A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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第8章 夜の街の世界

 深夜の結界。

 エミヤがビルの上を伝って索敵を行う。

 星明りの中、ぞろぞろと進む多くはシャドウサーヴァント。

 前回に引き続き、第二特異点のメンバーだ。

 

『報告しておこう。アイドルサーヴァント達についてだが、一つ仮説がある』

 

 →「仮説?」

 

『アイドル達の記憶と記録のことさ。昼の間に接点を持ったアイドル達の様子を見たが、特におかしい点は無かった』

 

「はい。夢見が悪いとか、悩んでいる様子は見受けられませんでした」

 

『そうなると、現実で記録を保持しているアイドルには共通点がある』

 

「……なるほど。確かにそのようです。当たり前といえば当たり前でした」

 

『では、答え合わせといこう。よろしく、アルトリア』

 

「任されました、ダ・ヴィンチ。記録を保持しているアイドルは、島村卯月、渋谷凛、本田未央、双葉杏。時期的に考えてみても、マスターと仮契約を行うことで現実と繋がりができるのでしょう。いわば、マスターとのパスが現実と結界の間に出来た道になっているのです」

 

『これまでの条件が揃っている。状況証拠から考えて、まず間違いないだろう』

 

「ということは、他のアイドルの皆にもう会いに行かないんですか?」

 

 卯月の疑問はもっともだ。

 会いに行ったところで、仮契約をしなければ結界のことを覚えていない。

 ならば、そこから情報を得ることも、先に待ち合わせをしておくことも出来ない。

 

『いや、幸いにも卯月ちゃん達に会えたことは大きい。出来れば交流を深めたいね。私たちカルデアが、信頼してもらえるようになる』

 

「アイドルに会うって、結構難しいからね」

 

「でも、流石に私達のプロダクションには入れないかな。関係者以外立ち入り禁止だから……」

 

 シンデレラガールコンテストは終わった。

 こうなると、もう現実でアイドルに会うのは難しい。

 卯月たちから紹介するわけにもいかないだろう。

 カルデアとの交流は、いわばプライベート。

 個人での人間関係を、他のアイドルに押し付けるわけにはいかない。

 

「あ!そうだ!こんなのはどうかな!?」

 

 声を張り、勢いよく挙手した未央。

 どうやら、何か案があるようだ。

 

「私たちは、しまむーのお友達って形で最初に会った。なら、そのシチュエーションをそのまま使えばいいんだよ!」

 

「ってことは、まず卯月がマシュ達と遊んでもらう。そこに、偶然を装って私達が合流するってこと?」

 

「そうそう!しぶりん理解が早い!」

 

『それはありがたいね。事前に何処に集合と決めておけば、ばったり会うことも難しくない』

 

「でも、問題が一つあるんだよね。ましゅましゅ達と会うまでは良いんだけど、立香さんやエミヤさんがいると、流石にそのまま遊ぶのは難しいかも……」

 

 未央の懸念。

 アイドルであるからには、プライベートでは気を使うのが当然。

 特に男性とは、友達であったとしてもそう簡単には遊べない。

 その人物が恋人持ち、あるいは既婚者だったとしても。

 人の良さは関係ない。

 ただ男性であるというだけでスクープの対象になる。

 グループでいても同じこと。

 上手に写真を編集されて、すっぱ抜かれるだけだ。

 

「あくまでアイドル達がそういう意識を持っているから、エミヤに認識阻害の魔術を使ってもらうわけにもいかない。しかも、そんな事をすれば流石に異変に気づくでしょうし……」

 

『まあ、その作戦ならマシュ達だけで行ったとしても十分だ。その案はありがたくもらっておこう』

 

 ダ・ヴィンチちゃんがそう締めくくる。

 

 

 

 

 

 すると、ちょうどエミヤからの念話が入る。

 敵影を確認したと。

 

『これは……、数が多い!シャドウローマ兵と同じ、敵はシャドウサーヴァントだけじゃない!』

 

「こちらも目視で確認しました。敵は、――――影となった海賊です」

 

