ハイスクールDragon×Disciple   作:井坂 環世

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このような駄文を呼んでくれていた方々へ

遅くなってしまい申し訳ありません!

ある程度まで一気に行きたかったので長くなってしまいました。今までで一番長いです

それでは


6 旧校舎の前でアイを叫ぶ

翔が一誠の師匠になってから約2週間が経過した。その間平日は勿論休みの日も関係無く拷も、もとい、苛、もとい、地獄のような修行は続けられている。むしろ休みの方が時間がより取れるのでより修行がきつくなっているくらいだ。一誠は何とか修行をこなしているのだった。

 

周りから見たらかなり厳しい翔の修行だが、翔的にはまだ軽めだ。本当の地獄そのもの、あるいは地獄の底辺の修行を経験してきた翔にとって、地獄のような(・・・)修行はまだまだ深度が浅いのである。

 

では何故翔が修行をもっと激しくしないのか?その理由が一誠の修行への気持ちの持ちようにあった。

 

別に不真面目にやっているわけではない。やる気が無いわけでもない。一誠は一誠なりに修行に真面目に取り組み、文句や不満は言っているもののサボったことはないし、力を抜いたことも無い。そしてその結果順調に伸びてきていると言っていいだろう。

 

だが、一誠が修行をしている根本的な理由は、死なないためなのである。悪魔の社会で成り上がるために強くなるという気持ちもあるだろうが、それでもやはり死なないためという受動的な気持ちが大きく占めているのは間違いない。

 

それが駄目とは翔は思わない。実際翔も、12歳の時に黒歌の一件があるまではただ漠然と「強く生きたい」という想いに従って修行していたに過ぎないのだから。

 

ただ、それでも、と翔は思う。思ってしまう。

 

一誠には何かしらの強い気持ち――信念――を持ってもらいたい。翔は願うのをやめられなかった。

 

一誠の仲間として、親友として。何よりも師匠として翔はそう願わずにはいられない。

 

(まぁ、そのためには何かしらのきっかけが必要だろうけどね)

 

例えば、翔が黒歌と過ごしていく中でその事情を知ったが故に彼女を護りたいと思ったように。白浜兼一が風林寺美羽との出会いをきっかけに自らが「正しい」と思ったことを貫ける強さが欲しいと思ったように。

 

「信念」が芽吹くためには、その種となる「想い」が、土壌となる「出来事(イベント)」が必要なのだ。

 

(こればっかりは完全に成り行きに任せるしかないよね・・・・・・。焦らずに基礎に集中するか)

 

翔はこれまでのことと、一誠についての考察を終えた結果そう結論付ける。まだまだ修行はきつくはしないで土台作りに専念すると今後の修行の脳内予定に書き加えた。

 

と、そんなことをつらつらと思考しているうちに今日も翔はオカ研の部室の前にたどり着いていた。かって知ったる他人(ひと)部室(へや)とばかりに翔はノックもせずに扉を開ける。

 

「お邪魔します」

 

そうして中に入ってみると機嫌の悪そうなリアスとそのリアスの前で項垂れている一誠の姿が翔の目に入った。どういう状況なんだろう?と周りを見渡して見ると、朱乃と木場の苦笑が目に映る。それを見てまた一誠が何かやらかしたのかな、と推測した。

 

「それで、今度はイッセー君が何したんですか?」

 

「俺が何かしたことは確定なのか!?・・・・・・いや、しちゃったっていやぁしちゃったけど・・・・・・」

 

ちなみに翔がイッセー君と呼び方を変えているのは一誠にそう呼んでくれと言われたからである。曰く、「1年も付き合ってるし、師弟関係なのに兵藤君じゃ余所余所しくない?」とのことだ。

 

「この子、道に迷っているシスターを見つけて、街のはずれの教会まで送っていったそうよ」

 

「あぁ~」

 

憮然としながらのリアスの言葉に翔は納得の意を示す。基本的にお人好しな一誠のこと。どうせ何も考えずにそのシスターを教会まで案内したことだろう。それは人としてなら確かに善い事だ。

 

だが、一誠は既に人ではない。悪魔なのである。教会とは不倶戴天の敵同士であるのだ。無事だったから良かったもののもしかしたら一誠は討滅させられていたのかもしれないのだ。

 

リアスの機嫌が悪いのも、一誠の心配をしてのことなのだろう。一誠が項垂れているのはリアスに説教されていたからに違いない。

 

「イッセー。話はまだ終わってないわよ」

 

「うぅ・・・・・・」

 

訂正。どうやらまだ説教は終わっていなかった模様。これは長くなりそうだなぁ、と思った翔は親友に助け舟を出すことにした。

 

「まぁまぁ、リアスさん。落ち着いてください」

 

「あなたは黙ってて。これは眷属の躾に必要なことなのよ」

 

ギロリ、とリアスが翔を睨みつける。その視線に晒された翔はしかしサラリと受け流して再びリアスを宥めるのだった。

 

「リアスさん。確かにイッセー君は悪魔としてはやってはいけない行動をしたのかもしれません」

 

「それがわかってるのなら口出ししないで頂戴」

 

「でも、そんな行動をしてしまうのも仕方ないと思いませんか?イッセー君はまだ悪魔になって2週間強しか経っていないんですよ?イッセー君の感性はまだ人間だった頃のままなんですよ」

 

「う・・・・・・それもそうだけれど」

 

翔の言葉にリアスが唸る。生まれた時からの悪魔であったリアスや、或いは悪魔となってから数年は経っている朱乃、木場、小猫は悪魔としての感性を持っている。しかし、一誠はまだまだ人間から悪魔となってから日が浅い。いきなり悪魔として振舞えと言われたところで無茶振りというものであった。

 

イッセーは翔の援護口撃にうんうんと首を縦に振って同意の意思を示している。どうやら味方が出来たことで気が大きくなっているらしい。

 

「誰にだって失敗の1度はあるものです。イッセー君も反省しているみたいだし、その辺にしてあげたらどうですか?」

 

「はぁ、わかったわよ」

 

「それにもしまた同じ失敗をしたらその時にお仕置きをしたらいいんですよ・・・・・・。それも2度と同じ過ちは犯さないと思えるほどきついものをね・・・・・・」

 

