カリヤって名前のおっさんの身の上話を聞いた俺は、夜の街を歩いて実家に来た。
「ここがカリヤの家か」
「あぁ、気を付けてくれ。奴は、妖怪の類だ。アイツに逆らえる奴なんてそういない、細心の注――」
「こんばんわ、徒歩で来た!」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
桜ちゃんとやら待っててね、きっとカリヤおじさんがこんな白髪になったのは妖怪の仕業なんだ。
なんだって、許せん!妖怪退治しなくちゃ。
「えっ、ちょ、えぇぇぇぇ!」
「何してるんだ、行くぞカリヤ」
「俺の、お前、俺の話を聞いてなかったのか」
何言ってんだ、聞いてたよ。
聞いてたけど、面倒だったから正面突破するだけである。
「ホッホッホッ、騒がしいと思えば大それた事をするようにな――」
「お爺ちゃんッ!こんばんわ、死ねッ!」
ドアをぶち破って最初に現れたご老人が悪臭を漂わせていたので、コイツはヤバイ奴だなと直感で殴りつける。
すると、俺の拳にはブチブチとした触感が与えられその辺に虫の死骸が飛び散った。
お爺ちゃんは頭が吹っ飛んでるのに、胴体が倒れなかった。
寧ろ、その胴体は黒い靄になったと思ったら極小の虫になって別の場所に集まっていく。
そう、お爺ちゃんは虫の集合体であって生きてはなかったんだ。
「何をするかと思えば、所詮は三流の魔術師よ。マキリの魔術は虫の使役、儂の身体はとうに虫に置き換わっておる」
「つまり虫なんだな」
「魂を移した虫の集合体こそが儂であり、全ての虫を消し去らぬ限り個としての儂は消えん」
「つまり、虫なんだよな?」
正直、何言ってるかわからないが取り敢えず殴れば良いんだろ。
俺は諦めずに復活したお爺ちゃんを殴りつける。
再び、床に虫の死骸が落ちるだけでお爺ちゃんは別の場所で復活する。
「無駄だと言っておるだろうに、それとも――」
「そこだッ!」
「――理解で、やめ、やめんか!話して――」
「そっちか!」
「――話してる、所じゃろうが!」
床に広がるの虫の死骸だけが増えるだけで、一向にお爺ちゃんは倒せない。
なんか、アレだな。きっと、本体は別の場所にいるんだと思う。
おのれ、お爺ちゃんめぇ……
「ぐあぁぁぁぁ!?」
「急にどうしたカリヤ?」
「ぞ、臓硯が俺を……ぐあぁぁぁぁ!」
「何言ってんだ、具体的に頼む」
「頼む、俺を殴ってくれ!このままじゃ、俺はお前に――」
「イエァァァァ!」
腹部に向かってパンチを繰り出すと、そのまま吹っ飛び家の壁にぶつかった。
慌てて近寄れば、奴はもたれかかるようにして意識を失っている。
打ちどころが悪かったんだな、あんな軽いパンチで気絶するはずがないからな。
「ほぉ、バーサーカーを――」
「イヤァァァァ!」
「――舐めるなよ小僧」
まったくしぶとい妖怪こと臓硯。
そんな奴は、身体を虫にすることで俺に襲い掛かってきた。
俺の身体中を虫が集まり、覆っていく。
「食らうが良い、これがマキリの魔術よ。鋼すら簡単に噛みちぎる、虫の物量攻撃。単純ではあるが、防ぐのも難しい。これが魔術の歴史による、格という奴よ」
「確かに、ちょっと痛いな」
「なっ!?」
俺は虫の群れを叩きながら、距離を取る。
流石普通の虫と違って魔術とやらの影響を受けている虫である。
俺の身体に傷を付けるとか、そこらの武器より強いってことである。
鋼すら断ち切るのは伊達じゃないな。
「お前が操作系の能力者ということは分かった」
「何を言っておるのだ?」
「俺は強化系だ!」
「何を言っておるのだ!」
力こそパワー、見せてやろう操作系能力者じゃ強化系には勝てないってな。
行くぞ、相棒!
「あれ、ラッセー?」
『ぐあぁぁぁ!く、食われる!ヘルプ、ヘルプゥゥゥ!』
「ラッセー!?」
俺の頭が軽いと思っていたら、なんとラッセーが虫に食われかけていた。
自分の身体を床に叩きつけるなどして奮闘しているが、虫が集まりすぎて本体が見えない。
寧ろ、声のする黒い毛玉のような感じだ。
「フェフェフェ、そこの竜種とカリヤがどうなってもええのかのぉ?」
「人質とは、おのれ卑怯な!」
「正面から戦わぬ方法もあるのじゃよ」
「悪には屈せぬ、エンダァァァァ!」
体表を覆うは、波紋の力。
山吹色の波紋、喰らえ!波紋疾走!相手は、死ぬ!
