まずは第一弾、といったところでしょうか?
――少年は、心の底からこう思った。
生きているって素晴らしいなあ、と。
「ちょっと大袈裟すぎやしないかなあ」
「ちっとも大袈裟じゃあないわ! あんな修行受けたら誰でもそう思うっての!!」
「え~。昼からの修行に差し支えないように錘を軽めにしといたのに……」
「あれでかよ……。お前にとっての「重い」の基準ってドンだけ高いんだ……」
はあ、と少年、兵藤一誠は溜め息を吐いた。これからの地獄を思うとその溜め息はとても重いものにならざるを得なかった。
ここはグレモリー家が所有している山にある別荘。木で作られている風情溢れるログハウスの前で昼食をとっているところだった。
ちなみに、一誠と翔が言っている修行とは、この別荘にたどり着くまでの山道でのことである。いつも通り錘を乗っけての全力疾走をしていたのだ。
いつもより重い負荷を掛けられ、しかもなれない山道を全力疾走である。勿論スピードが落ちたら電撃のカツが入っていたので、合宿が始まる前から一誠はすでにボロボロなのだった。
荷物は別途黒歌が空間作成の術を使って持っていっていたので、メンバー全員が錘を付けての登山となっていたことを記しておく。そしてその錘が投げられ地蔵ぐれ~とやしがみ仁王アイアンだったりしたことも付け加えておく。それらを背負って行くと行ったときのメンバーの反応は推して知るべし。
ちなみに、今日の昼食のメニューはカレーである。
「にしても、このカレー上手いな……」
と、一誠が唸りながら頬張ると
「そうね。翔が作ったのよね?」
と、リアスが同意をし
「とても美味しいです!」
アーシアが満面の笑みで元気に答え
「あらあら。負けられませんわね」
いつも通りの柔和な笑みを浮かべた朱乃がひそかに闘志を燃やし
「それに、何か力が湧いてくるような気もするね」
木場は首を傾げながらも舌鼓を打ち
「……おかわりです」
小猫は既に1皿完食していた。
小猫が差し出した皿にニコニコしながら翔はご飯を盛り付けた。
「どうも。喜んでくれているようで何よりだよ。……まあ、力が湧いてくるってのは気のせいじゃないよ? これ、師匠から教わった薬膳カレーだし」
「薬膳カレー? なんだそれ?」
「漢方の原料となっているものの中には、香辛料になっているものもあるにゃ。それらの効能を高めるように、特別な比率で調合したスパイスを使っているカレーよ。おいしくて、しかも漢方の効果によって内臓を鍛えられるお得なレシピってわけ」
「……な、なるほど。食事も修行の内ってわけね」
「そういうこと。はい、小猫ちゃん」
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
翔が差し出した皿を受け取り、再びカレーを貪りだす。擬音で表すとパクパク、という感じの、決して汚い食べ方ではないのに物凄い勢いでカレーが胃袋の中に収められていく。
そんな眷属+αの食事風景を眺めていたリアスは、パンパン! と手を叩くことで皆の注目を集めた。
「食事をしながらでいいから聞いて頂戴。今日から10日間の合宿に入るわけだけど、我武者羅に鍛えたって意味が薄いわ。そこで、今日の夜にライザーのゲームのデータが届く予定だから、明日からはそれを元に立てた戦略に沿って鍛えていくわよ」
「今日は基礎体力を鍛えたり、基本的な魔力の扱いを覚えたり、だね」
「小猫は仙術や妖術の基礎も教えていくにゃ」
皆の指揮を執る王であるリアスが合宿の方針を話すと、指導員である翔と黒歌がそれぞれの今日のメニューの概要を教えていく。
それに難しい顔をしたのは一誠だ。
「……うむむ」
「どうしたの? イッセー君」
「いや、また基礎修行かって……」
一誠ががっくり、と肩を落としていると、その左腕が光りだした。
そうして出現したのは、一誠の
『仕方ないだろう。それが相棒が強くなる一番の近道なんだからな』
その篭手から重厚な声が響いてくるが、この場にいる誰もが驚きはしない。その正体を知っているし、その光景を何度も見ているからだ。
「ドライグか。いや、て言ってもなあ」
『まあ、相棒の気持ちもわからんでもない。基礎修行というものはとかく、地味で、辛くてキツくなりやすく、しかも効果を実感しにくいものだからな』
その言葉にうんうんと頷く面々が3人ほど。一誠と翔と黒歌である。達人製の基礎修行の辛さはハンパじゃないのだ。
『だが、相棒の場合はそうでもないぞ? 分かりやすく教えてやろう。……相棒、今の相棒は何回まで倍加を溜められる?』
