A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
→「でかい!」
立香がそう言うのも無理はない。
ここは、346プロダクションのアイドルたちがライブで使うステージ舞台。
もちろん、今回は多くのアイドル達が登場予定である為、通常なら抽選によるチケット配布が行われる。
身内が本選出場者ということで、関係者席を確保できなければ、エミヤとマスターは入ることすらできなかっただろう。
「しかし、身内の付き添いとはいえ、まさか英霊になってからアイドルを見に来るようになるとはね。本当に、何が起こるかわからないものだな……」
エミヤが語った内容に対し、納得する立香。
生前は、戦場で多くの時を過ごし、死後英霊になってからは少なくとも一緒に聖杯探索をしてきたのだ。
カルデアでは厨房を担当していたりと平和的な面もある。
が、まさかエリちゃんではなく、本物のアイドルが来るステージを見るなど予想もつかなかっただろう。
それも、一日目の時のような遭遇ではなく、ステージ自体を目的として来るなどとは。
→「楽しみだなぁ」
「……まあ、多少は同意しよう。身内だけでも綺麗どころが揃っている。しかも、普段着飾ることには無頓着なものたちばかり。普段とは違う姿が見れるだろうさ」
結界の中でも、ドレスやティアラなどで着飾ってはいた。
が、武器を持っていた戦場。
しかもあくまで宝具による戦闘能力の向上であり、着飾ることが主目的ではなかった。
今回のように武器を持たず、プロの手で飾られ、その魅力を存分に引き出す。
キャスター、メディアが羨ましがることだろう。
(記録映像を見せろ。と、言ってくるだろうな……)
エミヤがそう考えていたとき、ブザーが鳴る。
開演を知らせる合図。
ざわついていた会場の声が静まる。
明かりが弱まり、ステージライトが一人のアイドルを照らし出した。
会場から歓声が上がる。
「皆さん、今日はお集まりいただき、真にありがとうございます。本日、
マイクを手に、派手さを抑えた衣装を着るのは少女ではなく女性。
落ち着いた様子であり、少女とは違う、大人の女性としての色気が垣間見える。
年を重ねた者でなければ出せない魅力。
その女性は息を吸い込み、先ほどとは違う、はきはきとした声で話す。
「川島みじゅき!18歳です!」
一瞬、声がなくなった。
何が起こっているのかわからないエミヤとマスター。
18歳にしては色気があるが、冗談か何かと思っているとき
ワアアアアアァァァァァ!!
歓声が爆発した。
中には彼女に対し、愛を告げる強者までいる。
どうやら、彼女にとってはお約束であるらしい。
「はい、ありがとう。つかみはOKって感じね!」
先ほどのような落ち着いている声に戻る。
はっきりとした声であり、観客が聞き取りやすいのはマイクだけが原因ではないだろう。
彼女は川島瑞樹、28歳。
アイドルの中では年上で、大人のお姉さんと言うべき女性。
ルックスが非常に若々しく美しい。
元はアナウンサーであり、その経験を活かしてMCなどの活躍も多い。
アイドルの中でも、彼女がメインの司会として起用されたのはそこなのだろう。
この技術は経験がものをいい、一朝一夕でつくようなものではない。
「さて、温かい歓声を頂きましたが、今日の主役は私たちアイドルじゃありませんよ~」
実際、彼女の衣装は派手ではない。
この会場の主役は、マシュたち含めたミスコンの本選出場者。
その彼女たちを埋もれさせない為の仕様だろう。
まあ、関係者でない多くの観客はアイドル達が主目的だろうが。
しかし、多くの観客は度肝を抜かれるだろうと立香たちは予想する。
何せ彼らの連れも、見事な美貌の持ち主。
カリスマ含め、人を惹きつけるオーラもある。
しいて言うならマシュにはその手のカリスマはない。
だが、彼女たちとは違う可愛さがあり、決して見劣りはしないだろう。
