頭を緩くしてお楽しみいただけると嬉しいです。
――リアス・グレモリーは悩んでいた。
その悩みの原因は自分の眷属の1人、兵藤一誠だ。
別に、彼に何か不満を持っているとか、彼に至らないところがあるだとか、そういう意味で悩んでいるのではない。
寧ろ、彼は良くやってくれているとリアスはそう思う。
契約も初めは中々取れなかったものの、最近になってちらほらと取れてきている。
何より、人の2倍や3倍ではきかない、キツい修行に真面目に取り組んでいるのは自分でも無理なことだとは思う。
では、彼の何処が悩みの種なのか。
それは、先のレーティングゲームの中で彼が言った一連の会話にあった。
彼は言った。
自分は彼の命の恩人で、その恩人を助けるためだったら、命を懸けなきゃ男じゃない、と。
つまり彼は、自分のために命を懸けてくれたのである。
しかも、その後にきっちり勝利を収めて(女の自分には何とも理解し難い理屈による勝利だったが)自分を助けてくれたのだ。
男の人が、女の自分を助けるために命を懸け、そして助け出してくれる。
それは、女としては一種の憧れを抱いてしまうようなシチュエーションで。
まあ、なんだ……簡単に言うと、ときめいてしまったのである。
しかし、しかしである。
1回ときめいたからといって、それがすぐに恋だと思う程御目出度い頭はしていない。
だが、それから今日までの数日間というものの、彼の姿を無意識に眼で追っていたり、彼の何気ない仕草にドキッとしたりすることがままあった。
普通に考えたならこれは恋に落ちた乙女が起こす行動だろう。
なら、自分は恋に落ちたのだろうか?
それとも、ただ1回「いいな」と思うシチュエーションを魅せられたから、彼をほんの少しの間だけ意識してしまっているだけなのだろうか?
それがわからない。
それが、リアス・グレモリーのここ最近の悩みの種なのだった。
どうしたものかしらね、と考えながら黒板に書いてある言葉を書き写す。
う~ん、と額に人差し指を当てながら考えるものの答えは出てこない。
――と、その時。1つのアイデアが電流となってリアスの脳裏を駆け巡った。
その考えを即座に検討し、そしてそれを採用することを決定したのだった。
――恋についてわからなかったら、恋愛をしている人に聞けばいいのよ。
――アーシア・アルジェントは悩んでいた。
その悩みの原因は、自分の初めての友達、兵藤一誠だ。
別に、彼に何か不満があるだとか、彼が何か意地悪してくるだとか、そういう意味で悩んでいるのではない。
寧ろ、彼は自分に良くしてくれているとアーシアはそう思う。
日本語に不慣れな自分に何時間も付き合って教えてくれるし、常識についてだって教えてくれる。
何より、困っている時に側に居てくれて、自分をさりげなく助けてくれるし、不安な気持ちを和らげてくれる。
では、彼の何処が悩みの種なのか。
それは、彼が鈍感であるということだった。
初めての友達で、一緒に遊んで、一緒に笑って。
たった、それだけの間柄だった自分を助けるために、命を懸けてくれた。
男の人が、女の自分を命を懸けて助け出してくれる。
それは、女なら一種の憧れを抱いてしまうシチュエーションで。
まあ、なんだ……簡単に言うと、ときめいてしまったのである。
初めての友達だったことも相まって恋に落ちてしまったのは我ながらチョロいなあ、と思わなくもないものの、恋してしまったものは仕方が無い。
しかし、しかしである。
彼の家にホームステイして、同じ家に住んでまでアプローチしているのに、彼は自分のことを護るべき存在、例えるなら癒し系妹的なそんな感じにしか思っていないのである。
度重なるアプローチも、彼の鈍感の前に悉く不発。
どうしたものでしょう、とアーシアは教師の言葉をノートにメモしながらそう思った。
う~ん、と頬に指を当てながら考えてみるものの、答えは出てこない。
――と、その時、1つのアイデアが紫電となってアーシアの脳裏を駆け抜けた。
その考えを即座に検討して、そしてその考えを実行に移すことを採決した。
――男の人へのアプローチの仕方なら、実際に男の人と付き合っている人から聞けばいいんです。
――姫島朱乃は悩んでいた。
