A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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第5章 青と黄のシンデレラ 2

凛と未央の二人にカルデアの目的や今後の方針について、復習がてら説明する。

そして二人も卯月と同じく、マスターである立香と仮契約を行った。

なお、当然のごとく二人ともスキル「真のアイドル」を保有していた。

戦闘能力をある程度持っていた以上、予想していたことではあるが。

 

「いや~なんだか照れくさいな~。真のアイドル、だって」

 

「えへへ、実は私もそう思ってました」

 

「うん。ちょっと気恥ずかしいよね……」

 

「そんなことはありません。私達が先日見たミニライブ、何も知らなかった私が、まるで引き込まれるかのようでした。すばらしいステージだったと思ってます」

 

「あっ、来てくれてたんだ!ありがとね~!」

 

マシュの手を握り、ぶんぶんと強く握手する未央。

困惑しながらも、どこか嬉しそうにしているマシュ。

彼女にとって、英霊を除く同世代とも言うべき少女たちの距離感は初めてではあるが、今までにない体験をしていた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

一向は、346プロダクションへ向かって移動していた。

探索を行う前に、確認しておくべき事柄があるからである。

それは、先ほど倒したシャドウサーヴァントが346プロダクションに既に配置されているかどうか。

配置されているにしても、味方になっているかどうか、付いて来るのかということも含めて今一度確認する。

既に、彼らの周りには多くのシャドウサーヴァントが点在している。

これ以上増えるのであれば、ぞろぞろとした大行列になりかねないだろう。

 

→「人数も多くなったね………」

 

「そうだな。もともとの私たち五人に加え、アイドルの三人。倒したシャドウサーヴァントが15体で合計23人の団体だ。先ほどの13体も加えると、36という大所帯になってしまう」

 

「戦力として連れて行ける分には問題ないのですが、多すぎても行動が制限されるでしょう。魔神影柱など、範囲攻撃を行う相手にはいい的になりかねない」

 

「シャドウサーヴァント相手であれば、先ほどの相手のような飽和戦術は有効です。しかし、もしもこの先の敵が予想通りであるならば……」

 

「今までの特異点のサーヴァントたち……でしょうね」

 

今までのシャドウサーヴァントの傾向から、そう予想がつくだろう。

魔神影柱もそこに含めてもいいかもしれない。

そしてこの先、通常攻撃が宝具級の威力を持つであろう敵がゴロゴロいるのだ。

宝具を使えず、弱体化しているとはいえトップサーヴァント。

たやすい敵など、一人だっていやしない。

これから来るであろう苦難に対し、険しい顔になるマスターとサーヴァント。

 

「あの、これから大変なことがあるかもしれません。でも、きっと大丈夫ですよ!」

 

その空気を吹き飛ばそうと、勇気付けてくれる卯月。

それに続き、凛と未央も声を上げる。

 

「さっきも言ったよ。未央ちゃんがいれば、百人力だって!」

 

「私たちも力になります。一人じゃ自信はないけど、皆となら」

 

トップサーヴァントというものを知らない二人。

いや、先ほどのエクスカリバーの威力を見ていたはずだ。

これからの敵が、すさまじい脅威であることは身をもって知っている。

励ましに根拠はない。

能天気とも取れるだろう、空元気とも取れるだろう。

だが、それでも――――確かに勇気は沸いてきた。

 

→「そうだね。ありがとう!」

 

「卯月さんたちの言うとおりです。弱気になってはいけませんね」

 

「そうだな。暗い雰囲気をよく吹き飛ばしてくれた。流石はアイドルだ」

 

「悲観的に考えては、士気に関わります。少々楽観的に考えるくらいがちょうどいいでしょう」

 

「それに、あくまで相手はシャドウサーヴァントです。簡単ではないでしょうが絶望的ではありません」

 

→「きっと、他のアイドルの仲間たちも味方になってくれるよ」

 

マスターの言うとおり、仲間はまだ増えるだろう。

アイドルたちは、十分戦力として計算できる。

むしろ、それこそが勝率を上げる近道だ。

 

「はい。きっと皆すぐ見つかりますよ」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

かくして、卯月の言った事は現実となった。

プロダクションに戻った彼らの前に、新たなアイドルが既に来ていたのだ。

喜ばしいことだろう。

だが、彼らの表情にあるのは、――――苦笑。

 

「あはは……」

 

そしてこれは、ニュージェネの三人も例外ではなかった。

緊迫したこの結界の中で、絶対に皆を見つけるんだと意気込んでいた。

 

 

 

 

 

だからこそ、目の前のソファーでごろ寝している、働いたら負け(・・・・・・)というTシャツを着たウサギのぬいぐるみを抱く少女に毒気が抜けるのは仕方のないことだろう。

 

 

 

 

 

「…………杏、何やってんの?」

 

頭を抱えながら、言葉を投げかける凛。

 

「杏ちゃん、らしいですね……」

 

卯月の笑顔も、やや引きつっている。

 

「いや、流石に気を抜きすぎだから!」

 

未央のツッコミは、この場全員の一致した感想だろう。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「あらためて、双葉杏。好きな言葉は不労所得と印税生活です」

 

