A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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番外編 アイドル達のカルデア生活 3

 此度もまた、アイドル達のカルデア生活をお見せしましょう。

 数多の英霊達と交流を深めるアイドル達。

 その交流にも、様々な形があります。

 まずは、ちょっと変わったその様子からいきましょう。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side 食堂

 

 

 

 

 

 目の前の敵に、賢王ギルガメッシュは思案していた。

 この敵は、自身が全身全霊をもって戦わなければならない相手だと。

 

「……………。」

 

 無論、模擬戦ではない荒事はカルデアにおいて禁じられている。

 故に、争っている競技は戦闘ではない。

 

「………………。」

 

 相手も真剣な様子で考えを張り巡らせている。

 でなければ勝てないことを、今までの勝負で分かっているからだ。

 

「……………。」

 

 ギルガメッシュは様々な道楽を行ってきた。

 現代での娯楽でさえ、浴びるように楽しんできたのが英雄王(ギルガメッシュ)であり、彼はその知識と経験を引き継いでいる。

 

「………………。」

 

 しかし、様々な快楽を貪ってきたギルガメッシュにおいて、行えなかった道楽が存在する。

 

「………………。」

 

 正確に言えば、行えなかったのではなく、行うに値しなかった。

 それは、彼が強すぎた(・・・・・・)ために。

 

「………………!!」

 

 勝負のときは来た。

 決着をつけるため、彼は自らの手札を開示する。

 

 

 

 

 

「…………フォア・カードです」

 

「残念だったな、――――ストレート・フラッシュだ」

 

 

 

 

 

 彼は賭博(ギャンブル)に興じていた。

 

 

 

 

 

「参りました……」

 

 丁寧に頭を下げ、健闘をたたえるのはアイドルサーヴァントの一人。

 鷹富士茄子。

 アイドルだけでなく、全サーヴァント中、最強クラスの幸運の持ち主。

 ギャンブルなど、蔵から財を持ち出すに等しいギルガメッシュにとって、唯一対等なギャンブルを行える相手であった。

 

「よい、楽にせよ。むしろこちらも良い体験ができた。(オレ)は賭博に愉悦を感じたことは無かったが、これはなかなか良い経験だった。我と対等に競える相手など、お前の他にいるまい」

 

 確かに、ギルガメッシュと茄子のギャンブルは激戦だった。

 その内容に、周りに野次馬が集まるほどに。

 

「お疲れ様。流石だね、ギルは」

 

「当然よ……。と言いたい所だが、今の勝負はこの我をしてもギリギリだったぞ」

 

 ディーラーを行っていたのはエルキドゥ。

 雰囲気に合わせてか、ディーラーの装いをしていた。

 ギルガメッシュの言ったとおり、この勝負はすさまじいものになっていた。

 まず、この勝負で出ていた役は最低(・・)フルハウス。

 ジョーカーは抜きで行っているため、当然最強はロイヤルストレートフラッシュ。

 だが、この勝負はそれでも勝利を確信できない。

 今にも過去にも、ロイヤルストレートフラッシュ同士の勝負など、イカサマ無しで成立したことなど皆無だろう。

 

 なお、野次馬が集まった理由はそれだけではなく、賭けられていた壮絶なQPも原因だったりする。

 チップ一つが100万QP、互いのチップはそれが100枚で行われていたのだから。

 

「こちらからもありがとうございました。ポーカーはあまりやったこと無かったんですが、楽しいものなんですね」

 

 勝負に負けたが、そんな素振りを見せずに笑みを浮かべる茄子。

 なお、茄子はあまりQPにこだわりは無い。

 彼女の幸運を頼って来る者は多く、正当な理由があれば彼女はそれを断らない。

 そのお礼などで利益を得ている為、今回の損も払えない額ではないのだ。

 

「単純な運であれば、お前の方が上だろう。しかしこれはポーカー、駆け引きのゲームでもある。ウルクの王として備わっている、人間を見定める審美眼での差であろう。逆を言えば、賭博においてこの我に駆け引きという技を引き出させたのだ。誇ってよいぞ」

