ドラゴンボールFG ~転生少女達の何でもない伝説~ 作:竜華
「えっと……澄華、ちょっと聞いてもいい?」
桜の花びらが、柔らかい春風に飲まれて舞っていく。その1枚1枚に春の陽だまりが反射して、キラキラと輝いていた。
「……ええで……」
心地よい暖かさに、ベンチで船を漕ぐサラリーマンらしき男性。欠伸を繰り返しながらゆるゆると歩く女子高校生。皆んな、春の陽気に侵食されているようだ。
「……後ろの死神らしきアレ、見えてる?」
「見えとるで……ハッキリとな」
まあ、こちとら背後の骨が怖くて目が冴えてるんだけどね!!
「やっぱ奈実にも見えとったかー。俺、最近魔法陣を描く練習しとるから、冥界の王が怒って迎えを寄越したのか思うたわ」
「黙れ腐れ厨二病。お前は勝手に死んどいてくんない?1人で」
アニメグッズとゲームをバッグ一杯に詰め込んだ奴が何を言うか。
「テメェにこそ死がお似合いや、この腐女子が」
僕のバッグには、愛しきドラゴンボールのグッズしかない。しょうがないだろう、小学4年の頃にアニメ系チャンネルで一目惚れしてしまったのだから。ちなみに今は中学3年なので、5年はゆうに愛でていることになる。更に言うと、推しはサイヤの王子ベジータだ。他にも4人推しがいるが、それはまた別の機会にお話したいと思う。
話が逸れてしまった。骨の異形に話を戻すとしよう。
「クソッ、まだ付いてきとるで」
線路の前まで歩いてきたが、まだ後ろには死神がピッタリとくっ付いてきていた。というより、なんで誰もこの化け物に気付かないんだよ。超目立つはずなのに。
『……気付くはずがなかろう。私は死神だ。普通なら、死期が近い者にさえ見えないのだぞ。私の方が驚いているくらいだ』
「……え?」
「な、何や……今のドスの効いた声」
背後から聞こえた声に、顔が強張った。踏切のカンカンという音が、僕らの静寂の中に煩く響く。
『……私達の主人の命令で、お前達を迎えに来た』
「「……はぁ?」」
死神の主人?迎え?それって……。
「死ぬってこと?」
「え、普通に嫌やわ」
『お前達……仮にも神に向かってなんたる無礼な口の利き方……』
頭を押さえる自称死神。
『というより、お前達順応早いな。お前達のよく言う【非科学的な存在】だぞ、私は』
「「ゲームとアニメと漫画のハイブリッド脳ナメんな」」
『アッハイ』
呆気にとられている死神(笑)を尻目に、電車はどんどん近づいてくる。
『……ゴホン。さぁ、お前達に拒否権はない。さっさと行くぞ』
「……どこに?」
『あの世』
「殺すで」
『嘘だろ!?』
死神をどうやって殺すんだよ馬鹿野郎。死神泣きそうじゃないか。
『主人よ……何故、こんな小娘供を必要としているのか……私には分かりかねます』
死神のポッカリと空いた眼窩から、1粒の涙が零れ落ちた。
その時だった。
「あなた、何してるの!!今すぐ戻ってきなさい!!」
女性の怒鳴り声が響いた。見ると、窶れた男性が踏切を乗り越え線路の上で胡座をかいていた。
「うるせえ!!俺ァもう死ぬんだ!!」
どうやら、自殺を目論んでいるらしい。
「もうこんな世の中にはウンザリだ!!どんなに働いても給料は安い!!挙句、上司のミスを押し付けられる!!巫山戯んな!!」
そう喚く男性に、スピードを殺しきれない電車が迫る。
ーーーー危ない!!
