3話
私達は別荘で先に待っていた穂波さんと合流した。
「いらっしゃいませ、奥様。深雪さん、深咲さんも達也くんもよく来たわね。さぁ、どうぞお入り下さい。麦茶を冷やしておりますよ」
「ありがとう。せっかくだからいただくわ」
「かしこまりました。深雪さん、深咲さん、達也くんも麦茶でよろしいですか?」
「「はい、ありがとうございます」」
「お手数おかけします」
穂波さんは私達を対等に扱う。それを見てお姉ちゃんは不満げな顔をしている。
「達也くん、荷物運ぶの手伝うわよ」
「いえ、これくらい問題ありません」
「いいの、いいの。こういうのは達也くんより私の方が得意なんだから。達也くんも疲れてるでしょ。後は私に任せて」
「いえ、二人で運んだ方が効率的です」
部屋でくつろいでいると、お姉ちゃんがやってきた。
「深咲、お散歩にいきましょう」
「いいわよ」
二人で散歩に出かけることになった。
「お母様、少し歩いてこようと思うのですが」
「そうですか。いってらっしゃい。それと、達也を連れて行きなさい」
お姉ちゃんは不満そうだ。お兄ちゃんのことを信じられないからだろう。何の役に立つのだと無言で言っている。
「深雪さん、達也はあなたのガーディアンなのですから。達也、深雪さんと深咲さんに同行しなさい」
「かしこまりました」
散歩していると、軍服をだらしなく着崩した黒人の大男がお姉ちゃんにぶつかってきて、文句を言っている。
「痛ぇな、何処見て歩いてんだ、あぁん?」
彼らは二十年戦争の激化により沖縄に駐留していたアメリカ軍が引き上げた際に取り残された子供達「
「詫びを求めるつもりは無いから来た道を引き返せ。それがお互いの為だ」
落ち着いた口調でお兄ちゃんが言い返した。正直私も怒っているのだが、ここはガーディアンに任せるべきであろう。
「何だと?」
「聞こえていたはずだが?」
男の目が苛立ちを宿している。もう能力を使ってしまおうか。
「地面に頭を擦りつけて許しを乞いな。今ならまだ青痣ぐらいで許してやる」
「土下座をしろという意味なら『頭を』ではなく『額を』と言うべきだ」
その直後、大男がお兄ちゃんに殴りかかった。私は硬直しているお姉ちゃんの手を握った。
「大丈夫よ、絶対勝つから」
お兄ちゃんは大男の拳を受け止めていた。
「ほぅ、手加減したとはいえやるじゃないか。単なる悪ふざけのつもりだったが……面白い」
「いいのか?ここから先は洒落では済まないぞ」
完全に本気になった大男に対して、お兄ちゃんは挑発をしている。
「ガキにしちゃ随分と気合の入ったセリフを吐くもんだ、な!」
殴りかかった大男をカウンターで倒したお兄ちゃんがこっちを振り返る。
「帰りましょう」
「お兄ちゃん、さすがね」
「え……」
お姉ちゃんは驚いているが、知らないフリをする。これまで人前で仲良くしていなかったから、訳がわからないのだろう。でも、もうすぐ二人の仲は改善するはずだし、これでいいでしょう。
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今日は黒羽家主催のパーティーに出なくてはならない。次期当主候補として出席しなければならないのだが、ついついため息をついてしまう。お姉ちゃんが一緒なのがせめてもの救いである。本来ならお母様が招待されているのだが、体調がすぐれないため欠席となったのだ。
「深咲様、失礼します」
「七波ちゃん」
七波ちゃんは四葉の仕事により、今朝の合流となった。七波ちゃんが来た以上、私とお姉ちゃんは別行動してもいいのだが、基本的に一緒に行動することにしている。シスコンであることも理由の一つだが、原作との差異を確認したいのである。私の存在によってどのくらいのズレが発生しているのか、将来にどんな影響があるのか考えなければならない。もっとも、私が知っている未来も高校二年の途中までだが……。
「深咲、準備はできましたか?」
