ハイスクールDragon×Disciple   作:井坂 環世

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はじめてのせんとうびょうしゃ

です。遅くなりました^^;


5 WARNING!

落ち着け)

 

呼吸を意識しろ。この程度のダメージなんてことは無いだろう?今までこれ以上のモノを何度もモラって来たじゃないか。

 

(落ち着けっ!)

 

脇腹を見る。血が滲んでいるが重症じゃぁない。出血も酷くない。抑えていれば大丈夫なくらいだ。

 

(落ち着けっ!!)

 

自分に言い聞かせる。自分は何だと思い出そうとする。自分は何だ?静の武術家だろう?師匠は何と言っていた?その教えを思い出せ。

 

(落ち着けっっ!!!)

 

その間も足を止めるな。ここじゃぁダメだ。もっと広いところじゃないと。周りを巻き込んでしまう。だから、全力で走れ、奔れ、ハシレ!

 

「ハハハっ!イイぞ!もっと無様に逃げろ!狩りは獲物の生きがイイ程面白い!」

 

後ろの声は気にするな。あんなものは雑音だ。自分が成すべきことだけを考え続けろ。

 

(だから、落ち着くんだっっっ!!!!)

 

風林寺 翔は突然の事態に、目的地目掛けて全力疾走をしながら自分に言い聞かせ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

それは翔が何時も通り学校に行き、何時も通りに級友と会話を楽しんだり授業を受けたり。そんな何時も通りの日常を楽しんだ1日の下校時に襲い掛かってきた。

 

ヒュオっ!

 

突然の風斬り音。後方で発生したその音源に向かって翔は無意識の内に行動を起こした。それは鍛錬の成果である。

 

『先に開展を求め、後に緊湊に至る。』(湊は本来はサンズイではなくニスイ)

 

最初は大きく伸びやかに、後に小さく引き締めるという意味で、中国拳法で用いられている言葉である。

 

最初は威力と正しい動作を重視し、その基礎を身に付けてから実践的な命中率や動作を重視するということで、熟練した技は動きが凝縮されることを表す。

 

この言葉は武術における「段階」も表しており、「緊湊」に至った者は「開展」の段階の者よりも文字通り1段違う強さを持っている。

 

また、戦闘においての性質を見出し始めるのも「緊湊」に至る頃合いで、武術家にとっては1つの節目とも言える。

 

この戦闘における性質とは「静」と「動」の2タイプがある。心を深く静め、冷静に計算ずくに理詰めで闘う「静」と、怒りなどの感情を爆発させて心と体のリミッターを外して闘う「動」だ。

 

これはどちらかが優れているという話ではない。あえて言うならばどちらにもそれぞれの良さがあるものなのだ。

 

すでに「妙手」の入り口に到達している翔は当然すでに「緊湊」の段階はクリアしており、結局のところ「静」のタイプの武術家となった。

 

翔が音源に無意識で反応できたのもこのためである。「緊湊」に至った者は自らの間合いを視覚的に「ここからここまで」と把握出来る。これを「制空圏」と呼ぶが、「静」の武術家はこの「制空圏」の内側を侵したものを視覚に頼らずに迎撃することが出来るのだ。

 

翔も「静」の武術家なので、この「制空圏」をよく鍛えてある。そのおかげで音源に反応出来たのだ。

 

ちなみに「動」の武術家なら直感で反応していただろう。どちらが優れているという話ではないのだ。表裏一体の不思議である。

 

その「制空圏」のおかげで音源に反応した翔はそのナニカを脇腹を掠めながらも回避した。そのナニカはそのまま突き進み、民家の塀に当たると轟音を上げてその塀を瓦礫に変えて見せた。その威力に翔は顔を青褪めさせる。

 

(この威力・・・。達人(みんな)には及ばないけど、それでもかなりのものだ。もし一般人に当たったりしていたら・・・。)

 

もし当たり所が悪ければ死んでいただろう。その可能性を考え、翔はこのナニカを放った者に怒りを感じずにはいられない。

 

「へぇ。中々イイ動きをするじゃないか。」

 

翔が憤っているところにそんな声が響いた。嘲りを多分に含んでいることがありありとわかるその声は、発した者が相手を見下していることが容易に伺え、聞く者を不快にさせる。

 

翔がそちらに目を向けると、まず目に入ってきたのは黒だった。腰のあたりまで伸ばされた黒髪と黒色の瞳にさらに黒のスーツと黒ずくめ。しかし、黒歌のものを黒曜石のような、と形容できるとすれば、こいつのはまるでドブが腐ったみたいな黒だと翔は感じた。

 

目には人を小馬鹿にするような色を、口にはニヤニヤとしたイヤらしい笑みを濃く載せた男に向かって翔は口を開いた。

 

「いきなりご挨拶だね。危なかったじゃないか。」

 

(さっきのは一体?それにこの人は?)