「10回だな。それ以上やると『
『つまり、今の相棒は能力を発動させて100秒立ってから『
その凄まじい数値に、その場にいた皆がごくり、と生唾を飲み込んだ。
わかりやすく例えるならば、ドラ○ンボールの主人公が「界O拳、1024倍だァァーーーッッ!!」と、言うようなものである。
力の増加に時間が掛かるとはいえ、かなり反則的な能力と言える。
「分かってはいたけど……凄まじい能力だね」
『そうだ。だが、ここで相棒が基礎修行を行って基礎能力が2倍になったとしよう。この場合、倍加できる回数も増えるのだ。単純に増えるわけではないから……そうだな、15回、倍加できるようになったとしよう。そうすると、相棒は150秒待つだけで、その力が2の15乗、つまり32768倍になっているというわけだ。しかも、元々の力が今の2倍になっているわけだから、今の力から換算すると、65536倍になっているというわけだな』
あまりといえばあまりなその言葉に、皆が絶句した。
65536倍と言えば、猟銃を持っただけの農民もとある悪の宇宙の帝王の特戦隊の隊長よりも強くなってしまえるくらいである。
十数秒経った後に、翔がようやくと言った様子で口を開いた。
「それは最早、異常と言ってもいいくらいだね……」
『その通りだ。しかし、逆に言うならばそのくらいの『
それを越える力を持つと言われた
『基礎能力を今の2倍にするといってもそう簡単なことじゃないし、時間もかかる。倍加にかかる負荷も倍加の回数が増えれば増えるほど加速度的に増加していくし、また、神器の扱いに習熟すればするほど負荷は軽くなるから、現実は先ほどの例えのように単純な話ではない。ないが、相棒にとっての基礎修行がどれほど大事かわかっただろう?』
「……ああ。それと、ドライグがどれほど凄いやつかってこともな……。赤龍帝って物凄かったんだな」
『なんだ。今頃気付いたのか? わかったのなら敬え、崇めろ、奉れ』
「いきなり超上から目線!?」
いきなり起こった漫才じみたやりとりに、全員から笑いが漏れた。その様子に「やはり俺はツッコミになる運命なのか?」と思ったとかそうでないとか。
「まあ、そういうわけで片付けが終わったら訓練に入るわよ!」
『ハイ!』
◇◇◇◇◇◇
昼食の片付けも終わり、各自が訓練に突入した。
翔がコーチ役となるのは、前衛組みの面々である。つまりは真っ先に相手と戦う役目である、兵士、騎士、戦車である一誠と木場と小猫だ。
その面々は現在、急勾配の崖の下へと来ていた。勿論ここに来るまでも修行の一環であり、それぞれの筋力に合わせた重荷を背負っていることは言うまでもない。
崖の高さは大体50メートル程だろうか。その先を見上げながら一誠が疑問の声を上げた。
「で、ここに来たってことはこの崖を上るのか?」
「察しがいいね。その通りだよ」
「ハハ、それはキツそうだね」
「……でも、キツくないと修行にならない」
そう言いながら3人は重荷を降ろそうとする。が、その様子を見てストップを掛けるものがいた。言うまでもなく翔である。
「あ、重荷は降ろしたら駄目だよ?」
「なん…だと…!?」
「それじゃ死んじゃうだろって? 重荷が無いと修行にならないじゃないか」
さらっと心を読んだ上に、とんでもないことを言ってのける。わかっていたことだが一誠たちは頭が痛くなってきた。
こうなったらテコでも動かないことはこの1ヶ月で分かりきっているので、仕方なく重荷を背負ったまま崖に捕まる。しかし、そこでもまた翔のストップが入った。
「ちょっと待ってね~。……これでよし」
しゃがみこんでゴソゴソしていた翔が立ち上がると……一誠の足が鎖で雁字搦めにされていた。しかも鎖には西瓜程の鉄球が3個ほど繋がれている。これでは足をまともに動かすことも難しい。
立ち上がって額を手で拭っていると、一誠のツッコミが爆発した。
「何「いい仕事したわ~」みたいな空気出してるんだよ! 足縛られたら上れないじゃないか!」
「え? 手があるじゃないか」
キョトン、と翔は首を傾げた。その様子に木場は苦笑を、小猫は無表情ながらも可哀想なものを見る眼になっている。
「……わかってはいたけど、最早拷問」
「ハハハ、これはきついね」
だが、当然ながら2人も傍観者でいられる筈もなく。
「じゃあ、小猫ちゃんの足も縛るからちょっと待っててね~」
「……考えたくはなかったけど、やっぱりこうなった」
「僕も、ということなのかな?」
「いや、木場君は手を縛るよ。木場君は他の2人とスタイルが違うからね。その最大の長所であるスピードを伸ばさない手はないよ」
