伽藍洞の比翼   作:窓色未草

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翼の生えた靴

 剣の国クシフォスの首都ヒルトネインの端には、一般的な二階建ての民家の倍以上ある壁が建てられている。その役割は退魔の力を伝達および保持し、人類と外界を遮断することで外部から訪れる魔族や"死霊(アンデッド)"の視線などから守ることである。

 

 人類の敵対種である怪物達はどれも人間の成れの果てだ。だから怪物達は未だ人であることができていることを妬み、その命を貪ることで生き返ろうとする。もはや心も無くなっても欠けたソレを追い求めて狂乱する。故に、退魔の力をもって距離を離し、人の姿を隠すことで襲撃を大幅に減らすことができる。彼ら求めるのは人の命で、その創造物ではない。

 

 そうして距離を離すことで人類三大繁栄地とも呼ばれるヒルトネインは、人類の安息の地として存在できているのだ。

 

 そんな壁を越える唯一の経路である大きな門のすぐ内側に並び立つ建物の中で一際目立つ、白塗りの大きな建物その入り口から出て来た影が二つ。二人は黒色の生地に青と黄の刺繍が施された服を着ている。しかし細部に細やかな違いがある。

 

 男の服は、肩に鞄のホルダーが取り付けられていて生地も厚く目も粗い。それは丈の短いコートのようになっていてその下の生地は黒一色で目も少し細かくなっている。袖は肘より少し長い程度だが、ズボンの裾は足首の辺りまで伸びている。靴は革を貼り合わせて作ったブーツだ。

 女の服は、男物の服と比べ大分シンプルだ。刺繍の飾りは幾分か多いが、ゆったりとした作りで袖も手首の辺りまで伸びている。長袖のズボンの上にスカートを穿いていて脹脛(ふくらはぎ)ほどまである。靴も革で作られているがオーソドックスな形である。

 

 男は、肩のホルダーに鞄の紐を留め、背に盾と布で包んだ剣を背負っている。腰には水筒といくつかの袋が結わえ付けられていて、盾の内側に半ば隠れるようにして腰の後ろにナイフが取り付けられている。鞄には外套を畳んだ状態で縛り付けている。

 七歳の頃から変わらない白髪赤眼と、透き通るような白い肌を持った彼は、高い背を持ち中性的な顔立ちをしてころころと表情を変えている。そこだけ見れば女にも見えるが、細いながらもよく鍛えられた体を見れば性別を間違える人も少ないだろう。

 

 女は、外套が縛り付けられた鞄の紐を無造作に肩にかけ、手には青い宝石が取り付けられた身の丈ほどの杖を持っている。背に二本の筒を背負い、腰には男と同じく水筒、袋、ナイフが取り付けられている。

 親譲りの容姿で、日の光にあてられてようやく色が分かるようになるほど深い青色をした髪と目を持つ色白の彼女は、男よりも頭一つというには高く、拳二つというには低い

背を持っていて、だいたい視線の口元辺りにくる程度の背を持った中背である。常に澄ました顔をしていて、整った顔立ちも合わさり冷淡という印象を受ける。

 

「王都到着、浄化完了、旅は順調言うことなしだな」

 

「なにいってるの。路銀にあまり余裕はないのでしょう?」

 

「大丈夫。すぐに尽きるというわけでもないし、また稼げばいいさ。そのために王都まで来たんだ。最初は厳しいだろうけど真面目にやっていれば何とかなるさ。ギルドは門を広く開いているってよく聞くし、彼処まで大きい組織だとちょっとやそっとのことじゃあきっと動じないだろ」

 

「……本当に大丈夫なのかしら」

 

 彼らは十七歳と十六歳になったヒースコートとアメリア。二人は冒険者になるために王都を訪れていた。何をするにしても先立つものは必要だ。あるかどうかもわからないものを追い求める旅ともなればなおさら避けられない問題となってくる。それを解決するためにギルドに登録しようというのだ。

 