 

声を掛けながらも思考を巡らすのをやめない。周囲と自分の状況を確認していく。先程のナニカは塀を瓦礫に変えてみせた。ここでは周りを巻き込んでしまうだろう。それに・・・

 

(脇腹を痛めたかな。大したことは無いけど・・・。ちょっとまずい、かな。)

 

相対している相手には悟られないように脇腹を確認する。負傷した状態で闘う場合その負傷を悟らせないのが大切だと学んでいるからだ。

 

幸い掠っただけなので大したことは無い。せいぜい血が滲んで来ていて、痛みを感じる。その程度の負傷だ。それでも、負傷したらそこを意識せざるをえないし、そうなると動きもぎこちなくなる。影響が無いとは言い切れない。

 

「いや、すまない。お前からとても酷い臭いがしたからな。ついつい消そうとしてしまった。」

 

「一応毎日お風呂には入ってるんだけどね。そんなに酷かったかな?」

 

「あぁ、酷い。とても臭い黒猫の臭いがする。」

 

「っ!??」

 

相手の言葉に驚愕を露わにしてしまう。黒猫――黒歌のことかと一瞬脳裏を過ぎってしまったのだ。そして、その動揺は相手に情報を与えてしまう。

 

相手のニヤニヤ笑いが獲物を見つけた猛禽類のようなものに変わったことでそれを悟った翔は、腹を括った――戦闘は避けられない。

 

「どうやら聞かなきゃならないことが出来たようだ。」

 

「それはこっちの台詞だよ。」

 

会話を続けながらもタイミングを計る。ここで闘うと被害が馬鹿にならない。なんとか場所を移す必要があった。翔は現在地を頭の中の地図で確かめ、戦闘出来る程の広さを持つ場所を検索する。――結果、該当箇所は1つ。近くにあるあまり人の来ない寂れた公園だけ。

 

否応無く緊張感が高まっていく。一触即発という言葉に相応しく、何かきっかけがあればこの膠着状態はすぐにくずれそうだ。――そしてジャリ、と靴のずれる音で火蓋は切って落とされた。

 

「ハァっ!」

 

初撃。襲撃者が先ほどの奇襲と同じであろう攻撃方法で攻撃する。手のひらから球体状のエネルギー弾らしき物を放つ。

 

当然黙って食らってやる義理等翔には無い。が、避けるだけだと周囲に被害が行く。翔はダメージ覚悟でそれを左拳で上へ弾いた。

 

「ぐっ?!」

 

左拳から出血――だが、拳が握れないほどじゃない。大丈夫だ!―そう判断し翔は次弾が来る前に足を動かした。

 

(来るか。)

 

襲撃者は迎撃するための準備を整え、翔を待ち構えた。しかし、前へ来ると思われた翔はそのままの姿勢で後ろに下がっていったではないか!

 

(な!確かに前へ出ようとしていたはず・・・。)

 

これは柔術の技法だ。柔らかな膝の動きを用いて脚の動きを相手に錯覚させるのである。袴を用いることで足の動きを隠し、さらに成功させやすくなるが翔は学生服である。さらに、翔はまだ連続で使用できないし、失敗することもあったのできちんと通用するかは賭けの要素が強かった。だが、この場において翔は賭けに勝ったのだ。

 

前に来ると思ってたら、そのままの姿勢で後ろに下がった。この奇妙な現象に襲撃者は動揺を見せる。すぐに回復する程度の小さな隙だが、翔にはそれで十分だった。

 

すぐさま翔は反転して全力で走り出す。此処は場所が悪い。分が悪いと思ったらすぐに戦略的撤退を選べるのも戦闘者には必要な技能なのだ。

 

(此処じゃダメだ。場所を移してから反撃開始だ。)

