ハイスクールDragon×Disciple   作:井坂 環世

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戦闘回です。

戦闘描写難しい・・・。なんか薄いかもです。

それではどうぞ。


8 格闘少年パワフルかける

人里離れた日本中部は長野県の某所の山中。当然人の姿は見当たらず、辺りを見渡せばそこかしこに命の営みの後が見られる。森林特有の空気の濃さが感じられ、ここで森林浴でもすればさぞ気持ちいいことだろう。

 

ズズンッ!

 

本来ならば静謐な空気が流れ、生命の鼓動を感じられるはずのそんな森の中。しかし、今そこは辺りに破壊を撒き散らす闘争の渦中と化していた。草花は踏み荒らされ、樹木は折り散らされ、そして動物たちは逃げ惑う。ここにいて生存出来ているのは闘っている当人たちだけだった。

 

「ちぇちぇちぇちぇちぇすとぉ!!」

 

「くっ!」

 

展開される高速の拳の弾幕。それに苦悶の声を上げながらも何とかいなし続ける影。その剛拳が避けられる度に衝撃波は荒れ狂い、周囲の葉々は枝から散らされることを強要される。

 

そんなはた迷惑な環境破壊を拳1つで成しているのは風林寺翔、現在13歳。身長が165センチメートルを超え、顔も少年から青年へと変わり始めている。喉仏も出始め、ちょうど第2次性徴真っ只中という風情だ。

 

そしてそんな翔が拳を向けているのは黒髪を背中の肩甲骨の辺りまで伸ばし、前髪を赤いカチューシャで纏めて出しているおでこが眩しい見た目女子高生くらいの女の子だ。どこぞの制服なのか、セーラー服を着ている姿を見れば、どこにでも居そうな女生徒に見える。

 

しかし、よくよく見てみればそれが間違いだとわかる。それは目だ。その目が人のものではなく、まるで虫の複眼のように何個も集まって形作られているように見える。その他は間違いなく人の顔なのに、目だけが虫の造形。ただそれだけでとてもおぞましいものに感じられる。

 

その目が示している通り、人ではなく人外である。その名は三浦 依都。A級のはぐれ悪魔で転生悪魔だ。

 

元々は人だったものの、神器を保有していたことから裏に関わり悪魔に転生。しかし、よくはぐれ悪魔にあるように、あまりに上昇した力に欲望を抑えきることが出来なくなり、はぐれ悪魔となったのである。

 

翔はサーゼクスとの契約を果たすため、サーゼクスからの連絡でこのはぐれ悪魔を撃破しに来たということだ。

 

「やぁっ!」

 

三浦がその悪魔の身体能力任せに殴りかかる。しかし、いくら身体能力が高く、その拳が速くとも格闘能力の無い素人が繰り出したテレフォンパンチ。翔にとって避けるのは難しくない。

 

翔は跳躍することでそのパンチを回避する。それを見た三浦はチャンスだと思い力を貯めた。空を飛ぶことが出来ない限り空中では身動きが取れない。無防備なところに渾身の力を込めた一撃を喰らわせてやる―-

 

しかし、その考えはこの場の翔相手には通じなかった。今2人が対峙しているのは山中の森林。そして翔はそういう上下の高低差や足場の不安定なジャングルファイト(・・・・・・・・・)を前提として編み出された武術をその身に修めている。

 

翔は跳躍した先にある樹木に足をつけた。そしてそこを足場としてもう一度跳躍。まるで猛獣のように三浦に襲い掛かった!