 ギルドは三国を跨いだ国境を超えた組織で、商人や吟遊詩人、冒険者(傭兵もどき)などの旅する人々を管理している。その活動は、各地の製品の規格の統一および、価格の格差が必要以上に広がることを抑制すること、各地に安定した宿と食事処を用意すること、戦力派遣および管理、身分の証明による不信の軽減、全国指名手配処置など多岐に渡る。

 その中でも自分達の戦力を売ることで、身の証を立てることができ、サービスを受けることができて、大怪我を受けない限り食いはぐれる可能性が低い冒険者登録は彼らにとってとても都合が良いものだった。長期間の拘束もなく、むしろ旅を推奨されている。各地を回るための足場作りとしては最適と言える。

 

「えっと……。確かこの辺りのはずなんだが……、どこだ?」

 

 彼らは話しながらも道沿いに城の見える方向へ、つまりは内側へと足を進めていた。予(あらかじ)め門番や聖堂で道を尋ねていたため、目的地のおおよその特長は掴んでいる。そこは初めて訪れる人も多いため、立地からして迷い難い場所を選ばれているので迷った心配は無い。

 だから彼は聞いた場所に着くと辺りを見回して看板を探す。

 

「向こうにあるのがそれみたいね」

 

 一足先に見つけていた彼女は顎をしゃくり示した。

 そこに掲げられた看板にはギルドのシンボルである翼が生えた靴と冒険者を示しているであろう一振りの剣が描かれている。

 

「成る程、確かに靴と剣ね」

 

「きちんと剣も見て入れってのはこういうことだったのか」

 

 辺りをよく見回すと翼が生えた靴が描かれた看板を掲げた建物がちらほらと点在している。どの看板も翼の生えた靴が、竪琴や小さな袋とメダル、など様々な意匠とセットで描かれている。

 

「よし、それじゃあ行くか」

 

 暫し冒険者ギルドの看板を眺める二人だったが、ヒースコートはふと視線を逸らすとアメリアの手を取って問うた。

 彼女の手は強張り、緊張しているのが分かる。息を呑んで、目が揺れたのが目に映(うつ)った。彼女は人が多いところが苦手なのだ。

 

 無論この道にも人は大勢通っている。赤い髪、青い髪、緑の髪、或いはそれらの合間から飛び出た多種多様な獣の耳。中には不自然に長く、尖った耳を持つものや、辺りの人と見比べると埋没してしまいそうなほど低い背を持ちながら腹の辺りまで白い髭(ひげ)を伸ばした男など、個性的な容姿の面々が歩き回っている。

 しかし彼らは此方を注視することは無いだろう。ただ、歩いているだけの何処にでもいる二人を見るものは少ない。精々看板の前に立ち止まった二人を生暖かい目で眺めながら歩き去った人位なものだ。

 

 しかし、此処から先となると話しは変わってくる。

 ギルドに入れば中にいる人々は確実に此方を見るだろう。物音がした方向を確認する本能が働いた。来客を確認した。それが敵ではないかという警戒心、敵ならば殺せる相手なのかという観察。

 理由は様々だろうが、確実に此方を図る視線が自分を貫くだろう。それは彼女のトラウマを刺激するのだ。

 

「―――ええ、行きましょう」

 

 しかし、彼女は消え入るような声だったが、確かに頷き、彼の手を握った。

 だから彼は彼女に笑顔を向けた後、その表情を引き締めた。それは見るからに真剣さが伝わってくる顔だった。

 

「こんにちは」

 

 彼は一声掛けて扉を開ける。彼女を庇うように前へ出て繋いだ右手を後ろ手に回しながら中に向かって声を掛ける。

 

「冒険者ギルド、ヒルトネイン支部へようこそ。

 本日はどのようなご用件でしょうか」

 

 足を踏み入れてまず目に入ったのは正面にあったカウンターだった。横幅には余裕があったが、そこにいたのは一人だけだった。亜麻色の髪をショートヘアしている彼女は軽く微笑みながら此方に呼び掛けてきた。

