伽藍洞の比翼 作:窓色未草
旧設定のままだったので修正しました。
「おはようございます」
一昨日くぐったばかりの扉をふたたび開くと、その先に金の髪色が正面に見えた。アインシーネ・ウィンチェスター、一昨日は建物の奥に居た彼女がそこにいた。
「おはよう。あなたは表によく出るのか?」
挨拶を手短に済ませ、疑問を口にする。
奥に居て、わざわざ呼ばれたということは、それなりに重要な役職についているか、完全な分業になっているだろうと思う。なぜならあの"カード"は秘密が多いのだろうから。
それを扱わせるのだから、その仕事に専念するか、内側で仕事をし、わざわざ危険に身を晒す必要は無いだろう。
だから、彼女とは滅多に遇わないものだと思っていたから、驚いた。
「此方側には出てこないものだとばかり思っていた」
アインシーネは、苦笑するように言葉を口にした。
「確かに私は普段表に出ない裏方ですが、人々の雰囲気を見聞ではなく、肌で感じなければいけません。人の情報を僅かといえど管理しているのですから」
誤認を防ぎ、異変に気づくには一番だと彼女は話す。納得を得て、それを笑みと首肯で示した。すると彼女は視線を下げる。
「"カード"の受け渡しの件もありますし、いい機会だったので。ヒースさんは此方の、フロクールさんは此方プレートです」
カウンターの下から引き出してきた板を両手に持ち、差し出している。俺とアメリアはそれぞれ手に取った。
先日見たばかりのソレでは空白だった部分にそれぞれ、ヒースコート・オノエラ、アメリア・フロクールと書かれている。だが、当然ながら戦闘評価の部分は空欄のままだ。
そして、空いていた穴に黒の細糸が通されていた。
「確認をしましょう。本日は試験にいらっしゃったのですね?」
「ああ」
アメリアと共に首肯した。旅をするには危険が付いて回るものだ。この試験はきっと、対処出来るか確認すること、対処法を教えることが目的なのだろう。
「それでは試験内容について軽く説明しましょう。
試験は信用ができるとギルドが判断した、現役冒険者、或いは退役冒険者と共に、実際の依頼に参加することになります。その際、報酬は支払われますが半額となります。
その際選ばれる冒険者が、依頼の内容を決定するします。冒険者は試験中、あなた方の身の安全を保護することが義務付けられていますが、それは絶対のものではありません。毎年一定数の死者も出ています。
あくまで彼等幅は保険であり、あなた方の生存を保証する護衛では無いことを留意してください」
その言葉に再度頷く。彼等も人なのだ。絶対なんて言葉で括れないことはわかっているし、そもそも俺達は冒険者なのだ。冒険者とは旅人であり、旅とは星を読み、風の声を聞き、まだ見ぬ地平へ赴くこと。
何もかもが未知である彼の地に
つまりは、
「人の弱さを知らないような若造が思い上がるなよ、ということか」
「……何ですか、その言い方」
「違うか?」
「いえ、否定はしません。否定はしませんが……」
溜息がひとつ。
「先達にコネと教えを乞う機会を作った、ぐらいに解釈して貰いたいものですね」
「そうか」
心なしかジト目になった彼女の視線を受けながら、相槌をひとつ返す。
確かに信用が出来ると
つらつらとそう考えていると、彼女は咳払いをした。
「それでは、顔合わせをしましょうか」
「ああ、頼む」
「お願いするわ」
その言葉を受け、彼女は此方の背後に目をやった。その目は微かに笑っているように感じる。その視線は、此方より、頭一つ分高い。
「もういいですよ、フィンチさん」
「おう、後は任せろ」
背後から聞こえる声は、男の声だ。若々しさの残る声をしている。その距離は大凡四歩ほどだろうか。半端な距離だ。剣を振るうには僅かに遠い距離だ。
アメリアと繋いでいた左手を離し、右足で一歩前進する。そのままアメリアを視界に納めながら背後に振り向き、半身を向ける。