「早速登場してもらいましょう!各予選会場で上位入賞を果たした30人!この夏のアイドルたちの登場です!」
ステージの中央から移動し、手を向けて彼女たちを迎える。
歓声が上がる。
登場した者たちを見て、立香とエミヤは認識が甘かったことを自覚した。
たしかに、マシュやアルトリア、ジャンヌたちは可憐である。
しかし、集められたほか27名も特色は違えど負けず劣らずである。
上位独占できるのではないか、などという甘い考えは打ち砕かれた。
→「思うほど、簡単そうじゃないね……」
「まさか、これほどまでにレベルが高いとはな……。どのような能力があれば、彼女たちのような女性を集められるのか……」
エミヤの疑問はもっともだ。
マシュたちは目立つほどの美貌を持っている。
そんじょそこらにいるようなレベルではない。
いかに、この時代の人口がずば抜けているとはいえ、だからこそ集めるのは至難の業のはずである。
彼らのあずかり知らぬことであるが、これを成したのは346プロダクションのプロデューサー達。
もともとアイドル部門としては新進気鋭ながらも、多種多様で魅力的なアイドル達を保持しているのは一重に彼ら、彼女らの功績だ。
そんな彼らがイベントのために一丸となって彼女達を発掘した。
つまるところ、ほかの27名のほとんどがマシュ達のような応募組とは違うスカウト組なのだ。
無論、スカウト組と応募組に審査における不公平はない。
だが、スカウト組とは言わばプロデューサー達にとって、
鍛え抜かれた審美眼を持つ彼らが探し出した女の子たちは、やる気も十分。
アイドル志望の
ここで優秀な成績を収めれば、将来にプラスになると意気込んでいるからだ。
だが、カルデアの女性陣とて負けてはいない。
彼女たちとて、予選をぶっちぎりで通過したのだ。
アイドルを目標としている相手である以上、容易くはない。
でも、勝ち目はある。
「皆さんとってもきれいです。本当、若いっていいわねぇ~」
片手をほほにつける瑞樹。
さまざまな魅力を持つアイドル達を見慣れている彼女からしても、集められた少女たちは感嘆に値するようだ。
「さて、じゃあ早速だけど、一人ずつ自己紹介してもらおうかな。アピールタイムは一人一分まで。まず、1番の娘から」
――――――――――
21番の自己紹介が終わった。
観客もノリがよく、アピールに対して合いの手を入れる。
マシュ達の番号は22、23、24番。
アルトリア、ジャンヌ、マシュの順番だ。
「はい。ありがとうございました。じゃあ次は22番の方」
「はい」
瑞樹の合図を受け、一歩前に出るアルトリア。
濃い青を基調としたドレス。
まるでサファイアのようにキラキラ光り、彼女自身が宝石とたとえられるほど。
高級感漂うその格好は、高貴という言葉がとても似合う。
「ご紹介に預かりました。わたしは、イギリスから来たアルトリアと申します」
静寂。
ただ一言、語っただけで会場が静まった。
カリスマスキルではない。
もし使っているなら、王気を感じるはずだ。
そもそも彼女は不正を好まない。
これはそれ以前、彼女自身の経験。
人の前に立つ事への慣れ。
堂々とした様子に、大衆の前に立つ緊張が無い。
内心では別の緊張があるのかもしれないが、それを全く顔に出さない。
完成に近い美の形、とでも言うべきだろう。
「自己紹介において、私を一言で表すならば、ちょうどいい言葉があります。――――それは、騎士です」
目が鋭くなる。
剣気は出さず、負けん気を前面に出す。
彼女は威圧しに来たのではなく、見て貰うために来たからだ。
アルトリアの美しさとの対比として、やる気と負けず嫌いを選択した。
「わたしは騎士として、正々堂々、ここにいる方達と競い合うことを誓います」
よろしくお願いします。と、優雅に一礼する。
少し時間がかかったあと、観客は思い出したように歓声を上げる。
ワアアアアアアアァァァァ!!