「えっ!?」

 

眼から怪光線を放ちながらの翔のお仕置き宣言に一誠が驚愕の声を漏らす。どうやら味方と思っていた部隊は獅子身中の虫であったらしい。

 

しかし、一誠の驚愕はそれで終わらなかった。

 

「あら、それはいい考えね」

 

「そうですわね。その時が今から楽しみですわ」

 

「えぇっっ!!?」

 

とてもとてもイイ笑顔で放たれたリアスと朱乃の言葉に、イッセーは驚きとともに戦慄を覚えるのだった。そして2度とこんな失敗はしないでおこう、と心の中で誓うのだった。

 

一誠のそんな決意を見破っていた翔は「どうせまた同じことをしでかすんだろうなぁ」と内心で思っていた。あくまで思うだけで口には出さなかったが。翔も一誠とつるむようになってから1年弱経っているのだ。その習性は熟知している。

 

「まぁ、それはどうでもいいことなので置いておくとして」

 

「どうでもよくないからな!?俺どんなお仕置きされるんだよ!?」

 

「じゃぁ、今日も修行をは~じめるよ~」

 

「うぅ・・・・・・。わかったよ・・・・・・」

 

目の前から物をどかすジェスチャーをしながらの翔の言葉に一誠が声を荒げた。しかし、翔はいつもの如くスルーして今日もいつも通り修行を始めると一誠に言う。

 

一誠ももう突っ込むのは無駄と判断したのか、項垂れながらも承諾の声を上げたのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

ドスッ!という音が旧校舎裏にて鳴る。その後にズドオオォォォンッ!!という轟音が旧校舎全体に鳴り響いた。

 

バシッ!という快音が旧校舎裏で響く。その後にバッズゥゥゥンッ!!という爆音が旧校舎全体に響き渡った。

 

因みに前者は一誠の正拳と回し蹴りが巻き藁に突き刺さった音であり、後者が翔の正拳と回し蹴りが鉄柱に減り込んだ音である。

 

一誠はその音の違いに、「俺は悪魔でこいつは人間なんだよな?」と自らの親友が本当に「人類」という分類(カテゴリー)に収まるのか甚だ疑問に思うのだった。口にはしないという知恵は身につけ始めていたが。後1ヶ月もすると疑問にも思わなくなってくることだろう。慣れとは恐ろしいものだ。或いは諦めとも言う。

 

とにかく今日の修行の第一弾はこの巻き藁突きであった。突きながらも翔は一誠の体の動きの荒を指摘しており、その度に一誠は何とかその通りにしようと修正しようとしている。

 

隣では同じく翔が巻き藁を突いている。翔自身の修行と同時に、隣でより高みに位置する動きを見せることで一誠にその動きを盗んでもらおう、ということだ。

 

そんな風に師弟揃って修行していると、一誠から疑問、とうよりは修行の内容に対する要望が出されたのだった。

 

「え?ねじり貫手を覚えたい?」

 

「あ、あぁ。・・・・・・駄目か?」

 

一誠が翔へと視線だけを向けながら言う。その瞳には隠しきれない期待の色が載っており、一誠が余程あの「ねじり貫手」に憧れを持っている様子であることを翔に伺わせた。

 

やはり一誠にとってあの「ねじり貫手」は忘れられないものなのだった。それほどの鮮烈な印象と衝撃を一誠に齎したのだ。あの技は一誠にとっての「最強」なのだ。習いたいと思うのは至極当たり前と言えた。

 

「う~ん。無理だね」

 

「そ、そうか・・・・・・」

 

翔のきっぱりとした物言いに一誠はがっくりと肩を落とした。その様子を見て翔は「違う違う」と彼の勘違いを訂正する。

 

「今はまだ、ってことだよ。貫手を覚えられるほど一誠君の功夫(クンフー)が高くないってことさ。時期が来て覚えられるほどの力を持ってたら教えるさ」

 

「ほ、本当か!?」

 

一誠の顔がパッと輝く。楽しみにしていますと貼り付けて満面の笑みを浮かべる一誠に、翔は苦笑を浮かべた。

 

「例えるなら今の一誠君はサッカーを始めたばかりの初心者がセリエAのトップ選手がやるようなスーパープレイをやろうとしているようなものなんだよ。まず出来るはずが無いってのがわかるでしょ?まずはドリブルとかトラップとかの基本から始めないとね」

 

「なるほど。それが空手に置き換えると筋トレだとか今やってるような鍛錬だったりするってわけか」

 

「そういうことさ」

 

翔の例え話に一誠は納得の声を上げた。その話は一誠にとってもわかりやすいものだったからだ。

 

サッカー好きなら誰だって一度はないだろうか?テレビや動画で見た、或いはウィ○ニング・イ○ブンでやったスーパープレイを体育のサッカーの授業とかでやってみたくなったりする、という経験。メッ○やクリス○ィアーノ=ロ○ウドの姿を想像して体を動かしてみたりするのだ。しかし実際は出来るはずもなく、「なにやってんだよ(笑)」という笑い話で終わるようなことをしたことは無いだろうか?

 

閑話休題(ちなみに作者はやったことがある)

 

とにかく、全ての技術は地味~な基礎から積み上げていかないといけない、ということだ。基礎を積み上げてこそ発展もあるのである。

 

「ところでさ、貫手を覚えるのに必要な鍛錬ってどんなのがあるんだ?」

 

と、やはり興味が尽きないのか一誠がそんな疑問を口に出す。頭の中では「ねじり貫手」を使いこなしている自分の姿を想像するので一杯らしい。

 

「知りたいかい?」

 

一誠からの質問に質問で返す翔。「質問に質問で返すなと習わなかったのかぁぁーーーッッ!!」という声が聞こえてきそうな気もするが。

 

眼から薄っすらと怪光線を放ち始めているのを見て取った一誠は「やっぱりいいや」と翔に返した。翔の反応から碌な鍛錬ではないと察したのだろう。興味があるのにも関わらず聞かないという選択をする。近い将来地獄が確定しているのなら態々今から精神的に疲れる必要はないという判断だ。

 

「貫手の習得は難しいというより辛い、と言ったほうがいいかな」

 

