「で、今日の用事は何なんですか?サーゼクスさんは雑談で電話を長引かせるほど暇じゃないでしょ?」
「いや、友人と電話するくらいの時間くらいなら私にもあるさ。それに書類仕事なら電話しながらでも出来るしね。」
「そうですか。まぁ、それならいいんですけどね。」
現在は秋が深まり始める10月に入ったころ。残暑の厳しさも収まりを見せ長袖を着始める人が街中でもチラホラと見掛けるようになった。
世の中の受験生もそろそろ志望校を絞り始める頃で、中学3年生であるところの翔も卒業後の進路をどうしようかと迷っているようである。
そんな時に掛かってきた1本の電話。相手は時々依頼をしてくるサーゼクス=ルシファーである。
2人は結構良好な友人関係を築き上げることが出来ており、今のように時たま電話で近況報告したり愚痴りあったりすることも珍しくない。
今回もそんな雑談をしていたようだが、翔は流水制空圏を修めた武術家である。相手の心の流れを読むのは慣れたもの。サーゼクスが何か本題を持っていることを察していたようだ。
「で、本題は?」
「まぁ、別になんてこと無いことなんだけどね。翔君、君は今後の進路をどうしようと思っているのかな、と。」
「まぁ、それは僕も迷っているんですよねぇ。」
翔は現在黒歌と交際して恋人関係であり、結婚も視野に入れている。中学3年生なのだから性急なのかもしれないが翔にとっては黒歌以外は考えられないので速いか遅いかの問題でしかないと思っている。
黒歌は悪魔である。よって翔も将来的には悪魔に転生してから結婚したいと思っている。問題はいつ結婚するのか、といつ転生するか、そして転生するとしたら主を誰にするか?であった。
サーゼクスにはそこらの問題の相談に乗ってもらっているかわりに、相手の問題の解決を図っているというビジネスライクな友人関係なのであった。
さて、今回の進路で悩みの種となっているのもこの将来は悪魔になるつもりである、ということである。要は人間社会で学歴をいくら築いても悪魔になったら意味がない、ということであった。
けれど日本人である翔としては高校卒業までは結婚しないつもりであるし、高校くらいは通っておきたい。けれどだからといってどこの高校でもいいわけじゃない。さぁ、どこにしようか?と、こういう悩みなのであった。
ちなみに翔は武術の修行に大半の時間を取られているが勉強が出来ない、というわけではない。きちんと頭の修行のための時間も取られている、ということである。
闇側の師匠から複数の言語、もちろん英語も習っている、を教えてもらっているし、その他にも秋雨や馬からは医術、他にも秋雨には茶道や華道も習っている。また、兼一から園芸を、美羽やキサラからは猫の可愛さを教えてもらっているのだ。
そのため翔は英語や文系の成績が上の中、理数系はどうもセンスがないが努力の結果中の上くらいには収まるように頑張っているため、その学区内で上から3番目くらいの学校なら十分狙える範囲である。
でも悪魔になったらそれも意味ないし、でも自分からレベルを下げるのも何かイヤだな、でもでも勉強に時間は取られたくないし、ということで悩んでいるということだ。
サーゼクスにそういう風に悩んでることを素直に話した翔は疑問を呈した。
「で、僕の進路の話がどう本題と関係があるんですか?」
「いや、実は翔君にはある高校に行って欲しくてね。」
「?何でですか?後どこの高校ですか?」
「君の住んでるところからはちょっと離れてるんだけどね。駒王学園というところさ。」
「ああ、聞いたことがあります。レベルの高いお嬢様高校だったところですよね?2年前に共学になったとか。そして、」
「リアスが通っているところでもある。」
その声がかなり嬉しそうだったのを聞いた翔は、呆れざるを得なかった。翔にはこの魔王とも呼ばれる男が何故翔に駒王学園に入って欲しいか既にわかったからである。
「まったく、僕にそこに入って欲しい理由は妹さんの護衛のためですか?」
「護衛、っていうわけじゃないけどね。まぁ、簡単に言うとリアスとその眷属がどんな様子なのか見てきて欲しいかなぁ、と。」
「はぁぁぁ・・・。相変わらずですね。」
サーゼクス=ルシファーは妹を溺愛している、俗に言うシスコンである。翔はそのことを良く知っていた。何せサーゼクスの話の約50%がリアスの自慢や心配事なのである。ちなみに残りの約50%が妻のノロ気で約1%が残りの愚痴や依頼のことである。