 

彼には聞きたいこともある。そう思い拳を握り締めながら目的地へ向け疾走を速める。翔にとって初めての実践だが、師匠の教えを思い出して心を落ち着かせながら走り続ける。

 

こうして、冒頭の場面へと移るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れ。周囲を赤く染め、人もまばらになっていく時間帯。公園ではそれが特に顕著で、親に連れられて子供が帰っていく頃だ。

 

その公園でもそれは当てはまり、既に人の影は見えなくなっていた。伽藍洞の公園に日中の雰囲気は欠片も見られず、周辺の喧騒が逆に物悲しさを加速させている。

 

そこに猛スピードで進入してくる学生服を着た少年が1人。そしてその後を追ってくる黒スーツの男。風林寺翔と黒髪を靡かせた襲撃者だ。

 

翔は余り広くない公園を見回し、人がいないことを確認する。いない。もしかしたらいたかもしれないのでラッキーだと思うことにする。

 

人はいない。広さも十分。遊具を巻き込むかもしれないがそこまでは面倒が見きれないので勘弁してもらおう。そして、戦意は滾っている。――ならば、やる事は1つだけ!

 

(さぁ、反撃開始だ!)

 

翔は振り返って構えを取る。足は肩幅に左を前に右足を下げる。左拳を腰の高さで前に。右手は後ろに引いて脇を締める。他にも色々な構えを取る翔の一番使う回数の多い基本の構えだ。

 

息を整える。呼吸法なども武術によって様々なものがあり、当然翔も教え込まれている。その中で今回翔が選択したのは空手の「息吹」。吸った息を丹田の奥深くまで巡らし吐き出すことで呼吸を整える効果がある。

 

「む。」

 

コォォォォ・・・。静寂に満たされた公園内に翔の呼吸音がやけに響く。空気がピンと張り詰められていき、緊張感が広がっていく。襲撃者もそれを感じ取ったのか翔から5メートル程の位置で足を止め様子を見ている。

 

約5メートル。離れているから遠距離の攻撃手段がある襲撃者に有利に見えるが、翔にとっても一足で踏み込める距離だ。先程の逃走劇で翔の足の速さを把握した襲撃者は懐に入られるのを警戒して隙を探している。

 

互いが互いの手を警戒して手が出せない。お互い相手の隙を見つけ次第すぐに次の行動に移れる準備はしているものの、このままでは膠着状態に陥るかと思われた刹那――

 

風が、吹いた。

 

翔を風上、襲撃者を風下として吹いた何気ない風だったが、それが戦況を動かした。翔達が闘っている場所は公園であり、自然地面は土となる。運が悪いことに、襲撃者の目に舞い上がった砂が入ったのだ。

 

異物が混入したことで起こる人間の反射反応である「目を瞑る」。翔は相手の瞼が閉じた瞬間を見逃さず即座に接近戦に持ち込もうと足を進めた。その速度は中学生とは思えず、下手をすれば陸上短距離走選手(スプリンター)のトップレベルを凌駕していたかもしれなかった。

 

襲撃者がすぐに目を開けた時には既に翔は眼前に迫っていた。しかし、こちらも手馴れたもの。この程度のトラブルは戦闘には付き物であることは熟知しているのだ。

 

相手はただの人間。慌てず騒がず後ろに下がれば攻撃出来まい。その考えの下後ろに下がった(バックステップした)襲撃者の眼前には変わらず攻撃態勢を整えた翔の姿が。

 

(な、にぃっ!)

 

こちらは体勢を考えると大きく移動出来ない。しかし、目の前の敵は既に攻撃を放とうとしている。距離を取るのは不可能。ここで捌くしかない――襲撃者は腹を括った。

 

そして放たれる翔の左拳打。顔面に狙いを付けられたそれは襲撃者をして驚嘆に値させる速度だったが、人外との戦闘も経験している襲撃者にとっては避けられる速度だった。首を傾げることで回避に成功し、さぁ、こちらの番だとそう思った瞬間。

 

「おごぉ。」

 

腹に右拳がめり込んでいた。見事に鳩尾に入ったその拳によって襲撃者の呼吸が乱れる。肺を動かすことで呼吸をさせる役割を持つ内臓である横隔膜を打たれ、呼吸困難に陥ったのだ。