 返答する前に軽く店内を見回すと、右側が大きく開いていて、人が集まる酒場になっていること。左側にもう一つカウンターがあることが見て取れた。

 

「此方の方で冒険者登録ができると聞いてきたんだが、合っているか?」

 

「ええ、此方で合っています。

 お連れの方も同様の件ですね」

 

「ああ、そうだ」

 

 肯定の意を返すと受付嬢の彼女は背後に一声掛けた。

 すると彼女の背後に合った扉から一人の女性が出てきて此方に一礼をした。

 

「それでは此方の方について行ってください」

 

 その言葉を聞くと扉から出てきた彼女はカウンターから出てその脇にあった扉に入っていった。

 

▼

 

 彼女らは扉を抜け、廊下を数分歩いた先に扉が二つと二つの椅子の机がある窓一つ無い部屋にたどり着いた。

 金髪の彼女は此方の後ろで扉を閉めると同時にアメリアの此方を握る力の強さが増した。彼女は彼が自分の目を見たと同時に彼の顔から視線を引き剥がし辺りを見回した。彼は何かがあると当たりをつけ、聖術を用いて体から霊体を広げ、霊的知覚範囲を拡大する。そうして壁や床に触れると何かの薄い膜があったらしい。アメリアの表情や手の筋肉の動きから察するに、彼女は緊張状態に入っていないことが読み取れ、どうやら危険性が薄い物であると彼は判断した。

 

「どうぞ、お腰掛けください」

 

 そういって金髪碧眼の彼女はソファーを指し示した。

 

「……どうも」

 

 ……初めて訪れた場所で個室に案内される時にはあまりいい印象はない。前に一度不意打ちされたことを思い出して不快だ。初めて人の本気の殺意を向けた時と同じシチュエーションで気に入らない。

 

 彼は部屋の中を軽く一瞥し、不自然な箇所がないか確認する。同時に辺りの気配を探り不意打ちを警戒した。その後彼はアメリアの目を見て様子を確認した。彼にはわからず、彼女には分かるものもあるのだ。

 彼女は軽く目を瞑(つぶ)り首を横に振る。どうやら罠の類(たぐい)は見面の席に着いた。

 

「それではギルドに加盟したいとのことですが、幾つか説明事項があります。ご清聴のほどよろしくお願いいたします。

 それではまずギルドの行動理念について説明致(いた)します。私達の目的はただ一つ、千年前の悲劇を繰り返さないことです」

 

 ……千年前?

 

「確か文明が滅んだとかその程度ぐらいしか知らないんだが」

 

「魔神のこともでしょうか?」

 

「その犯人だというくらいだな」

 

「……わかりました。

 魔神についても多少解説致します。

 まず前提としめ魔神とは今まで一度も人類に観測されてません」

 

 ……待て。

 

「おかしくないか?

 魔神はその千年前の悲劇の犯人だと分かっているんだろう?なぜ見つかってないと言える」

 

「あまり文献に残っては居ませんが、被害が大きく、特殊であったため魔神しか起(おこ)し得ないとされたと伝わっていますね。

 なんでも今全世界に広がっている魔力の海は魔神の残滓だそうです。

 通常保有者が死亡すると同時に霧散し自然(マナ)に還るはずの魔力が"魔法"により永久化され、なおかつ全世界に広がるほど多大な量を持つにはまともな人間には有り得ないそうです。

 そもそもたった一晩で世界中の主要都市を文字通り消滅させ、当時の人類の九割を皆殺しするなんて有り得ないことですしね」

 

「……ますます意味が分からない。

 魔力がどうのこうのとか、一晩で世界を滅ぼし掛けたとかはひとまず置いておこう。

 何故そんな怪物が観測されていない?目にした人物は皆殺しにされたのでだろうことは分かる。だが、予兆はあったはずだ。怪物に至るまでの過程が。それが分かれば魔神は間接的にでも観測されているはずだ」

 

「予兆はありましたよ。

 今もその予兆はあります」

 

「……は?」

 

「ダンジョンこそがその予兆です。

 風の噂で聞いたことはありませんか?