サーゼクスは妹のことが心配なのであろう。近況の話とかが知りたいに違いない。しかし、年頃の女性は溺愛してくる家族とかを恥ずかしがったりすることも少なくない。リアスもそうで中々電話をくれないと翔は良く愚痴られる。
しかし、いくら心配とはいえリアスの知らないであろう翔に潜入調査まがいのことを依頼してくるとは・・・翔も呆れざるを得ない。妹好きここに極まれり、と。
「でもサーゼクスさん。僕の成績じゃぁ駒王学園はギリギリですよ。でもだからってサーゼクスさんから僕を合格させるように手回ししたら僕が裏の関係者って言いふらすようなものだし・・・。」
「確かにそうだね。もし通ってもらうとしたら自力で合格してもらう必要が出てくる。」
「でも僕、そんなに勉強に時間削ってまで上の学校に入りたくないですよ。修行があるんですから。」
翔が眉をしかめてあまり気乗りしない理由を言う。入る理由がどうしても護衛が必要だから、とかならまだしも「近況報告してくれないなら自分で調査員を送ればいいじゃない。」みたいなしょーもない理由ならいくら友人の頼みとはいえそうほいほい受けたくはない。
サーゼクスもそれは承知しており、その上でお願いしてくるのだから何かしら報酬は用意しているようであった。
「それはわかってるよ。だから、翔君が自分から入りたくなるような情報も持っている。」
「・・・何だって?」
「この情報を知れば、翔君は自分から入るように勉強に必死になること受けあいさ。」
サーザクスのその言葉に翔は思わず溜め息を吐く。どうせこの友人は自分がそう言われれば断れないのを分かっていてもったいぶっているんだろうなぁ、と。
「一々もったいぶってないでその情報とやらを言ってください。」
「えぇ~どうしようかなぁ。まぁ、もしも翔君が駒王学園に行ってくれるんなら教えてあげてもいいんだけどなぁ。」
うぜぇぇぇぇぇ!!翔は内心でそう叫んだ。この魔王、魔王に相応しい力を持ち公私混同もあまりせず、そして情に厚くお人好しな面もあるが妹のことになると暴走しがちなのが玉に瑕なのである。はっきり言って今のサーゼクスはかなりうざい。酔っ払いのおっさん並にうざいなぁ、と翔は思った。
「はぁ、わかりましたよ。その駒王学園に行きますって。だからその情報とやらを教えてくださいよ。」
「ありがとう翔君!いやぁ、持つべきものは良き友人だね!」
「言ってて下さい。それよりも僕からも条件がありますよ。」
「ん?なんだい?今言うってことは入学に関する条件なんだよね?」
「そうです。そっちのお願いで妹の近況報告をするために入学するんですから、こっちの入学に際しての条件も受け入れてもらいますよ。」
「まぁ、別に良いよ。こっちがお願いする立場なのは確かだしね。」
「では、言いますよ。きちんと文書として残しておいてくださいね。これも一種の契約ですから。」
「そう言われるとこちらは弱いね。悪魔だから。」
悪魔は契約をもって代価を得る生き物である。要するに人間の欲望を叶えて上げるからこっちの欲望も叶えさせてもらいますよ、ということだ。等価交換が原則なのである。
果たして、翔の口からその条件が述べられた。
「駒王学園は遠いですからね。ここから通おうと思ったら時間の無駄です。だから、学園の近くで部屋を借りてもらおうかな、と。」
「ふむ、1人暮らしをするのかな?」
「いえ、2人暮らしですよ。前々からこれは考えていたことなんですけどね。高校に入ったら家を出て黒歌さんと過ごそうかなぁって。まぁ結婚生活の練習みたいな感じですよ。」
「その歳で同棲かい!?いやぁ、最近の子は進んでいるなぁ。ていうか、君ちょうどいいから僕に部屋のお金を出させようとしているよね。いや、いいけどさ。」
「じゃぁ、僕は駒王学園に行ってリアスさんの様子を報告する。そして、」
「私が君が駒王学園に通うための家を借りるのと、さっきの情報を教える、だね。ここに契約は完了した。」
その言葉にふぅ、と溜め息を吐く翔。これから先は忙しくなる。今の翔の偏差値では駒王学園に入学するにはちときつい。これから猛勉強しないといけなかった。
これから先のことを考え憂鬱に浸るが、それよりも重要なことがある。翔はサーゼクスが持っているという情報を聞き出そうと電話に話しかけた。
