事の始まりは、2000年3月9日。南半球に存在する大陸:ユドナの東海岸の小国からだった。
ユドナ大陸東に位置するドリム共和国では次期大統領選挙の立候補者が、自由党と共産党から一人ずつ選出されていた。共産党の議員が仮に当選した場合は世界初の共産主義国家誕生ということにもなり、非常に注目されていた選挙であった。
だが選挙は様々な疑惑が渦巻いた、とても公正な状態といえるようなものではなかった。
選挙管理委員会の不祥事、収賄贈賄疑惑、全体の半数以上を占める無効票に、大企業との癒着、献金問題など・・・。
選挙は再びやり直しとなったが、この問題は支持する党の間で大きな対立を作るきっかけとなった。
そしてやり直しの選挙投票の開始日に、更なる大問題が起こった。
3月9日朝。共和国中を震撼させる大事件が起こった。
「自由・共産両党の立候補者が、どちらも自室で遺体となって発見される」
そう、暗殺である。
前回の疑惑が渦巻いた選挙から溜まっていた国民の怒りはここに来て噴出、自由派と共産派の対立は一気に深まり、国内各地で過激派による暴動が発生する事態になった。
警察や軍の出動も検討されたが、そもそも暗殺された選挙の候補者は自由党は警察庁長官、共産党はドリム軍大元帥だったこともあり、何の意味もなかった。
瞬く間に警察と軍は真っ向から対立、暴動はとどまるどころかみるみる過激さを増していくこととなった。
軍を中心とした共産党支持者たちは自らを「ドリム解放戦線」と名乗るようになり、暴動はやがて「内戦」へと発展した。
そして、この内戦はのちに近隣諸国をも巻き込み、大陸全土へと広がってゆくことになるとは、誰が予想しただろう。
一方、場所は変わってユドナ大陸の西端に位置するラトアニカ王国。
大陸の中でも特に地下資源が豊富なこの国は、30年ほど前に押し寄せた近代化による化石燃料の大幅な需要増加により、かつてないほどの大きな発展を遂げていた。
国民の生活環境はこの大陸の他の国よりもはるかに高い水準となり、特に王都アラルシティはユドナ大陸一の巨大都市として発展していた。
潤沢な国家予算を元に国王チェド12世の命でラトアニカは強兵の政策を掲げ、強大な軍隊が組織されることとなった。
ラトアニカ王国の兵力としては一般の軍の他に、「工作員」と呼ばれる組織も存在している。これは、軍が介入できないような局所的な戦いや、発覚したら国際問題は避けられないような任務といった、いわゆる「裏の仕事」を行う組織だ。
工作員はその名前こそ他国にも知られていたが、具体的にどういった組織であるかを知るものは少なかった。だがラトアニカ王国では、国民的に非常に人気が高い職業となっており、まさに国を代表するエリート集団という扱いを受けているほどであった。
だが、工作員になるためには非常に厳しい筆記試験に加えて実技試験もあり、仮に合格したとしても過酷な訓練の毎日が待ち受けているという、とても苦しい職業でもあった。
急成長を遂げるラトアニカでは、ユドナ大陸のどの国よりも、強い資本主義の考えが行き届いていた。それゆえ、ドリム解放戦線の手による共産国家の誕生をどこの国よりも警戒していた。内戦勃発からのドリム解放戦線有利な戦況は他国の為政者を焦らせた。
ラトアニカ国王チェド12世はこうした事態を重く見て、隠密行動が可能な工作員の出撃を命じる。ドリムの自由派の手助けをひそかに行なって、革命が起こるのを妨害するというのが狙いの作戦である。
そして、この作戦に参加する工作員たちの中には、まだこの仕事について間もない新人も数多く含まれていた。
彼らにとっては、初めての戦場だった・・・