A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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最終章 スターライトステージ

 時刻は午前六時を過ぎた。

 にもかかわらず、結界は展開されたままである。

 明らかに、いつもとは異なるイレギュラー。

 最奥への道のりに、シャドウサーヴァントはついてくる事が出来ない。

 

 ――――、玉座へのルートは開かれた。

 

『結界が閉じないのは道が開かれたから、言うなれば「鍵」が開けられたからだ』

 

 ホームズの解説に、返答する余裕は無い。

 不安は伝染し、アイドル達にも緊張が走る。

 

 ――――、一同は進む。奥にいる存在を確かめる為に。

 

『固有結界が、完成に近づいている。今までの結界は、不完全なままだった。カルデアが最奥に辿り着くこと。それが、完成の条件の一つ』

 

 今までは、時間制限付でしか展開できなかった(・・・・・・)

 しかし、ついに完成が迫っている。

 そうなれば、固有結界の展開時間に際限など無い。

 

 ――――、結界の謎、それが徐々に紐解かれていく。

 

『シャドウサーヴァントは、終局特異点に来てくれた者達。それは(みな)気づいただろう』

 

 この結界は、終局特異点をなぞっている。

 思えば、ヒントは今までにもあったのだ。

 各特異点のサーヴァントと、終局特異点に来たサーヴァントの違い。

 結界に現れた、シャドウサーヴァント。

 第一特異点では、キャスターのジル・ド・レェとジャンヌ・オルタ、アタランテがいなかった。

 第二特異点では、タマモキャットとレオニダスがいなかった。

 第三特異点では、リリィではないメディアが召喚されていた。

 第四特異点では、坂田金時がライダーになっていた。

 第五特異点では、シータ、ネロ・クラウディウス、ニコラ・テスラがいなかった。

 第六特異点では、アグラヴェイン、モードレッド、山の翁、ホームズがいなかった。

 第七特異点では、ギルガメッシュ、マーリン、そしてこちらにも山の翁はいなかった。

 そして、終局特異点に来てくれたのは、英霊だけではない。

 

 ――――、心臓が早鐘を打つ。

 

『海賊とローマ兵も、駆けつけてくれた陣営に含まれている。魔神影柱を含め、終局特異点を忠実に再現している』

 

 シャドウサーヴァントは倒すと味方になり、行動を共にしてくれた。

 他のシャドウサーヴァントや、魔神影柱と戦う助けになってくれた。

 

 ――――、呼吸が定まらない。意識しなければ、規則的に行うことすら出来なくなっている。

 

『あの時の終局特異点には、カルデアも含まれている(・・・・・・・・・・・)。直接接触する形でいたのだろう?ならば、再現の一つにカルデアの役割そのものが含まれていた』

 

 つまるところ、346プロダクションは再現されたカルデアそのもの(・・・・・・・・)

 戦ったサーヴァントを仲間にし、共闘する在り方を象った。

 

『終局特異点の全容は、魔術王ソロモンの固有結界。そして、この空間もまた、固有結界だ』

 

 ――――、一瞬、ドクンと一つ強い鼓動を発した。

 

 だが、魔術王ソロモンは召喚されない。

 英霊の座から消滅し、サーヴァントとして現れることは無い。

 術者として、存在するはずが無い。

 

『だが、この固有結界の術者はソロモンではない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ――――、ああそうだ。だってそれだけはありえない。

 

 ならば、終局特異点を再現できるものは誰か。

 既に、その力を司るものはいない。

 

 そもそも――――――

 

『もとより、完全に再現などされていない。この結界にいる存在の悉くがシャドウ化している』

 

 ここは特異点でありながら、正規のサーヴァントが一人として召喚されていない。

 現実はおろか、結界の中ですら。

 術者の目的は、一体何なのか。

 

 ――――、彼らが知る、優しい魔術王は、もういない。

 

術者に目的など存在しない(・・・・・・・・・・・・)。意識が無いから、再現をするしか機能が無いが故に』

 

 召喚されていたのはシャドウサーヴァント。

 そして魔神影柱に影となった兵士、海賊の亡霊。

 不完全にしか再現できず、かつての戦いを再現するだけの機構。

 だが、その中で一つの例外(・・)

 

 最も異例なサーヴァント召喚、――――アイドルサーヴァントたち。

 

 

 

『探偵としては真に遺憾だ。決定的証拠……、真犯人を現行犯で見つけることでしか推理を明かせなかったのだから……』

 

 

 

 無論、状況証拠で正解には辿り着けてはいた。

 だが、その推理を開示した際の、完璧な根拠を示せなかった。

 無理も無い。何せ、最奥にしか証拠が無かったのだ。

 

 

 

 

 

『さあ、着いた。この固有結界の術者と、アイドルが召喚された原因がいる場所だ』

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 玉座の間。

 

 星が輝く空。

 

 魔術王の玉座とは、また違う意匠。

 

 

 

 

 

 そこに佇む、存在は――――――。

 

 

 

 

 

 →「ソロ……モン……」

 

 

 

 

 

 魔術王ソロモンのシャドウサーヴァント(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 と――――――

 

 

 

 

 

「プロ……デューサー……さん……?」

 

 

 

 

 

 宙に浮く、大量の玉座(・・・・・)

 

 そこに力なく座っている、346プロダクションの全プロデューサー(・・・・・・・・)

 

 彼らこそが、この固有結界の基点。

 

 アイドルを召喚した原因であり、結界の術者。

 

 

 

 

 

 ありえない、ありえない、ありえない。

 

 今までのシャドウサーヴァントとは訳が違う。

 

 一般人であるプロデューサーが、どうして終局特異点の術者になりうる?