 

――翔が打ったのは「山突き」。空手の抜塞大の中に含まれる顔と腹を狙う双手突きである。人間の反応能力は顔に迫る危険程敏感に反応するので、余程訓練を積んだものでないとこの双手突きを捌くのは難しい。

 

襲撃者も遠距離がメインとなる戦闘者で、近距離は慣れていない。よって捌くことが出来なかったのだ。

 

「くっ」

 

呼吸が乱れながらも近距離を嫌がる襲撃者は、手のひらを向けそこからエネルギー弾を出して距離を離そうとした。タメが短くダメージは少ないだろうが吹き飛ばして仕切り直しをしようとする。

 

だが、甘い。この距離においては翔の独壇場だった。翔はギリギリまで上体を残し一気に相手の懐へ入りながら相手の攻撃を回避することで、襲撃者にまるでいきなり目の前から消えたかのように錯覚させた。

 

そして翔に手のひらを向ける為に突き出された腕は柔術も習っている翔にとっては美味し過ぎる。すぐさま腕を取り投げに入った。

 

「小手返しっ!!」

 

「かはっ!」

 

襲撃者は綺麗に回転して背中から地面に叩き付けられる。その衝撃で肺の中の空気を全て吐き出させた翔だが、柔道の試合ではなくルールの無い路上の戦闘であるのでこれで終わりかと油断はしない。すぐさま極めにもっていき動きを封じる。

 

「ぐっ」

 

「ここまで関節を極めたら外すことは不可能だよ。降参して。」

 

ぎりぎりと関節を締め上げる。誰の目から見ても勝負ありだった。()()()()()普通の試合や喧嘩なら、だが。

 

「聞きたいことがあるんだけど・・・。」

 

「ふん、はぐれ悪魔『黒歌』のことか?」

 

「?!・・・素直にしゃべるなんて思わなかったよ。」

 

「そうか?」

 

決着が着いたと見て気になることを問い質そうとした翔だが、相手の方から話してきて多少は吃驚したが、話す分には構わないかと流した。それよりも気になる単語があったから、そっちの話を聞くことを優先したのだ。

 

「悪魔」この男は確かにそう言ったのか?いや、妖怪が存在するしいたっておかしくないんだけど。と思考を重ねながら質問する。

 

「それではぐれ悪魔って何かな?」

 

「くく・・・。知らないのか?」

 

翔の言葉に、襲撃者はこんな状況にも関わらずニヤニヤ笑いを浮かべる。その余裕とも言える態度が妙に癇に触って翔を苛立たせた。思わず極めてる関節をもっときつく極め上げてしまう。

 

「ぐぅぅぅ。」

 

「余計な事は言わないでくれる?質問してるのはこっちなんだ。」

 

「いやいや、自分の事を知らせずに利用しているとは、とんだ悪女がいたもんだ。いや、悪魔だから悪どいのは当然か?」

 

その言葉に翔はカッと頭に血が上った。今までも襲撃者から不快感を感じてはいても落ち着けてはいたのが、一気に激昂してしまう。

 

――ふざけるな。黒歌さんが悪どいだと?あの人の優しさを何も知らないくせにっっ!!!

 

ゴスッ!

 

打撃音が一発響く。翔が極めながらも思わず手を出してしまったのだ。

 

フーッフーッと荒い息が翔から漏れる。翔がどれだけ怒っているかが見て取れた。呼吸を意識して整えながらも翔は口を開いた。

 

「黙れよ。質問しているのはこっちなんだ!!」

 

「わかったわかった。そうキリキリすんなよ。」

 

ギリギリと関節を極められながら、そしてこの状況においてもニヤニヤ笑いをやめない襲撃者。もしも経験を積んだ者が見たら警戒を高めただろう。この余裕はこの状況を覆すことが出来ると確信しているからこそなのだと。

 

確かに、襲撃者は関節を極められ手も足もついでにエネルギー弾も出せない。しかし、口を出すことは出来るのだ。

 

そして、遂に――その一言は発せられた。

 

「はぐれ悪魔ってのはな、主を殺して世に出た悪魔のことを指すんだよ。」

 

その時翔は思わず呆然としてしまった。相手が何を言っているのか理解出来なかった。心底から不思議だった。

 