いざとなれば払えるように、右手は緩く握って、体の輪郭で自然に隠れるように構える。剣を抜くつもりは無い。重心を一連の動きに隠しながら前に落とし、爪先に寄せる。それは移動の予備動作の簡略だ。
横目で見ればアメリアも同じように移動している。しかし、彼女は構える代わりに、杖を僅かに体に寄せ、前に出している。
彼女は短剣と弓矢を持っているが、この距離では当てにならないと考えたのだろう。魔法を使う準備をしたようだ。
「ちゃんと戦闘体勢に入ってんな。会話を放棄もしてねえ健全な警戒の範疇だ。悪くねぇな」
そこにいたのは黒い
視線は此方を捉えている。アインシーネと合わせている気配はない。
「おう、驚かせて悪りぃな。オレが試験を担当するフィンチ・レペンスだ。よろしくな」
そう言って彼は右手を差し出した。
それに応えるために右手の握りを解き、二歩前へ出る。構えは既に戻している。背後から声を掛けられ警戒したが、自分のために時間を割いて貰ったのだ。誠意を持って対応すべきでは無いかと思ったのだ。
そうして、手を握ると
「成る程ねぇ、温冷中和に防汚、撥水及び防水を始めとする一般的な
「は?ちょっと待て」
驚き手を引こうとするが、痛みを感じない程度に強く握られている。
「待たねえよ。
見たところ胸部や関節部には布を重ねて術式も強くしてんのな。関節部では柔軟性を高めて動きの阻害を小さくしてんのか。丁寧な仕事だねぇ。……首に手をやるぜ?」
「……好きにしろ」
ジト目で見ながら答える。待たない、つまりは聞かないと言っているのだ。しかし、害意は感じないし周りからの制止もない。なら、恐らく大丈夫だろう。
伸ばされた手が此方の首に寄せられた。触れ合うほどに近くしたかと思えば、指で叩くように往復させる。
「ああ、何かと思えば、障壁かい。それも一定以上の速度に自動反応して、異物判定もするのか?手が込んでるねぇ。運動増幅や肉体強化の
虫の糸を主に使って作っているようだな。相当な手間を掛けて作られてる。
おい、聞いた話だと、グローブ着けて無かったと聞いてたんだが、これ、なんだ?」
「手指の保護のためのものだ。固いものと打ち合うと指に負担がかかるからな。肝心の指が隠れていないが、
「成る程、わかっていると。
肩肘を張っているが、お人好しの気がある。悪くねぇな。即死は無さそうだし、予定通りでいいか。
これ、青色で固めてるのも意味あるよな?都合が良ければ教えてくれるか?」
その問いにどう答えるべきかと
「……顔料の性質を利用して術式を簡易起動させてるの。それを抜くと幾つか劣化するわ。類似性を利用して繋げて効果をあげてるから、下手に他の色を着けて霊体バランスが崩れると効率が落ちるの」
アメリアが呟くように答えた。
「……ふーん、成る程ねぇ。
まあいいか。戦力確認は済んだし、後は好奇心に任せるか。ヒースコート・オノエラだよな?」
「ああ、そうだ」
「答えなくてもいいから聞きたいんだけど、これ、本名か?なんかオノエラってファミリーネームというよりミドルネームかファーストネームに聞こえるんだが」
こいつ喧嘩うってるのか?
「本名だ。少なくとも父さんからそう教えられた」
そうか、と一つ頷いたフィンチは居住いをただし、此方とあらためて向き合った。
「さて、本題といこう」
真剣な顔している。能力確認を差し置いて本題と言ったのだ。依頼の確認か、
「妹って最高だよな」
ふざけてるのかこの馬鹿は。
「いや、そんな嫌そうな顔をすんなよ、自分に素直になろうぜ?冷静になれば分かる筈だ。そう、俺達は同志だ!
お兄ちゃんお姉ちゃんの立場で考えてみろよ。己と同じ血を持つ世界にただ一人の愛しい家族、いや、皆までいうな。確かに後輩もいいな。妹に囲まれた生活というものもいいものだろう。それは認めよう。だが、此の世にただ一人の家族という重みは全てを凌駕すると俺は信じている!