 入ったら二度と出てこられない場所がある。あの凄腕冒険者がダンジョンを攻略した。そんな噂話を。」

 

「……ちょっと待て」

 

「分かりました。あなたの理解が落ち着くまで幾らでも待ちましょう」

 

 ……。

 

「―――なら何故ダンジョンを壊していない。

 ダンジョンが魔神と関係があると何の根拠があって言える。

 ダンジョンが今もあるとして何故この世界が滅んでいない。

 いや、そもそも"一晩で"、"観測"されていないというなら過去の魔神とやらは死にでもしたのか?違うか、そのダンジョンの中に隠れたのか?」

 

「何故ダンジョンを壊していないか、その答えは単純です。今もギルドの総力を上げて一つ一つ潰して居ますよ。それでもまだ三桁ものダンジョンがこの世にあるのです。」

 

 ……。

 

「ダンジョンはそれ単体では大した脅威ではありません。精々中から大量の魔物が這い出してくるだけです。

 ダンジョンと魔神の関係性の根拠ですが、千年前の生き残り、今では古代魔道文明と言われていた彼らの生き残りが記憶していた文献の情報です。

 私も詳しくは知りませんが、ダンジョンは本来城という意味があります。つまりダンジョンとは単なる通称です。正式にはこう呼ばれています。

 ―――魔王迷宮と。

 ダンジョンとはつまり魔王(ダンジョンマスター)とは呼ばれる存在を守るための砦にして狩場。

 竜脈(レイライン)に流れるマナを貪り、魔力に変化、安定化させ規模を拡大させることを繰り返しほぼ無限に力を増し続ける。その果てにダンジョンという繭を破り、魔神(アークエネミー\世界の敵)と呼ばれる存在となり自由に行動できるようになるだろうと推論されて居ました。

 通常魔術は、魔力は魔界から現象を呼び出すだけで何かを減らすことはありません。しかし高密度の魔力はあらゆるものを消滅させます。この現象は魔王で確認しています。極々小規模かつ稀ですが、純粋なる魔力属性によって同じ現象を人間にも起こせることも確認済みです。」

 

 ……。つからなかったようだ。

 

 二人は警戒を完全に解くことなく、しかし緩めながらソファーに座る。金髪の彼女も対

 

「魔神がダンジョンに隠れているのではないかという疑問にはお答えできません。死亡も確認されていなければ生存も確認されていませんから。

 千年前に存在していたダンジョンはすべて無くなっていますが、ほかのダンジョンに移っていないという保証はありません。

 ……少し話し過ぎましたね。申し訳ありません」

 

 頭の中で考える。どうすれば魔王を殺せるか。何度も繰り返し思索する。しかし出る答えは同じだ

 

 ……こんなものどうしろってんだよ。

 

「……それにしては冒険者達は随分と気楽ね。

 なんで彼処(あそこ)まで気負わずに居られるのかしら。

 ―――ねぇ。あなたはどう思うの?」

 

 アメリアの左手からヒースコートの右手へ、熱が伝わる。行き過ぎていた思考が彼女の声を聴いて落ち着きを取り戻し、視界が開ける。

 

「ほかの冒険者にはあまり深く話していないと言うこともありますが、すべての魔王が魔神になるわけではないからだということが大きな要因だと思われます」

 

「どのくらいの確立でそうなるの」

 

「正確な値は残っていませんが非常に低いようですね。

 ダンジョンの多くは攻略するまでもなく自然消滅しています。過去の文献や魔王討伐者の証言から推測するにダンジョンの維持は魔王に大きな負担をかけているようですね。負荷に耐え切れず自滅したのでしょう。数は少ないですが発見から五百年ほどで消滅した例もありますが、これは魔王の寿命が尽きたのでしょう。どんな生物も六百年を越えて生きることは不可能ですから。

 それぞれの要素を合算して考えても万に一つもないでしょう。」

 

「……そう」

 

 アメリアの言葉を機に息を吐く。知らず知らずの内に気負い過ぎていたようだ。

 

