「は、はい……そうですけど……」
「とりあえずお兄さんと一緒にエッチな薄い本を売ってほしい」
「お、お兄ちゃん! パパ! 助けて! マスターが変! 」
今日のぐだ男:エミヤ家セコムコンビに銃弾をケツにぶち込まれる
<オルレアン・森林>
「ここなら落ち着けそうです。まず、あなた方のお名前をお聞かせください」
「了解しました。私の個体名はマシュ・キリエライト。こちらがぐだ男。本当に不本意ながら私のマスターに当たります」
「どうも改めて申し上げるとぐだ男です。日々彼女……否、女性サーヴァントを追い求める愛の探求者です」
「あっ貴方には聞いてないです」
辛辣。この一言に尽きる。既に風当たりが強いのはいつもの事だが、初対面の女性に蔑まれるのも悪くない。隣の小次郎とアストルフォ、エミヤからの視線が悲し気なものになっている。
「ところでこの聖杯戦争にもマスターはいるのですね」
「いえ、聖杯戦争とは無関係の立場にいます。私はデミ・サーヴァントに過ぎません」
「デミ・サーヴァント……? 」
「僕の彼女って意味です。ここ必須事項ですよ」
最早恒例となったマシュの右ストレート。顎が外れかけたので嵌め直すと気を取り直して話を戻した。
「……コホン。とりあえず、デミ・サーヴァントは正規の英霊ではないのです」
「なるほど……。私は確かにサーヴァントです。クラスもルーラー、そのことは理解できています。しかし……本来与えられるべき聖杯戦争の知識が、大部分存在していません。知識だけではなく、ステータスの面でもランクダウンしています」
「つまり今襲えばヤれる……? 」
「オルルァッ!!!! 」
ステータスが下がってても僕への対処は可能らしい。持っている槍で脳天をぶっ叩かれると僕の視界は揺れ始めた。流石に気絶するほどの暴力は許容しきれない。よろしい、ならば戦争だ。
「……ところで、こちらの世界にはもう一人のジャンヌ・ダルクがいるようです。フランスを崩壊に招いているというジャンヌが……」
「同じ時代に同じサーヴァントが召喚された、という事ですか」
「じゃあそっちのジャンヌを懐柔してもいいですか? 」
「駄目です」
そんなぁ!あんまりだよぉ!!
「この変態はとりあえず置いておいて、私たちの目的はこの歪んだ歴史の修正です。カルデアという組織に所属してるんですよ」
「歴史修正の理由はこの僕たちの生きる現代そのものがある人物によって焼却されたからなんだよね」
ジャンヌ・ダルクは驚いたような顔を見せる。それもそうだろう、自分の死んでいった未来の世界が何者かの手によって滅ぼされているのだから。僕も最初聞かされた時は驚いた。変態紳士って言ってもたまには素の反応を見せるんだよ。
「……なるほど、良く分かりました。まさか、世界そのものが焼却されているとは。私の悩みなど小さな事でした……」
「そんな事はない。乙女の悩みは紳士の悩み。紳士の悩みは世界の悩みさ。というわけで僕たちはその偽物のジャンヌをぶっ倒して世界をこの手に収める」
「途中からただの願望になってませんか先輩」
「知るか! 僕はとにかく女性サーヴァントを召喚したいんだ! そしてあわよくば童貞卒業! 」
「ジャンヌさん、この世界を救った後に先輩をボコるのはどうでしょう」
「賛成です」
そう言いつつ前が見えなくなるまでフルボッコにするのはひどいんじゃないか後輩。「ボコる」と心で思ったなら既に行動は終わっているってどこのイタリア人だよ。
「……まあ。本来歴史の本筋ではジャンヌ・ダルクが処刑され、そのままフランス国家は存続していくというものだったが。この世界ではシャルル王が殺されて二人のジャンヌ・ダルクがこの場にいる。マスター、これが何を意味しているのか分かるか? 」
「急にエミヤが出てきたから若干漏らしたじゃないか。でも分かるよ、確実にこの特異点には"聖杯"が絡んでいる」
普段の言動からは想像もできなかったのか、周囲から変なものを見る視線が僕に突き刺さる。僕が真面目になっちゃいけないっていうのか!? ふざけんな! さすがに僕と言えど世界を救う事を第一に動いてるって!
