレイムに命令して、フレイムはガンマを部屋に連れ込もうとしてたようだ。

 

 

「デモ・・現在ボクハ任務中・・・」

 

「きゅる!きゅるきゅる!」

 

「ア…フレイム、押サナイデ」

 

 

任務中にここを離れるわけにはいかないため、ガンマは断ろうとするが・・フレイムはそんなことなどお構いなしに、ガンマの後ろに回りこんで背中を頭でぐいぐいと押しだした。 どうしても部屋に連れていきたいみたいだ。

 

「・・・了解、フレイム、キュルケノ部屋へ移動スル」

 

ガンマは少し迷ったが、ルイズの部屋とキュルケの部屋は近いし、キュルケが一体自分に何の用があるのかも気になるため、少しの間なら大丈夫だろうと判断してキュルケの部屋に行くことにした。 フレイムはガンマの言葉を理解したのか、きゅるると鳴いて先に部屋へと歩き出し、空いた部屋の入り口前で止まって手招きするようにガンマに尻尾を振った。

ガンマはその後ろを付いていき、フレイムに案内されながらキュルケの部屋のドアをくぐった。

 

 

「失礼シマス」

 

部屋の中に入ると、部屋は真っ暗だった。 尻尾の炎のおかげでフレイムの周りだけ、ぼんやりと明るく光っている。

用があるのに何故明かりを消してるのだろうかと疑問符を浮かべていると、暗がりからキュルケの声が聞こえた

 

 

「扉を閉めて?」

 

「? 了解シマシタ」

 

キュルケの声に反応し、ガンマは言われたとおりに扉を閉めた。

 

「ようこそ、来てくれて嬉しいわ。こちらにいらっしゃい。」

 

「ミス・キュルケ。ソノ前ニマズ、明カリヲツケル事ヲ推奨シマス」

 

明かりを消してる理由はわからないが、こうも真っ暗では話のしようがないためそう勧めると、パチンッとキュルケが指を弾く音が聞こえた。

 

シュボッシュボッシュボッ・・・と部屋の中に立てられたロウソクが、独りでに一つずつ灯っていく。

 

ルイズの部屋にある魔法のランプと同じ原理で、ガンマの近くに立てられたロウソクから順番に火が灯り、キュルケの傍のロウソクまで並ぶように灯っていった。 まるでステーションスクエアの道のりを照らす街灯のように、ロウソクの淡い灯りが浮かんでいる。

ロウソクの道を沿うように緑のカメラアイを向けていくと・・

 

 

 

―――――ぼんやりと、淡い幻想的な光の中に、ベッドに腰掛けたキュルケの悩ましい姿があった

 

 

 

そのキュルケの姿を見て、ガンマはパチクリと緑のカメラアイを点滅させた。

 

 

今キュルケが身につけているのはベビードールという下着で、肌の露出が目立つものだ。 というかそれしか着けていない。 ルイズのまな板のような胸と違い、キュルケの木の実のような大きな胸がレースのベビードルを持ち上げ、より強調されている。

ガンマは別に恥ずかしいと感じてるわけではない、ステーションスクエアのホテルにあるプールサイドで泳いでた水着姿の女性客を見た事があるため、恐らくあれはルイズが着てるネグリジェと同じように、キュルケにとって寝巻きなのだろうと判断する。だが・・・そう理解しようとはしているものの、ベビードールは下着の類であることに違いないため、このような下着姿のキュルケにどういった対応をすればいいのか困っていた。

キュルケはそんな反応を見せたガンマが可愛いと思ったのか、クスクスと笑う。

 

「そんなところに突っ立ってないで、こちらにいらっしゃいな」

 

ガンマは戸惑いながらもキュルケの声に従い、ベッドに腰掛けている彼女の隣にまで移動する。

 

「ミス・キュルケ、ボクニ何カ御用デショウカ?」

 

ガンマは緑のカメラアイを彼女に向けて、下着姿の事にはあえて触れずに無機質な声で言った。

キュルケはにっこりと笑って自分の隣をぽんぽんと叩いてガンマに促した。

 

「とりあえず、座って?」

 

「イエ…ボクハコノママデモ平気。ソレニ、ボクガ座ッタラ、ベッドガ壊レテシマイマス」

 

「立ったままじゃ気楽にお話できないでしょう?それに壊れても怒らないから、遠慮しないで」

 

「リョ、了解・・」

 

シエスタ達もそうだったが、ロボットに座るよう促す人間なんて初めてである。ガンマはおどおどしながらもできるだけ体重を掛けすぎないようにゆっくりと逆間接の足の角度を変えて、ベッドに座っているキュルケの隣に腰掛けるように座った。

 

 

ギシギシギシィ……ッ!

