A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
新たに登場したアイドル、神崎蘭子。
彼女はサーヴァントとして召喚された際に、自身の記憶に知らないはずの単語があることに気づいた。
聖杯戦争、
異様な知識に対し、初めは戸惑った。
だが、情報を精査していき、次第に歓喜した。
自分がサーヴァントになったこと。
自分が常々考えていた超常足る力を、振るうことが出来る様になったと。
だが、その直後にそんな自分を
ここには、他のアイドル達がいる可能性がある。
シャドウサーヴァントという危険な存在が跋扈するこの空間で、この状況を喜んではいけないと。
みんな怖がっているかもしれない、不安になっているかもしれない。
喜ぶのは後だ。
後でみんなを見つけてからだ。
自分の意思とは別に、高揚する感情を抑えながら神崎蘭子は飛び回った。
探した、とにかく探し回った。
もう遅いのかもしれない、間に合わないのかもしれない。
嫌な想像を前に、最後には泣きそうな顔になった。
幸いにも、飛行している自分に遭遇する敵はなく。
大英雄と戦闘を繰り広げるカルデアと、合流するに至った。
――――――――――
そんな彼女の葛藤と事情があり、合流した際の安心感と、英雄との邂逅による高揚が同時に笑顔となって吹き出たのだ。
これから苦楽を共にするカルデアに対し、気合十分な自己紹介。
「あの…………すみません。なんて言ったのか、解らないんですが……」
マシュの言ったとおり、蘭子の自己紹介は通じなかった。
蘭子からしてみれば、本物の魔術師であれば飛鳥と同様に理解してくれるのかと期待していたが、見事に空振ったようだ。
「なんと!我が言霊を、真なる魔術師であるそなた達が読み解けぬというのか!?」
(私のしゃべり方、本物の魔術師さんたちでもわかんないんですか~……)
「あの~、蘭子ちゃん?私達が通訳するから、ね」
「蘭子の言葉は難しいからね~。私達なら慣れてるけど、初対面の人には少し厳しいかな~」
卯月がフォローし、杏が解説する。
カルデアからすれば、彼女は未知のアヴェンジャーであり、何かあるのでは?と思っていたようだが。
「…………うん……わかった……」
どうもこっちが素のようだ。
彼女達の様子を見る限り、根は優しい人物のようである。
自己紹介も終わり、蘭子がカルデアについて理解している事を確認した上で、やはり話題となるのはクラスについてだ。
『クラスについては、あまり深く考える必要は無いね。ダ・ヴィンチはずいぶん驚いていたようだが』
『うっさいホームズ。あの情報を見れば、誰だって面食らうだろうに』
『確かにアイドルとはかけ離れているクラスだね。しかし、それを言うなら他のアイドルだって同じことさ』
→「卯月達か!?」
『正解。魔術師の適正はアイドルには無い。だが、シンデレラのほうには関連がある。かけたのではなく、かけられた側だったとしても関連は関連だ』
→「発明家も作家も水着の王妃様もいるしね」
『そういうこともあって、クラスに関しては今更な気もするがね。私とて探偵でありながら、もともとはキャスターだったわけだ。まあ、そうでなかったとしても、シンデレラがアヴェンジャーとなるのは至極自然なことだよ』
「原典におけるシンデレラを迫害した義理の姉は、目を潰されたという記述もあります。派生が多い作品なので、あくまでその一つなんですが」
『アサシンもそういう関連かもしれないね。ライダーは馬車に乗る記述からわかりやすい。本来詠唱によってクラスをコントロールできるバーサーカーはともかく、三騎士や他のエクストラクラスにも適応されたアイドルがいるかもしれないから、覚えておくといい』
→「どんなクラスでも驚かない、だね」
驚いたりして思考がそれで止まっては、戦闘時には隙になる。
シンデレラが三騎士として召喚されるとは考えにくいが、事前にそういうことを知っておけば慌てることは無いだろう。
そのように心得ておくことに越したことは無いのだ。
――――――――――
神崎蘭子との仮契約。
それがちょうど終わったところ。
スキルを見る限り、やはり蘭子のアヴェンジャー適性は本人のものではない。
クラススキルである「復讐者」もEランク。
「真のアイドル」も所持しているようだ。
「仮初の契約は、今ここに結ばれた。怯える偶像たちに光をもたらす為、いざ我等が魂の赴くままに!」
(仮契約完了ですね。怖がっているアイドルの仲間を助ける為、一緒に頑張りましょう!)
