あやとり写真機(短編)   作:LOORUME

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前編

 

 

 

 ♢ ♦︎ ↓ ♢ ♦︎

 

 あれはそう、昔。私の上司(腐れカラス)からしたら最近のことだろうけど、私にとっては遠い昔のように感じられる。

 

 なに、私が時間感覚の未熟な天狗というわけではない。その発端となった日から、時間が濃密なのだ。

 

 今でも、忘れられないのだ。

 

 

 ♢ ♦︎ ←←← ♢ ♦︎

 

 

 山に侵入者を発見した。

 

 千里眼を使える相棒が言った、そいつは河童で、しかもまだ幼い個体だそうだ。おそらく迷子だろう。

 

 放置しておけば後々面倒臭いことに、あるいは居た堪れない結果になるやもしれない。その時の私に、そいつを放置しておくという選択肢は無かった。

 

 白い半袖シャツの上のリボンを締めなおして、止まり木を飛び立った。葉の群れがざわつく。

 

 相棒に報告された場所に到着すると、そいつは木の根に腰を落とし、顔をうずめていた。

 

 その子の(あお)の衣服は木の枝で切った跡や土汚れで可哀想な状態になってしまっている。

 

 静かに降り立ち、慎重な足取りで───幼いとは言えど、河童と言えど、妖怪。警戒しない理由は見当たらない───その子に接近した。

 

 彼女はその萎んだ表情をこちらに向けた。帽子も髪も服も、眼さえも碧。涙で輝く宝石。

 

 魅了されている自分に気付かないまま、私は彼女に声をかけるのだ。

 

 

「あなたのお名前は?」

 

 

───と。

 

 

 ♢ ♦︎ ←← ♢ ♦︎

 

 

 あの出会いから数十年が経った。

 

 あれから天狗社会は少し、変化している。それと言うのも、空前の新聞ブームが訪れているのだ。

 

 購読するのではなく、執筆する方で、だ。ブームの火付けは一つの新聞。それは投稿型で、評価の高い記事のみが紙面に掲載されるのであった。

 

 なかなか掲載されず、業を煮やした天狗の一人が独自の新聞を発行しだした。さらに真似をする輩が続出し、今では妖怪の山に、週500刊以上が流通している。やりすぎである。

 

 斯く言う私も、やりすぎた天狗の一人なので悪く言う気は起きない。だって楽しいんだもの。

 

 先に話題に出た投稿型新聞の時代ではまだ純粋な文字だけしか使われていなかった。それはそれでポエティックで素敵なのだが。

 

 だがしかし、私は写真を新聞に取り入れる事に執着した。手伝ってくれたのはあの時助けた河童。──名をにとりと言う。

 

 彼女の作ってくれた写真機と印刷機の効果は絶大で、天狗中に写真の衝撃を伝える事が出来た。

 

 さて、本題に入ろう。

 

 現在、天狗内では絶賛抗争中なのである。誰も絶賛してないけど。

 

 十年に一度くらいの周期で起こる事なので、さして珍しくもない。が、普通に殺すし殺されるので油断してはいけない───そういえば、にとりを助けた時も抗争中であった──。

 

 “乱痴気騒ぎとつば迫り合いは記事の華”、とは私が今勝手に作った諺だが、全くもってその通りである。このような諍いは本当に有り難い。どこを切り取ってもタネになるのである。

 

 しかし調子に乗って取材をしていたせいだろうか、吹っ飛ばされた天狗と衝突し、にとり製の写真機を壊してしまったのである。

 

 今しがたその天狗は斬り伏せておいたので──殺してはいない──今からにとりのワークショップへ、修理の依頼に行こうとしていたところだ。

 

 刀に付いた鮮やかな血糊を拭き取り、長い鞘にしまい込んだ。背中で折りたたまれた黒い翼を広く伸ばし、青空に飛び込んだ。

 

 

 豪速で飛べば時間はかからない。にとりの家に着くと、彼女は快く出迎えてくれた。家の奥の、土間の工場に案内された。

 

 首に回してある、すすけたタオルで汗を拭きつつ、彼女は笑顔で聞いてきた。

 

「で、今日は何の用だい? 文」

 

「取材してたら写真機を壊しちゃって…」

 

「ああ、修理ね。いいよ、貸して」

 

 にとりはそれを受け取ると、故障した箇所を調べるために、ごちゃごちゃ散らかっているデスクにそれをゴトリと置いた。

 

「修理し終わるまで時間がいるかも──下手したら週をまたぐよ」

 

「お茶を頂けるかしら」

 

「図々しいね」

 

 にとりはふっと笑った。

 

 しかし大して気にした様子でもなく、作業場にあった適当な台を二つ見繕い、ずりずり運んで設置した。

 

「座って待ってて」

 

 そう言い残すと彼女は土間から出て行った。

 

 しばらくすると茶器具や茶菓子()()を抱えて戻ってきた。

 

「ティータイムにする気満々なのね」

 

「まあね、元々休憩しようとしたタイミングで文がやってきたんだけど」

 

「そうなの? 幸運だったわ」

 

 本当に、こうやってお茶できて嬉しい限りである。しかし紅茶に南部せんべいとはなかなかな組み合わせ。嫌じゃないんだけど、なんて言うか。

 

───そういえば。

 

 と、最近身の回りに起こった、不可解な出来事を彼女に話してみようと思った。

 

「これ、私のお気に入りなんだけど」

 

「うん」

 

 胸ポケットに入れてある万年筆を取り出して、にとりの前でぶらぶらさせた。

 

 彼女と出会った頃にはもう使い始めてるし、使っている時を何度も目にしただろうし、これはもう知っているだろう。

 

「でもね、失くしちゃったのよね」

 

「え、見つかったの?」

 

「見つかったからあるんでしょ」

 

「あそっか」

 

 私はこくんと頷いて、話を続けた。

 

「でね、山の中で落としちゃったもんだから、一生見つからないと思ってたんだけど」

 

「うん」

 

「ある朝目覚めると、ハンガーに掛けてある白シャツの胸ポケットの中に納まってたのよ。何故だかわかる?」

 

「誰かが拾ってくれたとか?」

 

「拾ったとしてもわたしの家が分からないでしょ」

 

「椛さんが千里眼で探してくれたとか」

 

「あいつはその程度の落し物じゃ能力を使ってくれないよ」

 

「じゃあ、椛さんがたまたま拾って渡してくれた?」

 

「確率的には低いけど、あり得なくは無いね。でも、違うよ」

 

「うーん…」

 

 ここまでか。じゃあ、答え合わせだ。

 

「答えはね、()()()()()()()()()()()()()()()

 




 
お久しぶりです、ロールメです。
執筆を開始してから2周年なので、そろそろ1周年記念小説を書き始めようかなあと思った次第。

モチベーションの関係で、次の話が大幅に遅れると思います。気長にお待ちくださいませ。(前中後編で終了の予定)
 
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