2人にも枷を嵌めると、手をパンパン、と払いながら翔が立ち上がった。
「さて。『黙って俺の言うことを聞いていればいいんだ』っていうのは少し前時代的だから、なんでこんなことをしたのか説明するよ」
「納得できるものなんだろうな?」
一誠が半眼になって翔を睨みつけている。余程やりたくないらしい。
その様子に「僕もこういう時代があったな~」と思い、翔は苦笑した。
「まあ、僕の師匠の言葉なんだけどね。『手っ取り早く強くなるには突きを蹴り並に強くするか、蹴りを突き並に器用にするか』なんだよ。だから格闘型である2人は腕力と体力を鍛えるために、足を縛ったってわけ」
「……必ずしも悪魔には当てはまらないと思いますけど、脚力は腕力の3倍あると言いますから。そこから考えたのですか?」
「そうだよ。逆に、蹴りは出している間はどうしても体を足一本で支えなくちゃいけないから、突きほどの幅は持たせられない。だから、もしも蹴りを突き並に器用にしたら、それだけでかなり厄介な代物になるってことだね」
余談だが、その良い例が風林寺美羽や南條キサラだろう。彼女たちは蹴りを主体とする武術の達人だ。当然、その蹴りの多様さは言うべくもない。
パンチよりも遥かに強烈な威力の蹴りが、頭を狙う軌道にあったかと思えば、太ももを叩き。しゃがんで避けたかと思えば、踵が頭に突き刺さる。
組み手相手になってもらっていた翔は、その変幻自在の蹴り技がどれほどやりにくく、そして強いかをよく知っている。
「2人に関してはこの言葉通りだよ。でも、木場君だけは武器使いだからね。腕力が有って損は無いけど、それよりも長所の脚力を伸ばした方がいいかと」
「なるほど。武器使いは武器を適切に扱う筋力があれば、後は武器で攻撃力を補えるから、だね?」
「そう。それよりも武器を使うのに邪魔な筋肉を付けたらそれは長所のスピードを殺す結果にもなりうるから」
それに、と翔は崖を構成する岩々を指差した。
「腕を使わずにこの崖を上ろうとすれば、必然的に優れたバランス感覚と、足場を掴む指の力が鍛えられるからね。どちらも、高速戦闘下での
それらの言葉に面々は大きく感心したような顔になった。どうやら何も考えずに拷問じみた修行を押し付けていると思っていたら、結構考えられていたことに驚いたらしい。
その内心を察した翔はぶすっとした顔になった。
「まったく、君達は僕をなんだと思っていたんだか……。5往復を5セットやろうと思っていたけど、10セットにしちゃおうかな(ボソッ」
ボソッと付け加えられた言葉に慌てたのはそんな拷問を課せられることになる3人だ。強くなりたいという気持ちは持っているが、そんな八つ当たりじみたことで地獄が増えるのは勘弁願いたい。
慌てたように3人は翔を持ち上げ始めた。
「い、いや~! 流石翔だな!」
「……ここまで考えられたメニューは、私たちでは組めない」
「そうだね! やっぱり専門家というだけはあるよ!」
そのあからさまな煽てに、翔は照れたかのように後頭部を掻きだした。
「い、いや~。そこまで言われるほどじゃないよ」
テレテレとした翔の様子に内心で安堵の溜め息を吐き出した3人だったが、……残念。安心するのは早すぎた。
「そこまで期待されているのなら、それに答えないわけにはいかないよね! じゃあ、5往復を10セット、往ってみようか!」
「「「……神は死んだッッ!!!」」」
「何言っているんだい? もしそうだったら今頃教会勢力が大慌てだよ」
そうじゃない! と大声で叫びだしたい衝動に3人は駆られたが、余計な体力を使うことになるだけだと察知したのでやめておいた。
「ちなみに、1セットごとに、1番遅い人は1往復追加だからね~」
ピタ、と3人の動きが止まると、3人がニコニコと笑いながらその顔を見合った。普段無表情な小猫ですら微笑みを浮かべている点にその尋常じゃない空気を感じていただきたい。
「小猫ちゃんは女の子だからな。無理せずにゆっくり登るといいと思うぜ」
「……祐斗先輩は、腕が使えなくて落ちる危険性が一番高いんですから、慎重に登った方がいいと思います」
「イッセー君は、悪魔になって一番日が浅いからね。体を壊さないように休憩を入れながらのほうがいいと思うよ?」
黒い。そして重い。先ほどまでの仲の良さは何処へ行ったというのだろうか。非常に嘆かわしいことだが誰もが自分の命が大事なのである。
が、翔はその様子に満足そうにうんうんと頷いていたのであった。まさに外道!