ソファーに仰向けで寝たまま、顔をこちらに向けてピースする杏と名乗った少女。

今までにない、ニート系アイドルという新しすぎるジャンル。

カルデアですら存在しない、強烈な個性である。

 

→「こんにちは、藤丸立香です」

 

そんな強烈な個性を持つ少女に物怖じせず、自己紹介をするマスター。

それに続き、自己紹介をしていくサーヴァントたちとマシュ。

 

「うん、だいじょうぶ。皆の事は、ちゃんと知ってるから(・・・・・・・・・・)

 

先ほど検証したとおり、記録の共有をしている為か理解の早い杏。

だとしても、実感のない知識に対し、いささか順応性が高すぎる気もする。

 

「まあ、この空間がなんかおかしいのは見ててわかるしね~。そしたら、自分の知らない知識があるし。サーヴァントになっちゃったアイドルがいるらしいから、ここにいれば集合できるかなと思ってたから待ってたんだ」

 

よいしょ、と起き上がり、ソファーから降りる杏。

すると、姿が変わる。

もともと着ていたTシャツは青白いドレスに。

ラフだった少女は、美しいシンデレラへと。

そのあっさりとした変身に、一同は目をむく。

サーヴァントになったこと自体が彼女にとっては異常事態のはず。

にもかかわらず、自然な様子で自身の力をコントロールしている。

 

 

 

間違いなく、彼女は天才と言えるだろう。

 

 

 

件の彼女は、一同の驚愕を知ってか知らずか受け流す。

飄々とした様子で、あくびをしながら告げる。

 

「まあ、とっとと行こうよ。こんな結界があったんじゃ、夜のたびに呼び出されちゃうんでしょ?そんなのめんどくさいし、他の皆も心配だしね」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

辺りを探索する一行。

ついてくるのは第二特異点のシャドウサーヴァントたち。

346プロダクションにいたのは、合計13体のシャドウサーヴァント。

シャドウローマ兵は確認できなかった。

そして、第一特異点のシャドウサーヴァントは来ることができなかった。

どうやら、付いて来れるシャドウサーヴァントは特異点単位までのようだ。

清姫のシャドウサーヴァントなど、付いてこようとしたが叶わず、影ながら迫力満点であった。

 

閑話休題。

 

新たな仲間、双葉杏と仮契約したマスター。

ニートアイドルという矛盾した個性にもかかわらず、「真のアイドル」があることに少々驚きを隠せない。

ファンに対し、飾らない姿を見せていると好意的に解釈することにした。

 

「すごい絵面ですね、先輩……」

 

マシュの言うことに心底同意するマスター。

ニート志望を自称する彼女が、歩いて探索するなどするわけがなかった。

かといって、他のメンバーに迷惑をかけているわけではない。

 

彼女の持っていたウサギの人形。

それが大きくなってソファー状になり、杏はその上で衣装のままくつろいでいる。

ウサギのソファーはふわふわと浮いており、一行についていく。

サーヴァントの力を使いこなしてはいるが、間違うことなきライダークラスの無駄遣いである。

 

→「でも、結構気持ちよさそう」

 

「先輩!?」

 

「ふかふかでふわふわだからね~。でも、これは杏専用だよ~」

 

間延びした声で、応答する杏。

彼女が加わってから、緊張感がだいぶどこかへ行ってしまっていた。

 

「下手に緊張しないのはいいことですが、気を抜きすぎてはいけませんよマスター」

 

「それにしても、よくあんな状態で周りを見れていますね」

 

「ジャンヌさん、それはどういうことですか?」

 

「彼女、杏さんは周りへよく気を使っています。建物や行く先の道へ視線を飛ばして警戒しているのです」

 

「緊張感はないが、ちゃんと役に立っている。全く、今までに見なかったタイプの天才だよ、彼女は」

 

自身が凡才だと認識しているからか、ため息をつくエミヤ。

談笑しながらも、彼らの警戒は途切れない。

 

 

 

 

 

「…………来るね」

 

 

 

 

 

かくして、彼らの警戒にヒットした。

この地鳴りには、見覚えがある。

揺れは徐々に大きくなり、現れるのは九体の魔神影柱。

 

「でっかい!知識ではあるけどでっかい!」

 

「卯月も戦ってたんだ。私だって!」

 

初見である魔神影柱を相手に、声を上げる凛と未央。

 

「さて、と。すっごくめんどくさい仕事だけど、とっとと終わらせないとね」

 

強大な相手を前に、態度を崩さない杏。

彼女の頭の中には、勝てるという確信があるのかもしれない。

何より、やる気とは違う、彼女にしては非常に珍しい敵意を向ける。

 

本来、戦うことなどないシンデレラたち。

しかしこの場において、彼女たちはとても頼もしかった。

たくましいとも呼べる、精神的な主柱。

カルデアのサーヴァントたちも、彼女達に当てられてか気合を増す。

 

「魔神影柱来ます。行きます、先輩!」

 

ドレス姿の彼女達、それと衣装が映えるエミヤとマスター。

どこか優雅に、美しく立ち向かう。

シャドウサーヴァントたちもそれに続く。

 

対魔神影柱戦が、今再び行われた。

 

 

 

 

 


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