「何だこの光は、や、焼ける!?」
「震えるぞハート、燃え尽きるほどヒート、刻むぜ血液のビート!」
「ぬわっーーーー!?」
何故か、弱点特効なのか妖怪お爺ちゃんはポロポロと崩れていく悪は滅びた。
と、思うじゃん。
食わせものな爺である。
「そこにいるんだろ?」
「お、お兄ちゃん何を言ってるの?」
「爺、子供はいきなり話し掛けられたら黙っちまうもんだぜ」
「……勘のいい餓鬼は嫌いだのぉ」
振り返ると、幼女が立っていた。
ハイライトが無くなってる、目が死んでる餓鬼だ。
こんな顔がデフォルトな訳がない。
気配もするし、操られてるのだろう。
おのれ、これが人間のやることかッ!
人じゃなかった……。
「さて、どうする?」
「いつから其処が安全だと錯覚していた?」
「ひょ!?」
「浸透圧って知ってるか?」
圧力が浸透するってことだよ!つまり、殴れば染みるんだよ!
『相棒、絶対違うぞ』
「オラァ!」
『Penetrate!』
それは静かな殴打だった。
まるで触れるように音もなくゆっくりしたパンチだ。
「はぁ?……ガフッ!?」
当たった、それだけで幼女が吐血する。
純粋なパンチ力だけを、霊体に叩きこんだのだ。
幼女は因みに無傷である。
吐血?幽霊の血だよ!
『まるで意味がわからんぞ』
「ぐっ、ぐぁぁぁぁぁ!?」
「カリヤ……虫が暴走してるのか?波紋疾走!」
説明しよう、波紋とは生命力であり太陽のエネルギー、つまり不思議パワーなので人体に影響はない。
なので、俺が殴ってもかえって健康になるのだ。
「メメタァ!!」
『ひでぇことしやがるぜ、まるでカエルが潰れたみたいな姿だぜ』
「……ハッ、俺はいったい!?」
どうやら健康になったカリヤ。
これで諸悪の根源である爺を倒したぞ、バーサーカーはもういらないだろ。
なので、俺にくれよ。
「臓硯が、死んだ……」
「あぁ、そうだ」
「そうか、そうか……」
カリヤは何故か、頭を垂れたまま固まる。
何ていうか、真っ白に燃え尽きている感じだ。
そう言えば桜ちゃんとやらを助けるのが目的であって、もう達成してしまったからだろうか。
「俺は、魔術師としては出来損ないだ。だから、令呪の渡し方なんて知らない。そっちでどうにかしてくれ」
「あざーす」
『ノリ、軽っ……』
令呪ってのは魔力である、でもって魔力ってことは魔法の源、魔法はイメージが大事。
つまり、俺の右腕がダイソンだと思えば変わらない吸引力で吸い取ることも可能ということだ!
俺はカリヤの腕を掴んで、気合で魔力を唸らせてみる。
すると、どうだろうか。令呪がカリヤの腕から俺の腕にズズズと移動した。
やっぱり、俺の考えは間違ってなかったんや!
『なんでもありかよぉ……』
「よろしくな、バーサーカー!」
「■■■■■■■■■!」
握手しようと現界させたバーサーカーに殴られる。
ハハハ、こやつめ照れておる。
聞けば、カリヤはどこの英霊か知らないらしい。
まぁ、パンチが挨拶ならケルトだな。
ケルト式挨拶はファンキーである。
俺も殴り返しておいた。
「ぐおぉぉ……」
「躾、最初、肝心」
勝手に消えようとするバーサーカーに、まったく貧弱だなという感想を懐きながら喜びを噛みしめるのだった。
バーサーカー、ゲットだぜ。
「これで俺も、英霊マスターになったか」
よし、まずはどこから攻め入るか。
ランサー陣営とか良いんじゃないか、アイツらが一番最初に喧嘩売ってきたしな。
「よし、ランサーを狙うとしよう」
『辞めておいたほうが良い』
「なんでだラッセー、大丈夫だ場所なら分かる」
アイツらの気配くらい覚えている。
ほぉ、高い位置にいるな。
どうやらホテルにでも泊まっているようだ、羨ましい。
「よし、行くぞ……うん!?」
『あっ、爆破あったなこれ』
ど、どういうことだってばよ。
ランサーの気配が落ちた。
えっ、飛び降り自殺したん?
「いったい、何が起きてるんだ?」
『ハードラックとダンスっちまったのさ。つまり、さよなランサー』