A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
結界に残されている謎
一つ、召喚されているシャドウサーヴァントと魔神影柱について
二つ、術者は、何が目的でこの結界を展開したのか
三つ、なぜ、アイドル達がサーヴァントとして召喚されているのか
未だ、仮説までしか答えがない
全ての謎が解ける時は
もう、遠くはないだろう
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しんしんと、雨が降っている。
昨日に引き続き、どんよりとした曇り空。
夏休み特有のエネルギッシュなパワーはあるのだが、晴天時よりも人の波は抑えられている。
昼食を食べ終え、別の喫茶店にて一服するカルデア。
アイドル達はいない。
忙しい時期であるため、オフの日は少ないからだ。
『もしもし、島村卯月です』
『えっと、智絵里です』
『我らの繋がり、意思疎通の秘術は機能しているか?』
(もしもし、念話は聞こえてますか?)
あくまで、この場には。という意味だが。
仕事の都合があるため、今回は念話での会議となった。
『もしもーし、聞こえてますか?』
『なんか、念話をするって変な感じにゃ』
慣れていないからか、ぎこちない様子の李衣菜とみく。
休憩中や、楽屋で待機している合間の時間を利用し、全員に繋がることができたようだ。
「それでは。ブリーフィングを始めようか。まずは当然、次の探索で出現するだろう敵についてだ。ほぼ間違いなく、第七特異点のシャドウサーヴァントだろう」
「はい。今までの
「神話に語られた女神の同盟。ウルクを守護していた戦士。英霊の頂点の一角」
「そして、……七つの人類悪の一つ」
第七特異点は、七つの特異点の中で最大規模の戦いであった。
魔獣から人々を守る要塞都市となっていたウルク。
壮絶な戦いの中で、目覚めてしまった人類悪。
神々と魔獣、人類が種の存亡を賭けた戦争。
だがしかし、先の第六特異点での事がある。
→「円卓の騎士は、ギフトを持っていなかった……」
「ああ、特異点の全てをなぞらえているわけではない、ということだ」
ならば、シャドウであることも含めて、難易度はだいぶ下がるかもしれない。
もとより、以前の敵はシャドウサーヴァント。
魔獣やティアマトは、いないものと考えられるだろう。
『ちょっと待って。私と未央、卯月が一緒にいた、あの戦いの時の兵士たちはどうなるの?』
『杏達も同じ疑問があるよ。第三特異点の時のことでさ』
『我らと死闘を繰り広げた、海の蛮族共のことよ』
(私達が戦った、海賊たちですね)
確かに。と、そのときのことを思い出す。
第二特異点では、ローマ兵が。
第三特異点では、海賊たちが。
シャドウ化して襲い掛かってきていた。
彼らもまた、魔神影柱と同じで、シャドウ化するなど本来ありえない。
シャドウサーヴァントとは、英霊の残留霊基。
霊基を模した偽物であり、影のようなもの。
出現経緯や理由は様々だが、サーヴァントに近い存在であることは確かだ。
だとするなら、今まで戦ってきた魔神影柱や兵士、海賊の影たちは一体なにか?