その悩みの原因は、自分の仲間であり後輩でもある塔城小猫だ。
別に、彼女に何か不満があるだとか、彼女が鬱陶しいだとか、そういう意味での悩みではない。
寧ろ、彼女は良く頑張っていると朱乃はそう思う。
仙術もやはり才能があったのか、ここ最近はぐんぐん技量を伸ばしていっている。
何より、それだけじゃあなく、彼女が習っていた総合格闘技も武術家である翔から指摘を受けて実力を上げている。
では、彼女の何処が悩みの種なのか。
それは、彼女と自分の境遇の相似性にあった。
彼女と自分は、細かいところは違うものの概要だけで言えば酷く似ているところがあった。
複雑な思いを抱いている家族がいること。
その家族と同じ血を引いていることにあまりいい感情を抱いていないこと。
その血故に持っている「力」を忌避し、疎ましく思い、使おうとは思っていないこと。
このような共通項を持っていたのだ。
そう、過去形だ。
彼女は、複雑な感情を抱いている家族へと一歩歩み寄り、自らに流れる血を受け入れ、そして忌避していた力である仙術や妖術を家族から習い、習得していっている。
後輩である彼女が勇気を出して一歩を踏み出したのに、自分はこのままでいいのか?
このように考えてしまうのだ。
まあ、なんだ……簡単に言うと、先輩のちっぽけなプライドなのである。
先輩という生き物は、後輩の前では格好付けたいものなのだ。そして後輩に凄いって言われて良い気分になったりするものなのだ。
しかし、しかしである。
そうは思っても、長年複雑な思いを抱えていた家族とその血が齎す、忌避していた力を受け入れる。というのは、中々すぐに出来ることじゃあなくて。踏み込む勇気もそう簡単には湧いてこなくて。
それに、あの不器用でぶっきらぼうで無愛想で生真面目で頑固で融通が利かなくて……と、挙げていけばきりのない
だが、歩み寄る努力だけはしてもいいのじゃあないかとは……思う。
しかし、そうは言っても何からどうすればいいのか、朱乃にはわからなかった。
どうしたものかしら、と考えながら教科書の文字を眼で追う。
う~ん、と腕組をしながら考えていても答えは出てこない。
――と、その時。1つのアイデアが閃光となって朱乃の脳裏を突き抜けた。
即座にその考えを検討して、そしてそれがそう悪くは無いと結論付ける。
――
――塔城小猫は悩んでいた。
その悩みの原因は、実の姉であり、現在の師匠でもある黒歌だ。
別に、彼女の教え方に何か不満があるだとか、彼女の教えに至らないところがあるだとか、そういう意味での悩みじゃあない。
寧ろ、彼女の教え方はとても上手いものだと小猫はそう思う。
仙術も、暴走の危険がある術なのだが、基本から教えられることで暴走することなく行使することが可能になっている。
それ以外の妖怪としての妖術や、悪魔としての幻術なんかも教えてもらって技量を伸ばすことが出来ている。
では、彼女の何処が悩みの種なのか。
それは、彼女と自分の間にあった過去の出来事と現在の関係にあった。
過去、自分と姉を引き裂いた、姉が主を殺してはぐれ悪魔となり自分の前から姿を隠した事件。
そのような事を起こした理由は既に聞いており、理解はしている。
しかし、長年複雑な感情を抱き続けていたことには変わりなく……。その気持ちを飲み込めないでいた。
何とかその気持ちと向き合っていこうと、その第一歩として仙術を教わってはいるものの、それより先に中々進めない。
どうやって姉との関係に整理をつけていこうか。
まあ、何だ……簡単に言うと、どう接すればいいのかわからないのである。
そりゃあ、長年離れ離れになっていて、その間自分の心の裡で醸成されていた複雑な気持ちを抱えている姉とどういう風に接したらいいのかわかる筈もないだろう。
気軽に接したらいい? そんなこと言う奴はいっぺんあの気まずい空気を浴びてみて。めっちゃ何とも言えない気持ちになるから。
しかし、しかしである。
幾ら色々なことがあったからと言って……自分が苦労して生きている時に恋人を作ってきゃっきゃうふふ楽しんでいるのはどうかと思う。
はっきり言って、ちょっと殺意を抱くのも仕方ないことだと思うのは悪い事なのだろうか? いや、悪くない(反語)
どうしたものか、と考えながら教科書で教師からの視線を隠してお菓子を食べる。