「あれ?俺言わなくていいって言わなかったっけ?何でスルーしてるの?しかも何か嫌な言葉が聞こえてきたんだけど!?」

 

「貫手の鍛錬は「貫手に鋭さを持たせる」という一点に尽きると言ってもいい」

 

一誠の言葉が聞こえないかのように言葉を続けていく。その様子を見た一誠は「もういいや」と諦めて目前の巻き藁に集中しようとする。が、出来るはずも無く、翔の言葉が自然と耳に入り込んでくるのだった。

 

「中国拳法風に言うと硬功夫(イーゴンフー)かな?とにかく、指を伸ばしたまま突いても指を骨折したり脱臼したりしないように、まるで一本の刀を鍛えていくかのように鋭くしていくんだよ」

 

例えば、砂や米を入れた(かめ)に貫手を繰り返し突き入れたり、束ねた竹の束に貫手を突き入れたり。或いは指立て伏せや指のみでの懸垂など。

 

勿論、初めのうちは只で済むはずもない。突き指や脱臼、骨折など、鍛錬中の故障は絶えないだろう。そこが翔が貫手の鍛錬が「難しいではなく辛い」と評した理由である。

 

「まぁ、まだ先の話だから安心していいよ。今は取りあえず、基本の攻防を重点的にやるからさ。応用はそれからだよ」

 

「それって未来に絶対にやるってことだよな・・・・・・。安心していいのかわかんねぇよ」

 

そうやって落ち込みながらも巻き藁を突き続けられている一誠はもう既に結構染まり始めているのかもしれない。

 

その後も、これまでと変わりなく――ただし、慣れてダレたりしないようにちょっとづつ趣向を変えられている――修行を滞りなく続けた一誠と翔は、いつも通り夕食前に修行を終えて、帰路に着くのだった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

そんなことがあった日の深夜と呼べる時間帯。街灯が点々と明りを灯し、真っ暗ということは出来ない住宅地を一誠は自転車で爆走していた。

 

これは何も珍しいことじゃなく、ここ2週間辺りで追加された一誠の日常である。

 

翔との修行を終え、夕食を食べ終えて一服を終えたら、また旧校舎に集まって本格的な悪魔としての活動を始める。それがここ最近の一誠の生活パターンだった。

 

さて、では悪魔としての活動が何かというと、今までも散々出てきたように「人と契約を交わし、望みを叶える代わりに対価を受け取る」というものだ。

 

魔法陣が描かれたチラシを欲深な人の家のポストにいれ、願いに反応した魔法陣を利用してその人の下へと転移。願いを叶えて対価を受け取り、また転移を使って拠点――リアス眷属の場合は駒王学園旧校舎のオカ研部室――まで戻る。これが悪魔としての活動の流れである。

 

一誠もリアスの眷属として、そして悪魔としてこの仕事をやろうとしたのだが、1つだけ問題が出てきた。それが一誠の魔力の少なさである。

 

悪魔の子供でも出来る魔法陣を利用しての転移が出来ない。一誠の魔力はそれほどまでに少なかったのだ。雀の涙どころかそれにすら及ばない量と言えた。

 

そこで仕方なく、魔法陣に反応があったらチャリンコに乗って全速力で依頼人の下へと向かう。それが一誠が活動をする際の基本となっていた。

 

自身の魔力の少なさを嘆きつつも、「まぁ、翔を乗せての走りこみに比べたら軽いよな」と思えてしまえるようになっている辺り、大分逞しくなっている。

 

そんなこんなで、今夜も依頼人の下まで駆けていっているところなのである。ちなみに深夜で悪魔の力が最大限に高まる時間帯ということもありその速度はかなり速い。

 

当然さほど時間も掛からずに、依頼人の家へとたどり着くことが出来た。

 

(今日こそは、契約を取れるようにしないとな)

 

そう内心でやる気を高めながらも、自転車から降りて玄関のインターホンへと向かう。そうして依頼人へ自らの訪問を知らせようとした時、違和感に気付いた。

 

(玄関が・・・・・・開いてる?)

 

玄関のドアが微妙に開かれていたのだ。一誠はそれが無性に気になった。たったそれだけのことだが、気付いたらとてつもない違和感と、嫌な予感を伴って一誠の胸の内を支配した。

 

(なにかおかしい・・・・・・。何だ?この嫌な感じは・・・・・・)

 

普通、こんな深夜の時間に扉を開いているだろうか?ましてや悪魔を呼び出そうとしていたのに?

 

そんな疑問が浮かび、それが猛烈に嫌な予感を一誠へと運び込んでいた。

 

物音を立てないようにしながらも扉の中を覗いて見る。廊下と2階には灯りが点っていないようだ。そして1階の奥の部屋が薄く明りがあるのが見て取れた。普通の一軒家といった風情のその家が、一誠にはとても薄気味悪く感じられ、それがまた嫌な予感を増やさせた。

 

心の中で「お邪魔します」と呟き中へと入る。そうして感じられる明確な異変。家の中からは人気がまったくしなかった。

 

一誠はまず明りの点いているリビングの方から探ってみることにした。あいも変わらず胸中を駆け巡る予感に警戒心を抱きながらも中へと入っていった。

 

中は普通のリビングだった。テレビ、ソファー、テーブル。そんなものが置いてある至極普通のリビングの光景。

 

それらが普通だったからこそ、なお異彩を放っているものがあった。

 

一誠の目がある一点で釘付けになる。普通の一軒家にある普通のリビング。しかしその壁は絶対に普通ではなかった。

 

赤黒く染まった床と壁。壁には床に飛び散っているものと同じ色で文字が描かれていた。そしてそんな赤の中に肌色で作られた十字架がある。その十字架の途中からはピンクと赤色のものがはみ出していた。

 

それは死体だった。男性の死体。切り刻まれ、腹からは臓物が零れ出している。釘を使って逆十字に壁に磔にされている。床と壁に広がっている赤は血液だった。

 

「ゴボッ、ゲェェ・・・・・・」

 

惨殺死体を直視してしまった一誠はたまらず胃の中のものを床へとぶちまけた。尋常ではない事態に頭の中が混乱へと叩き込まれる。その惨状はまさに「見るに耐えない」と形容するしかなかった。