そう思った後、気付けば線路の上に2人揃って突っ込んでいた。そのまま、男性に体当たりして線路の外に出す。
あぁ、こんな草臥れた男の為に命を捨てるなんて。そう思った反面、どこか満足感もあった。この先彼が生きていれば、もしかしたら僕達の分まで幸せになってくれるかもしれない。ならないかもしれないが、敢えてその可能性は考えないでおいた。
『……成る程。これが、貴女様がこの小娘供を必要となさった理由ですか』
死神がそう呟いた。
そして、電車が僕達を撥ね飛ばす。
意識は、そこで途絶えた。
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「良かったのう。あちらが自ら死んで来てくれるとは」
『まぁ……嫌がっていた割にはアッサリ死んだので驚きましたが……』
「もうよい、下がっておれ。あやつらのもう片割れが起きたらしい。大事な話じゃ、いくら腕の立つ死神のお主でもこの場で聞かせるわけにはいかぬ。いつか話すから、それまで待っておれ」
『はい』
薄くブレ気味な視界の中で、先程の死神が白い扉から消えていくのが見えた。
「あっ、漸く起きたな寝坊助」
「……んぁ?」
ヤバいぞ、恐ろしく眠い。
よし、もう1回寝よう。
「『よし』じゃないわ馬鹿者!!今すぐ起きるのじゃ!!」
幼い女児の声と共に、僕の腹に扇子が刺さる。
「がっ!!」
突然の鳩尾はダメだよ、死んじゃうよ。
「安心せい、既に死んでおる」
「いや、神様全然安心できへんわ、それ」
続いて、聞き慣れた親友の声が耳に届く。一気に意識が戻ってきた。勢い良く立ち上がり、声の先を振り返る。いつも見る澄華と、黒い長髪を揺らす幼女の姿があった。幼女は、未来の絶世の美女を約束させるような顔で、その姿には見合わない、露出度の高い花魁風の着物を身に纏っている。胸は……うん。
「お主も無いではないか!!」
「お黙りロリっ娘」
「ちょっ、これ神様やで。あの死神の上司や」
あぁ、この娘が神様。道理でませてるわけだ。
「お主は、何さっきから儂を子供扱いしておるのだ。これでも、7万年は生きておるぞ」
「うへえ、おばあちゃんだぁ」
ロリっ娘もとい神様の睨みが怖いので、そこで口を噤んだ。
「話が大幅に逸れてしまったの。そろそろ本題に入ろう。今宵お主らを呼んだのは、ある問題の解決の為に協力を仰ごうと思ったからじゃ」
「「協力……?」」
「つくづく息の揃った奴らじゃわい」
玉を転がすような可愛らしい笑い声が部屋に響く。しかし、それもすぐに曇ってしまった。
「近頃、様々な世界が堕天しておるのじゃ」
「堕天って……闇堕ちとかの類の、アレ?」
「そうじゃ」
ここから話がかなり長かったのでまとめると、
まず、世界が堕天するということは、堕天者が世界を壊してしまったということである。この堕天者というのは、基本生まれつき持っている『堕天のエネルギー』を無意識のうちに行使し、生命を根絶やしにしてしまう人間らしい。この堕天者、厄介なのは大抵の場合恐ろしく強いという所である。各世界のトップレベルが暴れるのだ、そりゃあ世界が壊されるわな。
そして僕らの魂には、そのエネルギーを無効化する『復天のエネルギー』たるものが備わっているようなのだ。僕らの場合、2人一緒の時のみ発動するらしい。先程の自殺願望者を助けることに成功したのも、これが要因なのだとか。
「これで、儂がお主らに教えておくべきことは全て話した。それで、その願いというのがのぅ……」
全ての世界でもトップクラスの世界の堕天を防いで欲しいのじゃ。お主らの世界で『ドラゴンボール』と呼ばれていた世界のな。
「……ぅえぇ……?」
……マジ?ドラゴンボール?え、マジ?え?え?
「あぁー……ドラゴンボール……。確かに、あそこは強いわ」
1人で納得する澄華。そして急に顔を上げた。
「良かったやん奈実。憧れのドラゴンボールやでぇ」
「ヤバイ泣きそう」
「泣いとる泣いとる」
本当だ、僕の頬が涙でグチャグチャになっている。一応深呼吸をしてみた。効果はほぼほぼ無い。涙を拭った右手で、左腕を抓った。痛い。
「痛ぁい……夢じゃないぃ……」
「落ち着け小娘。そろそろ時間が押しておる。今すぐ転生するのじゃ」
「早っ!?何に転生するとかは教えてくれへんの!?」
パチンッ
神様が指を鳴らすと、足元の床に穴が生まれる。
「はぁ……最高……」
「えっ、ちょ……!?」
勿論、重力に逆らえない僕らの身体は真っ逆様に落ちていった。
「大丈夫じゃ!!磨けばドラゴンボールの世界で生き残れるくらいの身体を用意しておいた!!後はお主らで何とかせい!!」
どんどん離れていくロリ神様は、最後に、
「これで、堕天のエネルギーを抑えられるかのぅ……」
ボソッとそう独り言を放った。