 

 

ガンマが体重をかけるごとにベッドが軋むような音が響き、ベッドが悲鳴をあげている。 いくら丈夫に作られているとはいえ、壊れないか心配だ。

 

 

「アノ・・・御用トハ?」

 

再び問いかけると、ナックルズのように真っ赤な燃えるような赤い髪を優雅にかきあげ、キュルケはガンマを見つめた。 ぼんやりとしたロウソクの灯りに照らされたキュルケの褐色の肌は、野生的な魅力を放っており、異性を引き寄せる力をもっている。

もっとも、ロボットであるガンマにはそんな感性など理解できないため、キュルケの姿を見てもステーションスクエアでは見かけなかった人種で、このような肌をした人間もいるのだなって思ってるくらいである。

 

「いきなり呼びこんでごめんなさいね、あなたとは二人きりでお話したかったの」

 

そういえば初めて会った時に、いつか自分の国の話を聞きたいと言ってたことをガンマは思い出す。 きっとそのことで自分を部屋に招きいれたのだろう、たしかルイズはキュルケといがみ合ってるようだったし、自分も使い魔任務で多忙だったからそれで話そうにも話せなかったのかもしれない、今なら話すには絶好の機会ではある。

任務も控えているためあまり長くは話をすることはできないが、ガンマは何を話そうか聞こうとすると、先にキュルケが口を開いた。

 

 

「ねぇ…ガンマ、あたしの二つ名はご存知かしら?」

 

「? ミス・キュルケノ二ツ名ハ、『微熱』ト記憶シテイマスガ・・」

 

「そう、あたしの二つ名は『微熱』。 あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。 だから、いきなりこんな風にお呼びだてしてしまうの。わかってる、いけないことよ・・」

 

キュルケは大きく溜め息をついた。そして、悩ましげに首を振った。

 

「ゴーレムのあなたでも、あたしをはしたない女だと思うでしょうね」

 

「イエ、ソノ様ナコトハ…」

 

「でもね、あなたはきっとお許しくださると思うわ」

 

キュルケはガンマの左腕に身を寄せ、潤んだ瞳でガンマを見つめた。彼女の大きな胸が、ガンマの左腕に当たっている

 

「ミ、ミス・キュルケ・・?」

 

 

困惑してるガンマに、キュルケはすっとガンマの金属の手を握り、太い三本の指を、一本、一本、冷たく硬いガンマの指を確かめるようになぞり始めた。

キュルケのこの理解不能な行動にどうすればいいのかわからず、ガンマは固まって動けなくなっていた。

 

 

「あたしね、あなたのことが気に入っちゃったの。そう、まるで恋のようにね」

 

「恋・・・」

 

「あなたがギーシュを倒した時の姿・・・・私が知ってるどのゴーレムもガーゴイルよりも、とってもかっこよかったわ。 勇敢に立ち向かい、巨大なワルキューレを一太刀で真っ二つにしてしまうなんて、まるで伝説のイーヴァルディの勇者みたいだったわ! あたしね、それをみて痺れたのよ、ゴーレムであるあなたに! 信じられる! あぁ・・・まさに情熱だわ」

 

キュルケは色っぽい吐息を出しながら、うっとりとした表情でガンマの宝石みたいに綺麗な緑の目を見つめる。

イーヴァルディの勇者というのはなんなのかはわからないが、つまりキュルケは自分に興味があるということだろうか? しかし、いくらギーシュとの決闘での影響力があったとは言え、流石に大げさな気もするのだが・・。

 

「だからね、あたしはあなたのことが知りたくて、フレイムを使って様子を探らせたりしてたの・・・あなたがメイドと仲良くしてたり、真面目にお仕事してたり、お茶目なところがあったり・・・そしてなにより、あなたは人や動物に優しいだけじゃなく、強い好奇心も持っている。 ルイズの使い魔にしておくにはもったいないくらい魅力的よ」

 

ガンマは緑のカメラアイを床に寝転んで欠伸をしているフレイムに向ける。 どうりで最近使い魔任務中にフレイムを時々見かけることがあったと思ったらそういうことだったのか。 使い魔の能力には主人の目となり耳となる感覚の共有ができるようになるとルイズがいっていたから、それでフレイムを通じて自分を見ていたということだ(でもお茶目ってなんだろう?)

