A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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第10章 幸運の宝具

 時は再び訪れた。

 

 世界はまた切り替わる。

 

 再び挑むは世界を救った英雄。

 

 そしてこの世界のアイドル達。

 

 立ちはだかるは影の人形。

 

 かつての戦いを繰り返すように。

 

 彼らは、戦う。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 深夜の結界に集合した一同。

 346プロダクションにおいて、彼らはどの特異点のシャドウサーヴァントを連れて行くかを協議してきた。

 無論、今回においては満場一致といって良いだろうが。

 

『ヘラクレスを連れて行かない手は無いね。彼はシャドウサーヴァントの中では間違いなく最強戦力だ』

 

 シャドウサーヴァントにおいて、その強さを決定付けるのは基礎身体能力が多くを占める。

 いかに強力な宝具を持っていようと、シャドウサーヴァントは使用できない。

 技量を世に知らしめる英雄は、それを何の考えも無く振るう状態では弱体化が激しい。

 戦略を得意とする英雄など、理性なき状態では完全に得意分野が殺されてしまう。

 ヘラクレスであれば、身体能力は折り紙つき。

 狂戦士でもなお使用できた技量の喪失は痛いが、致命的ではない。

 戦略はもとよりバーサーカーなので今まで使用してきていない。

 こうなればダ・ヴィンチちゃんの言ったとおり、彼を連れて行かない理由は無い。

 

「はい。敵となれば手ごわいですが、味方ならばシャドウサーヴァントであっても心強いです」

 

 →「うん。たのもしいよね」

 

「今までのシャドウサーヴァントの中では、個々の戦闘能力という点では文句無い。……が、一つだけ気がかりがあるがね」

 

「対神攻撃、ですね……。かの大英雄は、間違いなく強いのですが、それゆえの弱点もあります」

 

「宝具は使用できないとはいえ、第七特異点には通常攻撃がその特性を持つ者がいます」

 

「大英雄とて無敵ではありません。油断せずに行きましょう」

 

 弱点はあるが、それはそれ。

 今まで強い敵を見てきたからこそ、その無敵が絶対のものではないと彼らは理解している。

 探索も四日目。

 今日もまた、アイドル達を探す為に346プロダクションを後にした。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 →「二人とも、大丈夫?」

 

『探してるけど、特別なものは見つかってないよ~』

 

『我が瞳に、曇りも異変も無い』

(異常は見つかってません)

 

 今現在いるサーヴァントの中で、飛行能力を持った蘭子と杏が上空から偵察を行っている。

 加えて、かなりの遠距離にわたって攻撃、援護の出来るエミヤもまたサポートしている。

 これにより、先制攻撃される機会は大幅に減ったと見て良いだろう。

 だが、縦横無尽に飛び回るわけにもいかない。

 アーチャーをはじめとした、対空攻撃を持つシャドウサーヴァントも存在している。

 遭遇する可能性は高くないが、同じく飛行能力を持った敵と遭遇することも考えられる。

 無理をしない程度に、リスクを避けて確実に索敵を行っていく。

 

「蘭子ちゃんたち、すごいですね」

 

「らんらんは納得とも言えるけどね。スキルで堕天使の翼を生やす。って、すっごくらんらんっぽいよ」

 

「杏ちゃんも、やれば出来る子だにぃ!」

 

「私たちも、油断せずに行こう。もしかしたら、隠れて襲い掛かってくるかもしれない」

 

「お~、アサシンの勘ってやつ?」

 

「ただの心構えだよ。それに私自身、何でアサシンなのかも分からないし」

 

「まあ、私もそうだしね。別に乗り物に対して特別な関係もないし」

 

『そこは解釈次第だよ。カルデアにも、暗殺者ではないアサシンや騎兵ではないライダーもいるからね』

 

「えっ?そうなんですか?」

 

 ホームズの発言に対し、意外ですと卯月が声を上げる。

 彼女たちからしてみれば、英雄や英傑の揃っているらしいカルデアの英霊達は、クラスにふさわしいプロフェッショナルたちだと思っていたからだ。

 しかし、クラスとはあくまで英霊の一側面。

 クラス適正も、様々な解釈があるのだ。

 

『前者には、女神ステンノ、処刑人シャルル=アンリ・サンソン、ファラオであるクレオパトラが代表的かな?』

 

「クレオパトラが、アサシン?王様、だよね?」

 

 世界三大美女の一角、日本でも有名であるクレオパトラに反応する凛。

 確かに、女王が暗殺者というのも、理解しがたい。

 

『当時及び後世にて、ローマの将軍を誘惑した、と口々に囁かれたからだね。事実は違うらしいが、結果としてクラスに影響を受けてしまった』

 

「ってことは、アイドルとしてファンを魅了しているからアサシン、なの?」

 

 自分で言ってて恥ずかしいのか、やや言いにくそうな凛。

 アイドルであるため当然の内容であるが故に、もしそうならばアイドル全員が適正を持っているということになる。

 