 

 召喚できないはずのソロモンが、なぜシャドウサーヴァントとなっている?

 

 

 

『ここは、固有結界・時間神殿ソロモン、その欠片(・・・・)。――――あの戦いで砕け散った、特異点の残り物。ここに現れたすべての影は、固有結界に刻まれた足跡』

 

 

 

 あの戦いで現れた全ての存在は、その戦いぶりを刻み付けた。

 刻み付けられて出来た()に、魔力が満たされたことによる影法師。

 

 ここで召喚されたシャドウサーヴァントは、英霊の座から召喚されていない。

 

 

 

 故に。

 

 

 

あの(・・)魔術王も、英霊の座から召喚されていない。この場でしか存在できない、戦いの痕跡』

 

 

 

 

 

 ――――――シャドウでありながら、グランド(・・・・)サーヴァント。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「そんな……。なぜ、プロデューサーさんなんですか……?」

 

 かすれるような声。震えている声色。

 卯月達も、今まで戦いには参加してきた。

 どんなに困難でも、カルデアやアイドルの皆と一緒なら、立ち向かえると思っていた。

 

 だが、これは無いだろう。

 

 信頼する、プロデューサーと対峙するなど、彼女たちの想像の埒外だ。

 だから、問う。なぜ、と。

 

『偶然、なのだろう。こればっかりは……。偶然、君たちのプロデューサーに時空神殿の欠片が宿ってしまった』

 

 伝えられたのは、残酷な真実。理由など無い、ただの偶然。

 本来なら、砕け散った固有結界の欠片はただ霧散して消滅するはずだった。

 奇跡のような偶然で、一人のプロデューサーに欠片が宿ってしまったが為の連鎖。

 

『346プロダクションのアイドルプロデューサーが、全員術者となっている。彼らの信念、シンデレラをプロデュースするという在り方が、結界に干渉した。そして、シンデレラをプロデュースするのは一人だけではない。同じ場所、同じ志を持ち、同じ景色を見ているからこそ、伝播してしまった』

 

 プロデューサーが固有結界の術者となる。

 それにより、固有結界はシンデレラの舞台という特性を得た。

 一人では、城は建てられない。プロデューサー全員で、この結界(しろ)を作り上げた。

 

 城が建てられたのならば、ここにはシンデレラがいなければならない(・・・・・・・・・)

 

 シンデレラ達は座からの分霊を得ず、聖杯によって召喚されていない。

 彼女たちを召喚したのは、彼女たちのプロデューサーなのだ。

 

「………………。」

 

 プロデューサー達に意識は無い。

 もたれかかるように、身体をぐったりと玉座に預けるように座っている。

 彼らが、戦闘に関わってくることは無いだろう。

 

 分かっている。

 

 倒すべきは、魔術王のシャドウサーヴァント。

 だがしかし、基となった規模が異なる。

 あのときの戦いの再現であるならば、その力は冠位(グランド)のもの。

 いかにシャドウ化で弱体化していようと、それ以前の霊基が桁違いなのだから。

 

 →「……来るよ!」

 

 戦いが始まろうとしていた。

 心構えができないまま。

 

 その時、ソロモンのシャドウサーヴァントが動きを止めた。

 

 

 

 

 

「なに悄気た顔してんのよ。アイドルがそんな顔してちゃ、ダメじゃない★」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 そこにいたのは、一人の少女。

 

 身に纏う衣装は、スターリースカイ・ブライト。

 

「お姉ちゃん!?」

 

 声を上げる莉嘉。

 ここに来て、全く予想外の登場。

 

 アイドルサーヴァント、城ヶ崎美嘉。

 

 

 

 否。

 

 

 

 ここに来たのは、城ヶ崎美嘉だけではない。

 

「ふふっ。皆口をあんぐりしちゃって。……キス、して欲しいのかしら?」

 

「やっほー。初対面の人もいるし、よろしゅーこ」

 

「にゃはは!面白そうな人たちだね!」

 

「フンフンフーン♪フレちゃん参上!」

 

 速水奏、塩見周子、一ノ瀬志希、宮本フレデリカ。

 いや、この場に駆けつけてくれた人物は、まだまだいる。

 

 

 

 その全貌を見て唖然とした。

 

 346プロダクション所属のすべてのアイドル達(・・・・・・・・・)

 

 

 

「アタシ達も手伝うよ。プロデューサー達、全員まとめて取り返そう!」

 

 

 

 心が弱っていた彼らにとって、最も心強い援軍。

 

 震えていた身体が、落ち着きを取り戻していた。

 

 

 

 

 


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