 

 

「デハ、ズットボクヲ、監視シテイタノデスカ?」

 

「監視だなんて人聞きが悪いわ・・でも、そう思われても仕方がないわよね。 ほんとに、あたしってばみっともない女だわ。そう思うでしょう? でも、全部あなたの所為なのよ」

 

「ボクノ・・・所為?」

 

「あたしの二つ名の『微熱』は情熱なのよ。あの日からあたしはぼんやりとしてマドリガルを綴ったわ。マドリガル、恋歌よ。あなたの所為なのよガンマ。あなたが毎晩あたしの夢に出てきて、その細くも力強い金属の腕で、わたしを抱き上げてくるんだもの。もう、あなたのことを考えられなかった日なんてなかったわ・・・」

 

ガンマはなんと答えればいいのかわからず、じっと座っていた。 キュルケは沈黙しているガンマにゆっくりと身を乗り出し、そっとガンマの緑の目を指でなぞった。

 

「あなたの魔法の銃は…あたしの心までも撃ち抜いちゃったのよ…」

 

綺麗な緑のカメラアイを見つめながら、ゆっくりと目をつぶり、唇を近づけてきた。

 

 

 

 

 

「オ待チクダサイ、ミス・キュルケ」

 

 

しかし、ガンマは彼女の肩を優しく押し戻した。 キュルケはどうして? と言わんばかりの顔で、ガンマを見つめた。

 

 

「ミス・キュルケ。 ボクハ貴方ヲハシタナイナドト思イマセン。 ロボットデアルボクノコトヲ思ッテクレル、優シイ人物ダト理解シマシタ」

 

ガンマはキュルケを緑のカメラアイで見つめながら言った。

 

「デモ・・・ボクニハ、人間ノ『恋』トイウ感情ヲ、理解デキテイマセン。」

 

 

――――ガンマは以前、ステーションスクエアのバーガーショップで、そこで働いている店員に思いを寄せている女性のことを思い出していた。 彼女は何故かその店員に話しかけもせず、いつもショップの入り口付近の前で右往左往としており、いつも遠目からその店員を見つめているばかりだった。 だが日を追うごとに、その女性は少しずつ店員との距離を縮めていき、まだ話しかける勇気がないようだったが店の中にまで入れるようになっていた。 ・・恐らく彼女は、あの反応からして、きっとキュルケの言っている『恋』という感情をあの店員に向けていたのだろうとガンマは推測した。

 

 

・・・だが、エッグマンにそのような情報を教えられていないガンマには、理解するには難しすぎる壁である。

 

 

自我をもっていようと、人間の持つ感情を全て理解できているわけではない、だからキュルケの『恋』というのはどういうものなのか理解できず、どのような答え方をすればいいのかわからないのだ。 ギーシュの行いでケティとモンモランシーが傷ついたように、自分の心無い言葉でキュルケが悲しむのでは・・・とガンマは思っていた。

 

 

「理解モシテイナイノニ軽率ナ発言ヲシテシマッタラ、ソレハ貴方ノ『恋』ニ対スル無礼トナッテシマイマス。 ダカラ、ボクニハソレニ答エレル資格ハアリマセン・・・、申シ訳アリマセン、ミス・キュルケ。」

 

ガンマはキュルケから目を離し、緑のカメラアイを伏せながら謝罪をした。

 

そんなゴーレムらしからぬガンマの姿に、キュルケは先ほどまでの色っぽい雰囲気がどこかへ吹き飛んでしまい、呆気にとられたようにきょとんとした顔となった。

 

 

そして次第に肩を震わせた

 

 

 

「・・プッ、・・くっ・・・くく・・・」

 

「・・・ミス・キュルケ?」

 

「あ~っはははははは!」

 