「せ、先輩の言う通りですね。私たちはマドモアゼル・ジャンヌの協力者として貴女についていきたいのですが……その旗の下で戦う事を許してくれますか? 」
「そんな……こちらこそお願いします。どれほど感謝しても足りない程です! 」
「ねぇ僕は! 僕もその中に入ってる? 」
「は、はい……」
そんな視線を逸らしながら言われても信憑性が無さすぎる。ひとまず僕たちはジャンヌについて行く事に決定した。
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<ラ・シャリテ>
「こ、この状態は……」
「……酷い、の一言に尽きるでござるな」
「生存者を探そう。まだ私たちの他に生きている人間がいるかもしれない」
一日休息を森林の中でとった僕たちはジャンヌと共に付近の街へと繰り出している。特異点の影響が想像以上に出ているのか、この城下町はひどい有様だ。
「この現状を作り出したのは……おそらくもう一人のジャンヌのせいかもしれないね」
「えぇ……早く止めないと」
「魔力をひしひしと感じるよ。マスター、ボクの後ろに下がって」
「アストルフォきゅん……」
普段の可愛い容姿からは想像もできないかっこいい姿に思わず僕の股間がきゅんきゅんする。しかしまあ普段は活気づいている町がここまで破壊されてしまうと、僕もボケる気にはならない。
「ッ! あれは! 」
「原住民の女性がワイバーンに襲われかけてます! マスター! 」
「任せろっ! 」
「って、ちょっ!? 主殿が前に出る事は――! 」
本能的に怒りを感じていたのだろう、僕の身体は足を挫いて動けなくなっている女性の前に自然と立っていた。緑の鱗に全身を覆われている巨大な飛翔竜は、まるで僕らをあざ笑うかのように唸り声を上げる。
「来い!! このトカゲ野――」
瞬間、僕の身体にワイバーンの口から吐き出された熱線を伴ったブレスが降りかかった。思いもよらない反撃に一度だけ走馬燈を覚えたが、僕の後ろにいる彼女の事を考えたらそんな事などどうでもよくなった。
「先輩っ! 」
「マスターっ!! 」
マシュとジャンヌの悲鳴が聞こえ、小次郎とエミヤの怒号が飛び交う。あぁ……最期に僕は女の子を守れた紳士になれて良かった……。
しかし、僕を襲ったのは死の恐怖でもなく、熱線ブレスの熱さでもなく、やけに身体に降りかかる開放的な寒さ。恐る恐る目を開けてみると、目の前にはやけに申し訳なさそうな表情を浮かべたワイバーンの姿。
「……そこの美しいマドモアゼル。お怪我はありませんか? 」
「いやーっ!!! 来ないでぇぇぇぇ!! 」
「えっなんで僕何もしてな――」
僕の右頬に彼女の左フックがダイレクトに命中する。彼女の柔らかく白い手から繰り出されるパンチに快感を覚えながら下半身へ視線を向けると、なんとマイサンが僕に挨拶をしていた。
あぁ、なるほど。つまり僕はワイバーンに服だけ燃やされたわけだ。
「せ、先輩……」
「おいゴラァこのワイバーン!!! テメェなんで僕の服だけ燃やしてんだ!! 燃やすなら向こうにいる金髪のジャンヌって子の服を燃やせや!! 」
「ガウゥゥッ!? (ツッコミどころそこなの!? )」
モンスターにさえツッコミを入れられる主人公って僕斬新だと思うんだ。隙を見たエミヤと小次郎が目の前に立っていたワイバーンを一刀の下に斬り捨て、僕の前に立つ。
「主殿、不要なことは為されるな。貴殿が死んでしまえば拙者たちも瞬く間に消えてしまう」