そう、親に頼ることもできず、ただお兄ちゃんだけを頼りに生きる儚い命!それ故に何処までも真っ直ぐに俺達兄姉と向き合ってくれるじゃあねえか。家に帰ればいつもそこにいる。これに優る喜びは無い!嫁?論外だろ?」
「いや待て俺は何も言ってない」
「そうだろう、妹は素晴らしい、妹は最高だ、妹は美しく世界で一番可愛い。これは世の真理に違いない……!」
駄目だこいつ。やっぱり話を聞いてない。アメリアも引いてるし、どうにかならないのかこいつ。
「妹の独り立ちというものは正に生命の祝福だ。そのときがくれば、アンタらにもわかる。この寂寥感と、安心感は、いつまでも変わらない喜びになるだろう!
今まで供に過ごしてきた日々を思い返し、広くなった部屋で、妹の今と未来に思いを馳せる、あの一時は味わったことのあるものにしか分からない!何よりも、人の温もりと触れ合い妹が成長する様は何よりも素晴らしい……!
ああ、ティレニア!お兄ちゃんは嬉しい。もっと綺麗になっておいで……!」
「ちょっとでいいから俺達の話も聞けよ
シスコンのレペンス」
「せめて別の場所に移動しましょう。ここで立話は良くないわ」
「ああ、わかってる。わかっているとも、同志。ティレニアが誰かという話だよな。急かさずともちゃんと話してやろう。
ティレニアはオレの最愛の妹でな、誰よりも愛おしいんだ。俺と血が繋がっているのに何故か髪や目の色が違っていてな、ティレニアは金髪碧眼の美少女なんだ。そう、美少女なんだ……!元々は飲食店で小間使いをしながら自警団をやっていたんだがな。
あぁ、戦いかたなんていくらでも教えてあげるよティレニア……!勿論俺のような単騎戦闘ではなく誰かと供に戦うやり方を教えてあげよう。一人で戦うなんていくら命があっても足りないからね。お兄ちゃんが皆から盗んできた全てを教えてあげるよ。
わかっているよティレニア、基本に忠実であるだけでなく、もっと踏み込んだ内容が知りたいんだろう。でも駄目だよティレニア……!だけどお兄ちゃんは認めません!お兄ちゃんはティレニアのためならいくらでも死んであげるけど、それはティレニアのためにならないんだ!誰かを真似るのはとても大事だけど、自分で変えなければそれに意味は無いんだよ……!
それに、もし騎士団に入りたいと言うならば、入団できるまで基本を崩してはいけないよ。彼らは独自の呼吸というものを持っている……。それを会得するには綺麗な型を持っているほうがやり易いんだ。
ああ、そうだ、騎士団だ、騎士団だったな。今ティレニアは個々の騎士団に正式に入団しているんだ。凄いだろう。お兄ちゃんも鼻が高いよティレニア!」
「なあ、本気でもうやめてくれないか?正直きつい」
「そうか……!ティレニアは可愛いからな。可愛いは正義だが、正義も行き過ぎれば罪となってしまうのか……。くぅ、世界はなんて無情なんだ……!