「お姉ちゃん。完璧よ。ちょっと憂鬱だけどね。お姉ちゃんもあんまり不機嫌そうな顔しないでね。私が一緒にいるから」
「やっぱり分かる?なるべく頑張るわね。さ、行きましょう」
「「ご無沙汰していますおじ様。今日はお招きありがとうございます」」
「よく来てくれたね、深雪ちゃん、深咲ちゃん。お母様は大丈夫かい?」
「お気遣い畏れ入ります。少し疲れが出てるだけだと思いますが、本日は大事をとらせていただきました」
「それを聞いて安心したよ。ささ、奥へどうぞ。亜夜子も文弥も二人と会うのを楽しみにしていたんだよ」
おそらく二人が私達に会いたがっているのは本当だろう。だが、おじ様はあえて気づかないフリをしているのだ。あの二人が一番会いたがっているのはお兄ちゃんなのだから。
「お嬢様、何かありましたらお呼びください」
お兄ちゃんがそう言うと、お姉ちゃんは不機嫌そうな顔になった。これはお兄ちゃんに対する好意が芽生えてきているのだろう。
「深咲様、私はこちらで待機しております」
「よろしくね、七波ちゃん」
お兄ちゃんと七波ちゃんを残し、黒羽親子のところへ行く。二人は私達に気づくと、満面の笑みで挨拶してくれた。
「「亜夜子ちゃん、文弥くん、お久しぶり」」
「深雪姉様、深咲姉様!お久しぶりです」
「お姉様方もお変わりないようで」
亜夜子ちゃんと文弥くんは私達の一学年下の小学6年生の双子だ。一学年下といっても私達が三月生まれで二人は六月生まれなので歳は同じだけど、二人は私を姉様と慕ってくれている。そう、私をなのだ。お姉ちゃんのことは、文弥くんは慕っているけれど、亜夜子ちゃんはライバル心を抱いているようだ。二人と話していると、文弥くんがそわそわし出した。誰かを探すようにきょろきょろと周りを見回している。
「あの、深雪姉様……達也兄様はどちらに?」
「あそこに控えさせているわ」
お姉ちゃんがお兄ちゃんの立っている場所を指し示す。
「達也兄様!」
「もう、仕方ないわね!」
文弥くんがパッと顔を輝かせてお兄ちゃんの元へ駆け寄る。文句を言いながらも亜夜子ちゃんも足早に近づいていく。
「まったく、お客様を放っておいて……」
おじ様は苦い顔をしている。私達と同じく次期当主候補である文弥くんに、ガーディアンであるお兄ちゃんと親しくするなと言いたいのでしょう。
「二人とも、達也くんの仕事を邪魔しちゃ駄目だろ」
「あらお父様。少しくらいよろしいのではありません?深雪姉様、深咲姉様はわたくしたちがお招きしたお客様。ゲストに害が及ばぬよう配慮するのはホストの義務ですもの。ここにいらっしゃる限り、達也さんのお手を煩わせることは無いと思いますけれど」
「姉様の言うとおりですよ。黒羽のガードは二人のお客様の身の安全も保証できないほど無能ではありません。そうでしょう?」
「それはそうだが……」
二人の言い分に困ったおじ様に助け舟を出したのはお兄ちゃんだった。
「文弥、亜夜子、あまりお父様を困らせるんじゃないよ」
「でも、達也兄様……」
「滅多にお会いできないのですし、たまにはゆっくりとお話してもよろしいじゃないですか」
なおも縋り付く二人に、お兄ちゃんは笑みを向けた。お兄ちゃんの笑顔なんてレアなものが見れたわ。
「黒羽さん、会場の中はお任せしてよろしいですか?自分は少し外を見回って来ます」
「おお、そうかい?それは立派な心がけだ。分かった、深雪ちゃんと深咲ちゃんの事は任せておきたまえ」
「そんな!僕たち、明日には静岡に帰るんですよ!」
「文弥、少し落ち着きなさい……ですが達也さん、さっきも言った通り、滅多にお会い出来ない上にわたくしたちは明日には帰ってしまいます。ですので早めにお戻りくださいね?」
「分かった。一通り見て回ったら戻ることにするよ。では黒羽さん、少し外させていただきます」
文弥くんと亜夜子ちゃんの頭を優しく撫でて、お兄ちゃんは出て行った。