「アサシンの言う通りだ、マスター。無理は禁物だぞ」
「僕が出したのはイチモツだけどね」
「上手い事言ったみたいな顔をやめろ」
先ほどの女性はマシュたちによって無事保護され、残りの敵を片付けるととりあえず僕達は他の生存者たちを救助する事にした。ちなみに現在僕はまたほぼ全裸である。
「うーん……やっぱりもう一人くらいサーヴァントを召喚した方がいいかもしれない……マシュ、召喚サークルを展開して貰ってもいいかい? 」
「ここでですか? まあ既に敵の反応は見られないからいいですけど……」
「召喚する石もちょうど持ってきてるんだ。聖女様もいる事だしきっと今日こそは女性サーヴァントを召喚できる気がする」
「ボク……なんか嫌な予感するんだけど」
不安げな表情を浮かべるアストルフォきゅんも可愛いが、僕は彼の制止を振り切って無理やり召喚陣を起動する。三つの聖晶石をサークルの中へ放り込むと、三本の光線が周囲を包んだ。そして……僕の目の前に現れたのは紛れもない"女の子"だった。
腰まで伸びた水色の髪に、側頭部に生えた白い角。チャイナドレスを彷彿とさせるスリットの入った和風の着物を纏う彼女は、僕を見るなり微笑みを浮かべる。
「サーヴァント、清姫。こう見えてバーサーカーですのよ? どうかよろしくお願いしますね、マスター様」
「き、き、来たぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! しかも僕より背の小さいロリっ子!! 可愛い! 声も可愛い! もうだめ! 死ぬ! 可愛すぎて死ぬ!! 」
「…………えっ」
瞬間、彼女――清姫の目から一気に生気が失われる。それもその筈、僕は今全裸の状態で彼女の前にいるのだから。
「さあ清姫ちゃん! 僕と一緒に世界を救おう! あと色んな事もしようね! 」
「この露出狂が私のマスターだなんて信じられませんわ! あとなんでそんなに頭が爆発していますの!? 」
「こまけぇこたぁいいんだよ! 」
「全然細かくないから! サーヴァントにとって一番重要なとこだからそこ! 」
普段のお嬢様口調はどこへやら、既に彼女の視線がゴミを見るようなものに変わっている。うーん、いつになったらこの視線は治るのだろうか。僕個人としてはご褒美なんだけど。
「さあ早く! 僕と契約してサーヴァントになってよ! 」
「私の安珍様がこんな変態な訳ありません! 私は座に還ります! 」
「さぁせるかぁぁぁぁ!! 」
「ひっ! 必死さがキモい! 」
それもそうだろう、今の僕はマシュとジャンヌ以外女性サーヴァントを使役できていない。今の所僕の下にいるのはイケメン3人と筋肉オタクと男の娘である。必死になるのも無理はないだろう。僕は座に還ろうとするきよひーの手を掴む。鼻息を立てながら。
「ハァ……ハァ……。ぼ、ぼぼぼぼくのサーヴァントに……」
「はい火生三昧」
「あぁぁぁぁぁ!! また燃えるのぉぉぉぉぉぉ!? 」
直後、この崩壊した土地で僕の身体は更に黒焦げになり数時間の間僕の意識は彼方へと飛び去ってしまった。
「という訳でわたくし清姫、ここの反省部屋にお世話になることにしましたわ」
「えっここそんな名前付いてんの? 所長びっくり」
「ひとまず聞いてほしい。私のアイデンティティであるアホ毛が抜けた」
「「えぇ……(困惑)」」
というわけできよひー次回から参戦です。
この回のラストで座に還ろうとしましたが、結局無理でした。