――主を、殺した?それがはぐれ悪魔で、黒歌さんもはぐれだから・・・。え、黒歌さんが人を殺した?いや、悪魔の主だから殺したのは悪魔か。・・・いやいや、そうじゃなくって。

 

思考が空回りする。上手く物事を考えられない。そんなふうに翔は数瞬の間思考停止状態に陥ってしまう。そして戦闘においてそれは致命的だった。

 

思考停止に伴って翔の極めも緩む。その瞬間を待っていたかのように襲撃者は抜け出し、翔の下から脱出する。翔が気付いた時にはその体にエネルギー弾=魔力弾が直撃していた。

 

「グゥっ?!」

 

体を突き抜ける衝撃に苦悶の声を上げる。塀を瓦礫に変える程の威力の魔力弾を食らったのだ。日常的に達人の攻撃を受けている翔と言えどもこれは効く。一発でどうこうなるほど軟じゃないが、何発ももらうと流石に厳しい威力だ。

 

そして、それよりも痛いことが1つ。

 

(まずいっ!距離を離された!)

 

すぐさま体勢を立て直し、相手の方に目を向けたが、見事に10メートル程距離を開けられていた。翔が一足で入れる程近くなく、襲撃者の魔力弾は余裕で届く程に遠くない。これで一気に襲撃者が有利になった。

 

(クソっ!何をしてるんだ僕は!相手の言動に動揺して隙をさらすなんて・・・。)

 

翔は「静」の武術家である。心を深く静めて冷静に闘う武術家が相手の話を聞いただけで心乱れさせ隙をさらすなど笑い話にもならない。

 

「これで振り出しだ、な!」

 

その言葉と同時に魔力弾が飛んでくる。しかし、10メートルの距離があれば翔にとって回避するのは難しくない。危なげなく避けてみせる。

 

(うわっ!)

 

が、目の前にはまたも魔力弾が。ギョッとして一瞬動きが止まってしまった翔は仕方なく弾くしかなかった。

 

即座に「制空圏」を築き魔力弾を捌く。しかし、その時についつい左手を使ってしまったのは失策だった。

 

(痛っ!)

 

そう、逃亡に入る前、民家に被害が出ないように魔力弾を弾いたが、その時に左手を負傷していたのだ。当然その左手を使ってまた魔力弾を捌けば傷は開く。

 

が、翔には痛がっている暇はなかった。翔が魔力弾を弾いた先に見えたのは視界いっぱいに広がる魔力弾の雨。明らかに威力重視から数重視に襲撃者は切り替えていた。

 

「おらっ。避けられるものなら避けてみろっ!!」

 

「くぅっ?!」

 

「制空圏」を駆使して何とか避け、捌き、弾いて凌いで行く。しかし、その度に腕にダメージが蓄積していっている。このままいけばジリ貧だった。

 

(仕方がない・・・!!まだ未完成なんだけど・・・!)

 

翔は切り札を切ることを決断した。まだ完全に修めたとは言い難い極技だが、この居面を乗り切るためには使うしかなかった。

 

瞬間、魔力弾のいくつかが翔をすり抜けて背後へと飛んでいった。いや、襲撃者の目にそう映っただけで、実際は必要最低限の動きで回避したにすぎない。

 

(なんだ・・・、あれは・・・。)

 

(よかった・・・。未だに掛かりが甘いんだよね、この技。)

 

その技の名は「流水制空圏」。「制空圏」のさらに先の業で「静」の極致とも言える、「無敵超人」の超技108つのうちの1つである。

 

体表面薄皮1枚分に強く濃く気を張り巡らせ、相手の動きを流れ読み取り軌道の予測を行うことにより、最低限の動きで回避をする。さらに、動きの予測によって初動を早め、回避の動作を最小限に留めることで本来は回避も防御も不可能なほどの強さと速さの攻撃を回避することも可能とさせる。

 

いかにも強力なこの業だが、翔はまだ完成させれていない。本来3段階あるところの1段階くらいにしか完成させることが出来ず、そこで壁にぶつかってしまっているのだ。なので、

 

(うわっ?!危ない!)

