A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
結界は、深夜十二時からちょうど六時間の間に展開されていた。
それ以外の時間では、部分的にも展開されている様子はない。
そうなると、結界の展開していない昼間ではやれることが限られる。
マスターとマシュの仮眠時、サーヴァントたちが調べて回ったが有力な情報は得られなかった。
だからこそ関連性を探る為、そしてアイドルたちが他に召喚されていたかどうかを確認する為に、こうしてアイドルに近づく機会を伺っていた。
が、まさか手がかりのほうからやってくるとは。
少しできすぎかも、とマシュが思うのも無理はないだろう。
「そちらの外人さんたちはしまむーの友達?綺麗な人たちだね~」
「未央、テンション高すぎ。でも、私も同感かな……。卯月の学校の人、じゃないよね」
彼女たちほどの見目麗しさならば、必然学校ならば目立つだろう。
しかし、そんな話題を聞いた覚えは二人にはなかった。
以前に自身の学校について、そんな話題は上がったが、もし学校の関係者ならば真っ先に話すだろう。
どうやって答えたらいいのか、正直に話す……でもなぁ。
と、卯月がフリーズしている中、アルトリアが先んじて答える。
「はじめまして、私はアルトリアと申します。ウヅキとは以前、旅の最中にお世話になった縁で再会しました」
凛とした姿で、畏怖すら感じるほどに毅然としている。
メイクによってさらに磨かれた美貌もあいまって、まるで人間離れしているようだ。
カリスマB、一国を率いる人物にふさわしいオーラ。
普段、彼女たちが会うことの多い芸能人とは別種のオーラを初めて体験したからか、恐縮気味にやや固まる二人。
アルトリアが機転を利かせたとこで、それに追従する形で自己紹介に回るマシュとジャンヌ。
「お初にお目にかかります。マシュ・キリエライトです。卯月さんには、助けていただいた恩と縁で知り合うきっかけとなりました」
「私の名はジャンヌ。お二人は、卯月さんのご友人かと思います。どうか、これからも卯月さんと好くしてくださいね」
彼女たちの語る内容は嘘ではない。
多くは語っていないだけ、なのだが、二人には少々以外だったようだ。
「おお~、しまむーやるねぇ。できる女性!みたいな人たちを助けるなん、て♪」
「うん。本当にすごいと思うよ」
「うえぇ!?いや、私こそ助けられましたよ!それに、ここにはいないけど、エミヤさんやマス……じゃなくて、立香さんにもお世話になりましたし……。それと皆さんは、私の自慢のお友達なんです!」
卯月の元来のカタログスペックに突出したものはない。
笑顔など、アイドルとしての個性はあるが、普通の少女というのが彼女の根幹だ。
しかしこれこそが、誰とでも友達になれるという、卯月の稀有な才能だろう。
生前友人という関係性が極端に少なかったアルトリアを初め、やや照れくさいカルデアの三人。
マシュなど、生まれてこの方『友人』ということ自体が未経験。
立香は大切な『マスター』であり、他のサーヴァントやカルデアの職員は『仲間』だ。
「ふんふん、エミヤさんと立香さんね。ここにいないってことは、男の人?」
「はい、先輩とエミヤさんは男性です。私たちはお二人を含め五人で東京に来ました」
「あれ?エミヤさんとリツカさん、ってことは日本の人だよね?外国から来たってこと?」
「私たちが来たのは外国からで間違ってはいません。外国の施設で働いているのですが、そこはさまざまな国の人たちが集まっているんですよ。私はフランス、マシュさんとアルトリアはイギリス、エミヤさんと立香さんは日本です」
おお~、と感嘆の声を上げる未央と凛。
日本からあまり出たことのない彼女たちにとって、外国で働くというキャリアを持つ人物はどこか別世界の人間と感じるだろう。
余計に卯月がどうやって彼らを助けたのか、想像できない二人なのであった。
――――――――――
アイドルミスコンの司会進行役であるニュージェネレーションズの三人は、準備の為部屋を後にした。
残っているのは、マシュ達三人だ。
「……お二人は、どう思いましたか?」
「何か隠している様子も、何かを怖がっている様子もありませんでした」
「私も同じ印象です。サーヴァントとして召喚されていなかったのか、記憶か記録が回収されなかったのかまでは判断ができませんが」
数多の人間を見てきた英霊二人にとって、演技ができるぐらいの少女二人であれば嘘などを判別するのは難しいことではない。
それを信頼しているからか、マシュも彼女たちの意見に首肯する。
今回の手がかりは、どうやら空振りに終わったらしい。
そして時間も迫っていることなので、部屋に衣装さんが入って来た。
これ以上の相談は、どうやらできないようだ。
三人は成すがままに、着替えることとなる。
