A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
深夜の結界。
エミヤがビルの上を伝って索敵を行う。
星明りの中、ぞろぞろと進む多くはシャドウサーヴァント。
前回に引き続き、第二特異点のメンバーだ。
『報告しておこう。アイドルサーヴァント達についてだが、一つ仮説がある』
→「仮説?」
『アイドル達の記憶と記録のことさ。昼の間に接点を持ったアイドル達の様子を見たが、特におかしい点は無かった』
「はい。夢見が悪いとか、悩んでいる様子は見受けられませんでした」
『そうなると、現実で記録を保持しているアイドルには共通点がある』
「……なるほど。確かにそのようです。当たり前といえば当たり前でした」
『では、答え合わせといこう。よろしく、アルトリア』
「任されました、ダ・ヴィンチ。記録を保持しているアイドルは、島村卯月、渋谷凛、本田未央、双葉杏。時期的に考えてみても、マスターと仮契約を行うことで現実と繋がりができるのでしょう。いわば、マスターとのパスが現実と結界の間に出来た道になっているのです」
『これまでの条件が揃っている。状況証拠から考えて、まず間違いないだろう』
「ということは、他のアイドルの皆にもう会いに行かないんですか?」
卯月の疑問はもっともだ。
会いに行ったところで、仮契約をしなければ結界のことを覚えていない。
ならば、そこから情報を得ることも、先に待ち合わせをしておくことも出来ない。
『いや、幸いにも卯月ちゃん達に会えたことは大きい。出来れば交流を深めたいね。私たちカルデアが、信頼してもらえるようになる』
「アイドルに会うって、結構難しいからね」
「でも、流石に私達のプロダクションには入れないかな。関係者以外立ち入り禁止だから……」
シンデレラガールコンテストは終わった。
こうなると、もう現実でアイドルに会うのは難しい。
卯月たちから紹介するわけにもいかないだろう。
カルデアとの交流は、いわばプライベート。
個人での人間関係を、他のアイドルに押し付けるわけにはいかない。
「あ!そうだ!こんなのはどうかな!?」
声を張り、勢いよく挙手した未央。
どうやら、何か案があるようだ。
「私たちは、しまむーのお友達って形で最初に会った。なら、そのシチュエーションをそのまま使えばいいんだよ!」
「ってことは、まず卯月がマシュ達と遊んでもらう。そこに、偶然を装って私達が合流するってこと?」
「そうそう!しぶりん理解が早い!」
『それはありがたいね。事前に何処に集合と決めておけば、ばったり会うことも難しくない』
「でも、問題が一つあるんだよね。ましゅましゅ達と会うまでは良いんだけど、立香さんやエミヤさんがいると、流石にそのまま遊ぶのは難しいかも……」
未央の懸念。
アイドルであるからには、プライベートでは気を使うのが当然。
特に男性とは、友達であったとしてもそう簡単には遊べない。
その人物が恋人持ち、あるいは既婚者だったとしても。
人の良さは関係ない。
ただ男性であるというだけでスクープの対象になる。
グループでいても同じこと。
上手に写真を編集されて、すっぱ抜かれるだけだ。
「あくまでアイドル達がそういう意識を持っているから、エミヤに認識阻害の魔術を使ってもらうわけにもいかない。しかも、そんな事をすれば流石に異変に気づくでしょうし……」
『まあ、その作戦ならマシュ達だけで行ったとしても十分だ。その案はありがたくもらっておこう』
ダ・ヴィンチちゃんがそう締めくくる。
すると、ちょうどエミヤからの念話が入る。
敵影を確認したと。
『これは……、数が多い!シャドウローマ兵と同じ、敵はシャドウサーヴァントだけじゃない!』
「こちらも目視で確認しました。敵は、――――影となった海賊です」
→「やっぱり第三特異点か!」
こちらに襲い掛かろうと向かってくる影。
その多くは、オケアノスで会った海賊の影。
ドレイクの部下、ボンベもいるようだ。
奥には、それを従えるシャドウサーヴァントもやってくる。
総勢、15体。
二人組の海賊アン・ボニー&メアリー・リード。
血斧王、エイリーク・ブラッドアクス。
海賊黒髭、エドワード・ティーチ。
狩人と女神、オリオン&アルテミス。
ゴルゴン三姉妹の次女、エウリュアレ。
雷光の怪物、アステリオス。
女海賊、フランシス・ドレイク。
麗しの女狩人、アタランテ。
イスラエルの王、ダビデ。
トロイアの英雄、ヘクトール。
コルキスの王女、メディア・リリィ。
コルキスの魔女、メディア。
アルゴー船の船長、イアソン。
そして大英雄、ヘラクレス。
宝具を使用できない為、船は無い。
海賊達を筆頭に、各々の好き勝手に殺しに来る。
しかし、こちらにとっては最悪の布陣がある。
あろうことか、アルゴー船の面々が
作戦ではないだろう。
シャドウサーヴァントにそんな思考は無い。
だが、考えている時間は無い。
「――――――!」