 →「やっぱり第三特異点か!」

 

 こちらに襲い掛かろうと向かってくる影。

 その多くは、オケアノスで会った海賊の影。

 ドレイクの部下、ボンベもいるようだ。

 奥には、それを従えるシャドウサーヴァントもやってくる。

 総勢、15体。

 二人組の海賊アン・ボニー&メアリー・リード。

 血斧王、エイリーク・ブラッドアクス。

 海賊黒髭、エドワード・ティーチ。

 狩人と女神、オリオン&アルテミス。

 ゴルゴン三姉妹の次女、エウリュアレ。

 雷光の怪物、アステリオス。

 女海賊、フランシス・ドレイク。

 麗しの女狩人、アタランテ。

 イスラエルの王、ダビデ。

 トロイアの英雄、ヘクトール。

 コルキスの王女、メディア・リリィ。

 コルキスの魔女、メディア。

 アルゴー船の船長、イアソン。

 そして大英雄、ヘラクレス。

 宝具を使用できない為、船は無い。

 海賊達を筆頭に、各々の好き勝手に殺しに来る。

 しかし、こちらにとっては最悪の布陣がある。

 あろうことか、アルゴー船の面々がヘラクレスを全力で援護している(・・・・・・・・・・・・・・・)

 作戦ではないだろう。

 シャドウサーヴァントにそんな思考は無い。

 だが、考えている時間は無い。

 

「――――――!」

 

 声も無く、こちらのシャドウサーヴァントであるネロ・クラウディウスが剣を地面に突き立てる。

 すると、新たに影が生まれてくる。

 その形は、ローマ兵。

 

『馬鹿な!シャドウサーヴァントは宝具を使用できないはず!ましてや、セイバーのネロに軍勢を率いる宝具は無いはずだ!』

 

「しかし現実で起きている!どうやら味方らしい、考えるのは後だ!」

 

「対シャドウサーヴァント戦!先輩、指示を!」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 戦場の大部分は、ローマ兵対海賊。

 もしくはシャドウサーヴァント同士の戦い。

 その中で、最も激しい戦い。

 カルデアVSアルゴー船団。

 二人のメディアによって強化され、本能のままに暴れまわるヘラクレス。

 十二の試練(ゴッド・ハンド)こそ使えないだろうが、もとより一度殺すこと自体が高難易度。

 シャドウサーヴァント化による劣化も、強化魔術で相殺されている。

 

壊れた幻(ブロークンファ)――くっ!?」

 

 それに加え、ヘクトールの援護。

 ヘラクレスを援護し、そのヘクトールをヘラクレスが庇う。

 単純に速く、そして強い。

 カルデアも卯月の強化を受けている為、劣勢ではない。

 しかしその戦闘に、アイドルたちは近づくことすら出来ない。

 せいぜいがサポート。

 アイドル達が宝具を使おうとすれば、たちどころに狙いを変更し襲い掛かってくるだろう。

 それを自覚している為、彼女たちは他のシャドウサーヴァント達を相手にしている。

 その甲斐があってか、そちらのほうは優勢のようだ。

 

「くっ!このままじゃ勝負がつきません!」

 

「魔力の消耗が激しい。たとえ勝ったとしても、疲弊が大きすぎます!」

 

 ジャンヌのいったとおり、このままいけばカルデアは勝てるだろう。

 ヘラクレスとは互角でも、他が決着がつけばこちらに加勢し、押しつぶせる。

 いかに大英雄だろうと、シャドウサーヴァント。

 宝具による不死がなければ、どんな攻撃でも無視できない。

 必ず隙ができるし、時間稼ぎも出来る。

 ただ、それはこちらの消耗を無視した場合での話。

 カルデアやマスターの魔力とて無尽蔵ではなく、集中力が切れて思わぬ被害を被る可能性もある。

 たとえ無事でも、そこに他の特異点の援軍や魔神影柱が現れれば最悪だ。

 カルデアにとって、この戦いは通過点に過ぎないのだから。

 

 

 

