A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
結界の展開から七日目
探索はもう、大詰めを迎えている
七つ目の試練を乗り越えたとき
彼らに待っているのは――――
八つ目の、試練
――――――――――
カルデアとアイドル達が探索を始めて七日目。
結界は、建物などは修復しても地形までは変わらない。
もとより、街並み自体は現実のままなので、日中に調べることができる。
数少ない、結界の外で出来る情報収集であり、昼の外出もこれが目的の一部であった。
ただ、カルデアの中央管制室からの地図データがあるため、重要度は低かったが。
そして、現実とは違い、シャドウサーヴァントや魔神影柱の出現場所があるのだ。
人数が充実した今、斥候による偵察は彼らの定石となっていた。
ただ、この結界も探索を続けた為、出てくる敵が減っている。
倒した敵は再生しないので、シャドウサーヴァントが無限に湧いてくる、ということもないようだ。
探索も効率化が進み、そのため成果も出やすくなる。
『立香君、反応ありだ』
→「アイドルですか?」
『おそらくだけどね』
「おそらく、……ですか?何か、あったんでしょうか……」
『いや、トラブルがあったという意味ではないよ、智絵里嬢。ただ、反応が特殊だっただけさ』
「反応が特殊?」
首をひねる李衣菜。
アイドルサーヴァントについては、だいぶ霊基を調べたはず。
にもかかわらず、その上で
今までのアイドルサーヴァントは、十分特殊な部類に入る。
復讐の素養がないアヴェンジャーに、巨大ロボを宝具とするバーサーカーや、未来の姿に変身するアーチャー。
しかし、あえて特殊と言う言葉を選んだのは、今までのアイドルとは違う形の特殊なのだろう。
『ああ、アイドルどころかサーヴァント全体としても異例だよ。何せ、「神性」の反応があったんだから』
「しんせい?ってなに?」
莉嘉が疑問符を出すが、当然のことだろう。
現代日本では、一般的な用語とは言えない。
「えーと、つまり、神様の性質、と言うことでしょうか」
その言い回しは、ほとんど正しい。かな子の言った通り「神性」は、神霊の適正。
文字通り、神様の属性を持つか否かである。
英霊がこの属性を持つことは珍しくない。
が、それは神代に近い時代の英霊に限られる。
サーヴァントが獲得する場合、神と血縁があるか、神霊の擬似召喚などにほぼ限られる。
時代が進むにつれ、神秘は薄れ、神からの干渉はなくなっていった。
近代に近いサーヴァントが、「神性」を獲得する機会などほぼない。
『確かに、アイドルがこれを獲得するなんて、かなりのレアケースだ。だが例外の実例は、カルデアにもいる』
『それを説明する前に、アイドルを迎えに行こうか。幸い、戦闘には至っていないようだし』
気になる内容だが、まずは合流優先。
アイドル達の安全確保のため、反応のある地点へと移動することにした。
――――――――――
「はじめまして、カルデアの皆さん。私たちの仲間が、大変お世話になりました」
→「いえいえ、これはご丁寧に」
「こちらこそ皆さんには、たくさん助けられてきました」
「改めまして、新田美波です。今回は、セイバーとして召喚されました」
丁寧に挨拶をしてきたアイドルから、神々しい気配を感じる。
立香にとって、カルデアで慣れ親しんだ「神性」による感覚だ。
スターリースカイ・ブライトを身に纏い、美しい剣を持つその姿は、まさに女神と呼ぶにふさわしい。
「ドーブルイ ヴィエーチル。こんばんは、私の名前は…アナスタシアです。気軽に、アーニャ、と呼んでください」
そして、もう一人のアイドル、アナスタシア。
綺麗な銀髪と、妖精のような容姿を持つ少女。
クラスはアサシン。
凛と同じく、暗殺の技能は保持してないと見ていいだろう。
自己紹介も終え、無事合流できたことを実感する。
戦闘中や、助けに入る形での合流じゃない為、余裕をもって互いに確認ができる。
「でも以外だったにゃ。美波チャンは、てっきりランサーだと思ったから」