 

 尊大なりに健闘を称えるギルガメッシュ。

 今の彼は、新たに体験できた愉悦の後で上機嫌であった。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side トレーニングルーム

 

 

 

 

 

「アッセイ!アッセイ!」

 

「ローマ!ローマ!」

 

「ふんぬ!ふんぬ!」

 

 (おとこ)

 筋肉隆々のその空間を表現するのに、その一文字だけで十分だった。

 カルデアのトレーニングルームは、この状態になることが常である。

 今いるのは、スパルタクス、ロムルス、レオニダス。

 他にも、坂田金時、ベオウルフ、ヘラクレス。

 流石にアイドルサーヴァントも、この空間に入る人物はいない。

 

「298、299、300…………」

 

「はっ!まだ!まだ!」

 

「■■■■■■■■■■■■――!!」

 

「ボンバーーーー!!」

 

 …………まあ、何事にも例外はあるのだが。

 熱気溢れるこの部屋で、共にトレーニングをしているアイドル。

 日野茜。クラス、バーサーカー。

 熱血乙女な彼女は、何事にも全力で挑む。

 カルデアに来てからも、日課であるトレーニングは欠かしていないどころか、増加していた。

 何せ、身体能力はサーヴァントになったことで向上したのだ。

 他の体力自慢なアイドルをぶっちぎるスタミナが、ここで発揮されていた。

 

「アッセイ!アッセイ!」

 

「ローマ!ローマ!」

 

「これが、スパルタだああああぁぁぁ!!」

 

「351、352、353…………」

 

「おらっ!おらっ!」

 

「■■■■■■■■■■■■――!!」

 

「トラーーーーーイッ!!!」

 

 なお、この部屋にはフェルグスとオリオンの対策がされている。

 オリオンも、流石にこの空間では無理と諦めている。

 フェルグスに関しては、入ってきたとしても金時をはじめとした、ほとんどのサーヴァントが彼女を警護している。

 

 今日もまた、彼女の熱血レッスン&トレーニングは続いていくのであった。

 

 

 

 

 

「全力アターーーーック!!!」

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side とある部屋

 

 

 

 

 

 共通点をもつ英霊とアイドルは、何組か存在している。

 そうした者達は、比較的友好的に関わることが多い。

 

 だが、そもそも英霊同士で仲が悪い場合もあるのである。

 

「交流だ!」

 

「いや直流だ!」

 

 カルデアにいる英霊の中でも、発明に携わる人物たち。

 交流のニコラ・テスラ。

 直流のトーマス・エジソン。

 共に電気を動力源にしながら、その因縁からか特別に仲の悪い二人。

 にもかかわらず、無視するでもなく顔を合わせることが多い。

 喧嘩するほど仲がいい、……かどうかは微妙である。

 

「レディ!君はどうなんだね!」

 

「やはり直流だろう!」

 

 二人の発明家が話題を振った相手。

 ロボット工学アイドル、池袋晶葉。

 この喧嘩騒ぎの中、我関せずと機械いじりをしていたが、突如振られた話題に対し即答した。

 

「そんなもの、両方使うに決まっているだろうが。交流も直流も、それぞれ上手に使い分けてこその技術者だ。良いロボットを作ろうと思うなら、私は何でも使う」

 

 完璧な正論である。

 そもそも、彼女は直流にも交流にもこだわりは無い。

 もちろん、彼女にもロボット製作においてのこだわりや矜持もある。

 だが、彼らの論争は別だ。

 

「別にそれぞれを否定するわけではない。製作において、発明家は自身のこだわりも信念も貫けばいい。人型ロボットにこだわるのもいい。実用性を重視するのも良い。競争したいのなら、それは動力ではなく発明した作品で競うべきだろう?現代でも良くやっていることだ」

 