とうとうキュルケは耐え切れず、涙目になって腹を押さえながら笑い出した。 突然笑い出したキュルケに、ガンマは状況がよくわからず首をかしげた。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ…。 ふふ・・やっぱりあなたって面白いのね。ゴーレムに振られちゃうだなんて、初めての経験よ」

 

ひとしきり笑って落ち着いたのか、キュルケは息を整え、改めてガンマを見つめる。

キュルケはたしかにガンマに強い関心を抱いてはいるが、恋などは別にしてはいないし、まずそんな趣味も持ち合わせていない。 彼の話を聞くついでにちょっとからかってやろうと思い、彼を招き入れ、この自我を持ったゴーレムが自分に対してどんな反応をしてくるか見てやろうとした。 つまりキュルケにとって遊び心のつもりでガンマにあのような話を持ちかけたのだ

 

だが、予想外にもガンマに断られてしまった。 いままで幾多の男を魅了させてきた自分が、初めて振られたのだ。しかもゴーレムに! そんな自分がとても滑稽に思え、笑わずにいられなかった。

 

 

「ますます気に入っちゃったわ! ガンマ、今夜はあたしの部屋に泊まっていきなさいな。ルイズに部屋を追い出されてるのでしょ?」

 

「エ、アノ、ミス・・」

 

「キュルケよ」

 

「エ」

 

「敬称はいらないわ。キュルケって呼んでちょうだい、ガンマ♪」

 

「リョ、了解・・・キュルケ・・」

 

キュルケはガンマの腕に抱きついてきて、ニッコリと笑顔を浮かべている。 わけがわからなくて困ってるガンマに対し、キュルケは先ほどの雰囲気など消えうせ猫のようにすりついてきた。 なんとも切り替えの早い女性だ・・。

 

「さ♪ 今度はちゃんとお話しましょ? 夜はまだ長いんだから」

 

 

 

 

――――――――ドンドンドンドン!!

 

 

 

 

キュルケがそう言った時、窓の外が大きく叩かれた。

 

ガンマはその音の発生源である窓に目を向けると、そこには恨めしげに部屋の中を覗く、一人のハンサムな男の姿があった。

 

「キュルケ・・・・。待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば・・・」

 

「ぺリッソン!ええと、二時間後に」

 

「話が違う! なんでゴーレムなんかと!」

 

ここはたしか、三階である。 どうやらぺリッソンと呼ばれたハンサムは魔法で浮いているようだ。

キュルケは煩そうに、胸の谷間に差した派手な魔法の杖を取り上げると、そちらのほうを見もしないで杖を振った。 

 

 

ボゴオオオォォン!!

 

 

すると一本のロウソクの火から、炎が大蛇のように伸び、窓ごと男を吹っ飛ばした。

 

 

「無粋なフクロウね」

 

ガンマは唖然としたように緑のカメラアイをパチクリと点滅させ、その様子を見つめていた。

 

「今ノ方ハ・・・・」

 

「彼はただのお友達よ。まったく、いきなり窓から入ろうだなんてマナーがなってないわ」

 

「アノ・・友達ニアンナコトヲシテ、大丈夫?」

 

「平気平気。ちゃんと火加減してあるから」

 

「火加減・・・」

 

「とにかく今、あたしがお話したいのはあなたよ。ガンマ」

 

 

キュルケは再びガンマにくっつこうとすると・・・・今度は窓枠が叩かれた。

見ると、悲しそうな顔で部屋の中を覗き込む、精悍な顔立ちの男がいた。

 

「キュルケ…!今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!なんで、なんでゴーレムと一緒にいるだ!?」

 

「スティックス! ええと、四時間後に」

 

「まさか君にそんな趣味があったのか!? いくらゴーレムだろうと僕はゆるさんぞ!」

 

怒り狂いながら、スティックスと呼ばれた男は部屋に入ってこようとしたが、キュルケが煩そうに再び杖を振ると、再びロウソクの火から太い炎が伸びて男を襲った。

 

「でもそんな君も素敵だぁぁぁああああーー!!!」

 

男は火にあぶられながらも、断末魔のような叫びを上げながら地面に落ちていった。

 

 

「・・・・友達?」

 

「彼は友達というよりはただの知り合いね。とにかく時間をあまり無駄にしたくないの。夜が長いなんて誰が言ったのかしら! 瞬きする間に、太陽はやってくるじゃないの!」

 