「じゃあ、僕が合図したら登り始めるようにね!」
ピョンピョンと崖を登っていく翔。そうして頂上まで登ると、顔をピョコっと出した。下の一誠達からはもうその顔が点にしか見えない。
「じゃあ、始め!!」
『ぬぉぉぉぉぉぉッッ!!!』
合図と共に3人が一斉に崖を登り始めた。一誠と小猫は腕だけを使って。木場は足だけを使ってだ。その顔には鬼気迫るものがあった。
ぐんぐんと勢いよく登っていく3人。その様子を見て翔がまたもや満足げに頷いた。
「うんうん。やっぱり競わせると違うね~。……さて、こっちも準備に入るかな?」
そう言って後ろを振り向く翔。そこには岩を砕いて細かくした直径5センチほどの小石の山があった。その小石を懐――武術家の楽園へと腕だけ繋げるという小技だ――から出したバケツへと山盛りにする。
そのバケツを持った状態で崖の下を覗いてみると、案の定足を使っている木場が一番早く、身体能力が一番低い一誠が最も遅かった。
「やっぱりそうなるよね。さて、……言い忘れてたけど、20秒毎に、その時に一番速い人に石を落としていくから、避けるなり、耐えるなりしてね~!!」
「「「
「それ!!」
「ちょっとぉぉっ!!」
頭上から大量に落ちてくる小石を、横へと素早く移動することで何とか避けた木場。その横を小猫が抜かして登っていくのを見て慌ててまた上へと足を進めていった。
30秒後、木場と小猫がほぼ同時に頂上へと辿りついた。一誠は残り7メートルと言ったところだろうか?
小猫がそのまま降り、木場も向きを変えて降りようとしたところで、翔から待ったが掛かった。
「木場君。向きはそのままでね」
「え!? それは無茶というものじゃないかい!?」
「だって無茶なことしないと修行にならないじゃないか」
その言葉に木場は頭痛がしたような気がして、思わず手で額を押さえそうになったが、手が縛られていることに遅まきながら気付いて溜め息を零すだけに留めた。
「ほらほら、一誠君が登ってきちゃったよ」
「く! わかったよ……」
ビリになるのは嫌なので渋々降り出した木場。その横に一誠ほぼ同じ高さで降り出していた。
降り出してすぐに、一誠と木場は登りよりも降りの方がキツいことに気がついた。
(クッソ! マジでこれキツいな!)
(登りの時はそれに適した足場が見やすかったけど……。足場を探すのしどうしても下を見なくちゃいけないから、その分時間が掛かるし、その間体を支えてなくちゃいけない! 足の指の力が抜けないよ、コレは)
「20秒経った。小石行くよ~」
その後、2時間半ほど、この拷問じみた修行は続けられた。この修行を受けた面々が翔に修行を指導してもらったことに後悔したことは言うまでもない。
副題元ネタ……東方紅魔郷の2面ボス「チルノ」のテーマ曲「おてんば恋娘」のアレンジ曲「チルノのパーフェクトさんすう教室」
というわけで、ドライグのパーフェクト
今回、ブーステッド・ギアの能力を分かりやすく数値にしてみましたけど。
ハンパじゃないチートっぷりですね。
そしてだからこそわかる原作のインフレ具合。
……まあ、原作は「考えるんじゃない、感じるんだ!」な感じですし!!