「ほう。それは一体? 」
「童貞」
「殺菌」
今日のぐだ男:ナイチンゲールの銃で穴だらけにされて死亡
<カルデア・自室>
初めての歴史修正によって無意識のうちに身体が疲労を感じていたのか、自分の部屋に入るなり僕は即座にベッドへ寝転んだ。白い壁に囲まれた無骨な部屋に転がっているダンボール箱の数々へ視線を傾け、溜息を吐きながらガムテープの封を切る。
「……あ、これ確か持ってきてたエロゲだ……」
瞬間僕の全身に張り巡らされた魔術回路が動き出すのを感じ、そしてそれは下半身に集中している。
――息子よ。君は今、白日の下にその体を晒したいんだね。
――はい。父さん。
まあこんな脳内会話をこなしながら僕は足元にある段ボール箱から銀色のノートパソコンとエロゲソフトの入ったパッケージを机に置き、自分の手元に数枚のティッシュペーパーを置く。これを見ている日本男児諸君ならもうお分かりだろうが、僕はこれから息子との対話を始めようとしていた。
「既に任務を終え、僕は部屋に一人きり……ならばやる事は一つ! 出ろぉぉぉぉぉぉぉ!! マイサァァァァァァァン!! 」
某機動武闘伝のニュアンスで僕はいつでも息子が仕舞いやすい寝間着に着替え、いよいよPCの電源を点ける。久方ぶりの対話に胸を躍らせながらソフトをパソコンのディスクドライブに入れてから読み込ませると、いよいよゲームは起動する。
その時だった。部屋の玄関から扉の開く音が聞こえ、僕の部屋には似つかないいい匂いが鼻を突きさす。
瞬時にその方向へ視線を向けると、灰色のパーカーを羽織った僕の後輩ことマシュ・キリエライトが入ってきたようだ。
「先輩? 何してるんですか? 」
「……少し、調べものをね」
表示されているのはエロゲのウィンドウである。断じて調べものとかいう高尚なものじゃない。
「なんの調べものですか? もし宜しければ私もお手伝いします」
「英霊たちの歴史を調べようと思ってね。ありがとう、気持ちだけで十分だよマシュ。でもこれは僕一人でやりたいんだ」
もう一度言う。決して英霊たちの歴史なんてすごく頭の良いものじゃない。むしろ本能剥き出しの物品である。
「……さっきからなんでパソコンの画面を隠してるんですか? 何かやましい事でもあるんですか先輩」
「そ、そそそそそんな事あるわけないじゃないか!! ほらもう夜遅いよ? 明日もトレーニングあるんでしょ? 早く寝ないと」
「あっ……もう。せっかく真面目にしてると思ったら……むぅ」
口が裂けてもマシュに似たキャラのエロゲとは言えない。というか言ったらあの盾の錆びになってしまう。僕はマシュの身体を無理やり部屋から押し出し、机へと戻る。
「…………ほほう、これが現代のエロゲでござるな」
「ぎゃぁぁぁっ!! テメェ黒髭!! どこから沸きやがった!! 」
「いやだって拙者サーヴァントだから霊体化できるし。隣にクーフーリン殿もいますぞ」
「坊主、俺は別に人の趣味にとやかく言うつもりはねえが……。その、流石にリアルの知り合いに似ているのはやばくねえか? 」
「うるさい! そっちの方がシコリティ高いの知らないだろ!? 」
もう僕のプライバシーガバガバじゃないか。これにエミヤまでいたら僕は終わりだったが、少なくとも2人にしかバレていない。まだ慌てるような時間じゃないと落ち着かせ、僕はエロゲのウィンドウを閉じた。
「ほんでどうしたのよ、二人そろって僕のところに来るなんて。夜這いはNGだよ」
「拙者そっちの気はないから。ノンケだから」
「俺がホモみてえな言い方すんなヒゲ」
「実際兄貴の方がエミヤとのカップリング多――」
「それ以上言ったら燃やす」
無造作に置かれたエロゲへ杖を向けて火の玉を具現化させる兄貴。男女ともにモテるっていう事は僕良い事だと思うんだ。だからその杖を降ろしてほしい。
