脳内妄想が、言語化、できない……。
9月になって暑さが少し和らいできた。現在私は悩んでいる。一条の次男との偶然を装った出会いについてである。旅行先で出会うことを決めたのはいいのだが……たぶん、カーディナル・ジョージこと吉祥寺真紅郎も一緒にいるはずだ。どうやって怪しまれずに接触するか……やはりここは固有能力の出番なんだろうな。
一つ、確認しておこう。私は身内の心を操るようなことはしたくないし、この固有能力はほとんど敵に対して使ってきた。身内に使うと後で罪悪感に耐えられなくなるのは分かりきっている。沖縄でお兄ちゃんに対して使ったのは辛かった。だが、固有能力なしでは叔母様の要求を達成するのは難しいだろう。だから、線引きをしようと思う。直接感情を操るのは禁止、読心と軽いきっかけを与えるのはいいということにしよう。軽いきっかけとは相手から私に話しかけさせる、などの行動を促すことを指す。あとは臨機応変に対応しよう。
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10月中旬、いよいよ初戦の時である。旅行先でファーストコンタクトを達成する。連れていけるのは七波ちゃんだけだし、ほとんど自分でやらなければならない。注意点としては、ある程度仲良くなるまで四葉だと知られないこと。恐れられたら恋愛どころじゃあないからだ。
「さあ行きましょうか、七波ちゃん」
「はい、お伴します」
「行ってらっしゃい、深咲」
「行ってきます。頑張ってくるわ」
キャビネットに乗り、旧群馬県へと向かう。行き先は大昔からある老舗の温泉宿だ。
駅からはコミューターを使う。宿の前まで来ると、源泉から湯気がごうごうと立ち上っているのが見える。この温泉のメインエリアと言える
「御予約の司波様ですね?お部屋は1015室でございます」
そう、この旅行には司波の名前で来ている。まだ四葉を名乗ることは許されていないからだ。
部屋の中は驚くことに洋風で、ベッドが二つ並んでいる。荷物を置いてベッドに腰掛け、
「まだ来ていないわ」
「それまでどうします?せっかくなので温泉でも入りますか?」
「そうね。時間が勿体無いものね。どうせだから楽しんじゃいましょ」
着替えを持ち、二人で温泉へと向かう。大浴場は二つあり、深夜の掃除を経て男女入替されるそうだ。
個別ブースで身体を洗い、湯着を身に付ける。湯船の側で七波ちゃんと合流し、湯に浸かった。早い時間だからか、他に人はおらず貸切状態である。湯の温度は少し温めで、長時間浸かるのにはいいかもしれない。
「受験の準備は順調かしら?」
「ええ。深咲様には及ばぬまでも、上位成績を取れるように精進しております」
正面玄関を監視しながらおしゃべりをしていると、一条一家がやってくるのが見えた。もちろん吉祥寺真紅郎も一緒である。
「来たわ」
「急いで出ますか?」
「ゆっくりでいいわよ。あまり焦っても仕方ないと思うわ」
湯船を出て、ゆったりと着替える。相変わらず誰も入ってこない。貸し切りになってありがたいことではあるが。
大浴場から出て、部屋までの道のりを歩いていると、受付付近に不穏な雰囲気を感じた。
「金を出せ!」
大柄な男が宿のスタッフに刃物を突きつけている。強盗だ。
私は七波ちゃんに目配せをし、無系統の共鳴によって男を気絶させようとした。
「えっ……相克!?」
「なっ……しまっ……」
近くから声が聞こえた。七波ちゃん以外に他に魔法師がいたのだろう。相克によって魔法式が作用していない。
流れるように
「今のはまさか……グラム・デモリッション!?」
「知っているのか、ジョージ」
外野が何か言っているが、スルーして改めて共鳴を使う。宿のスタッフに拘束できるものを持ってきてもらい、七波ちゃんが気絶している男を縛り上げる。あとは警察に連絡すれば、一件落着である。
さて、落ち着いたのでいい加減現実を見なければならないだろう。さっき聞こえたジョージというのはもしかしなくても吉祥寺真紅郎のことですね。なんということでしょう、必死に考えた出会いのプランが台無しに!