声も無く、こちらのシャドウサーヴァントであるネロ・クラウディウスが剣を地面に突き立てる。
すると、新たに影が生まれてくる。
その形は、ローマ兵。
『馬鹿な!シャドウサーヴァントは宝具を使用できないはず!ましてや、セイバーのネロに軍勢を率いる宝具は無いはずだ!』
「しかし現実で起きている!どうやら味方らしい、考えるのは後だ!」
「対シャドウサーヴァント戦!先輩、指示を!」
――――――――――
戦場の大部分は、ローマ兵対海賊。
もしくはシャドウサーヴァント同士の戦い。
その中で、最も激しい戦い。
カルデアVSアルゴー船団。
二人のメディアによって強化され、本能のままに暴れまわるヘラクレス。
シャドウサーヴァント化による劣化も、強化魔術で相殺されている。
「
それに加え、ヘクトールの援護。
ヘラクレスを援護し、そのヘクトールをヘラクレスが庇う。
単純に速く、そして強い。
カルデアも卯月の強化を受けている為、劣勢ではない。
しかしその戦闘に、アイドルたちは近づくことすら出来ない。
せいぜいがサポート。
アイドル達が宝具を使おうとすれば、たちどころに狙いを変更し襲い掛かってくるだろう。
それを自覚している為、彼女たちは他のシャドウサーヴァント達を相手にしている。
その甲斐があってか、そちらのほうは優勢のようだ。
「くっ!このままじゃ勝負がつきません!」
「魔力の消耗が激しい。たとえ勝ったとしても、疲弊が大きすぎます!」
ジャンヌのいったとおり、このままいけばカルデアは勝てるだろう。
ヘラクレスとは互角でも、他が決着がつけばこちらに加勢し、押しつぶせる。
いかに大英雄だろうと、シャドウサーヴァント。
宝具による不死がなければ、どんな攻撃でも無視できない。
必ず隙ができるし、時間稼ぎも出来る。
ただ、それはこちらの消耗を無視した場合での話。
カルデアやマスターの魔力とて無尽蔵ではなく、集中力が切れて思わぬ被害を被る可能性もある。
たとえ無事でも、そこに他の特異点の援軍や魔神影柱が現れれば最悪だ。
カルデアにとって、この戦いは通過点に過ぎないのだから。
――――街を照らす赤き月よ。
→「この声は!?」
『サーヴァント反応あり!シャドウではない、
『霊基照合。いや、まて、これは本当にアイドルなのか!?』
――――目覚めし魔王の鼓動。堕天使の翼にて魂を導く。
→「何があったの!?」
『今霊基を確認した。が、このクラスは
――――呪われし右手には炎、聖なる左手には氷を。
→「ありえない?」
『ああ。おおよそアイドルには似つかわしくない。いいかい、彼女のクラスは――――――』
――――見よ!これぞ、わが領域!わが世界!
『――――アヴェンジャーだ!!』
「闇の力に慄け!
――――――――――
月が、変わった。
目に見えて空間が
綺麗な月夜といっていい満月は、禍々しい赤い光を降らしている。
それ以外に変わったとすれば、今までの街の戦闘痕が消えている。
「これは、――――そうか!」
エミヤが、いち早くこの宝具を理解した。
街の破壊が消え去ったのではない。
「マスター、この宝具は――――固有結界だ」
瞬間、ヘラクレスが爆ぜた。
「――――――!?――――――!!」
爆ぜたのは表面的なもの。
ヘラクレスに対して降り注いだ爆炎。
無論、それで終わりではない。
降り注ぐは、多種多様な攻撃。
爆炎、氷塊、雷撃、刀剣。
大英雄に向かって、上空より放たれた援護射撃。
「今です!」
不意に放たれた攻撃は、ヘラクレスに決定的な隙を作る。
「やぁっ!」
「はあっ!」
「はっ!」
三人の斬撃。
生まれた隙に対して、同時に叩き込まれた攻撃は大英雄の霊核を砕いた。
「――――――」
消え去るヘラクレス。
程なくして、戦闘は終了した。
となれば、関心を持つ対象は新たなアイドル。
その人物はゆっくりと降りてきた。
そう、彼女は
それを証明するように、背中にあるのは白と黒の堕天使の翼。
赤い月が戻り、固有結界が解除される。
元に戻った月が照らすその姿。
服装は、卯月たちと同じスターリースカイ・ブライト。
地面に降り立った彼女はその翼を消す。
真っ直ぐこちらを見据え、大きな声で言い放った。
「我が名は神崎蘭子!運命にて邂逅した星見の魔術師達よ、闇に飲まれよ!」
「……………はい?」
闇に飲まれよと言われたが、喧嘩を売られたわけでは無いだろう。
にしては、悪意が感じられないし、こちらに対してすっごい笑顔を向けている。
彼女の名は、神崎蘭子。
数多のアイドル達の中でも、特に強い個性である「中二病系アイドル」。
本物の魔術師や英雄との遭遇に、彼女のテンションは絶賛うなぎのぼり中。
事情を知っているこちらのアイドル達は、「あ~……」という表情をしていた。
新たに仲間になるであろうアイドルに対し、初邂逅の衝撃が抜け切れないカルデアの面々であった。
なお補足だが、蘭子が言った言葉を翻訳すると
「私は神崎蘭子です。初めましてカルデアの皆さん、そしてお疲れ様です」
という、自己紹介と挨拶である。