「まあマスターとの親睦を深めようと思いまして、拙者ゲーム持ってきたでござるよ」
「なんのゲーム? 場合によっちゃリアルファイト起こるのはだめだからね」
「たけしの風雲城でござる」
「チョイス古ッ」
「ファミリートレーナーも二人分用意してある。これで遊ぼうぜ坊主」
またなんでこんな鬼畜難易度のゲームを選んできたのかは定かではないが、僕は段ボール箱から大き目のモニターを引っ張り出してファミコンとファミリートレーナーを繋ぐ。
「おお! 拙者ゲームを体験するのは初めてでありますからなぁ、結構楽しみですぞ~」
「現界してた時は何度かやったことはあるが……俺もこうして何人かでやるのは初めてだな」
確かに、こうして誰かと集まってゲームをするのはカルデアに招集される前の高校生の時以来だ。だが一つ文句を言うとならば遊ぶメンバーが二人とも滅茶苦茶ごつい男だという事である。
「……この場にいる人間が女の子だったなら……どれだけ、どれだけ……ううっ」
「まあまあ元気出せよ。いつか女のサーヴァントも召喚できるって、な? 」
「だったら兄貴の師匠呼んでよ」
「別に会わせてもいいけど確実にドン引きされる気がする」
ケルト人ドン引きさせるとか僕はどんだけ酷い人間なの? ただ欲望に満ち溢れてるだけだよ?
「おっ始まりましたぞ。ささ、マスターも早くこのマットの上に立って」
「はいはい……」
どうやらこのゲームは三つの城という名目で分けられているらしく、最後のボスまで辿り着くのにはこの三つのステージをクリアしなければいけない。
そんなこんなで僕はスタートの項目を押すのだが、これが想像以上に体力を削られる。マットの上で走ったり、飛んだり、はたまた足を交差させたりと僕みたいなキモオタにはしんどい運動ばかりだ。
「い、意外と動くんだなこれ……暑いわ」
「きゃあっ! 兄貴のエッチ! いきなり脱ぐなんてデリカシーのかけらもないわ! 」
「心底キモい」
「辛辣」
悪ノリすると罵倒されるのがキモオタの基本である。この調子で遊んでいるとそろそろ体力も限界だ。息切れが半端なくなってきた上に何故か動悸もすごい。隣で上半身裸で動いている黒髭へ無意識に身体が傾き、僕たちはそのまま地面に倒れる。
「ぐぁあああ!! マスター!? なぜピンポイントに拙者の上に乗ってるんですかぁ!? 」
「いやちょっ……死ぬ……黒髭の男くさい匂いと息切れで死ぬ……」
「坊主!? 絵面的に不味い位置に顔がいってるぞ!? 」
ほぼ深夜に騒いでいるので僕らの声が周囲にも漏れているのか、急に部屋のドアが開いた。どうやら危険を察知して助けに来てくれたロマンとダヴィンチちゃん、マシュがやって来たようでバタバタと足音が聞こえる。
あぁ……この状況はヤバいと僕の息子と本能が告げている……。
「ぐだ男くん!? 大丈夫――えっ」
「……………おやおや」
「せ、先輩……? 」
「あっ、こ、これは違うんだ三人とも」
黒髭の身体の上に倒れた状態で僕はやって来た3人と鉢合わせた。三人の目にはきっと僕が無理やり黒髭とそういう雰囲気になっている、所謂僕×黒髭の状態が写っていることだろう。
「…………ロマニ、そっとしておいてやろう」
「う、うん……そうだね。世界は広いね」
「……そうですか。先輩はそういう人だったんですね」
「違うから! 僕女の子大好きだから! 」
汚物を見るかのような視線が僕に浴びせられる。マシュに至っては大切にしていた虫の標本をパクられた某文学のキャラみたいな顔つきになっていた。いくら変態紳士と言えどこの視線はきつい。
「行こう……邪魔しちゃったね、ぐだ男くん」
「待ってってば! 誤解してるって! いやちょっ、待ってェェェェェェェ!!? 」