 

「な、なんだ、これ・・・・・・」

 

「『悪いことする人にはお仕置きよ!』って聖なるお方の言葉を借りたものさ」

 

混乱の最中に叩き落された一誠の口から漏れた独り言。しかし、その声に返事をする声が上がった。一誠は立ち上がりその声のした方向へと顔を向ける。

 

「んーんー。これはこれは、悪魔くんではあーりませんかー」

 

そこにいたのは神父らしい格好をした1人の男だった。まだ少年と言える年齢をしているように一誠には見える。白い髪と整った顔立ちが印象的だった。一誠を見つけるなりニンマリと嫌な笑みを浮かべた。

 

一誠の脳裏に今日のリアスの言葉が蘇る。お節介から発展した説教中に散々に忠告されていたことだ。

 

――教会関係者に関わるな――

 

その言葉を思い出し、明らかに教会関係者とわかる服装をしている少年を前に一誠の額に冷や汗が流れ出た。

 

と、そこでいきなり少年神父が意味不明な歌を歌いだした。わけがわからないその言動に一誠の困惑は更に大きくなる。

 

「俺の名はフリード=セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属している末端でございますですよ。あ、俺が名乗ったからって悪魔くんは名乗らなくていいよ。俺の脳容量にお前の名前なんぞメモリしたくないから。大丈夫。すぐに死ねるから。俺がそうしてあげる。最初は苦しいかもしれないけど、段々快感に変わっていくからね。新たな扉を開こうZE★」

 

意味不明な言動。一貫していない口調。わけがわからないその言葉。

 

――狂人――

 

一誠の頭にそんな言葉が思い浮かんだ。

 

明らかにヤバイ悪魔祓いだとわかる。それでも、一誠には聞きたい事があった。

 

「お前がこの人を殺したのか?」

 

「イエス!だってそのクソカスは悪魔を呼び出す常習犯だったみたいだし?殺すしかないっしょ?」

 

なんだ、それは?

 

疑問への返答に、一誠は頭が沸騰しそうになった。

 

「あんれ?驚いてるの?逃げないの?おかしいねぇ、変だねぇ。つーか悪魔と取引している時点で人間として最低レベルなの。わかる?道端にへばり付いているガムほどの価値もなくなるんですよ?その辺理解できませんかねぇ。出来ないか。クズの悪魔くんだし?」

 

話にならない。

 

そう頭の内では判断した一誠だったが、それでも心のうちに湧き上がってきた思いを口にした。

 

「人間が人間を殺すのは良いのかよ!お前らが殺すのは悪魔だけじゃないのか?!」

 

「はぁぁ?悪魔の分際で俺を説教?はは、何それ。俺の腹筋を崩壊させる気ですか?お笑いの賞取れるんじゃね?・・・・・・いいか、よく聞けクソ悪魔。お前らだって人間の欲望を糧に生きてるじゃねぇか。悪魔に頼るってのは人間として終わってるの。ジ・エンドなんですよ。だから俺が殺してあげるのさ。悪魔と悪魔に魅入られた人間を殺すのが俺の仕事なんで」

 

「悪魔だって、ここまでのことはしない!」

 

「はぁ~?何言ってんの?悪魔はクソなんですよ?ビチグソなんです。そんなのも習わなかったんですか?まったく、胎児からやり直したらどうですかね?いや、転生悪魔みたいだし?胎児もクソもないか。むしろ今俺が対峙してる状況だし?俺が退治してやるよ。な~んちゃって。最高じゃね?受ける受ける」

 

そう言いながらも神父――フリード――は懐に手を入れた。取り出したのは刀身の無い剣の柄と、装飾銃。

 

フリードが手に持った剣の柄を横に一閃させる。すると、光で出来た刀身が現れた。一誠はビーム・○―ベルという言葉を思い浮かべた。

 

「俺的にお前があれでこれなんで。斬っていいですか?撃っていいですか?あ、返事はいらないから。NOって言ってもお前を殺すのに変わりはないし?ってなわけで、お前の心臓にこの光の刃を突き立てて、この光の弾丸で脳漿をブチマケテやんよ」

 

その言葉を皮切りに、フリードが一誠目掛けて駆け出した。手に持っている光の剣を横薙ぎに振るおうとしているのが一誠の目に映る。

 

(翔より遅ぇ!)

 

この2週間強の修行の成果だったのだろう。翔の速度になれていた一誠は、バックステップを取ることでその斬撃を危なげなくかわした。

 

次は自分の番だ!そう思い、相手に拳をぶち込もうとした一誠は、しかし、ストン、とその場に膝から崩れ落ちた。

 

「え?」

 

思わぬ事態に呆然としてしまう一誠。銃口から煙を立ち上らせる装飾銃と、じわりと赤色が広がっていく自らの右足が目に入る。

 

一拍遅れて、激痛が一誠に襲い掛かった。

 

「ぐ、あああぁぁぁ!!??」

 

(こ、の痛みは――!!??)

 

覚えのある激痛に一誠が呻いていると、左のふくらはぎに激痛が走る。今度は一誠にも激痛の原因を見ることが出来た。

 

それは――

 

「どうよ!光の弾丸を放つ悪魔祓い(エクソシスト)特性の祓魔弾は!銃声なんてしないだろ?光の弾丸なんですからねぃ。達しちまいそうな快感が俺と君を襲うだろ?」

 

光。悪魔にとっての猛毒。それで構成された弾丸は、一誠にかつて死に瀕した時の痛みを思い起こさせた。

 

「死ね悪魔!死ね死ね悪魔!塵芥になってしまえ!全部俺の悦楽のためにぃ!」

 

フリードが笑みを浮かべる。酷薄。凄絶。そんなイカレた笑みを浮かべたフリードが一誠にトドメを刺そうとして

 

「やめてください!」

 

その女性の声が少年神父の動きを止めた。

 

一誠とフリードが声の発生源に体を動かさずに視線だけを向ける。

 

金紗のストレートの髪に綺麗な翡翠色の瞳。それらを持った、確実に美少女と言える少女がそこに居た。

 

「アーシア・・・・・・」

 