う~ん、と一口サイズの和菓子を頬張りながら考えても答えは出ない。
――と、その時、1つのアイデアが火花となって小猫の脳裏で瞬いた。
その考えを即座に検討し、それしかないかとその考えを採択する。
――結局の所、人のことを知ろうと思ったら話を聞くしかないんですよね。
◇◇◇◇◇◇
「というわけで、「第1回オカルト研究部+αによる女子会」を開催するわ!」
拳を力強く握りながらのリアスのその宣言に、1人を除いてワ~パチパチと疎らに拍手をしてノっている。
ここは放課後のオカルト研究部室。ソファーに座りながらテーブルを囲んでいたところ、リアスが突如立ち上がってそう宣言したのだ。
先の宣言にノっていなかった黒歌は眼をパチクリとさせながらいきなりの展開に着いて行けないでいる。
「え~と……「というわけ」ってどういう訳にゃん?」
そう言いつつも差し入れとして持ってきていた和菓子の入っている重箱をテーブルの上に広げている。こういう風に振り回されることに慣れているのだろう。何せ達人を相手していると振り回されることはしょっちゅうなものですから。
淹れたてで湯気の立っている緑茶が入っている湯呑を皆の前に置きながら朱乃が説明した。
「簡単に言うと、私たちの4人が4人とも、黒歌さんの恋愛話に興味津々ということですわ」
「は、はい! 少しばかり参考にしたくてですね……」
「……興味津々という程でもないですけど。私も女子ですから、恋愛には興味ないとは言い切れません」
「要するに、どんな経緯で付き合い出したかとかを、じっくりねっとり話して貰おうというそういう集まりよ!」
何だかんだ言いつつも、皆思春期の女子なのだ。多少の差はあれど恋愛に興味があることに違いはない。
黒歌も女なので、その気持ちはわからなくもない。寧ろ、聞く側に回っていたなら率先して話している人を弄り回していることだろう。
だが、自分が弄り回される側になるのは……ちょっとばかし御免こうむりたいと思う黒歌だった。
何とか逃げ道を探そうとして、黒歌は助けの位置を把握すること、取り敢えず時間稼ぎをすること、2つの意味を含めて質問した。
「あの~。翔とかの男子はどうしているにゃん?」
だが、返ってきた答えはこの場に味方はいないという無情なものだった。
「これは男子無用のガールズトークよ。邪魔にならないように裏で修行して貰っているわ」
――その頃の男子――
「なあ、翔」
「何かな? イッセー君」
「俺って、この前準主人公タグつけられたばっかりだよな」
「そうだね」
「なのに、そのタグが付けられた瞬間に出番が無いってどうなんだ?」
「それを言ったら僕なんて主人公なのにまともな見せ場が少ないよ」
「ははは、大変だね2人とも」
「何笑っているんだよ、木場? お前なんて出番の9割が笑っているか、微笑んでいるか、苦笑しているかのどれかじゃねえか。ゲームでも出番があったのはお前の創った魔剣だけだしよ」
「ぐはぁっ!? そ、それは言わないお約束だよ……イッセー君」
「ふむ、それじゃあ……」
「嫌な予感がするに一票」
「僕もそう思うよ……」
「修行をして強くなって、活躍の場を作ろう!!」
「結局その結論になるんだな……」
「イッセー君、僕はもう悟ったよ……。修行からは逃げられない、とね」
――オカルト研究部室――
「さあ、さっさと吐いちゃえば楽になるわよ?」
そう言って黒歌に詰め寄っていくリアス。その眼はちょっと血走っていて危ない人に見えなくも無い。
「あ、これちょっと突き抜けちゃっている時のテンションだ」と察した黒歌の行動は早かった。
即座にその場から飛び上がり、扉の前に着地。部室から出て行こうとする。その動きはまさしく猫のように俊敏で、黒歌以外の眼では追っていくことも出来ずに黒歌の逃走を許していただろう。
しかし、そうは問屋が卸さない。
黒歌が扉を開けようと手を触れた瞬間にバチィ、という音と共に紫電が指先から足先にかけて駆け抜け、床へと逃げていった。
その音がして、しかし黒歌にはこの後に襲い来る痛みを予想することの出来る数瞬の合間が与えられていた。
刹那の後襲いくる――予想に違わぬッ! 否ッッ! 予想以上の痛みッッ!!