 

集中力を最大限にまで保っていないと掛かりが甘くなり、避けきれなくなる。なんて事態も起こりうるのだ。

 

改めて気を引き締めなおし、「静」の気を練り上げて場を流れで読み取ろうとする。襲撃者からは変わらず魔力弾が雨霰の如く放たれており、一目見ただけでは避け切れないように見える。

 

(左に一歩、顔を傾げてここで体を真半身に。その次は・・・。)

 

しかし、翔はそれを避けてみせる。必要最小限の動きで避けることが出来るルートを見出し、そこに体を滑り込ませる作業を繰り返すことで、ジリジリとだが襲撃者に近づいていく。

 

しかし、これは言うほど簡単なことではない。翔がまるで神経を1秒ごとに削り取られるような錯覚を覚える程に、緻密な動作だった。しかも、近づく程に弾幕は濃くなっていくのだ。生半可な難易度ではない。

 

そして、この戦闘の流れに焦りを覚えたのは何も翔だけではない。襲撃者もだ。何せさっきから魔力弾を数重視にしているにも関わらずあたらないのだ。魔力だとて無限にあるわけではない。いずれは尽きてしまう。

 

(揺さぶりを掛けてみるか。)

 

襲撃者は翔の「流水制空圏」の性質は見抜けなかったが、とてつもなく集中力がいる業であることは理解できた。であるなら、そこに付け込むのが兵法と言うものだった。

 

「ふん。犯罪者のために良く頑張るな。」

 

その言葉を聞いてまた翔に怒りが湧き上がる。しかし、この状況においてそれは最悪だった。

 

「流水制空圏」が解け、場の流れが読めなくなったせいで、また一発貰ってしまう。そして約10メートルの距離(振り出し)に強制的に戻された。

 

(くっ、落ち着けっ)

 

翔は怒りを押し殺し、「静」の気を何とか練り上げようとする。そうして、翔が再び「流水制空圏」を発動しようとしている最中にも魔力弾は飛んでくる。翔は気を落ち着かせながら魔力弾を避け捌く。

 

しかし、襲撃者に翔が落ち着くまで待つ必要性も義理も無い。ここぞとばかりに口で揺さぶりを掛けようと言葉を畳み掛ける。

 

「しかし、よく犯罪者を庇おうなんて気になるな。俺なら殺人鬼が近くにいたら気になって夜も眠れないな。」

 

「黙れっっ!!黒歌さんを良く知らないくせに彼女を語るなっっっ!!!」

 

相手の言葉によって踊らされる翔。襲撃者の挑発で「静」の気を練り上げるどころか、怒りを静めることも出来なくなってしまう。それによって「流水制空圏」は発動出来ず、普通の「制空圏」で凌ぐしかなかった。

 

何とかかんとか攻撃を凌いでいるが、手の負傷と怒りによる視野狭窄でどんどんと追い詰められていく。

 

(ふん。焦れ、怒れ。戦場では冷静ではなくなった者から死んでいく。)

 

この襲撃者は、ベテランの賞金稼ぎであるがゆえに戦場の冷たいルールを熟知していた。強きも弱きも焦りや怒り、そして油断や慢心に囚われた者から退場していくと。

 

その襲撃者にとって、翔は中々強くはあってもやり易い相手だった。技もいい、力も速さも魔力を扱わない人間にしては最高レベルだ。

 

しかし、それだけだった。戦場を経験したもの特有の怖さは感じられなかったのだ。襲撃者は翔が実戦経験が皆無だと初見で気づいていた。

 

実践経験が無い者は些細な事で動揺し、隙をさらす。詰めが甘く、倒したときちんと確認しないで油断をする。弱所を攻めるのは兵法の基本。そこを突かない手は無かった。

 

故に、襲撃者は口を出す。舌を躍らせる。翔の心の動きをその掌の上で弄ぶ。その隙に魔力弾を叩き込む。

 

「へぇ、じゃぁ貴様は良く知っているのか?はぐれ悪魔の意味も知らなかったのに?」

 

「っ?!そ、れは・・・。」

 

襲撃者のその言葉にさらに動揺してしまう。その言葉は翔にとっては図星だったのだ。翔とて黒歌のことを聞く機会は少なかった。そして事情は話してはくれなかった。

 

その動揺で動きが鈍る。魔力弾を回避するための足の動きが、捌くための手の動きが、そして、勝とうと考えるための頭の動きが鈍ってしまう。そして、弾幕に曝されている者の動きが鈍れば結末は自明の理だ。