そして私は想定外の出来事に弱い。沖縄の件からも明らかだ。うろたえないようにしっかりと気を引き締める。
振り返って目を合わせ、にこやかに話しかける。
「こんにちは。先ほどの魔法師の方ですね?警察へ事情説明をしなければなりませんので、一緒にお待ち願えますか?私は司波深咲といいます」
「私は桜井七波です」
「も、もちろんです。先ほどはお見事でした。自分は一条将輝といいます。よろしくお願いします」
「僕は吉祥寺真紅郎です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
自然に時間を共有できる言い訳ができたと思う。そう思えばこの事件も良かったかな。宿側にとってはたまったものではないだろうが。
「あの魔法式をかき消したのはグラム・デモリッションですよね?」
吉祥寺真紅郎が質問してくる。確か原作でも司波達也のグラム・デモリッションに驚く描写があったと思う。
「ええ、私はサイオン保有量が多いらしいので。よかったらロビーのソファでおしゃべりしながら待ちましょう」
「吉祥寺さんってもしかして、カーディナル・ジョージですか?」
「実はそうなんだ。よく分かったね」
ソファに移動すると、気を使ってくれた七波ちゃんが吉祥寺真紅郎に話しかけている。私も頑張るとしよう。
「お二人はおいくつなんですか?」
「二人とも15歳です。中学3年生ですね」
「まあ、私たちと同級生だったのですね。高校は、魔法科高校に行くのでしょうか」
「ええ、第三高校を受験予定です」
知っているけど、知らないふりをして話す。ちょっとお姉ちゃんのような話し方になっているのは、もちろんわざとだ。
「あら、私たちも第三高校の予定なんですよ。お互い入学して会えるといいですね」
笑いかけると、一条将輝が赤面した。おお、これはいい感じ?
読心を使ってみると、どうやら気を引けてるみたいだ。順調順調。
とはいえ、いつまでもお姉ちゃんみたいに淑女然とした態度ではいられない。もちろん、当主教育のなかに淑女教育も含まれていたため、今のように取り繕うことはできる。ただ、お姉ちゃんとは違い、心の底から淑女になれたわけではない。いつかはもっと砕けた関係になりたいと思う。まだ早いか。
互いに自己紹介を兼ねた雑談をしていると、予想より早く警察官が到着した。
被害者の宿のスタッフと魔法を使った私と一条将輝、犯人を縛り上げた七波ちゃんが事情聴取を受けたが、気絶にとどめたこともあり特にお咎めはなかった。原作の魔法師排斥とかを知っているので、少し緊張していたのだ。よかった。
事情聴取が終わると、当然解散になる。ファーストコンタクトの成果がもう少し欲しかった私は、固有能力を使った。
「あの、司波さん!よ、よかったら、メールアドレスを交換しませんか?」
「はい、いいですよ」
ターゲットのメアド、ゲットだぜ!
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「予想外の事態だったけど、思ったより楽にいけたわね」
「そうですね。あそこで事件がおこるなんて……でも、ファーストコンタクトは上々でしたね」
「あの男に感謝してもいいいぐらいよ。七波ちゃんはどうだった?」
「はい、吉祥寺さんとはそこそこに友好を深められたかと。アドレスも交換しました」
「あら、やるじゃない。たぶんね、三高に入学しても、あの二人は一緒にいると思うのよ。だから、一対一よりも四人で仲良くする考えでいた方が上手くいきそうね」
「確かに……じゃあ一条さんとも程々に仲良くしつつ、主に吉祥寺さんと話しておきますね」
「お願いね。七波ちゃんは頼りになるわ」
「ありがとうございます」
私はいい従者を持ったものだ。彼女の支えがあるから今回みたいな任務でもやっていけるのだ。
「まあまずは、この旅行中に何度か話してある程度親密になっておきましょう」
「ですね。ところで、私のことはどう説明するのですか?メイド?護衛?」
「それがあったわね……とりあえずメイドでいきましょう。護衛がばれたときはそのときで」
「かしこまりました」
「あと、気をつけるべきはね、一条の当主にはまだ会ってはいけないということよ。今素性がばれるのはよろしくないわ。高校生になってから会いに行く予定にしてるから、そのつもりでね」
「承知しております」