「~~~~ッッ!!??」
黒歌は思わず背を仰け反らせて、手を上に挙げていた。
逆の手で手首を掴みながらも、先の紫電の正体を黒歌は分析し――その答えに絶句した。
「これ、仙術式の結界!? しかもそれだけじゃなくて魔力式の結界も組み合わされてる!? 小猫っ! これは貴女が!?」
黒歌のその様子にしてやったりという感じで、小猫は唇を僅かに吊り上げた。その様はいつもよりちょっとだけ生き生きしていなくもない。
やはり妖怪。例え普段は無表情な小猫と言えど、悪戯することは本能的に好きなのかもしれない。
或いは単純に過去から現在にかけて積み上げられていた姉への鬱憤を晴らすことが出来たので愉快なのか。
その答えは小猫にしか知りえることは出来ないだろう。決して明確に描写することを避けることでキャラ崩壊を起こすのを防ごうという魂胆なわけじゃない。そ、そんなわけないじゃあないか。
「……はい、ちょっとばかし朱乃さんに協力して貰って組み上げました。あらかじめ術式を創っておいて、全員が揃ったところで発動しただけですから貴女と言えど気付かなかったでしょう?」
簡単そうに言っているが、言うほど簡単なことじゃあない。
確かに悪魔の魔力と違い、仙術は隠密性に優れている。
しかし、黒歌はその仙術の使い手なのだ。しかも小猫よりも圧倒的に格上の。
その自分に気付かせない結界を小猫が張ることが出来るようになっていた。
黒歌は小猫の成長に喜べばいいのか、そんな技術をこんな所で無駄遣いするんじゃあないと呆れればいいのかわからなかった。
まさしく、無駄に洗練された高等技術を無駄に織り込んだ結界の無駄な使い方だろう。
黒歌は思わず脱力して盛大に溜め息を吐いていた。
その彼女の肩をガシっと掴む4つの手。
黒歌はたっぷりの諦観とともに元々座っていた位置へと座りなおしたのだった。
「はあ、わかったわよ。話すにゃん。で、私と翔の馴れ初めだったわね? それは……」
と、こうして黒歌は自分と恋人が付き合い始めることになる前、出会いの場面から話始めるのであった。
――その頃の男子――
「か……はぁ、はぁ。……生きてるか~、木場?」
「な、何とか……。翔君、これって、一応基礎修行の筈だよね?」
「そうだけど?」
「ははは……。僕も師匠から剣術を習っていた身だけど……基礎修行で死ぬかもしれないと思ったのはこれが初めてさ」
「何言っているんだ? 木場。そんなの、俺は毎日味わっているぜ? ……自分で言ってて泣きたくなってきた」
「何言っているんだい。君達が受けている修行はまだまだ地獄の第一歩目だよ。僕なんか修行でもう何回も臨死したことがあるんだからね?」
「「え゛」」
「覚えておくといい……。人はね、心臓が止まったくらいじゃあ死なないんだよ……」
「「うわぁ」」
「すっげえ実感篭ってるな……」
「そんな実感は持ちたくないけどね……」
「この話題はもうやめようか……。物凄く不毛だよ……」
「そうだな……」
「精神衛生に良くないしね……」
「よし、じゃあ十分休憩したことだし! 次は組み手にしようか!」
「おい、十分休憩したか?」
「1分くらいじゃないかな?」
「木場、誰が上手いこと言えと」
「はいそこ! 私語しない! 今日はイッセー君と木場君のタッグ対僕という組み手をするから」
「珍しいな」
「でも、コンビネーションを高めるためにはこういうのも必要だろうしね」
「今日はこれだけじゃなくて、色々組み合わせを変更して組み手をやっていこうか」
「はいよ」
「イッセー君、頑張ろうね?」
「おう」
「じゃあ、行くよ!! ちぇりゃあ!!」