 

「うぐぅっ!?」

 

腹に2発、足に1発、顔に1発。魔力弾がヒットする。そのダメージによって一瞬意識が遠ざかりかけ――しかし、何とか繋ぎとめて見せた。

 

しかし、これだけ受けたらダメージも大きく、口の端からは血が垂れ、呼吸は肩を大きく上下させるほどに乱れてしまい、そして足の動きもさらに鈍くなってしまった。

 

それでも、何とか「制空圏」を築いて未だに降り注ぐ魔力弾に対処する。間合いに入った魔力弾を避け、捌き弾ききる。ここまできても対処出来ているのはさすがのタフさだと言えるだろう。

 

しかし、襲撃者には限界が近いことがわかっていた。後1、2発魔力弾を叩き込めれば倒れるだろうと。そしてその為に舌を滑らせる。

 

「そうだ。貴様を捕まえたら人質にしたら黒歌も楽に捕まえられるか?そうすればSS級の賞金独り占めだ。」

 

「くっ!」

 

その言葉にさらに翔は焦りを募らせる。そうだ、自分は負けられない、勝たなければ・・・と。

 

その心の様を完璧に読み取っている襲撃者は内心ほくそ笑む。もうちょっとだ。後1回背中を押せば相手は谷から転落していくと確信し、そのための言葉を吐き出そうと頭を回し、叫んだ。

 

「いや、ただ捕まえるだけじゃ勿体無いか?写真で見てもあんだけの美人だ。俺の性欲処理に使うのもイイかもな!!」

 

――これで奴は怒り狂うはず。怒った奴の動きは単調になる。これで俺の勝ちだ!

 

しかし、襲撃者のその思惑は外れた。必中を期した魔力弾が文字通り外れることで。

 

「は?」

 

翔が普通にかわしただけなら、襲撃者もここまで驚かなかっただろう。しかし、魔力弾はまるで、翔の体をすり抜けたように見えたのだ。

 

(な、馬鹿な・・・。あの技は、かなり集中しないと出来ないはずじゃ―――)

 

思わず魔力弾を打つのを止めてしまう。いや、止めさせられた。戦闘経験豊富な襲撃者を威圧するほどに、重く、深い静かな闘争心が翔から発せられていた。

 

「『流水、制空圏』――!!」

 

襲撃者の作戦は間違ってはいなかった。しかし、翔を怒らせすぎたのだ。怒りが大きすぎると逆に冷静になれると言う。まさにその段階まで怒った翔は師匠の教えを思い出していた。

 

深く静かに心を静める。「静」の気を薄皮1枚に充満させる。自分を激流の中にある岩だと想像する。岩は動かない。ただ流れを自らの後ろに流すだけ―――。

 

怒りが一周してむしろ冷静になるほどの怒りを深く飲み込んだ翔は、それまで以上に「静」の気を練り上げることが出来た。よって「流水制空圏」を発動することが出来たのだ。

 

ここに来て再び膠着状態に陥った2人。襲撃者は慎重に隙を探すが見つからない。これは長くなるか、と襲撃者がそう思った時、

 

「行くよっ!」

 

翔が駆け出した。この間合いでは避けて接近するということを繰り返していた翔が初めて自分から勝負を仕掛けたのである。

 

不意を打たれた襲撃者だが、即座にバックステップしながら魔力弾をばら撒く。翔の逃げ道を塞ぐようにして弾幕を配置する。

 

「何ぃ!?」

 

しかし、翔は相手の攻撃の「流れを読み」、その「流れに合わせる」ことで回避しながらも急速に接近していく。先ほどのジリジリした接近と比べると雲泥の差だった。

 

魔力弾を放ちながらも後ろに下がる襲撃者だが、翔の方が速い。いずれ追いつかれるのは明白だった。

 

接近に成功した翔は当然すぐに攻めに入る。今回放ったのは右のボディブロー。襲撃者の足を止める気だ。

 

しかし、その拳は襲撃者にも見えていた。当然避けようと体を動かす。

 

が、

 

「うがぁっ」

 

その拳は襲撃者の腹に叩き込まれていた。襲撃者はきちんと避けるよに動いていたのにも関わらず、まるで吸い込まれるように腹に撃ち込まれたのだ。

 

(ま、まるで、こちらの避けるための動きをあらかじめ知っていたかのような――!!??)