 

猛獣跳撃(スリガンハリマウ)ッッ!!」

 

「アガッッ!!」

 

猛獣に擬態しながらの首への一撃。攻撃に全ての意識がいっていた三浦に避けられるはずもなく、まともに食らってしまう。

 

首をへし折りかねない攻撃だが、悪魔という種族ゆえのタフネスにより折られずにすんだ。と、いうより、それを見越していなければこのような殺人技を翔は繰り出さなかっただろう。

 

だが、相手のタフネスを承知の上で技を出したということは、この程度で勝負が決まるとは思っていないということでもある。当然追撃をかけようと相手に向かって疾走を開始した。

 

「ゲホッゴホッ。・・・ッ!?」

 

三浦は首への一撃が余程効いたのかまだ咽てしまっている。しかし、それでも翔は容赦はしない。勝負は決着が付くまでは何が起こるか分からないということは1年前に思い知っているからだ。

 

「破ッ!」

 

アゴへの掌底。その勢いのまま水月への肘打ち(裡門頂肘)。さらに密着しての膝蹴り(ティー・カウ)。最後に前のめりになった相手の襟を掴んでの巴投げへと繋げる。

 

翔が最強コンボを参考に編み出したコンビネーション技が全弾綺麗にヒットした。

 

「ッッ!?」

 

ドンッ!!

 

巴投げによって三浦が樹に叩き付けられ轟音が鳴り響く。アゴへの打撃から脳震盪を、その他の攻撃により呼吸困難を引き起こす。

 

視界はグラグラと揺れ動き、さらには呼吸もままならない。まさに地獄のような苦しみを味わっている三浦は樹に背を預けたまま立ち上がれなかった。

 

しかし、まだ終わっていない。俯いていて三浦の表情は見えないが、その目の光が死んでいないことはその気迫から翔に伝わってきていた。

 

三浦の戦闘スタイルを事前の情報から得ていることもあり、気絶させない限りは安心できない翔はトドメを刺すために足を振り上げた。

 

「これでっ!」

 

座っている相手への顔面に向けての中段蹴り。まともに当たれば命さえ奪いかねない攻撃を、しかし今までの戦闘から三浦の打たれ強さ(タフネス)をほぼ正確に分析出来ている翔は気絶する最低限の威力に抑えることで躊躇い無く放つ。

 

ビュオッッ!!

 

空を切る音を聞いただけでも常人なら慄いてしまうような中段蹴りは、しかし相手には当たらなかった。

 

三浦が避けた?

 

否。

 

翔が目測を誤った??

 

否っ!

 

翔が寸止めした???

 

否っっ!!

 

その、どれでもないっっっ!!!

まるでアニメから1コマだけ抜き取ったかのように、翔の蹴りが三浦の眼前で停止している!

 

「くっ!」

 

翔が苦々しい表情を浮かべる。その表情を見れば誰もがこの光景が翔の意図してのことでは無いと理解できるだろう。

 

では誰の仕業か?

 

今この場においての答えは明白だった。

 

「人にしろ、悪魔にしろ、その他の人外にしろ、どんな種族でも「勝ったっ!」って思った瞬間が一番油断しているのよね~。」

 

三浦が俯いていた顔を上げる。そこには獲物を前にした捕食者の酷薄な笑みが貼り付いていた。

 

ツツーー。

 

三浦がその細い指先で翔の頬から顎先にかけてなぞっていく。色気すら感じられそうな仕草だが、翔は体を虫が這いずり回るような生理的嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

 

「フフッ。あなた、顔は好みのタイプだし、こんなに強いし。大分ポイント高かったわ。これからあなたを食べると思うとゾクゾクしちゃう。」

 

頬を紅潮させ、瞳を潤ませ、顔全体を陶然とした笑みにしながら三浦が言う。その表情を見ていると「食べる」の意味を性的なものと勘違いしてしまいそうだ。

 

そう、「食べる」とはそのままの意味で「食べる」のである。力に支配された結果そうなったのか、あるいは神器に封印されている魔物の影響を受けたのか、はたまた元々そういう性癖だったのか。三浦は人を食べることに性的な快感を覚えるカニバリズムの持ち主なのだ。

 

その欲望を抑えることが無い三浦は、既に結構な数の被害者を出してしまっている。

 

それら三浦の情報を思い出しながらも翔は状況を把握しようとする。見るとも無く全体を見る「観の目」と、自らの領域に濃く気を張り巡らせることでその領域内を目に頼らず把握する「制空圏」を全開にすることで自らの動きを封じている物を探し出す。

