ギャグ難しい。芸人とか尊敬に値しますよね。
この世界には、表の人間が決して知りえることの無い裏の世界とも呼べるものがある。その裏の世界を構成するのは――
天使、堕天使、悪魔の三竦みの勢力。
北欧神話に出てくるアース神族。
ギリシャ神話に出てくるオリュンポス神族。
インドや中国に伝わる仏たち。
日本神話に出てくる大和神や土着神。
さらには鬼や天狗などに代表される妖怪。
などがいる。
これらの人外たちが勢力を築いている中、では人は築いていないのかというと、そうでもなく。
聖書の神を信仰する教会やそれに所属する
人格や性質に問題があるとして教会から追放され、堕天使に保護されたはぐれ悪魔祓いや神父。
さらには悪魔の持つ魔術を探求する魔術師などなど。
人間達もそれぞれ裏の勢力を築いているのだ。
男――名をジョージ=フォアマンと言う――も元々そんな裏の世界に関わっていた人間だった。彼は代々魔術師をやっている家系に生まれたのである。
だが、悲しいかな。世の中には2種類の人種がある。すなわち富める者か貧しい者かだが、それは裏の世界でもそうだった。そしてジョージの家系は貧しい魔術師だったのである。
食べるものを買うための金の捻出にも困っているにも関わらず、魔術の探求にしか興味がなく、むしろそれに金を浪費する始末。ジョージはそんな家が大嫌いだった。
魔術の実験に失敗して、器具が壊れたから今日の飯買う金無くなっちゃった(てへぺろっ!)。そう言われた日、ジョージは「そうだ。家出しよう。」と決意した。
幸い、ジョージには金を稼ぐための当てがあった。いや、宿っていたと言うべきか。
ジョージに宿っていた神器は名を
聖なる力や魔力、気などの特別な力は、まるで指紋や掌紋、声紋のように発する個々人によって波長のようなものが違う。似ているものがあってもまったく同じものは存在しないのだ。その違いによって、例えば氷の魔術が得意だとか、炎の魔術は苦手だとかの適正があるわけだが、それは余談である。
ジョージの神器である
当然、1度に記憶できるのは1人分のみだとか、距離が離れすぎていると追跡できないだとかの制約はあるものの、かなり優秀なサポート型神器であることには変わりない。
ジョージはこの神器を使って
なにせ、ジョージには標的とした賞金首の目撃情報だとかを集める必要がないのだ。その賞金首が起こした事件の現場などに行き、そして神器を発動させればそれで後は神器が勝手に居場所を突き止めてくれる。
相手に悟られることなく居場所を突き止められる――これは賞金稼ぎとしてはかなり優秀な能力だった。
相手を直接視認し、力量を推測し、そして自身でも捕縛や討伐可能なら個人で、不可能なら同職のものを集める。そうして準備万端の状態で狩りを開始する。そうして仕事をすることでジョージは仕事成功率100%を誇っていた。
こうしてジョージは適度に刺激のある、しかし金には困らない順風満帆な人生を送ることが出来ていたのである。
しかし、そうして失敗などをしていないのであれば、当然名が売れてくる。今回はジョージのその追跡能力を買われて、さるお方から直接依頼されたのだ。
それがはぐれ悪魔「黒歌」の追跡調査。出来れば捕縛である。
その報酬の高さとこれを機に依頼主とコネが出来るという旨み。ジョージは依頼を受けることを即答した。
早速黒歌の魔力の追跡を開始したジョージだったが、その魔力の残滓があるところでぷっつりと途切れてしまっていた。
それが風林寺翔である。そこまでたどり着いたのに、そこから消えてしまったかのように魔力を追跡できなくなっていた。
そこで、しばらく翔を監視することにしたジョージは、いつものように絶対に気付かれないと確信する遠方から翔の観察を続けた。
その結果、ジョージは翔は一般人だが裏の臭いもすると感じた。言うなれば、突然変異で異能の力を得た人間か。神器保持者によくあるケースだと判断したのだ。
そして、ジョージは黒歌は翔が何らかの神器を用いて匿っているかあるいは逃がしたと判断した。
そこまでの仮定を経て、そして翔の実力などを推測した結果、ジョージの方が上位の存在であると意識付けた上での尋問を行い情報を得るのが最善と判断し、そのための襲撃を決行すると決断した。
そうした経緯でジョージは翔を襲撃し、結果敗れてしまったというわけである。
◇◇◇◇◇◇
以上、縄に縛られながらの襲撃者ことジョージの
「へぇ、結構優秀なんだね。」
「まぁな。これが初の依頼失敗だ。」
