A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
此度の特異点にて遭遇したはぐれサーヴァント、
サーヴァント、英霊というのは召喚される際に現代や歴史的な基礎知識、そして最も重要な魔術や聖杯戦争の知識が与えられる。
これは召喚対象が全く魔術と関わりが無かったとしても例外ではない。
故に、本来サーヴァントの基礎知識のない召喚などありえないのだ。
「えっと、英霊とか聖杯戦争という言葉に聞き覚えはありませんか?」
「――――ごめんなさい、私には分からないです」
やはりというべきか、マシュの質問に対しても申し訳なさそうに答える。
となると、先ほどの宝具についても考えが変わる。
宝具の性質で戻せないのではなく、初めて使った宝具である為に戻し方を知らないのだと。
しかし、彼女の状態は以前のジャンヌが陥った初期状態となった時よりも深刻だ。
そうなると、順序良く一つずつ説明と質問をする必要があるだろう。
――――――――――
カルデアの面々は、彼女に対して
彼らが世界を救った人物であるとの説明があった時など、疑うことを知らないような目で素直に「すごい人達だったんですね」と感想を述べていた。
その中で、やはり彼女が一番反応を示したのは――――サーヴァントに対する基礎知識。
アーサー王やジャンヌ・ダルクと名乗っていた彼女たちが、まさかの本人だということに興奮を隠せない様子だった。
そして、そのあとに自分自身がサーヴァントになっていることについて、信じられないという驚きの声を上げる。
「うーん、サーヴァントさんは皆さん生前に生きていた人たち、なんですよね」
「ああ、私のような未来の英霊というケースもあるが、そんな私でも生前の記憶を多少なりとも持ち合わせている。私自身が死んだという意識が確かにあるんだ」
『召喚にはさまざまなケースがある。話を聴く限り、君には自身の生前があるという意識がない。似たような人物として、諸葛孔明がいるね』
『生前の人間を依り代に、英霊を降霊させる依り代召喚、もしくはそれに近いものだろう。詳しく調べるなら、一つ方法がある』
→「つまり…………」
『ご想像の通り。彼女と仮契約すればいい。そうすればさらに、彼女のステータスについての情報も分かるだろう。無論、選ぶかどうかは君たち次第だ』
マスターは、サーヴァントのステータスをマテリアルとして確認できる。
これは聖杯戦争においての基本手段だが、当然多くの情報を閲覧できるのは基本的に自身のサーヴァントについてである。
他のサーヴァントについては、表面上のデータしか解らない。
情報もまた、聖杯戦争において重要な手札であるため当たり前のことだ。
「分かりました。私も正直、何が起こっているのか理解できてません。でも、助けて下さった皆さんの力になれるなら構いません」
やはり、彼女は即答した。
基本的な聖杯戦争に関する知識はおろか、彼女はつい先ほどまで忙しない日常を過ごしていただけの
混乱も、動揺もしているだろう。
しかし、彼女は迷わず答えを出した。
今の彼女はサーヴァント。
他人の為にがんばれるその強さはとても得がたく、貴いものだ。
――――――――――
カルデアの職員たちが卯月の霊基を調べている間、現場の面々は彼女の置かれている状況について確認する。
「私、寝支度をしてベッドに入っていたはずなんです。ちゃんと寝ていたんですが、気がついたら衣装姿でこの建物の私たちの所属する部屋にいたんです。それから、何が起こったのかもわからず、外を見て回っていたら、黒い影みたいな人たちに襲われて…………そこに、皆さんが助けに入ってきてくれたんです」
「なるほど。貴女はそれまで、魔術とは一切無関係に過ごしていた。そして、今夜十二時に結界に入ってしまった」
「はい。アルトリアさんの仰ったとおりです」
「となると、彼女はあまり情報を持っていないでしょうね。つらかったと思います。わけもわからないままに、この