 

そして、見つけた。あらかじめ得ていた情報と一致するそれ(・・)を。

 

自らの持ちえる手札からこの状況を打破し得るものを検索。ヒットしたそれを使うための時間を稼ぐために口を動かした。

 

「三浦依都、主を殺そうとするも失敗して逃走。A級のはぐれ悪魔となる。かつてはレーティングゲームにおいて、その戦闘スタイルから『女郎蜘蛛の狩猟領域(スパイダー・ウェブ)』と呼ばれ恐れられる。その戦闘スタイルの元になった保有神器が『紡糸工房(アリアドネー)』。あらゆる特性の糸を作り出す能力、であってますか?今僕を縛っているのは粘着性を高めた糸ですか、これは?」

 

「へぇ、良く調べてあるのね。全部あってるわ。そして粘着性を高めているってのも正解よ。」

 

「孫子曰く『敵を知り己を知れば百戦危うからず。』ですから。」

 

その言葉に三浦はさらに歪んだ笑みを浮かべた。どうやら絶対的な優位を確信しているようである。

 

それでいい、と翔は内心ほくそ笑んだ。もうちょっと、もうちょっとで反撃の準備は整うのだから、と。

 

「ま、それも無駄になったみたいね。まぁ、良く調べていたご褒美をあげましょうか?どうせあなたは私に食べられるのだしね。冥土の土産ってやつよ。」

 

「そうですか・・・。なら・・・。」

 

その言葉とともに準備を完了していた技を開放する。

 

瞬間、翔は体を縛っていた糸を力任せに引き千切った上で明確な対抗の意思とともにその言葉を三浦に投げつけた。

 

「あなたの身柄を貰い受けましょうかっ!」

 

「なっ!」

 

その様子に三浦は動揺を隠せない。自分が上の立場であると信じていたものが崩されたのが余程意外だったのだろう。

 

しかし、戦闘中においてその動揺は致命的な隙であると言わざるをえない。そして翔はそんな隙を見逃すほどお人好しではないつもりだ。

 

「第一のジュルスッ!」

 

腹部への突き、膝裏への蹴り、さらに首に腕を回しての投げへときめる。プンチャック・シラットにおける基本の型の1つだが、同時に必殺の連撃でもある攻撃を繰り出した。

 

その攻撃は翔のこの戦闘が始まってから今までの攻撃のどれよりも速く、重く、鋭かった。そんな攻撃を今までの攻撃でさえ捌くのに苦労していた、身体能力任せの近接技能しか持っていない三浦に避けれるわけがない。

 

全ての連撃を受けて、翔から離れた場所で膝をついている三浦は苦悶の表情を浮かべて疑問を口から発した。

 

「ハァ、ハァッ。な、なによ・・・それは。そのっ!光のオーラはなんなのよっ!!」

 

「人はどうしても性能(スペック)であなたたち悪魔に劣ります。だから、大切な人が僕の力になるようにと、教えてくれたものですよ。」

 

翔が先ほどまでは纏っていなかった光のオーラを愛おしむような目線で眺めながら、この新たな力を教えられた日のことを思い出していた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

それは、翔がサーゼクスとの契約を結び、その内容を黒歌に話した翌日のことだった。

 

「仙術?」

 

「そうにゃ。」

 

黒歌に話があると言われて向かった先で言葉にされたのがそれだった。その内容に翔は首を傾げる。

 

「うん。それは分かったけど、何で今黒歌さんがそれを使えるってことを話すのかな?」

 

「それは・・・。」

 

その言葉とともに黒歌が俯く。そのいつもと違う様子に、翔はさらに首を傾げるしかなかった。

 

轟ッッ!!