「ありがとう、アメリア。」

 

「どういたしまして」

 

 彼女が素っ気なく言い放ちそっぽを向くが、その口角は僅かに上がっていたのが見えた。

 

「……ひとまず落ち着かれたようで何よりです。

 さて、長々と話しましたが今の話の結論としてはこうです。

 "高みを目指せ"。

 我々は常に人材不足です。食べていける程度に力を手に入れた時に鍛錬をやめる方もいますが、私達としては強くなることを諦めないで欲しい。そして、できれば帰る場所を持っていても安住はしないでほしいというのが本音ですね。

 

 そこであなた方に尋ねたいことがあります。魔王について私はあまり世間に知られていない所まで踏み込んで話しました。その事実についてあなた方は何を思ったか教えて頂けませんか?」

 

 ……なにを思ったか、か。

 

「どうやって魔王を殺すか。その答えが見つからなくて焦燥を覚えた」

 

「……とくに何も感じなかったわ」

 

 金髪の彼女は小さく視線を下げ、軽く考え込む。

 

「ここでの態度と合わせて考えると白髪のあなたは思考が戦士よりで物事を背負い勝ちなようですね。思考を止めなかったのは私達は評価しましょう。フロクールさん、でしたか。あなたは隣の方を深く信頼しているようですね。彼の焦燥を感じ取ってそれを払拭するために口を開いたのでしょう?あなたは対人恐怖症の気(け)があるようですし」

 

 アメリアは目伏せた。

 

「さて、遅くなりましたが自己紹介をしましょう。私はアインシーネ・ウィンチェスター。ギルドの幹部で、このヒルトネイン支部に勤めております。以後お見知りお気を」

 

「……ヒースコート・オノエラだ。ヒースと呼んでくれ」

 

「……アメリア・M・フロクール。よろしく」

 

「ヒースさんにフロクールさんですね。よろしくお願いします。

 次は冒険者ギルド内のランクについて話したいと思います。ランクは二種類あり、 戦闘評価 と 信頼評価 に分かれています。

 それぞれ一から十までランク付けされていますが、実質一から六までしか基本的には使われません。

 戦闘評価で七以上を目指すなら少なくとも人外にでもならないと無理です。王国騎士団の騎士なら片足どっぷり浸かっている者も割と多いのですが、そこまで求めるのも酷でしょう。

 信頼評価ではダンジョンを攻略しなければなりません。これは社会的信頼性を評価しているのではなく、ギルド内のものを示していますから。本気で仕えろと言うことですね。

 この信頼評価が一と二の時は各国首都のギルドでしか依頼を受けられません。優遇の類(たぐい)も一切ありませんし、むしろ所属証明書を用意する際に得た個人情報を必要とあらば国側にリークすることもあります」

 

「国と繋がっているのか」

 

「ええ。若い人材を育てるにも戦場が要ります。しかし首都の周辺では魔物などの発生が少ないのでどうしても擦り合わせが必要何です。

 それに人材をとにかく集めるために手を広げた影響で情報や物質の管理や流通を行っているため国から援助金を頂いています。なので基本的には国に逆らえません」

 

「……基本的にということは例外があるの?」

 

「あくまでもダンジョン攻略が私達の目的ですから。

 次は所属証明書、通称"カード"について簡単に説明します。

 "カード"は、特殊な魔導具を用いて肉体と経験が魂に与える変化によって発生するパターンを読み取り照合することで、使用できる技能を記録し、ギルドでしか確認、編集できないようにして個人情報などと一緒に記録すたペンダントです」

 

 アインシーネは一つの黒色のプレートを取り出しました。親指と人差指でできた輪ぐらいの大きさで厚みは人の指よりは小さい程度です。

 

「これが実物です。

 読み取りは不完全な技術であるため記載されていないのに使えるという現象、その反対の現象もよく起きます何か不明な点があればお申し付けください」

 

 ……カードなのに丸板なのか

 

「……これは種族まで読み取れるの?」

 