「「ぐぼぁ!!??」」
――オカルト研究部室――
「――と、そんな訳で、私から告白して付き合い始めることになったわけにゃん。だからまあ、あんまりアーシアちゃんの参考にはならないと思うわよ?」
翔との馴れ初めを語り終わった黒歌は、緑茶で唇を湿らしながらもそう締めくくった。
アーシアは、話の始まった当りは興奮に頬を紅潮させていたものの、現在はその結論に頭を抱えていたのだった。
「う~~~。……確かに、告白までに2年も掛かるようじゃあ、その前に恋敵が更に増えていそうです……」
「そもそも、私は恋した明確な切掛けはあるんだけど、そうだって気付いたのは後からのことだしね。それに、私の時はそうやって恋してるって気付いても恋仲になるとかって許されないような状況だったにゃん」
黒歌が自分が翔へと好意を抱いていると自覚したのは、まだはぐれ悪魔としての認定が解けていなかった時のことだ。
自分の為に命がけの闘いを生き残るための修行を行っていた翔に告白するなんていうのは、快楽主義的な面のある黒歌でも不謹慎だと思ったのだろう。
だからこそ、その制約が無くなった時に告白したわけだが。
「それにしても、中々ドラマチックというか……そんな殿方が居るということが羨ましくなりますわ」
(私の時にもそのような人が居れば、或いは母様も……。いえ、もう過ぎたことね……)
朱乃がそう言って黒歌を羨望の眼差しで見つめている。その瞳にはどこかもう届かないものを眺めているような色彩が載っている。
しかし、朱乃がその内心を吐露することは無く、小猫が静かにその言葉に同意した。
「……イッセー先輩が翔先輩のことをお人好しだとかお節介焼きとか言っていたのも納得できる。……普通、知り合って1ヶ月の人にそこまでは行動できない」
「イッセーさんも見ず知らずの私のために頑張ってくださいましたし……。その当りは本当に似た者同士なんですね」
アーシアも自分の体験したことと比較して小猫の言葉に同意する。確かにこの辺のことは似た者同士だと黒歌もそう思う。
時々そのお人好しさにやきもきさせられることはあるものの、その性格に助けられた身としては文句を言うことは出来ないのだった。
「もう付き合って2年くらいになるのよね? それだけ長い付き合いだと色々あったんでしょうね」
「そうにゃん。ま、でも私たちの場合付き合う前のことが大概大変だったから、トラブルも含めて楽しんでいた面もあるにゃん」
そう言って満面の笑みを浮かべる黒歌。その顔を見たものは黒歌が本当に翔のことを好きなのだということが分かり、ちょっとばかし壁を殴りたくなった。
「それだけ仲が良いと喧嘩とかもしたことがないんですよね?」
朱乃が皆の湯呑に緑茶を継ぎ足しながらそう確認する。
しかし、黒歌は苦笑を浮かべて首を横に振った。その苦笑は過去の自分たちに呆れているような感じだった。
「いや、喧嘩ならしたことあるわよ? 下らないものも、そうじゃないものも」
「……あんなに仲が良いのに、ですか?」
小猫が黒歌製の和菓子を頬張りながらも疑問を口にした。
小猫は以前黒歌と翔のデートを一誠と一緒に尾行しており、(一誠を無理矢理付き合わせたとも言う)その仲睦まじさを実際にその目で見ている。
そして、相手の心情を互いに慮って、気を遣いあう所があることもその時に見て知っていた。
そんな小猫にしてみれば、気を遣いあっていた2人が喧嘩するところが想像できないのかもしれない。
「寧ろ、互いに好き合っているからこそ、かもしれないにゃん。何でもないようなことが酷く気に障ったりするの」