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<カルデア・転送ターミナル>
翌日。
僕はどうにかして誤解を解こうと3人をかき集め、傍にいたクーフーリンの兄貴にも弁解して貰ってどうにか事なきを得たが何か大切なものを失った気がする。
今回僕がこの場にいるのは既に最初の特異点……歴史修正のポイントをカルデアのスタッフが見つけ出したのでその説明を、という事らしい。
「やあホ……ぐだ男くん。おはよう」
「今ホモって言いかけただろコラ」
「そ、そんな事ないよ! 決して僕は君がそっちの気があるだなんて……」
「確信犯じゃねーか! 何度も言うけど僕は女の子が好きなんだって! 」
状況を知らない女性カルデアのスタッフからは豚を見るような目で、男性スタッフからはドン引かれた視線を浴びせられる。僕の幸せキャッキャウフフカルデアライフはもう既に終わったのかもしれない。
「エミヤからも何とか言ってくれよ! 」
「……いやその、信用はしている」
「ケツ押さえながら言える台詞じゃねーだろそれ! 」
あとでエミヤのベッドにはクーフーリンの兄貴とエミヤがそれらしいことをしている本を隠しておく。気を取り直してロマンが咳払いをすると、騒然としていたターミナルは一瞬にして静かになった。
「今回集まってもらったのは次の特異点……オルレアンの話だ。聞いての通り、場所はフランスのオルレアンで、時代設定は1431年、ちょうど百年戦争の休止期間になる」
百年戦争と言えば……確かオルレアンの乙女と名高いジャンヌ・ダルクが死んでしまった時代か。世界史の授業で何度か耳にしたぐらいだが、こう実際にその時代へ飛ぶとなるとまた緊張感も違ってくる。
「どういった状況がこの特異点で続いているのか分からないけど、観測機のデータから分かったことはジャンヌ・ダルクが"まだ生きている"という事。つまり、聖杯の干渉がこの時代にはあるんだ」
「という事はジャンヌ・ダルクに会えるっていう事……? 」
「十中八九、そういう事になるだろうね。でもどんな敵の勢力がいるのかはまだ判明していない。そこで君たちには、ここの調査を行ってほしい」
真面目な声音に思わず僕は息を呑む。こんな現代クソもやしキモオタが歴史上の超有名人と協力して歴史を修正するだなんて思いもよらなかった。そんな不安げな僕を見て心配に思ったのか、隣に立っていたエミヤが僕の肩を叩く。
「そんなに気負う事はない、マスター。君は私たちと契約した人間だ。こういう時はもっと胸を張るといい」
「アーチャーの言う通りだね。それに、今回は戦力を増強しようと思ってるから、ぐだおくんが心配することはないよ。以上が作戦の概要だね」
持っていた紙束を下ろし、彼は周囲を見回し始めた。一つ気になったことがあるので僕は手を挙げると、少し戸惑いながらもロマンは僕を指す。
「ロマン、一つ質問があるんだ」
「ん? なんだい? 」
「ジャンヌ・ダルクってマジで処女なの? 」
僕はマシュに殴られた。
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<カルデア・召喚部屋>
既にマシュの盾によってボコボコにされた顔を押さえながら僕は30個の聖晶石を手にこの召喚部屋へと来ている。この聖晶石というのはサーヴァントを使役する際に消費するカルデアの魔力を具現化したもので、綺麗な七色の光を放っていた。隣にはその様子を見守る(監視する)役目のマシュと黒髭がその様子を見守っている。
「やっぱりさ、こういうのは形から入るのが大切だと思うんだよね」
「と、言うと? 」
「とりあえず服を脱ぎます」
「待てやコラ」
