【if】もしも緑谷出久に〝個性〟があったら 作:ウドの大木
ボロボロのノートを握りしめ、僕は帰り道を歩いていた。
〝無個性〟じゃヒーローにはなれない。わかっちゃいたけど、やはりそこに可能性を見出そうとしてしまう。そうしてるのは自分なのに、その事実に傷ついて。
そんなとき、ふと、足元に目が行く。
封筒だ。封筒が落ちている。
まるでさっき置かれたみたいに真っ白なその封筒は、僕の足先10cm、ギリギリにあって、思わず足を遠ざけてしまう。ただの封筒のはずだ。でも、拾うべきだと僕の中の誰かが言った。手に取って、裏を見る。そこにははっきりと『緑谷出久様』と書かれていた。
僕宛て?なんでここに?誰かが届ける途中で落としたのか?色々なことが頭に浮かぶが、よく考えもせずに封を開ける。
『緑谷出久様
おめでとうございます。あなたは『神の救済』に当選致しました。賞品として、あなたに『第2の人生』を送らせて頂きます。さらに、〝無個性〟ボーナスで、副賞の『〝個性〟』が与えられます。第2の人生が、幸福で、満ち足りたものとなることを切に願っております。
超常協会』
……なんだこれ?いたずらか?ていうか『超常協会』って何だよ。
手紙を鞄にしまい、歩きだそうとした。
しかし、僕は地面を踏むことはできなかった。
瞬く間に景色は変わる。
後ろから、子供のすすり泣く声が聞こえる。前には、かっちゃん含め3人の子供。
……昔の記憶だ。悲しくて思い出したか?ダメだって、"無個性"じゃなんにもできないって、さっき教えられたばっかりだろ?早く逃げろよ。お前じゃ無理なんだよ。
頭の中で繰り返す。でも、やっぱり僕は
「泣いてるだろ……!?これ以上は僕が許さないぞ!」
ああ、なんで繰り返すかな。
「"無個性"の癖にヒーロー気取りかデク!!」
手を"個性"で爆破させながら、かっちゃんは近づいてくる。子供でも、やっぱり怖い。昔植え付けられたトラウマは、そう簡単には消えない。
火が吹けたら、応戦できるのに。何かを引き付けられたら、少し事態は良くなるんじゃないか。でも、僕は"無個性"、だ。わかってたはずなのに、やろうとしてしまう。もし、個性があったなら――ほんの少し、いや、ないはずの奇跡を信じて、火を、吹こうとする。でも、できないものはできない。本来なら、四歳までに個性は発現する。僕は、来たるべき時に備えて目をつぶる。
「熱ッ!!」
「へ?」
辺りは火の海だった。いや、それはちょっと大げさかもしれないけど、とりあえず火が付いていた。なんで?どうして?いや、そんなことを考えている場合じゃない。今やるべき事は――!