「ありがとうございます!」
満面の笑顔。
女神たちとは違う、引き込まれるような笑顔に彼女がアイドルであると強く再確認する。
『歓談中失礼しまーす。霊基の調査、終了したよ』
そんな中、ダ・ヴィンチちゃんからの通信が入る。
カルデアでの調査結果を、真剣な面持ちで待つ一同。
『結論から言うと彼女、
→「聖杯によって召喚されていない?」
『そう、卯月嬢の召喚に聖杯は関与していない。順を追って説明していこう。本来、サーヴァントを構成する要素は三つ。英霊の座からの分霊、サーヴァントのクラス適正、そして人々の信仰心だ』
ホームズの語る内容は、サーヴァントに関する基礎中の基礎。
そう思い返すと、卯月にはこの要素は足りていない。
そもそも彼女は生きている人間であり。
キャスターはおろか他のクラスの適正も無い。
信仰心がアイドルの知名度としてあるくらいだろう。
これでは、サーヴァントとして聖杯に選ばれることはありえない。
『しかし、彼女は確かにサーヴァントとして現界している。キャスターとしての霊基も確認でき、その際に確認も取れた。
それは諸葛孔明でも言える事だろう。
彼もまた、ロード・エルメロイⅡ世という人間を依り代にしている。
しかし、彼とは決定的な違いがある。
『メインの人格がエルメロイⅡ世であるだけで、孔明にも英霊の座からの分霊が確かにある。だが、卯月ちゃんにはそれが無い。おそらく、代わりとなっているのは卯月ちゃんの意識―――生霊だ』
つまり、サーヴァントを構成する要素である三つ。
英霊の分霊は、彼女の生霊が代わりをなしている。
そして、残る要素は二つ。
『この場合、むしろ孔明より佐々木小次郎のほうが近いよ。いわば、彼女の外郭はシンデレラ、中身が卯月ちゃんの意識。小次郎との大きな違いは、信仰心は卯月ちゃん本人のものが適用されていることだね』
英霊としての霊基及び人格は卯月の生霊。
クラスの適正はシンデレラのもの。
信仰心は卯月自身のもの。
辻褄は何とか合う。
ただ、まだ疑問が二つほどある。
『残る疑問は二つ。ここにいる彼女が生霊であるならば、彼女自身の肉体は結界の外にあるのか?これは後々確認ができるだろう。そしてもう一つ、そもそもそんな不安定な召喚がありえるものなのか?』
「そうです。確かに筋は通っていますが、いくらなんでも無茶苦茶な召喚方法です」
『マシュの言うとおり、確かに無茶苦茶だ。だが、そもそも前提条件が違うならば?』
→「どういうこと?ダ・ヴィンチちゃん」
『確かにこの召喚方法は現実的ではない。その上で聞こう、――――そこは一体、何処だったかな?』
そうだ、そこに考えが及んでいなかった。
現実的でない召喚方法だが、そもそもここは現実ではなく結界の中だ。
結界による効果なのか、それとも偶然かどうかはわからないが。
『そして最後に、卯月嬢の戦闘能力についてだ』
戦闘時、卯月は魔力弾を放っての遠距離攻撃で援護していた。
威力もあり、戦力として機能していた。
しかし、卯月は当然として外殻であるシンデレラにそのような戦闘能力があるとは思えない。
その疑問の答えは非常にシンプル。
『理由は簡単。彼女のスキルを確認してみてくれ。それで一目瞭然だ』
→「わかった」
改めて、卯月を注視する立香。
緊張しているのか、ややこわばった表情で身を硬くする卯月。
マスターの権利を行使し、ステータスから彼女のスキルを見る。
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真のアイドルA+
アイドルというのは偶像であり作られたものだが、ファンの想う理想のアイドルを素で体現した人物が獲得する、無辜の怪物とは真逆とも言えるスキル。
もとよりサーヴァントは信仰心によって形成されるが、それをより強力にする。
元の知名度だけでなく、召喚後でもマスターや他の人物、英霊から発生する知名度で強化を受けるほど。自身の存在を広げるほどに強化されるという、アイドルを体現したスキルである。