ちなみに合格出来ないとは考えていない。十分狙える範囲にある学校だし、優秀な先生もいるからだ。ただし、勉強の時間はスパルタも生温い地獄と化すのだろうと考え、また地獄が増えるなぁ、と憂鬱になるだけである。
閑話休題
「で、さっさと教えて下さいよ、その情報。」
「良いよ。・・・さて翔君、覚悟は出来てるかな?」
「そんなもの、とうの昔に完了していますよ。」
「ふふ、そうだったね。じゃぁ言うよ。実は・・・・・・」
ごくっ。翔が生唾を飲み込む音がする。どんな情報が出てくるかと身構える。サーゼクスが翔が絶対にこの話に乗ると言うほどの情報だ。さぞかし吃驚するのだろうな、と頭の片隅にそんな思考が流れた。
「・・・・・・実は・・・・・・。」
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「って溜めが長いわ!いつまで引っ張るんですか!?この溜め!」
「え?日本じゃ大事なことを言うときは引っ張るものなんじゃないの?」
「確かにテレビとかだと無駄に引っ張るけども!!次回に持ち込むのも少なくないけども!!」
「続きはCMの後で!!」
「CMって何!?そんなん無いでしょうが!!」
「え?Webのほうが良かったかなぁ。やっぱり今はそっちが主流だよね。」
「そうじゃないですよ!?いや、確かに続きはWebでってのも多いけどさ!!」
「あ、ちなみに黒歌君の妹がリアスの眷属だから。」
「軽っ!?サラッと言い過ぎでしょう!?それ重要な情報なのに扱い軽すぎですよ!?え?ていうかそれ本当ですか!?」
「マジマジ。本気って書いてマジって読むくらいマジだよ。」
「うわぁ。黒歌さんが今まで探し回って見つからなかった情報がこんな感じでカミングアウトされるなんて・・・。」
「まぁまぁ、見つかったんだからいいじゃない。」
翔は相変わらずサーゼクスは軽いなぁ。と思った。聞いた話では現在の魔王は4人が4人とも私生活では軽いという。冥界ももうだめかもわからんね。
「うわぁ、ていうか今気が付いたんですけど、サーゼクスさんが黒歌さんを調査していた理由ってそれですよね?」
「あちゃ、気付いちゃった?」
「それくらいわかりますよ。ってことはサーゼクスさんは2年半前にはもう黒歌さんの妹さんの居場所とかがわかっていた、ということですか・・・。」
「この情報を言わなかったことに対して幻滅したかい?」
「構いませんよ。悪魔ってのは等価交換が基本ですから・・・。その可能性に気付かなかったこっちの責任ですよ。」
「そう言って貰えるとこっちとしてもありがたいよ。」
サーゼクスが電話の向こうで苦笑している気配になる。翔とてサーゼクスに話していないことはあるのだ。ならば、相手が隠し事をしていたことに何故怒ることが出来ようか。人間、悪魔でもいいが隠し事の1つや2つあるものである。
「まぁ、確かにそれは聞いた価値のある情報でしたよ。・・・後でどうやって黒歌さんに伝えようか迷うほどには。」
「まぁ、頑張りたまえ。」
「あんたのせいでしょうが!?他人事すぎますよ!?」
「だって
「もんってつけないで下さい。いい歳したおっさんが言ってもキモいだけです。」
「厳しいなぁ。これでも若いつもりなんだけどね?」
「悪魔だからでしょ?実年齢考えてください。」
「まぁ、確かにもう100歳はとうの昔に越えたけどね。それ以降は歳は数えてないよ。」
ハァ、と翔は息を吐く。この友人とはいつもこんな感じだ。適度に近く、適度に遠い。だから遠慮も配慮もする必要なく好き勝手に文句を言えるし、相談やお願いをすることも出来るのだ。
「・・・確か、リアスさんの眷属って駒王学園に通っているんでしたよね?」
「そうだよ。・・・黒歌君の妹。名前は搭城子猫って名乗っているんだけどね、も来年入学予定さ。」
その言葉を聞いて翔は更に憂鬱になる。どうやら絶対に駒王学園に落ちることは出来なくなりそうだ。もし落ちたら恋人がどう拗ねるかわかったものじゃない。
「どうやら・・・駒王学園に通う理由が増えちゃったみたいですよ。」
楽園の中にいる人物の中で勉強を教えられる程の学を持つ人物とこれから先の勉強地獄を思い浮かべて、翔は深い深い溜め息を吐き出すことしか出来なかった。
副題元ネタ・・・ドラゴンクエスト
サーゼクスと翔の掛け合いはスラスラ出てきました。書いてて楽しかったですねw