 

刹那、翔の眼前には寸止めされた黒歌の足があった。翔が全てを感知したころには黒歌の足は既に下ろされていたところだった。

 

「っっ!!?」

 

翔は冷や汗が流れ落ちるのを止めることが出来なかった。戦慄とともにその事実を受け入れるだけしか出来なかったのである。

 

今、翔は1回死んでいた、という事実を。

 

もしも黒歌が蹴りを寸止めしていなければ、翔は自分の身に何が起きたか知る由もなく、首から上が無くなって絶命していただろう。先ほどの蹴りにはそれほどの威力があり、そしてそれに翔はほんの毛ほどの動きをとることも出来なかったのだから。

 

「わかったかにゃ?翔。翔が私のために頑張ってくれるのは嬉しい。けど、翔と悪魔では体の性能に差がありすぎる。もしも翔が達人級(マスタークラス)なら対抗出来るだろうけど、順調にいったとしてそこまで成長するのは何年後かにゃぁ?どちらにしろ、このままじゃはぐれ悪魔と戦ったら翔は犬死してしまうことになるにゃ。」

 

「っ!でもっ!!」

 

その言葉に翔は否定の声を上げたかった。でも、駄目だ、。何よりも自分自身が、先ほどの蹴りから黒歌の言葉を肯定してしまっていた。

 

黒歌を護ると誓ったのに・・・。翔の中で無力感が膨れ上がっていく。

 

そんな翔を黒歌は愛おしむような目で見つめる。あの日、翔が黒歌を護ると宣誓した日。あの誓いに何よりも救われたのは黒歌なのだ。恐らく、目の前の少年はそのことを理解していないだろうと黒歌は思った。

 

(でも、別にそれでもいい。あの思いは私だけのものなんだから。でも、あんなことを言われたら、翔が前に進むのを応援したくなっちゃうよね。)

 

だから、あの言葉があったから、黒歌は、翔が生き残る、いや、勝ち抜くための力を教えようと今日翔を呼び出したのである。

 

「翔。だから、仙術を教えるにゃ。確かに、基本性能では人は悪魔には勝てない。なら、勝てるとこまで引き上げたらいいんだにゃ。」

 

「っ!出来るのかな?」

 

「出来るにゃ。才能の有無はあるけど、仙術は基本人なら誰でも使えるにゃ。だから・・・。」

 

フワリ・・・。

 

翔に黒歌が抱きつく。突然のことに翔は動揺を隠せない。黒歌は美人で、プロポーションも抜群だ。普通の思春期男子中学生の翔としてはドギマギせざるをえなかった。

 

「えっ!?く、黒歌さんっ!??」

 

(うわ、柔らかくて、気持ちいい、ってそうじゃなくって、いい匂い。でもなくって!!な、なんでこんなことを?)

 

と、混乱の渦中に落とされた翔だが、そこで気付いた。黒歌の体が、小刻みに震えているのを。

 

「黒歌さん・・・。」

 

「だから、怪我しないで、とは言わないから・・・。せめて、ここに帰ってきて・・・っ!」

 

その言葉を聞いた翔は、改めてこの人を護るという決意を堅くした。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

(そうだ。僕はあの場所に、あの人のところに帰らなくちゃいけないんだ。だから・・・。)

 

「あなたをっ!倒させてもらうっ!!」

 

言葉の熱さとは裏腹に、心は深く静め集中を高める。そして黒歌に教わった通りに気を巡らし、自らの身体能力を強化する。

 

結局、翔には仙術の才能はそこまでなかった。1年ほど教わってそれでも、まともに使えるのは気による身体強化くらいである。しかし、数多の武術を修める翔からしたらそれで十分すぎるほど強力な武器になる。

 

拳を握り締め、膝をついている三浦目掛けアップした脚力で駆けよる。放つは基本中の基本である正拳突き。しかし。基礎を重点的に鍛えている翔の正拳突きは当たれば敵を打倒しうる必殺の武器になる。

 

「ハァッ!!」

 

轟っっ!!

 

空気を切り裂く音さえも先ほどまでとは一線を画している一撃。それを前にして、しかし三浦は微笑んで見せた。

 

「さっきも言ったけど・・・。」

 

ゾクッ!!

