A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
目を覚ます。
だるい頭を振り切るように、枕から頭を上げる。
自身の部屋で眠い目をこする、とあるプロデューサー。
目覚まし時計を見ると、時刻は出勤時間をとうに過ぎていた。
「………………。っ!?」
慌てて飛び起き、超特急で身支度をする。
既に遅刻は確定している。
社用のケータイを取り出し、すぐさま会社へと連絡する。
『おはようございます、プロデューサーさん。どうかなさいましたか?』
電話に対応したのは、アシスタントを勤める事務員、千川ちひろ。
言葉遣いは丁寧だが、その声色には覚えがある。
間違いなく、彼女は怒っている。
すぐさま寝坊したこと、遅刻する旨を伝える。
『…………はぁ~……』
すると、ちひろの口から発せられたのは、ため息。
あれ?と、疑問に思うプロデューサー。
てっきり、先日のような説教がとんでくると身構えていたが、肩透かしを食らってしまった。
『先に業務連絡だけ済ませちゃいますね。……プロデューサーさんは今日、休暇となっています』
何を言っているのか理解するのに、少し時間を費やした。
休暇も何も、今は忙しい時期のはずだ。
自分は休暇など取った覚えはなく、今日やる予定だった仕事も覚えている。
『美城常務からの通達です。「本日、
メチャクチャな命令だ。
自分だけならともかく、全プロデューサーを休ませるなど前代未聞である。
これには、何か裏がある。
そう思考するのも当然だ。
ドッキリか、冗談か、まさか解雇か?
『本当、何がどうなっているんだか……。まさか
はい?と、思わず口に出す。
プロデューサー全員が寝坊した?
偶然にしては出来すぎだが、どうやら事実らしい。
『……まさか、心当たりが無いと思っていますか?』
これは、まずい。
嵐の前の静けさ。
説教の前兆だ。
『私、休んでくださいって言いましたよね?日ごろの無茶が祟ったから寝坊する羽目になったと理解しているんですか?身体を壊していたかもしれないんですよ』
矢継ぎ早に襲い掛かる、ちひろの苦言。
約十分間、ありがたいお説教は続いた。
『分かったのなら、本日はお休みください。フォローなら、ちゃんとこちらで出来ますから』
そう言った後、軽くやり取りをして電話は切られた。
全てのプロデューサーを休ませた上で、そのケアも行える346プロダクションの組織力を今一度実感する。
決定を下した美城常務が、何を思ってそう判断したのかは分からない。
過労やブラックなどのイメージは、346プロダクションにふさわしくないと考えたのかもしれないが、それは自身にはあずかり知らぬことだ。
「………………。」
降って湧いて出た休日。
何をするか考え……る前に、部屋の掃除をしようと決める。
最近、自宅では寝ている事以外の印象がない。
埃も溜まっていることだし、窓を開けて空気を入れ替えることにする。
セミの鳴き声がする。
太陽が眩しく、思わず手を天にかざす。
今日の天気は、雲ひとつ無い晴天。
昨日までの雨は止み、晴れ渡った空が広がっていた。
――――――――――
朝になり、目が覚めた。
寝坊をしたと思い時計を見るが、今が夏休みであること。
そして、午前中はアイドルのお仕事も休みだったと、慌てるのを止めた。
寝起きによって上手く働かない頭で考える。
なんで、今日の午前中は休みだったのか?