縄に縛られた上で翔と黒歌に囲まれているにも関わらず、それでも軽口を叩けるのは肝が据わっているのか、場慣れしているのか・・・。あるいはその両方かもしれない。
そもそも、何故
話は簡単で、気絶したジョージをそのままにしておくわけにもいかず、また聞きたいこともあった翔が縄で縛った上で自室に連れ込んでいただけなのではあるが。
とにかく、黒歌を守ると誓った翔はその足掛かりとしてジョージを尋問していたわけである。
「翔、それでどうするにゃ?こいつをいつまでもここに置いておくわけにもいかないし。」
「うん。そうだね・・・。」
翔はそれからしばらく思案顔になる。武術の英才教育を受けているとはいえ翔は決して脳筋ではない。むしろ師匠たちから医学や薬学、華道に茶道、さらには複数の言語も習っているためIQで言えば平均よりも高いくらいである。
その頭で考え事をしていた翔は解決のための一定の筋道が見えたのか、ややすっきりとした顔でジョージに問い掛けた。
「さっき言ってた今回の依頼をしてきたさるお方っていうのは誰なんだい?文脈から察するに結構な大物だと思うんだけど。」
「・・・言うと思っているのか?」
「言わせて見せるさ。」
翔の質問に目つきが鋭くなるジョージだが、翔も決してジョージから目を逸らそうとはしない。そうしてしばらくの睨み合いが続いたが、ジョージがこれ以上は不毛だと思ったか、翔の意思の固さを感じとったのか、溜め息を吐いてから質問の答えを口にした。
「
「にゃっ!?魔王ですってっ!?」
「へぇ。魔王、ね・・・。」
ジョージの口から出てきた依頼主の予想以上の大物ぶりに、思わず黒歌は大声をあげてしまう。それほどの人物なのだ。
魔王。全ての悪魔の頂点に位置する悪魔だ。その実力は最上級悪魔をさらに凌駕し、その圧倒的実力から魔王に選ばれた4柱の超越者たちである。
サーゼクス・ルシファーも魔王たる実力をきっちり持っている。かなりの実力を持つ黒歌でも絶対に敵わないだろう。
「な、なんで魔王が・・・。」
「さぁな。依頼主の事情なんて知らねぇよ。この業界じゃ余計なこと知ったら消されるもんだからな。」
黒歌は正直に疑問を口にするが、ジョージもきっちり一線を引いて仕事をしているので深い事情までは知らないときっぱりと口にする。
しかし、黒歌が驚愕に呆然としている横で翔はまたしても思案顔だ。黒歌の様子が目に入らないほどに考え込んでいる。
しばらくして、黒歌もその様子に気づいたらしい。翔に恐る恐る話しかける。
「翔、どうしたにゃ?」
「ん?あぁ。いや、魔王って悪魔の中で一番権力がある人たちなんだよね?」
「まぁ、そうだにゃ。」
「ふ~ん。そうか・・・。そう、よし!!」
ニヤ~~。
黒歌のその言葉を聞いた翔の表情がそう表現するのが一番当てはまると確信出来るほどに歪んでいく。そして心なしかその目からは怪光線が放たれているように黒歌には見えた。
(あ、嫌な予感がする。)
黒歌はその表情が翔の師匠たちが悪巧みする時の顔とそっくりだったので、嫌な予感を感じつつも既に諦観の念で胸いっぱいだった。
(師弟って似るものなんだにゃ~。)
黒歌がそう思いつつ遠い目をしていると、翔が爆弾発言をかました。
「そうだ。魔王に会おう。」
◇◇◇◇◇◇
(どうしてこうなった)
ジョージ=フォアマンは内心頭を抱えてそう喚き散らしたい衝動を何とか抑えていた。正直言ってもしも過去に戻れるならサーゼクスからの依頼を安易に受けた自分をぶん殴りたかった。
現在、ジョージがいるのはサーゼクスの居城で、サーゼクスの眼前である。その隣にいるのは風林寺翔。そしてその翔がサーゼクス相手に交渉しているところである。
そう、交渉である。翔はかの魔王相手に交渉しているわけなのである。その時点でジョージの胃はジクジクと痛みお訴えだしていた。
スッ
横からおぼんがジョージの前に差し出された。その上に載っているのはよく見てみると胃薬である。ジョージはそのメイドさんの心遣いに感激した。一流のメイドは客の体調もわかるらしい。
「あ、どうも。」
「いえ。」
ジョージがそんなことをしている間にも翔とサーゼクスの話は進んでいく。話は翔が何とかサーゼクスに契約の話を持ちかけたところであった。
――そう、契約。それこそが翔の目的であった。契約によってなんらかの対価を代償に黒歌の討伐対象認定を解除させることが翔の目的である。
(自らが害されないって確信があるとはいえ、普通魔王に契約持ちかけるか?)