一誠にもその少女は見覚えがあった。今日説教される原因にもなった、一誠が教会へと案内したシスターだったのだ。

 

「おんや、助手のアーシアちゃんじゃあーりませんか。どしたの?結界は張り終わったの?」

 

「それは・・・・・・っ!?い、いやあああぁぁぁ!!??」

 

フリードの疑問に答えようとしたアーシアだったが、壁に磔られている男性の死体を見ると、悲鳴をあげた。まともな神経を持っているものならそれも仕方ないと言える。

 

だが、残念ながらこのような所業を行ったものがまともな思考形態を持っている筈も無い。

 

「可愛い悲鳴ありがとうございます!アーシアちゃんはこんな死体は見るの初めて?じゃぁ、よ~く覚えておいてね?悪魔と取引したクソの成れの果てってやつをさ」

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

ふいに、アーシアの視線が一誠を捕らえた。眼を見開いて驚いている。

 

「フリード神父、その人は?」

 

「人?違う違う。間違えちゃぁいけないよ?こんなクソの悪魔と人間とをさ」

 

「――っ。イッセーさんが・・・悪魔・・・?」

 

自らを助けてくれた人物が悪魔だった。その事実がショックだったのか彼女は言葉を詰まらせる。

 

「なになに?君ら知り合いだったの?こいつは驚き桃の木ってやつ?悪魔とシスターの許されざる恋とかそういうの?マジ?マジ?」

 

フリードがアーシアと一誠を面白おかしそうに交互に見やる。その横で一誠は内心忸怩たる思いだった。

 

(知られたくなかった・・・・・・!)

 

ただ、街中で一度お節介を焼いただけの気のいい男子高校生。一誠はアーシアにとってそんな存在でいたかった。だが、それももう出来ない。一誠は教会関係者(アーシア)の前だが神を呪いたい気分になった。

 

一誠がそんな気持ちになっている間も、フリードは見ている人を苛立たせる笑みを浮かべ、聞いている人を苛立たせる口調でアーシアに話しかけていた。

 

「アハハ!悪魔と人間は相容れません!教会関係者となら尚更さ!しかも俺らは神にすら見放された異端の集まりですぜ?俺もアーシアちゃんも堕天使様の加護が無ければ生きていけないハンパものなんですぞ?」

 

堕天使?

 

フリードの言葉を聞いて一誠の頭に疑問が湧いてくるが、フリードの話はそんなことに構わず続いている。

 

「まぁまぁ。そんなどうでもいいことは置いといて。俺的にはこのクズ男くんを斬らないとお仕事完了できないんで?殺すけど覚悟はOK?」

 

フリードが光の剣を一誠に突きつける。確実に自身を殺しうるであろう凶器を突きつけられる。

 

一誠は恐怖した。間近に迫る「死」というものに。かつて一度味わったことがあるそれ。だからこそその恐怖は一誠の心のうちで肥大化し、一誠の心と体を縛っていった。

 

動けないまま切り刻まれる。自らの未来を幻視した一誠は、何とか動こうとするも無理だった。かつての経験による恐怖(トラウマ)はやはり確実に一誠の心の底に沈殿していたのだ。

 

そんな状況を止めるために動き出す人物がいた。アーシアである。彼女はフリードと一誠の間に割り込むと一誠に背を向けて両手を広げた。それはまるで子供を庇う慈母のようなある種の神聖さすら伴った動作で。一誠の中の恐怖を少しだけ取り去った。

 

だが、フリードにとってはそんなアーシアの行動は自らの悦楽(コロシ)を邪魔するものでしかない。苛立ちを顔に載せてアーシアに話しかける。

 

「・・・オィオィ・・・。アーシアちゃんよー、自分が何してるか分かってるのでしょうか?」

 

「・・・はい。フリード神父、この方を見逃していただけませんでしょうか?」

 

フリードと相対しながらもアーシアは毅然としたまま懇願する。

 

自らを庇っている。アーシアのその行動に一誠は言葉を発することなく見ることしか出来なかった。

 

「もう嫌です・・・・・・。悪魔に魅入られたといって、人間を裁いたり、悪魔を殺したりするのは・・・・・・」

 

「はぁぁぁぁぁああああああああああああああ!?バカ言ってんんじゃねぇよクソアマがぁ!!悪魔はクソのような価値もないんだって、教会で習っただろうが!!頭大丈夫ですかぁ!?精神科紹介してやろうか!?」

 

フリードの顔が憤怒に包まれる。

 

「悪魔にだって、いい人はいます!」

 

「いるわけねぇだろ!!バァァァァカ!!」

 

「私も、この間までそう思っていました・・・・・・。でも、イッセーさんはいい人です!悪魔だとしてもそれは変わりません!人を殺すなんて許されません!こんなの!主が許すはずがないんです!!」

 

怖くないはずがない。

 

恐ろしくないわけもない。

 

相手は人を磔にして殺すような異常者で、今もその手には凶器を握っているのだ。この状況で恐怖しないわけもないだろう。

 

だが、それでもフリードへと自らの意思をぶつける。アーシアのその精神的な強さに、一誠はどこか憧れに近い感情を抱いた。

 

「キャッ!」

 

バキッ!と、鈍い音が響く。その原因は神父の持つ装飾銃。そのグリップでアーシアの頬を横薙ぎに殴打したのだ。

 

「アーシア!」

 

床に倒れたアーシアへと一誠が駆け寄った。その頬には痣が出来ている。フリードは本気で殴ったのだろう。その事実が一誠の心の奥の何かに火を点けた。

 

「堕天使の姉さんから殺さないよう念押しされてるけど・・・・・・。ちょいとむかついた。殺さなきゃいいみたいだし、ちょいとレ○プまがいのことしてもいいですかねぇ?それくらいしないと俺の傷心マックスなガラスのハートは修復できないんでやんすよ。ま、その前にそこのクズ悪魔くん殺さないといけないようですがぁ?」

 

その言葉に、アーシアをここに置いていけないと判断する。こんなことを言ってるヤツの仲間がまともなはずもないだろう。

 

そして何より

 

「庇ってくれた女の子を置いて一人だけ逃げるなんて、男じゃないよな、翔。」

 