「ええ。判別番号、登録国、種族、性別、名前、称号、能力、同調可能な時間軸の速度の簡易表示ぐらいは金の文字で傍目から見ても分かるように刻まれています。ただし、能力は括弧を閉じるように撫でれば隠せますのでそれだけで先輩冒険者の方を侮らないようにしてくださいね」

 

「……そう」

 

「まだほかにありますか」

 

「ないな」

 

「そうですか。それではもう実際に作ってみましょう。

 此方に来てください」

 

 そういうと彼女は席を立ち、入った側では無い方の扉をくぐった。

 

▼

 

 まず目に入ったのは暗闇だった。中は薄暗く、扉から射し込んでくる光が無ければ、無明の空間になっていただろう暗さだ。前の部屋のようにランプはなく、燭台が壁に取り付けられていて、それに先に中に入ったアインシーネが火を灯している。部屋の中央には机が有り、水晶玉が置かれている。

 

「この水晶玉が先(さっき)言っていた特殊な魔導具とかいうやつか?」

 

「そうですね。実際に書き込むのはその下の台になりますけど、其処で計測します」

 

 台座に視線を向けると四角い箱としか言い表せない姿だった。色は紫一色で、水晶との接合点には筒のような物が何本も繋がっていて、先程見せられたプレートが入る溝が入っている。

 

「それでは早速"カード"を作ってみましょう。どちらが先にお作りになられますか?」

 

 一歩前にでて名乗り出る。

 

「俺が先に行こう」

 

「それでは此方の水晶に手をお載せください」

 

 アインシーネは溝にプレートを滑らせ固定しながら水晶を示した。

 指示に従い、手の平を水晶玉に乗せる。

 すると金色の光が水晶の中心から零れてきた。そのまま数秒待つと光が収まり、アインシーネは溝からプレートを取り出し此方に見せてきた。

 

 

┏ ─

│____________ ×1【

  [男性][クシフォス]

   戦闘:  信頼:1

│ 『人間』『剣術』『聖術師』『魔力感知』

┗ ─

 

 

 非常にシンプルである。

 

「この空欄は?」

 

「線が名前、括弧は称号です。後で書き足します。戦闘能力はまだ計測できないので後日検査します」

 

「そうか。俯瞰視野の力は刻まれないのか?」

 

「ああ、そんな能力を持っていたんですか。一応登録はされているのですが情報が足りないようですね。またいつかパターン解析のために協力を要請するかも知れません。その時はご協力お願いしますね。もちろん報酬を払いますので」

 

「わかった。あとアメリアと技能の一部共有というべきの能力があるんだか、これは?」

 

「それは親しい仲の人には時折みられる現象ですね。二人の関係を読み取る機能はついていないので仕様となります。人の仲を測るのは無粋が過ぎますしね」

 

「そうか」

 

「次はフロクールさんですね。此方へどうぞ」

 

 アメリアの肩が微かに跳ねる。目は誰とも合わさないままに歩き、水晶に手を置いた。

 

┏ ─

│____________×1 【

  [女性][クシフォス]

   戦闘:  信頼:1

|「人間」『呪われし血族:『魔術師』:『呪術師』』『弓術』『霊視』

┗ ─

 

 そして出てきた"カード"を見てアインシーネは微かに眉を潜める。しかしすぐに何事もなかったかのように振る舞う。

 

「珍しい半称号(スキル内包型)スキルがありますね。スキル表示は、所有者が括弧の両端を離さず触れることで消えるので、括弧をずらしてなぞれば中(なか)のスキルを一つだけ残すということもできます。ぜひお試しください」

 

 アメリアは言われるがままに"呪われし血族"と"呪術師"の表示をなぞり、消した。

 

「能力表示を戻したい時は種族を二度軽く叩き、そのまま横に撫でてやればもとに戻ります。滅多に使うことは無いと思いますが、一応覚えておいてください」

 

「……ありがとう」

 

 アメリアは小さく呟いた。疑問はあるだろうがそれを押し殺した彼女の沈黙に感謝の意を示したのだ。

 