 

制空圏の内側から何かが発生するのを正確に感知した翔の背筋に悪寒が走る。咄嗟に攻撃をやめながら大きく回避しようとする。

 

「「勝ったっ!」って思った瞬間が一番油断しているものなのよね。」

 

(間に、合わないっ。)

 

ザクッ、と自らの脇腹を裂く音を聞きながらも、その正体を翔は視界に納めた。

 

(ナイフっ!一体どこから?!)

 

背後に去っていく自らの血のついたナイフを見送り、そして三浦へと目を向けた翔は驚愕に包まれた。

 

先ほどまではセーラー服のようだった三浦の服装が、まるで夜会へと出るような豪奢なドレスへと変貌しているではないか。

 

(これは・・・?!)

 

吃驚している翔を見て、愉悦を堪え切れぬとばかりに顔を笑みに染めた三浦が正解を口にした。

 

「糸が、相手を縛ったり、ワイヤーのように斬ったりしか出来ないと思わないことね。糸はより合わせることで(ふく)にも拘束具(ひも)にも立体(なわ)にもなるものなのだから。」

 

その言葉とともに翔の眼前に出現したのは大量の剣、槍、矢。しかも、それぞれが糸で繋がれている。どのような特性の糸でも碌な目には合わないだろう。

 

翔はその厄介さに歯噛みする。糸を使い罠を張り敵を待ち伏せする戦闘スタイルから付いた二つ名が「女郎蜘蛛の狩猟領域(スパイダー・ウェブ)」である。しかし、それは真の切り札を隠すための表向きの手札でしかなかったというわけだ。

 

「『機織工房(メイド・イン・アリアドネー)』。これが私の奥の手よ。最も、消耗が激しいから余り使いたくはないのだけど。」

 

三浦がすっと手を挙げる。翔にはそれがまるで天から垂らされた1本の蜘蛛の糸を断ち切るための準備動作に思えた。

 

「それじゃぁ、死んでくれる?」

 

その言葉とともに三浦が手を振り下ろした。それに連動するかのごとく待機していた武器群が翔目掛けて解き放たれる。

 

翔目掛けて迫る数多の武器。その間に張り巡らされた粘着性、摩擦、強度、その他もろもろ様々な特性を持つ糸。正しく絶死の雨の如く翔の命を刈り取ろうとする。

 

(「流水制空圏」!)

 

普通の「制空圏」では対応しきれないと感じた翔は即座に「流水制空圏」を発動させる。高速で迫り来る無数の弾雨から身を護るためのルート、行動を模索し始める。

 

眼前に迫っていた剣を弾く。ただ弾くだけでは糸が邪魔になるので地面に落とすようにする入念さだ。そこにできた糸と糸の隙間に向かって跳躍。第一波を回避する。

 

しかし安堵する暇は与えられない。再び翔の目の前に迫る武器を避け、弾き、時には受け流す。その間に張り巡らされた糸の性質を見極め、しゃがみ、跳躍し、そして気で強化した手刀で時には糸を切り裂きながらも被弾を無くす。

 

しかし、完全には避けきれるものではない。そもそも避けるための空間が狭すぎるし、避けて周囲に刺さった武器の間で張り巡らされた糸が即興の蜘蛛の巣のような役割を果たし、翔の陣地をどんどん削っていっているからだ。

 

(目に見えやすい剣弾がそもそもかなりの数で避けにくいのに、その間に糸を張り巡らせることで回避の可能性をさらに低くし、しかも避けても次の布石に繋がっている・・・。かなり良く出来た戦法だな・・・。)

 

浅い裂傷を全身に刻みながらも紙一重で回避している翔は素直に三浦を賞賛する。それほどに殺傷性、回避のしにくさ、そしてなにより悪辣さに長けた技だからだ。

 

それでも、敵の強さを認めつつも、翔はまだ勝負を諦めない。翔には、帰るべき居場所があるのだから。

 