闘うための構えをとる。それはこの2週間強、翔に徹底的に教え込まれた空手の型。サンチン。これ以外、一誠は闘うときにとる構えを知らない。

 

(結局、これしか教えてくれなかったよな)

 

心の中だけで苦笑しつつ、眼前の相手を鋭い眼光で睨みつける。

 

一目見てまだまだだと分かる拙い構え。それでも、一誠が闘志を見せたことにフリードは驚きと喜びを見せた。

 

「マジマジ?俺と戦うの?いやぁ、細切れになっても知らないよ?当社は一切の責任を負いません。細切れ世界記録ってギネスブックに載るのかね?」

 

表情に愉悦をのせて、フリードが嘯く。その内容に不気味なものを感じ、「俺の人生、いや悪魔生ってここまでなのかなぁ」と思いながらも一誠は格好悪いところは見せられないと覚悟を決めた。

 

フリードが駆け出した。一誠はその場から動かずにいる。そうして両者が激突すると思われたその時――

 

――床が青白く輝きだした。

 

その突然の現象に両者ともにその場に釘付けになった。フリードは何が起こったかわからずに混乱している。だが、一誠には何が起こっているのか理解できた。

 

発光しているのは床に現れた魔法陣だ。そしてその魔法陣が示している1つの事実。

 

グレモリー眷属の紋章が描かれた魔法陣。つまりは、援軍が来たのだと、一誠に気付かせた。

 

「兵藤君、助けに来たよ」

 

「あらあら、これは大変な状況ですわね」

 

「・・・・・・神父」

 

光の中から現れる人影たち。それはこの2週間で馴染みとなったオカ研のメンバーだった。

 

相変わらずスマイルを浮かべた木場祐斗。笑顔だが眼が笑っていない姫島朱乃。無表情だがどこか苛立ちを感じさせる塔城小猫。

 

自らの窮地に駆けつけてくれた仲間に、一誠は少し泣きそうになるくらいに感激したのだった。

 

「ヒャッホォォォォオオオウッッ!!」

 

フリードが構わずに斬りつけようとしてくる。だがそれは、ガギンッ!という音とともに木場の剣に遮られた。

 

ギリギリと木場と神父が鍔迫り合いをする。悪魔の木場と競り合えているところに、この神父の優秀さが見て取ることができた。

 

「悪いけど、彼は僕達の仲間なんでね!勝手にやられるわけにはいかないんだ!!」

 

「なんだぁ?!悪魔のくせに友情ごっこかよ!悪魔戦隊デビレンジャーでも結成してるんですか?熱いねぇ、萌えるねぇ。君が攻めで彼が受けとかなんですかい?」

 

鍔迫り合いの最中にも、フリードは人を小馬鹿にしたような表情を浮かべてみせる。舌をベロンと出し、舌と一緒に頭も揺ら揺らと揺らしだした。その様子に木場は表情を険しくさせる。

 

「下品な口だ。教会関係者は上からまともな口の使い方を教わらないのかい?」

 

「フヒヒ、サーセン。だって俺っちはぐれちゃったし?追い出されちゃったもんね!快楽殺人?殺悪魔さえできれば満足100%なんですたい!」

 

木場の鋭い相貌が自分を捕らえていてもお構いなし。フリードはケタケタと不気味な笑いを浮かべるのをやめはしない。

 

「一番厄介なタイプだね、君は。悪魔狩りで快楽を得ることだけが生き甲斐・・・・・・。悪魔にとって一番の害虫だ」

 

「ハァァァァァ!?悪魔には言われたくねぇよ!?俺だって精一杯悪魔殺してるんだから!てめぇらみたいな牛のクソにも劣るような連中にどうこう言われたくないんですけどぉ!?」

 

「悪魔にだって、ルールはあります」

 

絶対零度の微笑み。

 

もしも朱乃の浮かべているソレに題名をつけるとしたら、そうなるだろうか。

 

笑みを浮かべながらも、その眼は一切笑ってなどいない。鋭くフリードを睨みつけている。敵意と戦意をフリードへと叩きつけていた。

 

「ハハっ!イイネェ!イイネェ!最っ高だねぇ!その殺意!殺意は向けるのも向けられるのもたまらんね!」

 

「なら、消し飛びなさい」

 

一誠は自らの横にリアス=グレモリーが現れたことに気付いた。その紅の長髪が揺れて一誠の視界に映る。

 

「イッセー、ごめんなさいね。まさか依頼人の下にはぐれ悪魔祓いがきているなんて予想していなかったの」

 

リアスが一誠に謝罪する。と、リアスの目が一誠の足に向けられた。正確にはその赤くそまりだしている所に。

 

「イッセー。怪我、しているの?」

 

「ハ、ハハ・・・・・・。スミマセン、俺、撃たれちゃって・・・・・・。」

 

自らの失態を指摘された。一誠は半笑いで誤魔化そうとする。今朝のお仕置き宣言はまだ覚えていたのだ。

 

だが、次の瞬間に一誠は見たのはリアスの冷淡な表情。それを見て、一誠は自らの心配が場違いであることを悟る。

 

「あなたが、私の下僕を傷つけてくれたのかしら?」

 

キレていた。一寸の狂いもなくリアス=グレモリーはキレていたのだった。一誠はようやく理解した。

 

「そうでござんすよ~。俺がその悪魔くんをキズモノにさせていただきました!でも残念もっと切り刻んでやりたかったのに、あんたらがきたせいで夢幻となってしまいました~」

 

その言葉にとうとう我慢の限界が来たのだろう。リアスが手を伸ばしてそこから魔力弾を発射した。

 

ボン!という音がする。フリードの後ろの家具類に魔力弾が当たり、球状に綺麗にくり貫かれたみたいになっている。

 

「私は自分のものを傷つけた者を許さないことにしているの。特にあなたみたいな下品な輩に傷つけられるのは我慢ならないわ」

 

だから、消えなさい。

 

周囲の空気さえ凍えさせるほどの殺気を放ちながらリアスが言う。

 

続けて魔力弾を発射しようとしたその時、朱乃が何かに気付いたように周囲を見渡し、そしてリアスに向けて警告の声を発した。

 