「どういたしまして」

 

 対してアインシーネの対応は変わらない。事務的に相手の目を見据えながら無感情に言葉を紡ぐ

 

「さて粗方作業は終わりました。次に戦闘能力の評価を行う為に一つ依頼を受けてもらいます。審査官兼護衛の冒険者を斡旋しますので、二日後にもう一度ギルドにご訪問ください」

 

「わかった」

 

「一つお聞きしたいのですがお二方はもう宿の当ては有りますか?」

 

「いや、無いな」

 

「そうですか。それならば私は夕刻の風切羽亭をおすすめしましょう。」

 

「夕刻の風切羽亭?」

 

「ええ。あの宿屋は引退した冒険者が経営しています。|戦闘評価 六≪人類最高峰≫の優秀な魔術師だった方ですので、セキュリティ面も優れています。彼女は真面な方でしたし、相談相手としても頼りになるでしょう。お値段は多少張りますがそれに見合う価値はあるでしょう」

 

▼

 

「夕刻の風切羽亭へようこそ!二名樣のお泊まりですか?」

 

 当てもなかった彼らは進められるがままに宿を訪れた。出迎えたのは赤髪の少女。十代後半ほどだろうか。朗らかな笑みは見るだけで心を落ち着かせるだろう。古今東西美女の笑みは人を魅了し、癒すものだ。男は特に。

 店内は木の茜色をもとに、白色の漆喰で清潔感溢れるデザインだ。脇に階段と通路が見えて、直ぐに部屋に入れるようになっているのが窺える

 

「ああ、そうだ。ギルドの紹介で来た」

 

「ギルドの紹介ですか?ということは新人冒険者の方ですか?はじめまして、私はエイミー・ラークスパーです!」

 

「ヒースコート・オノエラだ。取り合えず二日間宿を取る予定だ。よろしく頼む」

 

「アメリア・フロクール。よろしく」

 

「ヒースコートさんにフロクールさんですね。よろしくお願いします!二日ということは試験がそれくらいに始まるんですね?」

 

「ああ、そうだ」

 

「なら一応部屋を開けて置くようにしますね。時々日帰りになって宿に困る人も出るみたいなので。今は空き部屋が多いので大丈夫だと思いますが、出来れば日が暮れてから宿を探し回るなんて辛いですから。

 勿論泊まらないならお金は貰いません。新しく冒険者になる皆さんがこの宿を好きになってもらうためのサービスです!」

 

「ああ、ありがとう。あと向こうの方で元冒険者が経営していると聞いたんだが」

 

「お母さんのことですね。お母さんは凄いんですよ!炎をギューンって操るんです!壁に張り付いた虫を、壁に焦げ目残すことなく焼くことだって出来るんですよ!もし悪い人が来ても安心です」

 

「そんなことが出来るのか?普通熱で焦げるだろ」

 

「魔術だから出切るのよ。聖術は、進化或いは成長を先取り、促す異能。対して魔術は、魔界から魔力を精製し、魔界から己にあう可能性を召喚する力。そして可能性という不確かな物を魔力で持って補強するの」

 

「つまり?」

 

「魔術によるは実体の有る幻のような物で、そこ映像の外に影響を与えることはとても難しいの。だから精密に狙うことが出来るなら焦げ目をつけないことも出切るっていうこと。聖術に魔術が勝る数少ない利点ね」

 

「成る程な」

 

 ……聖術が自分を傷つけることが基本ないように、魔術は特定の範囲しか傷つけないということか

 

「お話しは済みましたか?」

 

「ああ、すまない、待たせたな。もう終わった」

 

「それじゃあ部屋に案内しますね。何かご要望は有りますか?」

 

 アメリアに視線を向ける。アメリアは此方を見ながら小さく頷いた。どうやら此方に任せるようだ。

 

「何も無い」

 

「そうですか。それでは此方へどうぞ!」

 

 そうして青色の服を来た二人は寝床を手に入れた。

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