ポカーンとしてるガンマに、キュルケはまたくっつこうとした

 

 

「ああああああああ!!?」

 

 

窓だった壁の穴から数人の悲鳴が聞こえた。 ガンマはそちらに振り向くと、窓枠で三人の男が押しあいへしあいしていた。

 

 

「「「キュルケぇ! そのゴーレムはなんなんだ!なんでゴーレムと仲良くしてるんだ!!」」」

 

三人は同時に同じセリフをはいた、見事にハモっている。

 

「マニカン! エイジャックス! ギムリ! ええと・・・六時間後に」

 

 

「「「朝だよ!」」」 「朝…」

 

 

三人は仲良く唱和し、ガンマも一緒に答えた。キュルケはうんざりした声で、フレイムに命令した。

 

「フレイムー」

 

きゅるきゅると部屋の隅で寝ていたフレイムが起き上がり、三人が押し合っている窓だった穴にむかって、炎を吐いた。 三人は先ほどの先客である二人と同じように仲良く地面に落下していった。

普段ならばキュルケの火の魔法とフレイムの吐いた炎の威力に興味を抱くところではあるが、こんな混乱した状況ではそれどころではない。 あの五人はなんでドアからじゃなく窓から入ったのか意味がわからないが、キュルケとそんなに話がしたかったのだろうか?

 

「アノ三人ハ?」

 

「さぁ?知り合いでもなんでもないわ。やっと静かになったわね。さぁガンマ、続きを・・・」

 

「イエ・・・申シ訳ナイ、キュルケ。コレデ失礼スル」

 

「あ!ちょっと待って!まだ全然お話してないじゃないのぉ」

 

ガンマが立ち上がろうとすると、キュルケは引き止めるようにガンマの腕にしがみ付いた。

 

「シカシ、ボクニハ任務ガアル・・・」

 

「そんなこと言わないで。 あなた、ここ最近色々と調べまわってるのでしょう? だからあたしがあなたの知りたい事を教えてあげるわ」

 

「デモ、マスターノ命令ナノデ・・・」

 

ガンマは緑のカメラアイを向けて言った。 自分もキュルケと話をしたいのはやまやまではあるが、なんだかよくわからないがこれ以上は関わってはいけないような気がするし、主人の命令をこなさなければならないため任務に戻ることを判断した。

 

 

そのとき・・・・

 

 

 

 

――――――バダァァンッ!!!

 

 

 

 

今度はドアが蹴り破るかのように物凄い勢いであけられた。

またか、と思ってそちらに振り返ると・・・そこにはネグリジェ姿のルイズが立っている。

 

 

 

「・・・・ガンマ、見張りはどうしたの」

 

「マ、マスt・・!!」

 

 

 

―――――――《WARNING!WARNING!WARNING!WARNING!》―――――――

 

 

 

声をかけようとしたところで、言葉が詰まる。ガンマの緑のカメラアイにルイズの鬼のような形相が映り、電子頭脳に危険信号が送られ警告音が鳴り響く。その恐ろしさに思わず時が止まったように硬直して動けなくなった。まさに蛇に睨まれたカエルのようである。

 

キュルケはちらりと横目でルイズを見たけど、ガンマの左手にしがみつき身体を密着させたまま、離そうとはしない。

 

 

「隣が騒がしいと思って来て見れば・・・!」

 

艶やかに部屋を照らすロウソクを、ルイズは一本一本忌々しそうに蹴り飛ばしながら、ズカズカとガンマとキュルケに近づいた。

 

「キュルケ!」

 

ルイズはキュルケの方を向いて怒鳴った。 そこでやっとキュルケはガンマから身体を離し、やれやれといった態度でルイズのほうに向いた

 

「ノックもしないで入るだなんて失礼じゃなくて? それに取り込み中よ。ヴァリエール」

 

「ツェルプストォオー!! 誰の使い魔に手をだしてんのよぉ!!」

 

「しかたないじゃない。彼のこと気に入っちゃったんだもん」

 

地の底から響くような声で怒鳴るも、キュルケは両手を上げて平然とした態度でいる。 ルイズの鳶色の瞳は爛々と輝き、レッドマウンテンの火山のごとく怒りを表にし興奮状態になっているのが見て取れた。 ガンマは二人の間に挟まれて、ルイズとキュルケを緑のカメラアイで交互に見ながらおろおろし始めた。