ジリ貧の状況なのにも関わらず、瞳に不屈の闘志を宿らせている翔が癪に障ったのか、三浦がその顔を不愉快さで歪ませながらも声を荒げた。

 

「たくっ、この私に近づくことも不可能な状況で、近距離攻撃しか出来ないあなたが勝てるわけないんだから、さっさと諦めて死んじゃいなさいよ!」。

 

「本当に・・・。」

 

「え?」

 

「本当に、そう思うの?」

 

「何よ。当たり前じゃない。この状況から覆しうることなんてそんな安っぽい逆転劇なんて小説じゃともかく現実で起こるわけ無いわよ。」

 

三浦のその言葉を聞いた翔はその顔を三浦の方向に向けた。その顔は可笑しくてたまらない、という風に笑っている。

 

その顔を見た三浦は訝しげな表情を浮かべた。この絶体絶命の状況でなんで笑っていられるのよ――と。

 

翔は心底愉快痛快といった風情で口を開いた。

 

「じゃぁ、僕の勝ちだね。」

 

ギャキキキキンッッ!!

 

翔が両腕を振り回すと周りの剣弾が一掃された。明らかに翔の腕の長さよりもでかい範囲の剣弾を弾いている。そのタネは先ほどまでは手甲を付けていただけのその両手に握られている何の変哲もなさそうな木の棒だった。

 

その木の棒には片方には螺子穴が。もう片方には削られて作られた螺子があり、翔はその部分を繋げ回転させることで1本の長い棒に変えてみせる。

 

「木の棒?!そんなただの木の棒で何をしようと言うの!?」

 

「これは棒じゃないっ!神武不殺を体現する(じょう)だぁ!!」

 

その気合に呼応するかのように杖に気を流して強化する。そして、杖の下端を片手で持った翔はそれで剣弾を叩き落していった。

 

先ほどまでより、杖を持っている分「制空圏」が当然広く、余裕を持って迫る剣弾を弾いていく。杖を持ってから翔には傷1つ付いていなかった。

 

「しつこいっ!」

 

その翔の勢いに気圧されたのか、剣弾の弾幕に一部の乱れが出来る。ほんの僅かなその乱れ。しかし翔には十分すぎるほどの隙となる。

 

自らに当たる剣弾だけを弾き、1呼吸の間を作る。そして作った間で技を繰り出すための準備に入った。

 

杖を地面に押し当て、その状態から曲げることで杖をしならせていく。そして十分にしならせることが出来たと判断してから翔はしならせることで溜められた力を解放させた。

 

「久賀舘流杖術極意が4つっ!」

 

仙術により強化された脚力+杖をしならせ蓄えられた力による大跳躍。それによって翔は剣弾の豪雨からも、張り巡らされた女郎蜘蛛の巣からも解放される。

 

眼下にて見えるのは突然の事態に驚愕を滲ませながらも対応しようとする敵の姿。しかし、相手に手を出す暇をやる価値など一銭も無い。

 

跳躍が頂上に達する前に、翔の靴の裏が樹の幹に押し当てられた。全力で樹を蹴ることで、相手の行動を許さない超加速を得て砲弾の如く翔が地面に向けて発射された!

 

「導父っっ!!」

 

キュドッッ!!

 

翔の脚力による加速と重力の力、さらには強化された身体能力が、杖の直径2センチメートルの円に集約される。その莫大な力を頭上を見上げていたが故に三浦は喉に喰らった。

 

翔が立ち上がる。しかし、三浦は立ち上がらない。ここに勝敗は決定した。

 

「「勝ったっ!」と思った瞬間が一番油断しているものだ、ね。確かにその通りだったよ。」

 

その言葉を口にしながらも、自身は油断しまくりだったはぐれ悪魔に向けて翔は勝利宣言をするのだった。

 

 

 

 

翔のはぐれ悪魔捕縛数・・・現在15体

 

残り捕縛必要数・・・15体

 




副題元ネタ・・・魔法少女リリカルなのは

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