「何でもないようなことがって、例えばどんなことなの?」
「そうね……。夕食の献立を決める時に、鮭の最高に上手い食べ方は塩焼きか煮付けかで喧嘩になったことがあるにゃん。私が塩焼きで、翔が煮付けだって主張し合ったの」
そう答える黒歌の頬は軽く朱に染まっている。自分でもその時のことを恥ずかしく思っているのかもしれない。
その、何だかとっても気が抜ける内容の喧嘩にリアスたち4人は実際に気が抜けたかのように脱力して肩を落とした。
だが、実際の喧嘩の内容自体はとても気が抜けるようなものではない。何せ、武術家2人が喧嘩するということは……
「あの時は大変だったにゃぁ。3時間に及ぶ殴り合いのようなものに発展してね。周囲一体を更地に変えてから、周りの人の取り成しで一端頭を冷やすために2人とも散歩することになったの」
厳密に言うと、2人とも組み手のように手加減をしない全力全開であった。勿論、活人拳として相手を殺さないようにはしていたが、それ以外は全力である。
翔は氣による身体強化に「流水制空圏」、その他各師匠の奥義・絶招を惜しみなく使い。黒歌もネコンドーによる近接戦と、仙術、妖術、幻術、魔力の入り乱れた遠距離戦。それを、分身を用いることによって1人で遠近両距離からの同時攻撃をする、などという荒業を披露した。
正直言って殴り合いじゃあなく、死闘と表現してしかるべき闘いである。その時は止めるのに苦労したと、両者を止めるのに尽力した白浜兼一氏は後述したそうな。ちなみにそれ以外の達人たち(主に梁山泊の面々や九拳の面々等)は、その喧嘩を肴に酒を飲んでいたそうである。
そこまでは想像出来なかったものの、それでもそんな些細なことで3時間にも及ぶ、周囲一体を更地に変える殴り合いの喧嘩に発展したという事実があまりにアレな感じだったので、リアス達は揃って顔を引き攣らせていた。
「結局、その時私が散歩から帰って来た時に、翔が鮭の塩焼きを用意しててね。2人して謝って、仲直りして。それでめでたしめでたしにゃん」
――その頃の男子――
「っくしゅん!! ……う~ん。なんだか過去の恥部を話されているような……」
「隙ありだぜ! 今だっ! 木場ァ!!」
『Transfer!!』
「ああ! これぞ僕の必殺っ!! 魔剣創生乱舞!!」
「む! 無数の魔剣を創りだすことによる剣の弾幕か! なら……ア~パ~~~!」
「なっ!?」
「なんだって!?」
「アーパパパパパパパパパパ!!!」
「ま、真っ向から……」
「パンチの連打で迎撃した、だって!?」
「イ~ヤバダバドゥ~~!!」
「びぶるちっ!?」
「ぶげらぁっ!?」
――オカルト研究部室――
「ま、そんな風に幾ら恋人同士で好き合っているからって、喧嘩したりするのは避けられないってことにゃん」
「本当に、感情っていうのは複雑怪奇なんですね」
アーシアはそう言って溜め息を吐いた。
好き合っているからこそ喧嘩することを避けることを出来ないというのは、彼女的にはショックなことらしい。優しい性格である彼女には好き合っているからこそ傷つけあう、というのは受け入れにくいことなのかもしれない。
「そういうことにゃん。恋だって、脳内物質の働きによる自身の感情の勘違いや錯覚だって極論を言う人もいるにゃん」
「何だかそれはそれで夢が無いですわ」
「……でも、吊橋効果とかのことを考えたら、否定しきることも出来ませんし」
小猫は和菓子を手に取りながらそう思ったことを口にした。
それに頷いて黒歌は自身の考えを口にする。
