「黒髭、あの赤い痴女は一体……? 」
「いや普段から裸体晒してるマスターが言えた義理じゃないでしょ。彼女はローマ皇帝のネロ・クラウディウスちゃんですぞ」
「うむ! 其処の髭男は良く勉強しておるな! 褒美を取らせよう! 」
「えっマジで? じゃあネロちゃんのおっぱい揉みたいでござる」
「任せよ! 」
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」
今日の黒髭とぐだ男:殴り合いによる相討ち
<フランス>
仮面の男が周囲に召喚した黒いサーヴァントを携え、僕らの前に立ちはだかる。
ただでさえ不気味な姿だというのに、黒い影が彼の周りにあるせいで余計に恐ろしさを際立たせた。
「こ、こいつは……! 」
「クーフーリンさん! 術式の展開を! 彼らはアサシンクラスの敵です! 」
「おう分かった! 坊主、身構え――」
隊列の真ん中に立ったクーフーリンが、手にした杖を構えながら背後の僕に視線を向ける。
「……えっ」
「僕は坊主なんかじゃない。シンシ・ド・ヘンタイという女の子の心を盗んでいく怪盗さ」
黒いブーメランパンツに肩に掛かった黒いマント、そして顔に装着した蝶型の仮面。
ゴキゲンな蝶になって煌く風に乗ろうとした結果がこれである。
対峙した彼は驚きの表情を浮かべながら僕へ右手を向け、震えながら口を開いた。
「ま、まさか君は……あの、伝説の……? 」
「そうだとも。僕……否、私は世界中の紳士の味方だ。無論……君もね。ファントム・ジ・オペラ」
「…………」
「えっこのノリで真名分かったの? お前らの頭の中どうなってんの? 」
アマデウスの疑問は尤もだ。
マリーやジャンヌの視線が既に汚物を見るような視線に変わっているが、僕は気にしない。
なんたって僕は今謎の紳士、シンシ・ド・ヘンタイなんだからね!
「シンシ・ド・ヘンタイの名の下に命ずる!クーフーリン! あの迷える子羊を救いたまえ! 」
「うるせえ燃えろ変態」
「あぁぁぁぁ!! ケツに!! ケツに火がァァァァ!! 」
地面を転がりながら臀部に点いた火を消す。
敵側のファントムでさえも哀れみを抱いた視線を僕に向け、まる焦げになったケツを抑えながら僕は立ち上がった。
「……往け。我が僕たちよ」
「ちょっと!先輩のせいで先制されたじゃないですか! 」
「だから今の僕はシンシ・ド――痛い痛い! 殴らないで! 謝るから! 変なノリで真名バラしちゃったの謝るから! 」
僕にだけ攻撃が集中するのが納得できないが、一通りフルボッコにされた後で僕は再び彼らへ視線を向ける。
「あの仮面の変態をぶっ殺せェェェェ!! 」
「無理矢理過ぎないですか!? 」
「うるせえ! せっかくの僕の晴れ舞台を汚すとは許さんぞファントム! 」
「完全な逆ギレだよ! 最早尊厳投げ捨てちゃったよ! 」
使役したエミヤ、クーフーリン、アルトリアを立ちはだかるファントムへ向けて突撃させると、反撃として彼のシャドウサーヴァントが一斉に飛び掛かってきた。
「アーチャー! セイバー! 時間を稼いでくれ! 」
「御意! 」
「まさか君に命令される日が来るとはな」
そんな事をぼやきながらも二人は見事なコンビネーションで迫り来るシャドウサーヴァントの攻撃を捌き、クーフーリンの下へ敵を近づけさせない。
「いいぞ三人とも! 僕がボコボコにされている内にやっつけるんだ! 」
「いや先輩酷い顔になってますよ!? 」
「まさかファントムに殴られるとは思わなかった」
所謂"前が見えねェ"状態である。
恒例となったこの顔面はさて置き、マシュが僕を守ろうと盾を構えた。
今これはチャンスなのでは……?