「部長!堕天使らしき気配がこの家に複数近づいてきていますわ。このままだとこちらが不利になります!」

 

その報告を聞いたリアスは神父を睨み、忌々しそうに舌打ちした。

 

「朱乃、イッセーを回収ししだい、帰還するわ。ジャンプの用意を」

 

「はい」

 

リアスが朱乃に撤退する旨を伝える。怒りで頭に血が上りつつも冷静な判断を下せるところに、リアスの王としての才能の片鱗を伺わせる。

 

しかし、この話を聞いて黙ってられないのが一誠だ。

 

「部長!あの子も一緒に!」

 

アーシアを指しながら一誠は言う。しかし、その願いは叶えられないものだった。

 

「無理よ。魔法陣を移動できるのは悪魔だけ。しかもこの魔法陣は私の眷属しかジャンプ出来ないようになっているわ」

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

一誠は愕然としたようにアーシアの方へと振り向いた。一誠とアーシアの視線が絡み合う。アーシアを助けられないという事実に一誠の顔が歪んでいると、彼女は笑みを浮かべた。

 

まるで、私は大丈夫ですよ、と。こちらを安心させるかのような笑顔。だが、一誠はそんな微笑を向けられても不安になるだけだ。

 

「アーシア!」

 

「イッセーさん、また。また、会いましょうね」

 

それが、その場で交わした最後の会話だった。

 

床が青白く輝いていく。フリードが転移させまいと斬りかかり、木場がそれを防いでいる。そして輝きが最高潮にまで達したとき。

 

一誠の視界には、ここ最近で見慣れた旧校舎のオカ研部室が広がっていたのだった。

 

「イッセー、ソファに座りなさい。足の治療をするわ」

 

呆然としていながらも、一誠はその言葉に従った。むしろ頭が働かないからこそ、聞こえてきた言葉のままに体が動いたのかもしれない。

 

一誠がソファに座ると、朱乃がその場に座り、何事かを唱えだした。恐らくは回復のための魔術なのだろう。その横では木場が一誠のズボンを捲り上げ、足に包帯を巻いていっている。

 

一誠の真正面に座り込み、リアスが説明を開始した。

 

「天使とその下につく悪魔祓いについては今朝話したわね。今回は堕天使とその下につくはぐれ悪魔祓いについて話すわ」

 

「はぐれ?それってはぐれ悪魔みたいなものなんですか?」

 

一誠が疑問を呈した。リアスはそれに頷き、そして説明を開始した。

 

悪魔狩りに快楽と愉悦を感じ、それが生き甲斐になってしまった悪魔祓い。教会から追放された彼らを利害の関係から拾った堕天使のこと。

 

「そんな奴らと係わり合いになっても百害あって一利なしよ。どうやらイッセーの行った教会は堕天使側のものだったみたいね」

 

関わり合いにならない方が良い。その言葉を聞いて一誠もそうだと感じた。人を磔にして殺すような倒錯者のいるような所には関わらないほうがいい。

 

だが、と一誠は思ってしまった。

 

アーシアは?と。

 

一誠の脳裏にアーシアの最後の笑顔が浮かび上がる。そうなるともう我慢なんて出来なかった。

 

「部長!俺はあのアーシアって子を!」

 

「無理よ。私達は悪魔。あの子は堕天使の下僕。相容れることなんて出来ないわ。しかも、彼女を救うってことは堕天使を敵に回すってことになるのよ。・・・・・・そうなると、私達も戦わなくてはならなくなるわ」

 

「そ、それは・・・・・・」

 

リアスの言葉に一誠は俯くことしか出来なかった。

 

そも、アーシアを救うというのは一誠の我儘なのだ。自分の我儘にリアス達を巻き込むことなど一誠には出来なかった。

 

アーシアと、リアスたち。

 

そのどちらにも天秤が傾くことはなく。

 

一誠は自分が矮小な存在なんだと自嘲した。女の子1人助けることも出来ないような存在なのだと。

 

(あぁ・・・・・・。俺は、弱い・・・・・・!)

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

夕日が世界を包む中、一誠は学校に向けて全力で疾走していた。

 

その足にあった負傷は、もうない。アーシアが自身の神器である『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』で治したからだ。

 

故に、一誠は全力で走ることが出来る。

 

その速度に道行く人たちがギョっとした顔を一誠へと向けていくが、一誠はそんなものを一切気にもせずに旧校舎を目指している。

 

――その子、アーシアは私達の所有物なの――

 

自らの仲間達の居場所目掛けて駆けていても、一誠の頭では先ほどの出来事がリフレインしていた。

 

ギリ、と歯を噛み締めることで感情が噴出するのを堪える。今はまず何よりも早く行動しなければいけない時だ。嘆いている暇はないのだと、一誠は自らに言い聞かせ続けなければならなかった。

 

――その悪魔を殺されたくなかったら、私と共に戻りなさい――

 

全速力で駆けていても、その速度が落ちることは無かった。一誠は悪魔の体と普段の親友件師匠の修行の成果に感謝をした。

 

――今日の儀式であなたの苦悩は消え去るのだから――

 

駒王学園が見えてきた。一誠は正面玄関に回るのも面倒だとばかりに壁に向かい、壁を駆け上る。塀を越えて着地しようとして失敗して転げてしまったが、すぐに立ち上がりまた走り出す。

 

――次に邪魔をしたら殺すわね。じゃぁね、イッセーくん――

 

現在の場所を確認。旧校舎の裏手の林の中だと断定する。旧校舎の入り口へと回り込む。

 

そうして辿りついた自らの仲間の本拠地たる旧校舎。そこに飛び込もうとして、

 

「イッセーくん?どうしたんだい?」

 

自らの親友が居ることに気付いた。

 

その声に足を止めそうになるが、今は急いでいるのだ。少し失礼なことになるが、無視してオカ研部室まで駆け抜けていこうとした。

 

「・・・・・・どうやら、ただごとじゃぁないみたいだね」

 

翔のその言葉に足が止まる。

 

翔の方へと視線を向けてみる。そこには眼を険しくさせながらも、一誠を心配している翔の姿があった。

 

あぁ、と一誠は思った。

 