 

 

「あんたには見境ってものはないの!? こいつは人間でもなければ動物でもないのよ! こいつはゴーレムよっ!ゴ・ー・レ・ム!!」

 

ガンマに何度も指を指しゴーレムだと強調させるように言った。

 

「あら、あたしはただ彼とお話がしたかっただけよ?」

 

「だったら!なんでわざわざ話しをするためにそんなはしたない格好でいる必要があるのよ!!」

 

「別にいいじゃない。あたしにとってこれが寝巻きなんだから、どんな格好でいようとゴーレムの彼にとっては問題ないはずでしょう? もしかしてあなた・・・あたしがゴーレム相手になにかやらしい事をするとでも思ったのかしら? 想像力豊かなのはいいことだけど、お子ちゃまのくせにやらしいわねぇ」

 

「な、なななななんですってぇっ!!」

 

しかしキュルケはどこ吹く風のようにひらひらと受け流し、両手をすくめてみせた。ルイズは顔を真っ赤にしてギリギリと忌まわしそうに歯軋りをたて、ルイズの手がわなわなと震えた。

 

 

「アノ・・・"ヤラシイ事"ッテ?」

 

「あんたは知らなくていいの!!!」

 

「ハイッ」

 

ルイズに睨まれ、ガンマはビクリと固まる。ここまで怖い主人は初めてだ。

 

 

「来なさい。ガンマ」

 

ルイズはガンマをじろりと睨んだ。ガンマは主人の命令に従い、ベッドから立ち上がる。

 

「あら。お戻りになるの・・・?」

 

キュルケは悲しそうにガンマを見つめた。キラキラとした瞳が、悲しそうに潤んでいる。

ガンマはそのキュルケの瞳を緑のカメラアイで捉え、躊躇した。 このまま離れたら彼女を悲しませてしまうのではと思い迷ってしまう。

 

「いつもの手なのよ! あんたまで引っかかっちゃダメ!」

 

ルイズは右腕を両手で握り、ぐいっと引っ張って部屋から出ようとする。

 

「了解、マスター。 指示ニ従ウ」

 

キュルケには悪いが、使い魔であるガンマは主人の命令を第一として行動しなければならないので、逆らうことはできない。 それに与えられた任務を放棄しては、それではルイズへの恩を仇で返す行為になってしまう。

ガンマが出て行こうとするその様子を見たキュルケは、残念そうにすると・・・・

 

 

―――――ファサ…

 

「あら・・・?」

 

 

ガンマが向き直り、ベッドの毛布を手に取って、ベッドに座ってるキュルケの肩に毛布を掛けた。

 

「夜ハ冷エルカラ、風邪、引カナイデ」

 

キュルケが吹き飛ばした窓から冷たい風が入りこんでるので、キュルケが風邪を引いてしまう可能性があったための行動だ。 ガンマは床に寝てるフレイムに「キュルケヲ、温メテアゲテ」とお願いし、先に廊下に出てるルイズのいるドアへと向かった。

 

キュルケは、ベッドから動かず、じっとガンマを見つめた。

 

 

 

「オヤスミナサイ、キュルケ」

 

 

 

――――パタンッ

 

 

そう言って、静かにドアを閉めた。

 

キュルケは座ったまま、ぼんやりと閉まったドアを見つめていると、フレイムが寄ってきた。

 

「きゅるる・・」

 

フレイムはキュルケの足元にきて、ベッドに顔を乗せる。 冷たい風で冷やされた部屋の中、フレイムから発せられる熱気のおかげでキュルケの周りの空間だけが温かくなっていた。

ガンマがお願いしたとは言え、フレイムが自分以外の者から言われたことを素直に聞くとは・・・っとキュルケは少し呆れながらも自分を温めてくれるフレイムの頭を優しく撫で、フレイムは嬉しそうに目を細めた。

 

 

 

「・・・ふふふ。 ホント、紳士的で、優しいゴーレム。 本気で好きになっちゃいそうだわ」

 

 

――――ガンマが掛けてくれた毛布にくるまりながらそのままベッドに横になると、フレイムの熱気のおかげでポカポカと温かく、次第に眠気がやってきて瞼が重くなり、スヤスヤと寝息をたてていた。

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