「逃げて!」
「え?」
「早く!」
僕は泣いていた子の背中を押す。あの子は、そのまま走っていった。
「……よかった」
僕は、あの子が逃げられたことに安心し、胸をなで下ろす。
「……何がよかっただクソデクァ!!ぶっ殺す!!」
僕は対抗する術もなく、そのままリンチされた。
―――――
程なくして、大人やヒーローがぞろぞろやって来た。
ヒーローはみんな地元の無名ヒーローだったけど、僕はヒーローがやって来たことに感動した。
かっちゃん達は僕から引き剥がされ、事情を聞かれていた。この火は誰がやったんだと聞かれると、みんな揃って僕を指さす。
「君がやったのか?」
「よくわかんないけど、多分……」
ヒーローは首をかしげている。どうやら、『よくわかんないけど』の部分に引っかかっているようだ。
「てめぇ〝無個性〟じゃなかったのかよ!!聞いてねーぞ!!」
かっちゃんが全部説明してくれた。うるさいけど。
僕達の親が連れてこられた。僕をいじめた側の子はお母さんやお父さんにボコボコにされていた。特にかっちゃん。というか、他の子は頭を思いっきり叩かれるとか思いっきりビンタされるとかなのにかっちゃんだけボッコボコにされていた。どこがどういう風にボッコボコなのかは怖いので言えない。爆豪家、恐ろしい。
対して僕のお母さんは、怪訝そうに僕を見ている。
「……ほんとに、あんたが?」
僕は申し訳なさそうに頷く。
「勝己くんじゃなくて?」
かっちゃんなら、確かにできる。でも、多分そんなことはしない。みみっちいから。だから、再度頷く。
「…………」
黙ってしまうのも無理はない。息子に"個性"が発現したのかもしれないという喜びと、少なくとも数本の木を全焼させてしまったという罪悪感。喜んでる場合じゃないし、かと言って叱るのも可哀想。そんな感じだ。
僕等が気まずい空気になったのを察したのか、ヒーローが市の総合体育館に連れて行ってくれた。
―――――
この体育館では、軽い〝個性〟の使用は認められている。『軽い』がどの程度かと聞かれると、かっちゃんはセーフだけど、何かを破壊するとか、すごい大規模な炎を出すとかだとアウト……だと思う。多分。
で、僕はここで〝個性〟の確認をすることになった。かっちゃん達の証言から、僕の〝個性〟は火炎系だと思われるので、消火能力を持ったヒーローの監修の下で。
まず、どうやって発動するか。多分、息を吹けば発動すると思う。『火を吹く』という意識をしながら、息を吹く。口の中が、暖かくなる。火だ。
「出久ーーーーー!!」
お母さんが滝のような涙を流しながら、僕に抱きつく。そこでようやく実感が湧いて、僕も泣いてしまう。
「ちょ、ちょっと奥さん!抑えて抑えて!」
慌ててヒーローが僕からお母さんを引き剥がす。
「す、すいません゛~!」
でも、抑えられないものは抑えられない。母さんは、まだまだ涙を流す。ヒーローは諦めたようだ。
「……あの、奥さんの"個性"は?」
「わ、私はちょっとしたものを引き付けて、夫は火ィ吹きます!」
僕の"個性"は、お父さんのものを引き継いだもののようだ。なんか嬉しくて、火を吹きまくる。
「引き付ける……もしかしたらそっちもあるかも。なんか引き付けられる?」
やってみた。火が僕の手に引き付けられる。お母さんはまた泣く。
「お、そっちもか!じゃあ、これは?」
ヒーローは持っていたハンカチを僕に渡す。やってみた。ハンカチは微動だにしない。悲しい。
「……まだまだかかりそうだな……」
―――――
あの後色々試した結果、僕の"個性"は火を操る"個性"だった。ろうそくの火なども試してみたが、どうやら自分の吹いた火以外は扱えないようだ。修行すれば扱えるようになるかもしれないけど。それと、火を吹く時、自分の周辺の空気の酸素を使うので、すごく酸素が薄くなる。空気中の酸素を使い果たしてしまうと、次に自分の体の中の酸素を使う。だから1秒もしないうちに酸欠でぶっ倒れる。強力な“個性”だが、デメリットが命に関わるので、あまり使うことはできない。元々無許可での"個性"の使用は禁止なんだけど。
あと、お母さんは終始泣いていた。泣いていたので脱水でぶっ倒れた。僕も"個性"の使いすぎでぶっ倒れて、親子揃って病院送りという恥ずかしい結果になった。
体育館からの帰り道、かっちゃんとかっちゃんのお母さんと会った。かっちゃんのお母さんはかっちゃんの頭を地面にめり込ませて謝らせていた。かっちゃんは僕に気づいた瞬間ものすごい目つきで僕を睨んできた。やっぱり爆豪家怖い。明日学校で会ったらボコられそう。かっちゃんに限ってそれはないと思うけど。
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