「ラクロスが得意だからね。私もそうじゃないかと思ってたんだけど」
「なんでぇ、ランサーで召喚されなかったのかな?」
みくと李衣菜の言葉通り、事実彼女はランサーのクラス適性もある。
しかし、此度はセイバーとして当てはまった。
召喚されるクラスによって、英霊はスキルや宝具、性格すら変わることがある。
サーヴァントは英霊にある複数ある側面の一つで、その一つが強調されるということだ。
が、きらりの疑問はもっともであり、彼女たちアイドルサーヴァントは状況が違う。
英霊と違い、座からの分霊を使っていない生霊による召喚だからだ。
それを、ダ・ヴィンチちゃんが解説する。
『いや、彼女たちアイドルは、また違う理由だよ。英霊にとって、サーヴァントという器は小さすぎる。ゆえに縮小し、そのため異なる側面ができるんだ。彼女たちの場合はその
→「と、いうことは」
「つまり、アイドル達の個性、その一部が
このケースは前例があり、きらりも同じパターンである。
バーサーカーとして召喚された為、普段の暴走が強調されることがあるらしい。
程度は違えども、理屈は同じと言うことである。
無論、他のアイドルや英霊のように、元々あるいは生前の性格とほぼ同じような状態で召喚されるのが基本である。
キャスターとランサーのクー・フーリンがそうであるように。
「えっと、私の場合、このスキルが原因だと思います」
その言葉を受け、ステータスを確認するマスター。
確認できたのは、「神性」を伴う「女神の神核」。
そして、スキル「アイドルのリーダーEX」。
「ミナミは、私たちの、リーダー、ですね」
にっこりと、彼女がリーダーであることが嬉しいという表情を見せるアーニャ。
確かに、美波はユニットのリーダーを務めることが多い。
「蒼の楽団」や「アインフェリア」などがそれにあたる。
「このスキルの影響なのか、普段の私より、皆の為にしっかりしなきゃ、っていう気持ちが強いんです」
『つまり、アイドルたちのリーダーとしての側面が強調されている。ということだね』
源頼光というサーヴァントがいる。
彼女はバーサーカーの場合、母性が強調される形で召喚でされる。
セイバーの場合、都を守護する風紀委員長のようなリーダーとなるらしい。
そしてランサーの場合、影から風紀を正す委員長、スケバンのような性格となる。
美波もそれと似たケースであり、セイバーの場合はリーダーシップを発揮するということなのだろう。
『そして、さっきの話の続きをしよう。美波嬢の持つ「女神の神核」について。だが、これは予想がつく。サーヴァントの宝具やスキルは逸話によって形作られる。ならば、ファンに
神霊との血縁を持たないが、「神性」スキルを持つサーヴァントは少数ながらいる。
「神の懲罰」「神の鞭」という二つ名を持つアルテラ。
似たような性質だが、現代の生まれでありながら「女神の神核」を持つアイリスフィール。
また、カルデアにいないサーヴァントだが、豊臣秀吉も保持する場合がある。
美波もまた、その少数の一人ということだ。
閑話休題。
「あの、皆さん。出来れば、輪になって集まって欲しいです」
アーニャが言い出したのは、円陣の要求。
知識はあれども、美波とアーニャにはサーヴァントとしての実感がほぼない。
カルデアに対して好意的なのは、記録によって伝わった知識。
そしてアイドル達が信頼しているという点が大きい。
だからか、円陣を組んで気合を入れたいのだろうと考える。
→「いいよ、皆で気合を入れなおそう」
「スパシーバ、ありがとう、です♪」
マスターが快諾し、アーニャの顔に笑みが浮かぶ。
サーヴァント全員にも異論は無い。
団結力が重要であることは、十分すぎるほど分かっている。
一同は輪を描き、その中心にアーニャが手を置く。
それに続き、アイドル達が、英霊が、マシュが、立香が続いていく。
「円陣かけるなら、やっぱり美波チャンだと思うにゃ」
「異議なし。なんたって、『アイドルのリーダー』だもんね」
「もう、みくちゃん、李衣菜ちゃん」