ズボンのベルトに手を掛けた時点でマシュの黄金の右ストレートが突き刺さった。最近キレが増してきているのは気のせいではないのだろう。気を取り直して僕は革製の穴あきグローブを両手に填め、指の間に聖晶石を挟む。
「さあ来たまえ! 僕の可愛い可愛い女の子サーヴァントォォォォォォ!!! 」
「ほんとブレねえなコイツ」
「正直拙者でも心配になってきましたぞ」
余計なお世話じゃ、特に黒髭。9つの光球が回転し始め、それらは次第にカードの形を模っていく。カードからは長い紫色の髪を背後で束ね、和風の青い羽織りを纏った美形の男が現れた。
「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。ここに参上――」
「また男だぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁぁぁぁ!! 」
「…………えーと」
なんとも微妙な表情を浮かべる色男こと、佐々木小次郎。歴史の偉人に全力で喧嘩を売っているのは百も承知だ。
「すいません小次郎さん。ちょっとこの人おかしくて」
「い、いや。此度のマスターはちゃんと人間で良かったと某も安心よ。何はともあれ、よろしく頼むぞ。主殿」
「う、うん……よろしく小次郎……」
「マスター、まだ召喚は始まったばかりですぞ。ほらしっかりする」
黒髭に倒れた身体を抱えあげられながら、僕は再び召喚陣と対面する。空気を読んで召喚されるスピードも遅くなっており、僕が前に立つと再び起動した。
「あっ! 先輩! 今度は金色のカードが出ましたよ! 」
「金色ぉ!? も、もしかして本当に女の子か!? 」
金色のカードから姿を現したのは、白い甲冑と黒いミニスカートを穿いた紛れもない女の子だった。三つ編みのピンク髪が揺れ、彼女は笑顔を見せながら僕の前に降り立つ。
「やっほー! ボクの名前はアストルフォ! クラスはライダー! それからそれから……ええと、よろしく!」
「あ……あ……」
「あ、あれあれ? どうしたのマスター? そんな呆けた顔して? もしかしてボクの可愛さに見惚れてた? 」
見惚れてたも何も、すらっと伸びた白くて細い太ももに視線は釘付けだ。しかも僕っ娘とかストライクゾーンまっしぐらである。
「なんだか、某の時よりもはるかに反応が違うでござるな……」
「大丈夫ですぞ小次郎氏。拙者の時もそうでした」
「本当にすいません……。あのアホが……」
なんか勝手に評価が下げられてるけど僕は気にしないぞ。さっそく僕はやって来たアストルフォちゃんの感触を確かめようと彼女を胸に抱き寄せる。
「う、うわぁっ! 急に何するのさ! 」
「君は記念すべき初めての女の子サーヴァントだ……こんなにうれしいことは無い……」
「え? もしかしてマスター、何か勘違いしてない? 」
本能的に嫌な予感を察知する僕の身体。う、うっそだぁ! こんなに可愛い女の子が男の子なわけないやい! さては僕を出し抜こうとしてるんだァ! 可愛いやつめ!
「ボク男だよ。ここ触ってみて」
「そ、そんな大胆な――えっ」
僕の手に感じるのは確かに自分のモノと同じ感触。自分の息子に触れてからもう一度アストルフォちゃん、否。アストルフォくんの股間に触れる。
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 」
その後の事はよく覚えていない。絶叫と共に何故か僕の服は弾け飛び、マシュに気絶させられたのはまた別の話。
今回は所長反省部屋はおやすみです。
次回からはちゃんと書くので許してください。
石ガチャで小次郎とか出ねえしアストルフォピックアップじゃねーぞハゲっていうのは勘弁してください。
あとオルレアン編、始まります。