『もしくは、王子を恋に落としたシンデレラの方かもしれない。諜報、暗殺、潜伏、そして殺傷の技能を持つこと。これがクラスに選ばれる条件なのかもしれないね。解釈次第で、他にも条件があるかもしれないが』

 

「騎兵じゃないライダーには、誰がいるの?」

 

 自身のクラスからか、未央が質問する。

 その疑問の答えとして出てくるのは、彼女も良く知るビッグネーム。

 

『フランスの王妃、マリー・アントワネットだね』

 

「超が付く有名な偉人じゃん!」

 

『無論、王妃である彼女には騎兵としての逸話は無い。彼女の場合、逃亡に使われた馬車が宝具なんだ。騎乗スキルに関しても、神より授かった王権、フランス王家の象徴たる白馬の獣を乗りこなせるからだ』

 

「でも、私は馬どころか車だって運転できないよ?」

 

『以前チラッと話したが、シンデレラの馬車には御者がいるもの、なのだろうね。スキルの詳細でもあったように君の場合は運転してもらう騎乗スキルだ。ライダー適正は、シンデレラのものなのだろう』

 

 マリーとて、逃亡時の馬車は彼女が操縦していたわけではない。

 それが宝具にまで昇華されたのならば、ライダークラスの適正とて自身が操縦することが必須なのではないのだろう。

 探索する中、彼女たちのクラスやカルデアの英霊達のことを話す。

 

 

 

 しかして、その会話は中断を余儀なくされた。

 

『サーヴァント反応確認!数は二、だがこれは……』

 

 →「どうしたの、ダ・ヴィンチちゃん!」

 

 言いよどんだダ・ヴィンチちゃんに詳細を尋ねるマスター。

 その回答は、別のところから答えられる。

 

 

 

『こっちも見つけたよ!シャドウサーヴァントが群がってる(・・・・・)!』

 

『完全に囲まれてます!』

 

 杏の話した内容は、アイドルのピンチを如実に表している。

 蘭子など、普段の口調さえ無くしている。

 それだけで、アイドルに迫った危機が伝わってくる。

 

 →「早く行かないと!」

 

 全員が、全力でその地点へと急ぐ。

 先行していた三人も、すぐさま救助と援護に向かう。

 

 

 

 

 

『魔力増大!これは……、宝具だ!追い詰められた二人のアイドルが、宝具を使用した!』

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 第四特異点、ロンドンのシャドウサーヴァントたち。

 反逆の騎士、モードレッド。

 二重人格者、ヘンリー・ジキル&ハイド。

 天才科学者、ニコラ・テスラ。

 人造人間、フランケンシュタイン。

 蒸気王、チャールズ・バベッジ。

 頼光四天王、坂田金時。

 童話作家、ハンス・クリスチャン・アンデルセン。

 劇場作家、ウィリアム・シェイクスピア。

 狐耳の巫女、玉藻の前。

 錬金術師、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。

 霧の殺人鬼、ジャック・ザ・リッパー。

 不思議の国のアリス、ナーサリー・ライム。

 悪魔、メフィストフェレス。

 嵐の王、アルトリア・ペンドラゴン。

 合計十四体。

 円形に展開している彼らは、囲んでいるアイドルを攻めきれずにいた。

 攻撃を怒涛のごとく仕掛けるが、その防御を未だ崩せていない。

 

 

 

 

 

「働かない、全ての者達に告げる!」

 

 

 

「我々の正義の為に、今ここに宣言する!」

 

 

 

いやだ、私は働かないぞ!(スローライフ・ファンタジー)

 

 

 

 

 

 杏の宝具が展開されると同時に、シャドウサーヴァントたちの動きが制限された。

 宝具、いやだ、私は働かないぞ!(スローライフ・ファンタジー)

 杏が認識した(しごと)に対し、それを一時的に魔力枯渇による行動不能へと追い込む。

 一気に敵の動きを止め、その隙を逃さずシャドウサーヴァントを蹴散らしていく。

 

 杏の宝具による先制攻撃。

 

 今まで撹乱に徹してきた彼女は、ここにきてその真価を発揮した。

 宝具発動の際の隙も、先制攻撃ならば関係ない。

 きれいにはまった作戦は、次々と倒れていくシャドウサーヴァントが証明している。

 

 

 

 

 

 シャドウサーヴァントがいなくなったその先にあるのは。

 

 →「クローバー……畑?」

 

 円形に展開した、クローバーの絨毯。

 その中心にいるのは、二人のアイドルたち。

 祈るように宝具を使用していたアイドルと、手に持つ銃らしき飛び道具で援護していたアイドル。

 

「あの、ありがとう……ございます」

 

「助かりました、皆さん」

 

 キャスター、緒方智絵里。

 アーチャー、三村かな子。

 

 満面の笑みで、救助した皆を迎え入れていた。

 

 

 

 

 


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