なんでお前はそんなに察しがいいんだ、と。

 

なんでそんなに良い奴なんだ、と。

 

そんな顔されたら、我慢できないじゃないか、と。

 

「翔・・・・・・。俺さ、今日、友達が出来たんだ」

 

もう、一誠には我慢できなかった。自らの心の底にたまったものを吐き出し始める。

 

翔の方を向かずに始まった一誠の独白。しかし、翔は何を言うでもなくただ相槌を打つだけだった。

 

「その子、すっげぇ美少女なんだぜ?おまけにシスターさんで、しかも世間知らずなところもあって。すごい可愛いんだ」

 

それが、今の一誠にはありがたかった。

 

「なんでもないようなことに一々大げさに反応してさ。もっと色んなところに連れてってやりたいって思わせるような娘なんだ」

 

そして、

 

「守りたい、って思ったんだ」

 

でも、

 

「守れなかった・・・・・・!」

 

ポタ、と地面に雫が落ちる。一誠の眼から零れ落ちた水は、土に幾度も染みを作っていった。

 

「しかもさ、逆に俺が庇われちゃって。その娘、絶対に危ないってわかってるところに行かなくちゃならなくなって・・・・・・!」

 

もう、止まらない。

 

一誠の眼からは大粒の涙が幾つも零れ落ち、一誠にそれを止めることは出来なかった。

 

だって、悔しかった。

 

アーシアは、優しい娘なのだ。

 

日の当るところで、子供たちに囲まれながら微笑みを浮かべている。そんな光景が似合うような、そんな女の子なのだ。

 

悲しい出来事や、涙なんてものは、彼女には似合わないと一誠は思う。

 

でも。

 

自分のせいで、彼女は血の匂いが煙る場所に行ってしまった。

 

レイナーレと呼ばれた堕天使が「儀式」なんて言っていたのだ。録でもないことがあるとはアーシアだってわかっていたはずなのに。

 

自分を庇って、彼女は自ら死地へと向かった。

 

それが、一誠には堪らなく悔しかった。

 

「・・・・・・強くなりたい」

 

ポツリと、一誠が呟いた。

 

それは、今の一誠が心の底から望んでいたことだったのだろう。次第にその声は大きくなり、叫びと呼べるものへと変わっていった。

 

「最強なんて大層なものじゃぁなくてもいい。全体から見たらちっぽけなものだったって構わねぇ。ただ、あんな優しい子が、守りたいと思ったものが、泣かなくていいように。悲しまなくていいように。理不尽から遠ざけられるくらいに、強くっ!なりたいっっ!!」

 

拳を強く握り締め、瞳からは涙を零す。そんな一誠の心の叫びを目の当たりにした翔は、不謹慎だと思いながらも微笑が浮かぶのを止められなかった。

 

(あぁ、あの時の師匠たちは、こんな気持ちだったのかな・・・・・・)

 

あの時。翔が黒歌のために戦うと決めた時。師匠たちは揃いも揃って嬉々として修行を激しくしてきたが、翔はその時の師匠の気持ちがわかるような気がした。

 

弟子のこんな気持ちを聞かされたら、師匠としては応えたくなる。自らの全てを以ってその望みを叶えてあげたくなる。

 

まだ2週間強の期間しか師匠をしていない翔ですらこうなのだ。なら、何年も翔の師匠をしていたあの人たちの気持ちはもっと強かったのだろう。

 

が、今はそんな懐かしさにも似た気持ちに浸っている場合ではない。一誠が弟子として成長したのだ。ならば、今度は翔が師匠として応える番だろう。

 

「・・・・・・神器は、想いに応えてくれる」

 

「え?」

 

「イッセー君。君が強くなりたいと思うのなら、今の気持ちを忘れないことだよ。そうすればきっと、イッセー君は何者よりも強くなれるはずさ」

 

「何を、言って」

 

「だって、イッセー君はその子を助けに行くつもりなんでしょ?」

 

「!?」

 

どうしてそれを、という顔をして驚く。そんなイッセーに、翔は思わずクツクツと笑わずにはいられなかった。

 

「それくらいわかるよ。親友だからね。僕の知ってる兵藤一誠という男は、どうしようもなくお人好しな男さ」

 

「お前には言われたくないけどな・・・・・・」

 

翔の言葉に、一誠は苦笑を浮かべてそう返した。どうやら、多少は余裕が戻ってきたらしい。

 

「イッセー君。僕は用事があるから君と一緒には行けない」

 

「そうか。お前が居てくれたら心強かったんだけどな」

 

その内容とは違い、それほど残念ではなさそうに一誠は言う。

 

確かに、一誠は翔の強さを知っている。居てくれたらまさに百人力だ。しかし、自分の都合に翔を巻き込むわけにもいかないと一誠は思っていた。

 

「だから、イッセー君にある技を授けるよ」

 

「え?」

 

「君が堕天使に負けないようにね。今から教える技を使えば、きっと堕天使相手に有利に回ることが出来るはずさ」

 

一誠の胸で鼓動が激しくなる。それは期待からだった。

 

自分が手も足も出なかった堕天使レイナーレ。そんな相手に有効な技を教えられるということに一誠は興奮したのだった。

 

しかも、彼女は一誠を殺すために恋人の振りまでしていたあの堕天使だったのだ。一誠はレイナーレをぶん殴りたくてしょうがなかった。

 

「男が一度守りたいって思ったんだ。・・・・・・なら、その子を助けちまえよ!!」

 

満面の笑みを浮かべ、更にはサムズアップをしての翔の言葉。一誠は、その言葉に力が湧いてくるような気がした。「やっぱり翔には敵わないなぁ」と思いながらも、一誠は威勢よく返事をした。

 

「おうっ!!」

 

自らを殺した堕天使と、その下に着いているであろうはぐれ悪魔祓いたち。

 

相手に不足は無い。

 

一誠は翔に技を教わりながらも、気炎を更に勢い良く燃やしていくのだった。

 




副題元ネタ・・・世界の中心で愛を叫ぶ

というわけで一誠決意の回でした。

決意させるまでは一気に行きたかったので長くなってしまいました。

そして遅くなってしまいすみませんでした。

次回はカチコミだよ!
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