ジョージは翔が家で話していた仮説を思い出していた。
――いくら黒歌がSS級の賞金首とはいえ、魔王がわざわざただのはぐれ悪魔の調査・捕縛依頼を出すかな?しかも個人的にだよ。これは魔王にも黒歌を調査しなきゃいけない個人的な事情があるってことじゃないかな。しかも討伐依頼じゃなくて調査・捕縛依頼だ。これは魔王に黒歌を殺す意図が無いってことを意味しているんだ。そして、悪魔は人と契約して生活している生物だ。多分魔王といえど、いや、魔王だからこそ、契約を持ちかけられたら受けなきゃいけないんじゃないかな?全ての悪魔の見本としてさ。魔王に黒歌を殺す気が無くて、そして悪魔で、しかも黒歌のことを知りたいという個人的な事情があるからこそ、魔王は僕との契約を断ることは出来ないはずなんだ。――
確かに仮説としては筋は通っているような気はする。それでも、相手は魔王なのだ。ジョージはそう上手くいくと楽観は出来なかった。
「い、妹を助けるためにしょうがなくはぐれに・・・。素晴らしい!そうだよね!妹って可愛いよね!うん!じゃぁ契約の内容の話し合いに入ろうか!」
「って上手くいくんかーい!!」
ジョージは つっこみ を おぼえた!
◇◇◇◇◇◇
風林寺翔とジョージが帰っていった魔王の居城にて。
「よかったのですか?サーゼクスさま。」
「グレイフィアか。」
サーゼクスに話しかけるのはサーゼクスの眷属の女王であり、そして同時にサーゼクスの生家のグレモリー家のメイドであり、サーゼクスの妻でもあるグレイフィア=ルキフグスだ。
銀髪にメイド服をばっちし着こなしている瀟洒な妻にサーゼクスは笑いかける。
「あぁ、よかったんだよ。元々はリアスの眷属になった子の身辺調査だったんだからね。」
そう、魔王であるサーゼクスがはぐれ悪魔である黒歌をわざわざ調査していた理由がそれだった。要はサーゼクスは妹のために余計なお世話を焼いていただけなのである。
そんな夫の妹への溺愛ぶりには妻であるグレイフィアも苦笑するしかない。
「それに、黒歌の主には元々黒い噂もあったしね。中々証拠が掴めなかったけど、今回のことで尻尾を掴めるんじゃないかな?」
サーゼクスが黒歌に関する事情を素直に信じたのもそういう前情報があったからである。いくら私生活では軽い性格で、情に厚いサーゼクスとはいえ、仕事や魔王としての判断にとある一方からの話だけで判断を下すほど甘くはない。
「それにしても契約ですか・・・。大丈夫なのですか?」
「大丈夫だよ。魔王とは言え私も悪魔だ。契約することに何の不思議もないだろう?悪魔とは契約を以って対価を得て生きる生物なのだから。」
その言葉には確かにそうだと言う理屈があったが、魔王としての立場から言うとあまり好ましいことではないとしっているグレイフィアはやはり夫を心配せざるをえない。
それに・・・。
「はぐれ悪魔「黒歌」の討伐対象認定を解除する代わりにはぐれ悪魔30体の討伐ですか。人間に可能なのでしょうか?」
はぐれ悪魔30体の討伐。それが翔とサーゼクスが交わした契約の対価だった。SS級はぐれ悪魔の認定解除とは魔王を以ってしてもそれくらいのことがないと無理なのである。
グレイフィアはあの人間にはぐれ悪魔を30体も討伐することが出来るかと問われると不可能だろう、と推測する。雑魚ばかり30体ならいけるかもしれないが、はぐれ悪魔は曲りなりにも主を殺したり、主やその眷属から逃亡するだけの実力は持っているのである。
しかし、グレイフィアに問いかけられたサーゼクスの顔には笑みが浮かんでいた。その顔は翔がこの契約を成し遂げると確信している顔だと長年の付き合いであるグレイフィアにはわかった。
「グレイフィア。あの人間の目を見たかい?あれは覚悟を決めた人間の目さ。そして覚悟を決めた人間にとっては可能も不可能もないものさ。全てはやるか、やらないか、だよ。」
そう言って破顔するサーゼクスの目には話をしていた時の翔の顔が焼きついていた。覚悟を決めた、信念を持った男の顔だった。
サーゼクスはこれからの未来に思いを馳せ、呟いた。
「さて、これから面白くなりそうだ。」
副題元ネタ・・・交渉人 真下正義