「でも、切っ掛けが何だとか、好きになるのに掛かった時間だとか、恋って何なのか、だとか。そういうのってあんまり気にしない方が良いかもしれないにゃん」
「……なんでかしら?」
その黒歌の言葉が、自身の悩みをピンポイントでつついている言葉だったので、リアスは余り興味がありませんよ、という風を装って続きを促した。
黒歌は、リアスのその内心を見透かして苦笑しながら持論を展開する。
「だって、結局恋していることに変わりは無いでしょ? だったら恋していることを楽しまなきゃ損にゃん。勿論、付き合えるかどうか、付き合ったとして上手くいくか、なんてわからないけど。そこを含めて楽しめるのが恋だと思うにゃ」
恋に悩むのではなく、恋を楽しむ。
只管、自分の楽しいように生きる。
それは、ある意味で快楽主義的な面のある黒歌らしい答えだった。
「勿論、失敗することもあると思うにゃん。でも、恋なんて長い永い悪魔生で幾らでも転がっているものにゃんだから、そこを恐れないで楽しまないとね」
悪魔である彼女らは永い時間を生きる。だからこそ、今の恋に臆病にならずに、積極的に楽しむべきだと黒歌は言う。
「さっきも言ったけど、好き合っていた所で喧嘩したりしちゃうのは仕方ないことにゃん。恋はそこで終わっちゃったりしちゃうけどね。だったらそこまでの相手だったということにゃん」
「でも……それは何だか悲しいような気もします」
黒歌の言葉にアーシアは悲しそうな表情をしてそう言った。
感情が素直に表情に出るアーシアを可愛いものを見る目で見ながら、その頭を黒歌は慰めるように優しく撫でてあげる。
その感触をアーシアは目を細めて受け入れるのだった。
「そうね。どれだけ好き合っていたとしても、恋をしていたとしても。喧嘩をしてしまうし、その結果傷つけあうこともあるというのは、悲しいことかもしれないわね」
でもね、と黒歌は言葉を続ける。
その顔には、とてもとても優しい表情が浮かんでいた。
「きっとね、どれだけ喧嘩しても、傷つけあったとしても、相手との間に愛を育めていれば仲直りをすることが出来ると思うの。相手を傷つけたことを後悔して、反省して。気を遣って、相手に謝って。そうしてもう一度ってね。そういう風にやり直すことが、愛があれば可能だと私はそう思うわ。これは私の経験談だから信用して良いわよ?」
最後にウィンクをしながら黒歌はそう締めくくった。
そう、先ほどの黒歌の話にもあったように、翔と黒歌も一度ならず喧嘩をしている。けれど、今も2人は付き合っているし、仲睦まじいままだ。
それは黒歌の言うとおり、彼と彼女がお互いのことを――
「だから、貴女たちもただ恋をするだけじゃなくて、しっかりと恋を愛へと発展させることをオススメするにゃん。それが別れないようにする秘訣よ♪」
そう、ただ恋だけでは恋愛とはならない。
恋と愛が揃ってこそ、恋愛という熟語が形作られるのだから。
黒歌の一連の話でオカルト研究部室にいい感じの雰囲気が流れ始めていた。
が、その雰囲気を黒歌のニヤリとした笑みが断ち切った。
後に小猫は述懐した。「……あれこそが邪悪というものを形にした笑みだった」と。
「じゃあ、私だけが話すのは不公平だし~。皆のコイバナも聞かせてもらおうかにゃん♪」
その言葉に、大きく反応したのはアーシアとリアスだった。
ビクッと肩を大きく竦めている。その動きだけでドッキ~ン! という擬音が聞こえてきそうな程だった。
その様に更に笑みを深くする黒歌と、ドS全開な笑みを浮かべる朱乃。
「ほうほう。アーシアちゃんは周知の事実として……」
「リアスも中々面白、じゃなくて興味深い話を聞けそうね」