夢を、見ていた気がする。
その夢を、思い出そうとして――――。
「あっ――――」
目から、一筋の涙がこぼれていた。
――――――――――
カルデアに帰還して、数日後。
マイルームのデバイスで、特異点にあった記録を閲覧する立香。
目を離さず、その映像に集中している。
そんな彼の後ろから、近づいてくる一人と一匹。
「先輩」
→「おっと、……マシュ?」
「フォウ!」
「フォウさんもいます。……先輩、今日も卯月さんたちの記録を見ていたんですか?」
記録と言ってはいるが、其の実、ただのライブ映像だ。
特異点にあった映像媒体を、カルデアにコピーしたものである。
著作権とかいろいろ問題ありそうだが、そこは時代が違う為、大目に見てもらいたいところだ。
→「ドクターみたい、だったかな?」
「少しだけですけど、そう考えちゃいました。でも、私も同じかもしれません」
カルデアに帰還した一同は、あの特異点から大なり小なり影響を受けた。
アルトリアとジャンヌは、歌やダンスの練習をする様子が度々確認できるようになった。
アイドルとしてステージに立った、あの楽しさが忘れられないのか。
はたまた、いつかあの時のリベンジをしたいと考えているのか。
もしかしたら、両方なのかもしれない。
なお、そんな彼女たちを鑑賞する円卓と二人のジル。
大抵は、感動やら何やらで騒がしくなったところで気づかれ、制裁が与えられるまでがセットである。
→「皆、いつもと様子が違ったしね」
「そうですね。ただ、エミヤさんはあまり変わったように見えませんでしたが」
エミヤは一番変化が少ない。
アイドルが記録された媒体も、あまり鑑賞していないらしい。
ただ最近、彼はお菓子を作る機会が増えた。
そのどれもが美味しく、細やかなつくりをしている。
クローバーやカブトムシを模したものがカワイイと、カルデアの年少組に人気があるようだ。
→「マシュは、やっぱり?」
「はい。私も、あの時のことが忘れられないみたいです」
マシュもまた、アルトリアやジャンヌと同じだ。
歌を歌い、ダンスを学ぶ。
それは、とても楽しい。
楽しいのだが、――――やはり、あのステージとは違った。
観客やステージに立つ仲間たちとの一体感。
沸きあがる歓声と、湧き上がる充実感。
あの強烈な感動は、やはり浮かんでこなかった。
→「マシュは一週間、楽しかった?」
先日の特異点へのレイシフト。
本来は、休暇の為の一週間。
現代日本の豊富な娯楽を楽しもうとした、短い夏休み。
まるで休めていなかったが、それでも答えはきっと同じ。
「とっても楽しかったです!すごく貴重で、何にも代え難い体験ができました!」
それは、黄金の時間。
シンデレラたちと繰り広げた大冒険。
忘れることの無い、アイドルたちの笑顔。
『立香君、マシュ。すぐにこっちに来てくれないか?』
――――――――――
「ああ、二人とも来たね」
待っていたのは、ダ・ヴィンチちゃんとホームズ。
「――――さて、ここに来て理解したかもしれないが、まずは説明させてくれ」
「あの特異点で、彼女達は特異な霊基をもって召喚された。結界以外では現界できない、例外的な事例として」
「サーヴァントは消滅する場合、その記録と共に英霊の座へと戻る」
「だが、彼女達はどうか?シンデレラでありながら、その分霊を所持していなかった彼女達は?」
「本来なら、消滅していただろう」
「しかし、ここで
そうなのだろう。
そうに決まっている。
だって、すぐそこに答えとなる、少女がいる!
「彼女たちにとって、英霊の座とは本人の肉体。すべてが終わった後、彼女たちそのものが
たった一人分の容量しかない、英霊の座。
だがそれが、一度に
「あとは簡単だろう?『座』があるのならば、そこからサーヴァントを引き出せばいい」
「そしてつい先程、一足早く召喚されたようだ」
無茶苦茶で、荒唐無稽な奇跡。
叶ったのではなく、叶えたと言うべき力技。
だがどんな形であろうと、彼女たちの願いは確かに届いたのだ。
今はただ、この奇跡を歓迎しよう。
彼女たち、シンデレラガールズとの再会を。
→「ようこそ、カルデアへ!」
「はい!これからよろしくお願いします、マスターさん!」
――――――――――
カルデアの食堂では、様々な料理が並んでいた。
お菓子も多く、立食形式で並べられている。
これを作ったのはカルデアにいた英霊ではない。
作ったのは、新たに召喚されたサーヴァント。
シンデレラの名を冠する、――――アイドルたち。
「えー、それでは。できなかったお別れ会の振り替えと」
「一週間お疲れ様会、そして――――」
「特異点修復と」
「再会を祝して」
→「乾杯!」
『カンパーイ!』
――――――――――
アイドルたちは、全て覚えていた。
昼のこと、夜のこと、――――――そしてカルデアのこと。
アイドルたちは、忘れないだろう。
彼女たちだけが知る
この夏の
世界を救った英雄たちとの
――――大冒険の、記憶。
A.D.2012 深夜結界舞台シンデレラ
舞台終幕
特異点クリア報酬
アイドルスカウトチケット ×5 獲得
魔術礼装「深夜の呪術衣装」 獲得
霊衣開放権
マシュ・キリエライト
アルトリア・ペンドラゴン〔セイバー〕
ジャンヌ・ダルク〔ルーラー〕
エミヤ〔アーチャー〕
上記4名「深夜の舞台衣装」 獲得