当たり前のことかもしれないが、彼女たち三人は上位を独占し、見事勝ち上がることとなった。
本選にいけばより多くのアイドルと会えるようになるが、気恥ずかしさはまだ抜けそうにはないようだ。
――――――――――
ミスコンの後、カルデアの面々は軽く打ち合わせをし、休息に徹することとした。
マスターとマシュは睡眠が必要。
深夜でしか結界を探索できないならば、必須といえる。
無論、それは今宵に結界が現れればの話である。
毎日か日を跨いで現れるのかは不明。
時間がずれることは考えにくいだろう。
彼の結界にシンデレラという要素が関連しているのであれば、深夜十二時という時間にも意味があると推測できる。
ただ気がかりなのは、深夜十二時に
シンデレラの物語に沿うならば、魔法が解けるのが十二時なのであって、夜明けではない。
原典のシンデレラとは違う展開だ。
シンデレラが関わる結界であるとの仮定ではあるが。
もしかしたら、結界におけるシンデレラとは。
彼女たちアイドルが中心なのかもしれない。
――――――――――
結界は再び現れる。
時間は、昨日と寸分違わず午前十二時。
人々が姿を消し、代わりにシャドウサーヴァントが現れる。
その中に、シャドウではないサーヴァントが混じっていた。
「ここ……、何処……?」
――――――――――
「結界の展開を確認しました。予想通り、今夜も現れました……ね?」
カルデアのメンバーは、結界の展開を予想していたがためにホテルのロビーで待機していた。
が、マシュが口ごもったように、彼らにとって予想外な出来事が起きていた。
全員の衣装が、昨日に変身したまま変わっていなかったのである。
「こ、これは……。いくらなんでも予想外です。今ここにウヅキはいません。にもかかわらず、彼女の宝具の影響を受けたままになっているなど」
「強化の持ち越し、結界が終わる時に中の人物の状態を保存していた……。いえ、ちがう。だったら私たちも、結界が解けた場所に移動しているはず」
不可解な現象。
確認を取る為、卯月に念話で連絡を取る。
おそらく、彼女の行動ではないだろうが。
『もしもし、卯月です』
→「もしもし、今何処?」
『346プロダクションの中にいます。昨日気が付いたときにいた場所とは少し場所がずれていますけど、おおよそ同じです。それと……』
→「それと?」
『今ここに来てからなんですけど、昨日のことをはっきりと思い出した気がするんです』
346プロダクションへ向かったカルデアのメンバーは、移動の最中に卯月と念話で確認を取る。
やはりだが、卯月はこの結界に戻ってからは宝具を使用していないらしい。
メンバーの衣装が変化したままな理由は、今のところ不明。
卯月と合流したところで、卯月の記憶について話すこととなった。
『つまり卯月ちゃんは現実の記憶はそのままに、昨日の記憶が引き継がれている状態なんだね』
「はい。昨日助けられたこと、お手伝いしたこと、お話したことも全部実感できます」
『まさに、サーヴァントと「座」の関係そのものだね。現実にある卯月ちゃんの記憶はいわば「生前の記憶」。サーヴァントとして行動したこちらでは「英霊としての記録」。そして昨日、退去はしたが消滅はしていなかったから、ちゃんと生き残っているサーヴァントとして扱われるということだね』
『しかしそれが判ったが、まだまだ結界に関する謎は多い。シャドウサーヴァントに魔神影柱、敵のすべてがわかった訳でもない』
「特に謎が多いのが、あの魔神影柱だ。シャドウサーヴァントだけならば、召喚のなりそこないとして、特異点にいても不思議ではない。しかし、魔神影柱は話が別だ」
魔神影柱の元となった存在、魔神柱。
これはもともと、魔術王ソロモン―――の力を振るっていた魔神ゲーティアの72柱の使い魔。
魔術王ソロモンが英霊の座から消失している以上、これが存在するのは冠位時空神殿からの脱走した魔神柱のみ。
ならば、この結界には本物の魔神柱がいるのか?
判断は付かないが、仮説として記憶しておくことにする。
閑話休題。
ここで一度、基本に立ち返る。
結界の謎を解く、それがこの特異点を解決する方法であるならば。
術者を発見するか、結界の基点を破壊するか。
どちらにしろ、アイドルたちの探索と並行して行うことになるだろう。
→「出発しよう!探せば何かわかるかも!」
「賛成です。今必要なのは情報、そしてそれは外でなければ発見できないでしょう」
――――――――――
彼らは、外での探索へとシフトする。
昨日と同じく、シャドウサーヴァントの味方は付いてくるようだ。
昨日倒して仲間にしたことは引き継がれるらしい。
探索の成果は早かった。
何せ明確な戦闘音がしていたのだから。
向かった先にいたのは、―――――二人のシンデレラ。
シャドウサーヴァント相手に奮戦するのは、今日会った二人のアイドル。
渋谷凛と本田未央。
彼女たちもまた、サーヴァントとして現界していた。