 

「相手の流れを読み、その流れと合わせ1つとなった。次はっ!」

 

それだけで翔の攻撃が終わるわけが無い。もう既に次の攻撃に入っている!

 

「僕の流れに乗ってもらうっっ!!!」

 

左の手刀による側頭部への殴打、連続の飛び蹴り、両掌を重ねての掌打、最後に相手の手と襟を取っての投げを連続で決める。

 

手刀顔面横打ち、連続ティーカオ、単把、背負い投げと繋げる連続技である。白浜兼一も使うこの連続技――

 

――流水制空最強コンボ2号!!!――

 

(な、んだ。まるでこいつに力を吸い取られるかのように技に掛かってしまう。これは――)

 

相手の流れを読み、その流れと合わせ1つとなり、最後には相手を自分の流れに乗せる。それが「流水制空圏」の極意だ。

 

翔は今まで相手の流れを読む1段階目までしか使えなかった。壁を破ることが出来なかったのである。しかし、今まで感じた中で最高の怒りを深く飲み込むことで、今までよりも「静」の気を濃く練り上げることが出来るようになり、「流水制空圏」の極意たる3段階目に到達することが出来たのだ。

 

しかし、いくら「流水制空圏」を完全に発動させることが出来たとは言え、翔も限界が近い。だからこそ早期決着を目指したのだ。

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

相手を背負い投げで地面に叩きつけ、さらに追撃しようと右拳を放つ。打ち出した方の腕を逆の手で支える撃襠捶という技だ。

 

「なめるなぁっ!!」

 

しかし、襲撃者もさるもの。転がることで回避し、その勢いで立ち上がる。そして、

 

(タダで攻撃喰らってやるほど、お人好しじゃないんだよ!!)

 

既に、魔力のタメは完了している!!

 

(一発じゃぁどうせ避けるんだろ?だったら――!!)

 

右手を突き出して魔力弾を放つ。その様はまるで

 

「ショットガン・シュートっっ!!!」

 

数十発の魔力弾が面状に放射されるその様は、その名の通り散弾銃の如し。

 

「なっ!?にぃぃぃっ!!??」

 

そして、近距離での散弾銃を避ける手段は存在しない。翔も数発は腕で弾くことが出来たが、他はもろに喰らってしまった。

 

地面にも弾は当たったのか、土煙が立ち込める。襲撃者からは翔の姿は見えなかったが、元々瀕死の状態でこの技を喰らったのだ。立ち上がれるはずが無いと襲撃者は確信した。

 

だが、

 

「これで「ち、小さく前にならえ・・・」っ!?」

 

トン、と小さく胸を叩く音が聞こえた気がした。

 

「無拍子っっ!!!」

 

打ち手と引き手は同じだけ動かし――

 

力は打つ方向にだけで他はゼロ――

 

平行四辺形を潰す動きで重心を動かし――

 

相手の向こう側に的があると思い、打ち抜く!!

 

空手、中国拳法、ムエタイの突きの要訣を混ぜ、柔術の体捌きで放たれる必殺の突きが襲撃者に吸い込まれるように叩き込まれた。

 

「グハっっ!!」

 

吹き飛び、2転3転してようやく動きを止めた襲撃者。フラフラと危ない足取りながらも立っている翔。勝者がどちらかは明白だった。

 

「ハッハッ・・・。フゥゥーー。」

 

呼吸を整える翔の姿はあちこちボロボロで、本当にギリギリの勝利であることがわかる。実際、本当にギリギリだった。

 

襲撃者は起き上がる様子は無い。どうやら気絶しているようだ。手早く様子を見ていくが、命に別状はなさそうだ。翔はそのことにほっとする。翔は活人拳を目指しているのだ。

 

「フゥ。とりあえず勝てた、か」

 

襲撃者の顔を見る。翔は何だかイラっとした。勝つためとはいえ散々言いたい放題言われたものだ。

 

「あんたのおかげで黒歌さんの一端を知れたり、「流水制空圏」を完成させたり出来たけど、礼は言わないよ。」

 

翔は気絶してると知っててもそれだけは言っておきたくなったのだった。




初めての戦闘描写難しかったです^^;いかがですかね?

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副題元ネタWIRKING!
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