2人の言葉に、たちまちオカルト研究部が姦しくなっていった。
緑茶だけではなく紅茶やジュースも出され、お菓子も和菓子だけでなく洋菓子にスナック菓子もテーブルの上に追加されていく。
「わ、私の話なんか聞いても面白くもなんとも無いわよ?」
「……部長、それじゃあ何かコイバナがあると言っているようなものです」
「しまった!?」
「り、リアス部長、もしかして……ですか?」
「い、いや、あのね?」
「さあ、きりきり吐いてもらうわよ?」
「素直に吐いたほうが楽になるにゃん」
「わ、私の傍に近寄るな~~~~!!」
そうして、第1回オカルト研究部+αによる女子会は大盛り上がりを見せるのだった。
リアスの中に、1つの決心を生みながら。
――その頃の男子――
「か……はぁ、はぁ。……生きてるか~、木場?」
「な、何とか……。この会話ってさっきもしなかったっけ?」
「そうだな……」
「1日で2回も死に掛ける、しかも修行でなんて。こんな稀有な経験はしたくなかったよ」
「遅れているな、木場。俺はもうとっくにその段階は経験してるぜ?」
「言ってて悲しくならないのかい?」
「言うな……」
「はい。もう充分会話も楽しんだところで、組み手を再開するよ~」
「い、嫌だ……」
「せめて、もうちょっと休憩を……」
「問答無用!!」
「「
◇◇◇◇◇◇
「というわけで、あなたの家でホームステイすることになったわ。イッセー」
「「というわけ」って、どういうわけなんですか……」
翌日の朝。修行から帰ってきた一誠の目に飛び込んできたのは、エプロンをつけたリアスの姿だった。
その格好に「エプロン姿の部長も家庭的でイイ!!」と思いながらも、そのような邪念は表に出すことなく一誠はリアスへと疑問を呈する。
しかし、どうやら隣にいるアーシアは分かっている様で……
「むむむ……。そういうわけですか……」
「ええ、そういうわけよ。アーシア」
「ねえ、どういうわけなの? 何で2人は通じ合ってるの? 分かってない俺がおかしいの?」
勝手に進んでいく話に、ついついツッコミを入れてしまう一誠だった。
ここって、俺ん家だよね? と思いながらも、そう言葉にすることは叶わない。
ふんす! と両手を握りしめて気合を入れながらアーシアは言う。
「負けませんよ!」
その言葉に、リアスは不敵な笑みを浮かべて応じてみせる。
胸の下で組んだ腕が、リアスのその大きな胸をより強調して見せていた。
その圧倒的戦力に、アーシアは思わず仰け反ってしまう。
それは、自分の戦力と比較して不利だと言っているようなものだった。
「こっちこそ、負けるつもりはないわよ?」
兵藤家の玄関で女2人の睨み合いによって火花が散る。それが、これから先の熱き闘争の始まりを告げるのだった。
その家の住人と、その闘争の渦中の人物を置いてけぼりにして。
「お~い! マジでどういうわけなのか教えてくれないですか!? 俺からのお願い!」
副題元ネタ……とある科学の超電磁砲の登場キャラ「佐天涙子」のキャラクターソング「ナミダ御免のGirls Beat」より
天丼はお笑いの基本! ということで意識してみました。使い回しだろと言われたらまったく反論できません。
今回、小猫が何か凄い結界を張ってますが、あまり深く考えないで下さい。ギャグ補正です。ここであんな描写したから小猫の実力は凄いあがっているんだとかそんなことはありません。
きちんとガールズトークになっていたら嬉しいです。
ブロリーMADを見たからか、リアスの「しまった!?」が「シュワット!?」で脳内再生されてしまう俺はもう駄目かもわからんね