「こうしてジャックを暖かく迎えられるようにする為さ。さあ胸に飛び込んでおいで」
「なんか変な匂いするからやだ」
「これはママの匂いなんだよ。だから僕はママでありジャックちゃんは僕を甘やかす義務がある」
「あっそうなんだ」
「んなわけねえだろこのロリコンがァ!! 」
今日のぐだ男:黒髭に右ストレート
<オルレアン>
「うーんこの感覚は間違いなくオルレアン」
「なんでしょう……先輩の頭が地面に突き刺さっているのが普通の光景に見えてきました」
「見慣れちゃダメだからな嬢ちゃん。嬢ちゃんだけは最後の砦であってくれよな」
この風、この匂いこそオルレアン。
やけに土臭いのが妙だが、僕は地面に突き刺さった頭を引き抜く。
「それで、ここはどこなんだ? 水の音が聞こえるから多分川の近くだと思うんだけど」
「おっ! その黒い髪と白い服は! ぐだ男! ぐだ男かい!? 」
「やあアマデウス。久しぶりだね。とりあえず状況を教えてほしい」
やけにテンションの高いアマデウスといきなり鉢合わせた僕たちは人通りの少ない河辺へと向かった。
そこにあったのは綺麗に折り畳まれた二つの女性ものの服と純白の白い下着。
それとマリーのクラゲみたいな帽子も置かれている。
一瞬で僕の脳内は回転し僕は川辺へ向かおうと足を進めようとした瞬間、背後にいたセイバーに首根っこを掴まれた。
「どうするおつもりですかぁ……マスターぁ……? 」
「い、いや?別に覗きに行こうだなんて思ってないよ? 決してそんな欲望にまみれたことなんてそんな……」
「その双眼鏡で目論みバレバレなんですけど!? ジャンヌとマリーさんの水浴び覗く気満々ですよね!? 」
まずい。
欲望が言動よりも先に出てしまっていたようだ。
唯一の常識人に加えてマシュでさえも僕へ向けて盾の穂先を構えている。
しかし。
状況は思っていたよりも好転した。
「ぅマスターぁー!! ここは拙者に任せて先にいくでござるぅーッ!! 」
「く、黒髭……!? 」
「黒髭殿!? 何をするんですか!? マスターを止めようと……! 」
「黙らっしゃい!! 男が腹を括ったときに止めるとは何事ですかぁーっ!! 」
「いやクッソ汚い覚悟ですけど!? 欲望に走ってるだけですけど!? 」
く、黒髭……! 僕はこの時ほど僕は君を召喚して良かったと思うときはない……!
黒髭がセイバーを止めている間に、僕は川辺に向かって駆けていく。
なんだか背後で彼が座に還る音が聞こえたが、黒髭の心意気を買って敢えて振り向かずに近くの茂みに辿り着いた。
「ぐふふふふ……。まさかあの美少女二人の水浴びしている光景を拝めるとは……」
「いやぁやっぱり英霊として召喚されてみるものだね。美少女の裸体見られるんだから」
「えっ君も来るのアマデウス? 僕一人で楽しもうと思ってたんだけど? 邪魔しないでくれる? 」
「何言ってんだテメー! 独り占めなんて許さないぞぉ! 紳士は楽しみを共有してこその紳士だろうが! 」
「その一言が既に紳士じゃねえよ! 」
その瞬間、茂みに隠れた僕らの背後に殺気が走る。
恐る恐る振り向くとそこには布を身体に巻いたジャンヌとマリーが立っていた。
「へぇ……久しぶりにこっちに来たと思ってたら覗きなんてしてたんですか……」
「許せないわよねぇ……ジャンヌ……」
「ひぃぃぃ! 僕は関係ないよ! こっちのぐだ男が僕を無理やり引き込んだんだ! 」
「おいィィィィ!! 僕を売るなァァァァ!! お前もノリノリだったじゃねえかァァァァ! 」
即座に仲間を売るアマデウスに僕は怒りを露わにする。
同じ変態仲間としてあるまじき行為、これは許されたことじゃない。
まあ二人にボコボコにされてから追及することになるんだけど。
「誰の帽子がクラゲみてえじゃコラァァァァ!!! 」
「いやそこォォ!? 」
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<オルレアン・町>
マリーとジャンヌに前が見えなくなるまでボコボコにされた僕とアマデウスは、同じように打ちのめされた黒髭と合流して今に至る。
以前レイシフトしたときはこの町の住民がゾンビに変えられたのだが、今の様子は誰一人としていない閑静なものだった。
「まさかバレるとはね……前回ではツッコミ役に回って許されると思っていたのに」
「何が許されるんですか。先輩の罪は原罪に匹敵しますよ」
「重すぎない? 僕の重ねてきた罪重すぎじゃない? 」
まさか僕が人類悪になっていたとは。
もう切腹したりしたら済む話じゃないのこれ?
「……ん? なんだあれ? 瓦礫の上で黒い服の男が体育座りしてんだけど」
「えっ何あの人? 顔の片側だけ仮面被ってんだけど……」
僕はゆっくりとその男に近づく。
何やら目に涙を浮かべながら僕を見上げた。
「……ラララ。待望の敵が現れた。私は嬉しい」
「いやどう考えても待っててくれたんだよね!? 本当にごめんね!? 今まで変な行動しかしてなかったからね!? 」
思わず僕も彼に頭を下げ、彼に手を差し伸べる。
彼は浮かべた涙を腕で拭い、男は僕らの前に立ちはだかった。
「……君らがあの……人類最後のマスターかな。君の思いやりには助けられた」
「いや"前々からスタンバってました"なんて顔されたら誰だってそうなるよ」
「……いやそんなことはない。別に時間軸とか関係ないし」
「ちょっとマスター!! またあの人涙目になってるじゃないですか! 」
「僕のせい!? 」
そんな事をマシュと話していると、目の前の彼はゆっくりと立ち上がる。
両手に嵌めた長い鉄爪が血に濡れていることを確認すると、マシュが僕を守るように立ちはだかった。
「さあ始めよう。私の……悲劇を」
「あーなんだかすごい暇じゃのー。なあ所長。ここに茶々か沖田を召喚できないかの? 」
「無理無理。だってここで魔力発動しても全然行使できないんだもん」
「えぇー。ゲームも漫画も読み飽きたしのー。あっでも儂が主人公の漫画面白かったのう。なんつーか儂が美少女だったりおっさんだったりするけど」
「いや元々あんたおっさんだからね!? 普通に名声高い武将だからね! 」
「というわけでこんにちは! いつも美少女にされたりイケメンにされたり血を吐くイケメンの沖田さんですよぉ! 」
「なんか知らねえ痴女出てきたァァ!!? 」