君もそう思うだろう?オレと同じ黒髪の同志、フロクールよちゃん……!」
ふざけんなよ。
「黙れよ節穴フィンチ」
「節穴だと!?オレのティレニアを見る目が節穴だと言うのか同志……!」
「ああ、そうだよ節穴だよ、飾りばかりの節穴フィンチ。アメリアは青髪だ。光に映えるアメリアの姿を見ろよ、何処からどう見ても青髪だろうが。こんなことも分からないようなお前の言うことからは、盲人が絵画を賛美するような滑稽さしか感じないぞ。お前のような盲人の言うことなんて信用できないね。お前の妹よりもアメリアのほうが美しいと言ったほうがまだ信用できる」
「目が見えずとも、触れて想像し、思いを馳せ、心で感じとればその美しさは自ずと分かるだろうが……!見損なったぞ、オノエラ!お前は同志足り得なかったようだ……!」
「誰が同志だ節穴フィンチ!ぐだくだと言葉を並べてなにが心だ!心で感じとって分かるのなら、言葉を尽くす必要はないだろうが!」
「だからと言って言葉を惜しんでいい理由にはならないだろうが!愚か者め!ティレニアの素晴しさを理解できないとは憐れだな……!」
「笑わせるなよ節穴!俺にはアメリアがいる。隣に居てくれる誰かがいるのだから、俺が不幸であるはずが無いだろうが!」
「そもそもアンタは―――」
「―――黙りなさい、フィンチさん、ヒースさん」
「……ウィンチェスターちゃん……?」
声を張り上げたアインシーネにフィンチの顔がひきつる。
「ここは罵りあっていい場所ではありません。
私闘がしたいのなら酒を一口飲んで、肴にでもされてなさい。自警団に叱られれば少しはその口を閉じる気になりますか?フィンチさん。あなた、またティレニアさんに叱られたいのですか?」
「……チッ、月夜ばかりと思うなよ、オノエラ」
忌々しげに吐き捨てるレペンス。
「やるならやればいいさ、一矢報いてやるよ」
「フィンチさん、ヒースさん」
「へいへい、わかりましたよ」
「……わかった」
「……これは一体なんだったの……」
三人で大通りを進む。向かう先には門が見えている。皆で暫く居心地悪そうに黙りこんでいたが、アメリアは意を決して話しかけた。
「……その片眼鏡、似合っているわね……?」
迷いながらも言葉を紡ぐ彼女の言葉に僅かに後悔を得る。あまりよくない役割をさせた。仲裁役なんて馴れないものをさせてしまったことに罪悪感を覚える。
その言葉を受けて
「ああ、色々入り用で欲しかったんだが、ティレニアが選んでくれたんだ。つまりは兄妹の愛の結晶だ。羨ましいよな、そうだろうそうだろう。だがくれてやるものか。これはオレの物だ」
「いや、要らないし、取らないから」
「なんだと、ティレニアの愛が要らないとアンタは言うのか……!」
俺の言葉に反発した後、
「ああ、なんだ。悪かったな、アンタら」
「いや、俺も喧嘩売って悪かった。すまなかった」
謝罪されたのなら、謝罪を返すべきだ。一方的な謝罪立場を明確化してしまう。仮にも目上の相手に一方的に謝罪させるのはあまりにも誠意が欠けるだろう。
そして、冷静になると思考が回るものだ。空回りではあるが、思考は思考だ。そうして迷走した理性が違和感を覚えた。だから、確認することにした。好意的な解釈になるが、無駄に臆病でいるのは良いことではないのだ。
「一つ確認したいんだが、あれは全部挑発だよな。
まず、背後に忍び寄って警戒させ、握手を求め、無遠慮さで不快にさせる。握手したなら捕まえて離さず、さらに踏み込んで型に押し込める。そして人の名前という誇りに直結する要素をぞんざいに扱い、人の話しを聞かずに中身の無いことをさも大事そうに語り続ける。
一連の流れがあまりにも綺麗に整っているように感じる。ウィンチェスターさんの制止も遅かったのも、気にするまでもないことなのかも知れないが違和感を感じる」
「俺がなんのためにそんなめんどくせぇことやんなきゃなんねんだよ」
「頭に血が上った状態で冷静な判断ができるかどうかの確認、或いは反骨心を煽り成長を促す。感情を剥き出しにして人間性を確認していたとも考えられるな」
「はいはいそうかい。どうかと聞かれれば考えすぎだといかいいようがねぇよ。
そもそもアンタは人を疑うこととか向いてねえんじゃねぇか?言葉の端々に人の良さが滲んでいるぜ。
……うちのひよっこちゃんもそれぐらいお人好しだったらねぇ」
フィンチは最後の一言を苦虫を潰したような顔で呟いた。
