A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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第14章 計画と約束

 結界に残されている謎

 

 一つ、召喚されているシャドウサーヴァントと魔神影柱について

 

 二つ、術者は、何が目的でこの結界を展開したのか

 

 三つ、なぜ、アイドル達がサーヴァントとして召喚されているのか

 

 未だ、仮説までしか答えがない

 

 全ての謎が解ける時は

 

 もう、遠くはないだろう

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 しんしんと、雨が降っている。

 昨日に引き続き、どんよりとした曇り空。

 夏休み特有のエネルギッシュなパワーはあるのだが、晴天時よりも人の波は抑えられている。

 昼食を食べ終え、別の喫茶店にて一服するカルデア。

 アイドル達はいない。

 忙しい時期であるため、オフの日は少ないからだ。

 

『もしもし、島村卯月です』

 

『えっと、智絵里です』

 

『我らの繋がり、意思疎通の秘術は機能しているか?』

(もしもし、念話は聞こえてますか?)

 

 あくまで、この場には。という意味だが。

 仕事の都合があるため、今回は念話での会議となった。

 

『もしもーし、聞こえてますか?』

 

『なんか、念話をするって変な感じにゃ』

 

 慣れていないからか、ぎこちない様子の李衣菜とみく。

 休憩中や、楽屋で待機している合間の時間を利用し、全員に繋がることができたようだ。

 

「それでは。ブリーフィングを始めようか。まずは当然、次の探索で出現するだろう敵についてだ。ほぼ間違いなく、第七特異点のシャドウサーヴァントだろう」

 

「はい。今までの聖杯探索(グランドオーダー)の中でも、最も厳しい戦いでした」

 

「神話に語られた女神の同盟。ウルクを守護していた戦士。英霊の頂点の一角」

 

「そして、……七つの人類悪の一つ」

 

 第七特異点は、七つの特異点の中で最大規模の戦いであった。

 魔獣から人々を守る要塞都市となっていたウルク。

 壮絶な戦いの中で、目覚めてしまった人類悪。

 神々と魔獣、人類が種の存亡を賭けた戦争。

 

 だがしかし、先の第六特異点での事がある。

 

 →「円卓の騎士は、ギフトを持っていなかった……」

 

「ああ、特異点の全てをなぞらえているわけではない、ということだ」

 

 ならば、シャドウであることも含めて、難易度はだいぶ下がるかもしれない。

 もとより、以前の敵はシャドウサーヴァント。

 魔獣やティアマトは、いないものと考えられるだろう。

 

『ちょっと待って。私と未央、卯月が一緒にいた、あの戦いの時の兵士たちはどうなるの?』

 

『杏達も同じ疑問があるよ。第三特異点の時のことでさ』

 

『我らと死闘を繰り広げた、海の蛮族共のことよ』

(私達が戦った、海賊たちですね)

 

 確かに。と、そのときのことを思い出す。

 第二特異点では、ローマ兵が。

 第三特異点では、海賊たちが。

 シャドウ化して襲い掛かってきていた。

 彼らもまた、魔神影柱と同じで、シャドウ化するなど本来ありえない。

 シャドウサーヴァントとは、英霊の残留霊基。

 霊基を模した偽物であり、影のようなもの。

 出現経緯や理由は様々だが、サーヴァントに近い存在であることは確かだ。

 

 だとするなら、今まで戦ってきた魔神影柱や兵士、海賊の影たちは一体なにか?

 

「それを言うなら、倒したシャドウサーヴァントが味方になる、というのも謎です」

 

 ジャンヌの言うとおり、シャドウに限らず倒したサーヴァントは消滅し、座に帰還するのが原則だ。

 しかし、この結界ではその原則が崩れている。

 結界の効果が、シャドウサーヴァントの再生なのだとしても、カルデアの味方をする(・・・・・・・・・・)のは明らかにおかしい。

 

 →「倒したシャドウサーヴァントが味方になるのも、ちゃんとした理由があるって事だよね」

 

『結界を出した人が、カルデアの味方をしているということなのでしょうか?』

 

「ウヅキの意見の可能性もありますが、こうも考えられます。結界の術者は、機械的に作業をしている(・・・・・・・・・・・)だけと」

 

『つまり術者はいても、意識がない状態、ってこと?』

 

「リンの言うとおり、その可能性もあるでしょう。意識を持ってなお、ただ役割をこなすだけという考えもありますが」

 

「どちらにせよ、結界がカルデアにも利をなしている以上、結界の術者が悪意を持って我々を排除しようとはしていない、ということは確かだ」

 