→「流石アルトリアだね」
「ああ。アイドルというものを事前に学んでいたようだな。実際、彼女達に会っていたのも大きいのだろう」
優しい目をするエミヤ。
第一印象は完璧といっていい。
庇護欲などとは無縁だが、それもまたアルトリアらしい。
「ありがとうございました。本格的な騎士さんでしたね」
本格というか本物の騎士である。
「では次の方お願いします、23番!」
「はい」
前に出たジャンヌ。
黄色と白の2色で構成されたドレス。
透ける布地が使われていたり、スカートに切れ目があって太ももが見えたりと、セクシーなつくり。
彼女のスタイルをより魅力的に見せる。
「皆さん、こんにちは。フランスから来ました、ジャンヌです」
その声は耳に残る。
その容姿は注目を集める。
かつてのフランスの旗印は、遠い場所と時代であるここに現れた。
勇ましくも美しい、救国の聖女。
名前もあり彼女が本物だとは知らずとも、ジャンヌ・ダルクを皆が連想した。
「此度は縁があり、此処に参加することになりました。至らぬこともあると思いますが、今日はお願いします。そして――――」
皆さんに、主のご加護があります様に。
そう締めくくった。
勇敢と慈愛。
双方入り混じる、戦う聖女のオーラ。
ジャンヌもまた自身の経験を活かし、見事にやってのけた。
「ありがとうございました。では、お次は24番の方」
「はい!」
前に出たマシュは、二人に負けず劣らず魅力的で――――可愛かった。
ドレスはピンク色をメインに、白いレースが飾られている。
大人っぽいドレスが、そのレースによってやや子供っぽさを残している。
大人と子供の入り混じる、少女としての魅力。
「初めまして。イギリスから来ました、マシュ・キリエライトです」
やや強張った声で挨拶するマシュ。
無理も無い。
彼女は大勢の人の前に立つことに関しては、二人よりも経験が足りない。
インパクトは足りていない。
「私は――――」
何とか言葉を口に出そうとする。
しかし、うまく出てこない。
考えていたはずだ、ここで何を話そうとしたのか。
それが、ここに来て真っ白になってしまった。
→「頑張れ……」
どれくらい経っただろう。
もうとっくに一分は過ぎてしまったようにも感じる。
早く終わってしまえばいいのにと、心の中の自分が叫ぶ。
実際は、数秒しか経っていないとしても。
何もわからなくなっていた時、不意にマスターと目が合った。
「――――すぅ、――――はぁ」
一度、呼吸を整える。
ここには何しに来たのだろう。
考えるまでも無い、思い出したのは――――卯月たちの顔。
そうだ、彼女たちはとても楽しそうだった。
杏だって、好ましく話していた。
そんな彼女達に憬れて、自分もやってみたいと感じたんだ。
そうだ、私は――――。
(ここに、楽しみに来たんだ)
なら簡単だ。
自分の心を、素直に口に出せばいい。
マシュがフリーズして、時間にして約十秒。
頑張れという声援を、心配した観客達がかけてくれている。
なら、それに答えなくちゃいけない。
「私は、今日を楽しみにしてきました。アイドルというのは大変なお仕事かもしれません。でも、きっと、とても楽しいと思うんです。ですから皆さん」
今日は一緒に、楽しみましょう。
――――――――――
「これで、全員の自己紹介が終わりました。では、ここから第一審査にはいりたいと思います。ですが、その前に!サポートしてくれる、アシスタントに登場していただきましょう!」
再び歓声が上がる。
アシスタントとは言っているが、やってくるのは346プロダクション現役アイドル。
観客のテンションが上がるのは、当然だろう。
「それじゃあ早速、お願いしまーす!」
瑞樹の呼び声のあと、はーい!と声が響き、スポットライトが会場の一部を照らす。
そこから現れたのは――――。
「にゃっほーい!諸星きらり、です☆!」
「双葉杏、です♪!」
「「二人合わせて、あんきらです!」」
結界でも助けとなった小柄な少女、双葉杏。
長身であり、理想的とも言える抜群のスタイルを持つ少女、諸星きらり。
始めて見るきらりはともかく、杏は結界の中とは見違えるようだ。
だらけていた様子はなりを潜め、自身のキュートさを活かしたアイドルポーズ。
見事なまでの変わりようだった。
「それじゃあ早速、第一審査の内容を発表するよぅ!」
「お題は~――――」
会場の空気は緊張と期待。
二人の発表を今か今かと待つ。
「「宣材写真です!」」