「誰だよそれは」
「あー、どう説明するかねぇ。アイツは説明がめんどくせぇんだよなー……。
……フロクールちゃんがいるし、これで伝わるか。
ひよっこちゃんは
わざわざ俺にやらせなくてもいいのにねぇ。アイツは何をやってんだか。気持ちは分かるがいい迷惑だ」
そうぶつくさと文句を溢すフィンチだった。そして、竜人という言葉を聞いた途端にアメリアが表情を曇らせた。
「……アメリア?」
「私は大丈夫よ。……その子は大丈夫なの?」
「ああ、問題ない。影響は軽度だったからな、あと数年あれば早々酷いことにはなんねぇだろうさ。今は半ば軟禁状態だが、その内出てきた時に適当にかまってやれ。一応身内なんでな。頼むぜ」
「……そう」
何の話だか。
「……ヒースコート。あなたはアブラカタブラと言われて何か分かる?」
此方の不可解を表情から悟ったのだろう。アメリアが問いを作った。
アブラカタブラ、それは確か……。
「治癒の呪文だったけど、悪用されて攻撃呪文になったもの……だったか」
「そうね。呪文はその言葉自体に遺された
「そのドラゴニュート……だったっけ。それとどんな関係があるんだい?」
「おい、オノエラ。お前はドラゴンという言葉を知っているか?」
フィンチが横から口を挟んできた。邪魔するなよ、アメリアに尋ねてるのだから、そっちに任せるのが筋というものだろう。
それにしてもドラゴンか……。
「聞いた覚えはないな」
「あー、やっぱりそうだよな」
ちょっと黙ってろ、アメリアが戸惑ってるだろうが。
「アメリア、ドラゴンのことを教えてくれないか」
「恐怖、病、死、力、場合によっては水や流れを象徴する想像上の爬虫類よ。……昔その言葉を使って呪文を大量生産されなければね」
あっ、なんか嫌な予感がする。
「……それで」
続きを促すとアメリアは目を伏せ躊躇うように呟いた。
「これで私に話せることは話したわ」
話が繋がっていない。アメリアは明らかにそれ以上を知っている様子が見てとれる。しかし、ここで突き放すとしたら……。
「"話せることは話した"んだよな?」
「ええ」
「これ、他の人には言わない方がいいよな?」
「……ええ」
アメリアが頷く。
おそらく、言葉にするだけで影響があるなら、伝えるのもダメということなのだろう。何となくそう思った。
「まあ、これは狩られて久しい言葉だが、人前では使えねぇよな。遠因とはいえ関係者がいるとスムーズで助かるねぇ」
「……いや、魔術師なら呪文はわりと普及してなかったか?確か一つ二つぐらいは持ってると噂で聞いたことがある」
疑問を問いかけるようにアメリアに視線を送る。
「……秘められたり、アレンジされてなければ問題ないのよ。悪意を持って使わなければそうそう悪影響は出ないわ」
……成る程。
まだわからないことばかりだが、ひとまず納得の意を得ることにした。
……だが、まだ聞きたいことがある。
「フィンチ、もう一ついいか」
まだ、違和を解消できていないのだ。
「まだあんのかよ」
フィンチは顔を歪ませて見せたが、知ったことではない。彼は俺をお人好しと呼んだ。なら、お人好しらしく首を突っ込んでもいいだろう。
「お前は何を
「――なんの話だ」
フィンチは道化たような粗暴であるような曖昧な様子を崩し、此方を真剣な表情で見つめてくる。しかし、図星を突かれた風ではなく、此方に向き合った風に見えた。
「お前の言葉を聞いてて辛いと感じた。今思い返して見ると無理に、否、何かから目を背けるために熱中しているように感じた。その姿を辛いと感じたんだ。
怒り……悲しみ……否、何かを諦めかけながらも、認められないという叫びに聞こえた」
「……」
暫く黙ったまま、見つめあっていると、フィンチは小さく笑い声をこぼしながらも、また道化た様子に戻った。
「心当たりなんかねえよ。
オレの家族を思う心に一片の混じりもあるわけが無いだろうが。
もしあるとしたらティレニアが好きすぎて生きるのが怖いってぐらいだぜ?」
嘘をいっているようには見えなかったが、違和感は残った。隠し事の気配がした。
横目でアメリアと視線を絡めると、彼女はゆるゆると首を横に振った。どうやら彼女から見てもそれは明らかだが、口にすることは無いように見えたようだ。
気がつけば彼に先導されるがままに、この
そして門番が視界に入る頃、フィンチはなんの気負いもなく呟いた。
「さてと、そんじゃ冒険開始と行きますか」