 一貫しない結界の内情。

 試練を課したいのか、乗り越えて欲しいのか、苦肉の策として手を貸しているのか。

 終わりが近いにもかかわらず、謎は尽きない。

 

『そもそもさ、なんで私達がサーヴァントになったんだろうね?』

 

『未央チャンの言うとおりにゃ。みく達が、シンデレラとして召喚されているのも、考えてみれば謎なのにゃ』

 

『あれ?私たちはシンデレラと縁があるから、それに対応したからじゃないの?』

 

「いや、だったら、結界でしか召喚されないというのはおかしい。擬似サーヴァントとして召喚されるのだとしたら、現実にも存在しなければ説明がつかない。縁があるのは確かだろうが、そもそも擬似サーヴァントと違い、英霊の分霊は保持していない。第一、君たちシンデレラは聖杯によって召喚されていない(・・・・・・・・・・・・・・)のだから」

 

 李衣菜の言葉を修正するように、前提を提示するエミヤ。

 サーヴァントとして異例である、聖杯によって召喚されていないサーヴァント。

 これを成せる方法は、決して多くない。

 例外は、カルデアの『守護英霊召喚システム・フェイト』などだろう。

 

 結局、正解と思える答えは出ることはなく。

 ホームズが推理を語ることもなく。

 謎を残しつつ、此度のブリーフィングは難航していった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 次のシャドウサーヴァントや、魔神影柱の対策を話し終え、張り詰めた空気が弛緩する。

 それぞれの楽屋や休憩室で、息を吐きストレッチするアイドル達。

 次のことを話し終えた為、立香が思ったのは次の次について。

 

 →「次の特異点が終われば、結界の奥に行けるのかな?」

 

「そうだと思います。が、結界での探索、シャドウサーヴァントと魔神影柱との戦闘で、時間が来てしまうでしょう。奥への探索は、もう一日を要します」

 

『それならさ!明日、来て欲しい場所があるんだ!』

 

 元気な声で提案する未央。

 明日、ということは日中のことなのだろう。

 

『皆で話し合ったんだけど、カルデアの人たちとせっかく仲良くなったから、お別れ会がしたいな、って』

 

「お別れ会、ですか」

 

『そうだよ☆だって、このままお別れして、何にも覚えていられないなんて悲しいじゃん』

 

『だったら、皆で楽しく遊ぼうって。みりあ、カルデアのお兄ちゃんやお姉ちゃんと一緒に遊びたいもん』

 

 →「ありがとう」

 

「では、僭越ながら私が料理を担当しようか」

 

 彼女たちの嬉しい提案に、乗り気となったカルデアの主夫(オカン)

 以前の会にはいなかったアイドル達もいるため、やる気は十分のようだ。

 

『ダメだにぃ。せぇっかく、きらり達がおもてなしぃをするんだもん』

 

『私たちに準備させてください。腕によりをかけて作ります。お菓子作りは、特に期待しててください』

 

「とてもありがたい申し出です。しかし、アイドル業は大丈夫なのですか?」

 

『大丈夫、です。ちゃんと、スケジュールを見て、明日はお休みをいただいているので……』

 

『しかし、我らが共にいられるのは刹那の刻限。太陽の時から、魅惑の時に至るまで』

(全員が一緒にいられる時間は少ないですけど。でも、十二時から三時までなら大丈夫です)

 

『杏の貴重な休みを使うんだもん。ありがたく思ってよ』

 

 エミヤの提案を却下し、自分達が主催したいと話すアイドル達。

 彼女たちの記憶に、カルデアのことは残らない。

 アイドル達も、そのことは分かっている。

 こうして行った会も、忘れられてしまうだろう。

 だが、カルデアにとってはそうではない。

 彼女たちの真心は、彼らの心に残り続ける。

 

 だからこれは、アイドル達の忘れたくないという願い。

 

 頭では覚えていられないかもしれない。

 ならせめて、心では覚えていたい。

 記憶も形も修正されてしまうだろうが、「私たちは確かにここで出会ったんだ」と刻み付けるように。

 

『皆さん、是非来てくださいね。おもてなしも精一杯、頑張ります』

 

『私たちには、このくらいしか出来ないけど。でも、せっかくなら楽しんで欲しいな』

 

『絶対に、来なきゃダメだからね!』

 

 アイドル達のその願い。

 カルデアの答えは、もちろんイエス。

 

 アイドル達とカルデアの間に結ばれた。

 確かな約束。

 

 

 

 

 


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