少し困ったような表情をするが、しかし頼られているのが嬉しいといった様子の美波。
ほとんどのメンバーが同意見であるようで、決まったような雰囲気だ。
しかしその中で、ただ唯一の反対派が『待った』をかける。
「ニェット、いいえ。できれば、アーニャにやらせて、欲しいです」
「アーニャちゃん?私はかまわないけど……」
真剣な様子のアーニャ。
遅ればせながら、全員がアーニャの真意を理解した。
この円陣の目的には、精神的なおまじないだけではない
「皆で、力を合わせて――――」
重なった手から、伝わってくる。
「皆で、手を繋いで――――」
確かな繋がり。マスターとのパスと似ている、独特の感覚。
「そして、皆で、乗り越えましょう!」
この瞬間、彼らの
まるで、ここにいる全員とパスが繋がったかのような状態になっている。
『これは、本来マスターとサーヴァントの間でしか発生しない魔力のパスが、全員と繋がっている。アーニャ、君の仕業だね』
「ダー。私の、スキルによるものです♪」
そう言った、アーニャのステータスを確認する。
これほどの効果、間違いなく高ランクのスキルによる力。
それが、「繋いだ手の輪EX」。
他者と、魔力の共有を行うことができるスキル。
個人としてではなく、集団として魔力を運用するという前代未聞な効果。
魔力の貸し借りではなく、完全に繋がることによって、全員の魔力貯蔵量が許す限り、無制限に使用することができる。
「とんでもないスキルだな。他者と魔力を共有するということは、運命共同体になるといっていい」
「しかし、非常に有用なスキルです。誰か一人が、魔力不足に悩まされることが無くなる。場合によっては、魔力を一点集中して使う事ができます」
「懸念があるとすれば、魔力の使用ペースが乱れる危険性がある、ということですが……」
ジャンヌの危惧していること。
個人の魔力不足を考慮しなくていい、ということは、魔力を使いすぎる危険性があるということだ。
一人だけなら、ペース配分を間違えた被害は一人だけで済む。
しかし、このスキルの場合は、全員にしわ寄せが及ぶ。
ただでさえ、戦いになれていないアイドル達。
一人もペース配分を間違えないなど、彼女たちにはかなり難しい。
「大丈夫、です。その心配は、ありません」
言い切ったアーニャ。
そんな彼女の様子から、今一度、繋がったパスを確認する。
「…………なるほど」
エミヤが、そう零す。
確かに、全員とパスによる繋がりがある。
しかし、その間に
任意で開けることができる、鍵の無い扉のようなもの。
開けなければ、自身の魔力のみが消費される。
これならば、自分の魔力が減った時だけ、他者の魔力を共有できる指標となる。
「それに、アーニャたちには、頼もしいマスターがいます」
→「了解、指示は任せて!」
さらに、幾多の戦いを乗り越えたマスターがいる。
サーヴァントへの指示を、幾度と無く経験した立香。
彼ならば、共有した魔力を持つサーヴァントへ、的確な指示が出せる。
アーニャは立香のことを、そう判断した。アイドルの仲間が、カルデアを味方と判断した。
ならば、それを信頼すると。仲間とカルデアが繋いだ絆を信じると。
アイドルたちは、強い友情で結ばれているのだから。
――――――――――
そして彼らは遭遇する。
ここまでの激戦を潜り抜け、ついに来た第七特異点の影。
金星の女神、イシュタル。
天の鎖、エルキドゥ。
怪物と化した女神、ゴルゴーン。
ゴルゴン三姉妹の三女、ランサー・メドゥーサ。
生命と豊穣の女神、ケツァル・コアトル。
「戦い」と「死」の象徴、ジャガーマン。
冥界の女主人、エレシュキガル。
スパルタの王、レオニダス一世。
長刀を持つ僧兵、武蔵坊弁慶。
若き日の源義経、牛若丸。
総勢――、十体。
賢王あるいは英雄王ギルガメッシュ。
初代山の翁、キングハサン。
花の魔術師、マーリンは不在という、明らかにおかしい人選。
しかし、シャドウサーヴァントは待ってくれない。
七回目となる、シャドウサーヴァント達との集団戦が開始された。