→「うん、一緒に頑張ろうね」
「…………あれ?マスターさんは、らんらんの言ってること解るの?」
→「なんとなく?」
「なんで、疑問形?」
凛のツッコミはもっともだが、マスター本人もほとんど勘のようなものなので言語化は出来ない。
マスターからの返答を得て、蘭子はプルプル震えていた、歓喜に。
「《瞳》の持ち主たる、我が新たな友よ!我から闇の祝福を捧げようぞ」
(私を理解してくれるんですね、マスターさん!本当にありがとうございます!)
カッコよい表情を作ってはいるが、若干ニヤケが隠しきれていない蘭子。
ちなみに、蘭子との意思疎通ができているのは、仮契約によるパスが繋がっていることも一因だ。
もっとも、様々な意味で難解である英雄達と関わってきたマスターだったからこそ、理解できているのかもしれない。
――――――――――
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「うわぁっ!このゆれは!」
突然だった為、素に戻った蘭子が発した言葉は、この後の敵を理解しているようだった。
カルデアとアイドル達も、この遭遇は三度目。
魔神影柱、合計九体。
ヘラクレスの後の連戦という、最悪のタイミング。
魔力の消耗が回復する前に、現れてしまった。
――――――――――
「闇の力を受けよ!」
(これでも、くらえー!)
「こっちだこっちだ。杏に当てられるなら当ててみろー」
飛行が出来る二人が飛び回り、魔神影柱を撹乱する。
こちらのシャドウサーヴァントはもはやジリ貧。
まともに機能しておらず、烏合の衆と成り果てている。
「ああ!もう!これじゃあ、宝具を撃つ暇なんて無いよ!」
「魔神影柱も、私たちの宝具が危険だって理解しているんだ」
未央の愚痴に対し、的確な予想をした凜。
こちらも、アイドル達は情報を共有している。
魔神影柱もその可能性があるだろう。
思考能力が無かったとしても、持っている情報に対し本能的に行動しているのかもしれない。
これはつまり、これから戦っていく魔神影柱はどんどん自分達の動きを理解していくということ。
「くっ、我の宝具もまた、展開には暫しの時を必要とする」
(私の宝具も、使うのには時間がかかります)
「私も使いたいけど、流石に暇が無いかな」
撹乱している二人と、前衛を務める三人は負担が大きい。
ニュージェネの三人も、隙を見ては攻撃しているが、決定的なダメージにはならない。
やはり、戦闘直後による魔力の枯渇が問題だ。
遅れてきた蘭子や、温存していた杏はまだ余裕があるようだが、使う隙が無い。
「マスター、余力はありますか?出来るなら、私の
→「何とか一発、もたせてみせるよ!」
「頼もしい言葉です。アーチャー!ジャンヌ!活路を開いてください!この戦い、私が決着をつけます!」
「了解した。せいぜい良い路を作るとしよう」
「任せてください。アイドル達の援護もあります、失敗する気はありません」
アイドル達を援護を受けて、勇猛果敢に攻めるエミヤとジャンヌ。
魔力の不足など、英雄である彼らが立ち止まるいい訳にはならない。
エミヤはその技量で、ジャンヌは防御を転じた攻撃で時間を稼ぐ。
「――――――!」
アルトリアに集中する魔力に気づいた魔神影柱。
しかし、それを阻むは英雄とアイドル。
「私、も。えい!やあ!」
「宝具じゃないけ、ど!」
「未央ちゃんの一撃、くらえー!」
放たれる魔力弾は、今出せる彼女達の全力。
直撃によって、魔神影柱の動きが一瞬止まる。
「束ねるは星の息吹――――」
それが決め手となった。
「輝ける
今再び、常勝の王の剣が決着をつけんと振るわれる。
「