「それを言うなら、倒したシャドウサーヴァントが味方になる、というのも謎です」
ジャンヌの言うとおり、シャドウに限らず倒したサーヴァントは消滅し、座に帰還するのが原則だ。
しかし、この結界ではその原則が崩れている。
結界の効果が、シャドウサーヴァントの再生なのだとしても、
→「倒したシャドウサーヴァントが味方になるのも、ちゃんとした理由があるって事だよね」
『結界を出した人が、カルデアの味方をしているということなのでしょうか?』
「ウヅキの意見の可能性もありますが、こうも考えられます。結界の術者は、
『つまり術者はいても、意識がない状態、ってこと?』
「リンの言うとおり、その可能性もあるでしょう。意識を持ってなお、ただ役割をこなすだけという考えもありますが」
「どちらにせよ、結界がカルデアにも利をなしている以上、結界の術者が悪意を持って我々を排除しようとはしていない、ということは確かだ」
一貫しない結界の内情。
試練を課したいのか、乗り越えて欲しいのか、苦肉の策として手を貸しているのか。
終わりが近いにもかかわらず、謎は尽きない。
『そもそもさ、なんで私達がサーヴァントになったんだろうね?』
『未央チャンの言うとおりにゃ。みく達が、シンデレラとして召喚されているのも、考えてみれば謎なのにゃ』
『あれ?私たちはシンデレラと縁があるから、それに対応したからじゃないの?』
「いや、だったら、結界でしか召喚されないというのはおかしい。擬似サーヴァントとして召喚されるのだとしたら、現実にも存在しなければ説明がつかない。縁があるのは確かだろうが、そもそも擬似サーヴァントと違い、英霊の分霊は保持していない。第一、君たちシンデレラは
李衣菜の言葉を修正するように、前提を提示するエミヤ。
サーヴァントとして異例である、聖杯によって召喚されていないサーヴァント。
これを成せる方法は、決して多くない。
例外は、カルデアの『守護英霊召喚システム・フェイト』などだろう。
結局、正解と思える答えは出ることはなく。
ホームズが推理を語ることもなく。
謎を残しつつ、此度のブリーフィングは難航していった。
――――――――――
次のシャドウサーヴァントや、魔神影柱の対策を話し終え、張り詰めた空気が弛緩する。
それぞれの楽屋や休憩室で、息を吐きストレッチするアイドル達。
次のことを話し終えた為、立香が思ったのは次の次について。
→「次の特異点が終われば、結界の奥に行けるのかな?」
「そうだと思います。が、結界での探索、シャドウサーヴァントと魔神影柱との戦闘で、時間が来てしまうでしょう。奥への探索は、もう一日を要します」
『それならさ!明日、来て欲しい場所があるんだ!』
元気な声で提案する未央。
明日、ということは日中のことなのだろう。
『皆で話し合ったんだけど、カルデアの人たちとせっかく仲良くなったから、お別れ会がしたいな、って』
「お別れ会、ですか」
『そうだよ☆だって、このままお別れして、何にも覚えていられないなんて悲しいじゃん』
『だったら、皆で楽しく遊ぼうって。みりあ、カルデアのお兄ちゃんやお姉ちゃんと一緒に遊びたいもん』
→「ありがとう」
「では、僭越ながら私が料理を担当しようか」
彼女たちの嬉しい提案に、乗り気となったカルデアの
以前の会にはいなかったアイドル達もいるため、やる気は十分のようだ。
『ダメだにぃ。せぇっかく、きらり達がおもてなしぃをするんだもん』
『私たちに準備させてください。腕によりをかけて作ります。お菓子作りは、特に期待しててください』
「とてもありがたい申し出です。しかし、アイドル業は大丈夫なのですか?」
『大丈夫、です。ちゃんと、スケジュールを見て、明日はお休みをいただいているので……』
『しかし、我らが共にいられるのは刹那の刻限。太陽の時から、魅惑の時に至るまで』
(全員が一緒にいられる時間は少ないですけど。でも、十二時から三時までなら大丈夫です)
『杏の貴重な休みを使うんだもん。ありがたく思ってよ』
エミヤの提案を却下し、自分達が主催したいと話すアイドル達。
彼女たちの記憶に、カルデアのことは残らない。
アイドル達も、そのことは分かっている。
こうして行った会も、忘れられてしまうだろう。
だが、カルデアにとってはそうではない。
彼女たちの真心は、彼らの心に残り続ける。
だからこれは、アイドル達の忘れたくないという願い。
頭では覚えていられないかもしれない。
ならせめて、心では覚えていたい。
記憶も形も修正されてしまうだろうが、「私たちは確かにここで出会ったんだ」と刻み付けるように。
『皆さん、是非来てくださいね。おもてなしも精一杯、頑張ります』
『私たちには、このくらいしか出来ないけど。でも、せっかくなら楽しんで欲しいな』
『絶対に、来なきゃダメだからね!』
アイドル達のその願い。
カルデアの答えは、もちろんイエス。
アイドル達とカルデアの間に結ばれた。
確かな約束。