僕はおそるおそる手を伸ばし、攻撃を耐え忍ぶマシュのそのマシュマロを手にしようと両手をワキワキさせる。
「いや何やってんですか貴方」
「貴方じゃない、シンシ・ド・ヘンタイ――」
「んなこと聞いてねえよ! 状況考えろ馬鹿! 」
ジャンヌとマリーからの全力の阻止。
まさかあのクラゲみたいな帽子で殴られるとは思わなかった。
ていうかそれ武器にもなるんだね。
「準備できたぜお前ら! 行くぞ、ウィッカー――」
「そこで僕が合体ィィィィ!!! 」
兄貴の周りに展開した赤い魔法陣の中へ、僕は無我夢中で飛び込んでいく。
ルーンによって形成された木製の巨人の内部へ僕の身体は取り込まれ、まるで某機動武闘伝のような雰囲気で僕と一体化した。
「なっ……! 」
「行くぞウィッカーマン! 僕の声に応えろ! 」
「おいィィィィ!! そんな風に設計したつもりはねえぞォォォ!! 」
クーフーリンの兄貴が怒るのも無理はない。
何せ僕と同化したウィッカーマンの股間部分が異様に突き出ており、赤い闘気というよりかは白いオーラを纏っている。
「うわー……」
「そういう人だったのですね、ランサー……」
「いや違ェよ! どう考えてもあの坊主のせいだろ! 」
「男にこの宝具……やはり兄貴はホモ」
「ぶち殺すぞテメェ!! 」
心の底からの怒号を無視し、僕の身体が動くたびにウィッカーマンは一歩、また一歩と歩みを進めた。
そうしてファントムの元へ辿り着いた瞬間、僕は全身に力を込める。
「出ろォォォ!! 」
「構えるのそっち!? 確実に弱点晒してるよね!? というか絵面的にアウトだよね!? 」
紳士に絵面を気にしている余裕はない。
伸びきった股間部分を振り下ろすようにウィッカーマンは倒れ、ファントムを巻き込むようにして砂埃が舞った。
それと同時に、ウィッカーマンは解除される。
「ぐっ……まさか……私が……! 」
「……ファントム……。君が負けたのはたった一つの簡単な理由だ。君は……愛を知らなかったんだ」
「フフフ……そうか……。手土産とは言えないが、君たちにある贈り物を送っておいた……」
霊基が消えかかっているファントムは、微笑みながら僕へ手を伸ばした。
「あと……股間の毛の処理……忘れているよ……」
「えっ嘘? マジで? 」
「嘘だ」
「おいテメェ」
不敵な笑みを浮かべながら彼は消滅する。
補足すると僕はまた全裸になったわけだが、ファントムは嫌な顔一つせずに消えていった。
実を言うと彼は良い人なのかもしれない。
その瞬間、僕の耳に付けられていた無線が起動する。
『特大な霊基反応があるぞ! これは……!? う、嘘だろ!? 』
「どうしたんだロマン! 全裸の美女でもいたのかい!? 」
『全裸は君だけだよ! ワイバーンじゃない……正真正銘のドラゴンだ! 』
この場にいる全員がロマンの言葉に顔を強張らせた。
逃げ道を探そうと彼らは周囲を見渡すが、不幸にも既に崩壊している町に隠れ場所などない。
「これが……ドラゴン……!? 」
緑色の鱗に全身を包まれた、巨大な爬虫類。
まるで獲物を見つけたことに関して笑みを浮かべるようにドラゴンは舌をなめずり、僕は全裸のまま巨大なトカゲと対峙する。
「ドラゴンといえばアメリカだと一つの性癖として理解されてるよね」
「今その話要る!? 」
「我が顔を見るものは恐怖を知ることになるだろう……」
「うぉっ何じゃ? 黒い服着た男が出てきたぞ」
「美しい声持つ人よ……君の声は美しい……」
「良くわかってんじゃーん仮面男! 褒美に儂に言わせたい台詞を言ってやろう! 」
「えっ急になんなのこれ。しかも仮面の人もう馴染んでるし」
「……"この馬鹿犬!"と頼む……」
「ただの釘宮病じゃねえか! 」