 

 

 ――――街を照らす赤き月よ。

 

 

 

 

 

 →「この声は!?」

 

『サーヴァント反応あり!シャドウではない、アイドルの援軍(・・・・・・・)だ!』

 

『霊基照合。いや、まて、これは本当にアイドルなのか!?』

 

 

 

 

 

 ――――目覚めし魔王の鼓動。堕天使の翼にて魂を導く。

 

 

 

 

 

 →「何があったの!?」

 

『今霊基を確認した。が、このクラスはありえない(・・・・・)!』

 

 

 

 

 

 ――――呪われし右手には炎、聖なる左手には氷を。

 

 

 

 

 

 →「ありえない?」

 

『ああ。おおよそアイドルには似つかわしくない。いいかい、彼女のクラスは――――――』

 

 

 

 

 

 ――――見よ!これぞ、わが領域!わが世界!

 

 

 

 

 

『――――アヴェンジャーだ!!』

 

 

 

 

 

「闇の力に慄け!月よ照らせ、我が領域(ナクト・ステッド・ヴェルト)!!」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 月が、変わった。

 目に見えて空間が赤い(・・)

 綺麗な月夜といっていい満月は、禍々しい赤い光を降らしている。

 それ以外に変わったとすれば、今までの街の戦闘痕が消えている。

 

「これは、――――そうか!」

 

 エミヤが、いち早くこの宝具を理解した。

 街の破壊が消え去ったのではない。

 街そのものが入れ替わっている(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

「マスター、この宝具は――――固有結界だ」

 

 

 

 瞬間、ヘラクレスが爆ぜた。

 

 

 

「――――――!?――――――!!」

 

 

 

 爆ぜたのは表面的なもの。

 ヘラクレスに対して降り注いだ爆炎。

 無論、それで終わりではない。

 

 

 

 降り注ぐは、多種多様な攻撃。

 爆炎、氷塊、雷撃、刀剣。

 大英雄に向かって、上空より放たれた援護射撃。

 

「今です!」

 

 不意に放たれた攻撃は、ヘラクレスに決定的な隙を作る。

 

「やぁっ!」

 

「はあっ!」

 

「はっ!」

 

 三人の斬撃。

 生まれた隙に対して、同時に叩き込まれた攻撃は大英雄の霊核を砕いた。

 

「――――――」

 

 消え去るヘラクレス。

 程なくして、戦闘は終了した。

 となれば、関心を持つ対象は新たなアイドル。

 

 

 

 その人物はゆっくりと降りてきた。

 そう、彼女は飛行している(・・・・・・)

 それを証明するように、背中にあるのは白と黒の堕天使の翼。

 赤い月が戻り、固有結界が解除される。

 元に戻った月が照らすその姿。

 服装は、卯月たちと同じスターリースカイ・ブライト。

 地面に降り立った彼女はその翼を消す。

 真っ直ぐこちらを見据え、大きな声で言い放った。

 

 

 

 

 

「我が名は神崎蘭子!運命にて邂逅した星見の魔術師達よ、闇に飲まれよ!」

 

 

 

 

 

「……………はい?」

 

 

 

 

 

 闇に飲まれよと言われたが、喧嘩を売られたわけでは無いだろう。

 にしては、悪意が感じられないし、こちらに対してすっごい笑顔を向けている。

 

 彼女の名は、神崎蘭子。

 数多のアイドル達の中でも、特に強い個性である「中二病系アイドル」。

 本物の魔術師や英雄との遭遇に、彼女のテンションは絶賛うなぎのぼり中。

 事情を知っているこちらのアイドル達は、「あ~……」という表情をしていた。

 

 

 

 新たに仲間になるであろうアイドルに対し、初邂逅の衝撃が抜け切れないカルデアの面々であった。

 

 

 

 

 

 なお補足だが、蘭子が言った言葉を翻訳すると

「私は神崎蘭子です。初めましてカルデアの皆さん、そしてお疲れ様です」

 という、自己紹介と挨拶である。

 

 

 

 

 

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