 現代において、ロボット同士によるコンテストは珍しいものではない。

 明確なルールをもって、持ち寄った発明品を競い合う。

 晶葉にとって見れば、至極当たり前の考えであった。

 

「「それだ!!」」

 

「……いや、むしろなぜ今までやってこなかったんだ?」

 

 あきれた様子で二人のほうを向く晶葉。

 一応、そういったことは二人もやってきたのだが、お互いの邪魔をしたりして、いつもぐだぐだで終わってしまっていたからである。

 

「レディ!その勝負、詳しいルールを教えてくれないか!」

 

「これで優劣がはっきりとつくというもの!是非審判をお願いしたい!」

 

 交流、直流とこだわりをもつ二人。

 まあどっちかと言えば互いの動力ではなく、発明者本人自体を目の敵としている。

 事実、晶葉やダ・ヴィンチちゃんには突っかかることは無い。

 

「……まあ、良いだろう。私としても、偉大な発明家二人の作品には興味がある」

 

 こうして再び、テスラ対エジソンの戦いの幕は切って落とされた。

 なお、勝負の行方はここでは語らないことにしておく。

 

 無論、一度だけで済むことなど無く、ルールを変えては何度も行われていくこととなった。

 たまに晶葉やダ・ヴィンチちゃんも参戦し、またエレナは暴力沙汰が減ったと喜んでいた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 Side 食堂

 

 

 

 

 

 そこでは、実に重々しい空気となっていた。

 メンバーがメンバーである以上、ある種当然かもしれないが。

 目を瞑りコーヒーを飲む、巌窟王、エドモン・ダンテス。

 イライラした表情を隠そうともしない、竜の魔女、ジャンヌ・オルタ。

 何がおかしいのかケラケラ笑う、この世全ての悪、アンリマユ。

 ムスッ、とした様子な、怪物と化した女神、ゴルゴーン。

 カルデアにおいて、悪属性しか存在しないアヴェンジャーの面々。

 なお、新宿のアヴェンジャーはいない。

 会話すら成り立たないので当然のことだが。

 

 そして、そんな彼らに相対するように着席している二人のアイドルサーヴァント。

 

 おっかなびっくりとした様子の、中二病アイドル、神崎蘭子。

 カフェオレを飲んでいるが、砂糖の量を間違えたことにも気づく余裕が無い、中二病アイドル、二宮飛鳥。

 彼女たちも同じアヴェンジャーではある。

 が、二人とも属性は善であるという、ある種矛盾したサーヴァントであった。

 

「…………で?」

 

「ひっう!?」

 

 口火を切ったのはジャンヌ・オルタ。

 そのドスの効いた声に、たまらず短い悲鳴をあげる蘭子。

 

「なんでこうやって顔を突き合わせなきゃいけないわけ?」

 

「それはお前のせいだろう?お前がこの二人に突っかかることが無ければ、マスターもこのような場を設けなかった」

 

「チッ!わかってるわよ」

 

 ゴルゴーンの苦言に対し、自身に非があると不祥ながらに認める。

 ジャンヌ・オルタは、かなり特異なサーヴァントだ。

 所謂生前と言うものが無く、作られた記憶しかない。

 故に、彼女がさまざまな事を実体験をしているのはサーヴァントになった後のこと。

 そのため、アヴェンジャーのクラスというものにも感慨深いものがあるらしい。

 だからか、自身とは真逆とも言える存在である二人のアイドルに絡むことがあった。

 それを見かねたマスターが、アヴェンジャーによる交流会を開催したのである。

 なので、こちらを注視してはいないが、幾人かのサーヴァントも抑止力として待機している。

 

「ちょっと、アンタらも何か言ったらどうなの?」

 

「えーっと、その……、あの……」

 

「はっきり言いなさいよ!」

 

「ぴゃっ!?」

 

 怒鳴るオルタと、涙目になる蘭子。

 完全に加害者と被害者である。

 

「そこまでにしてもらおうか。会話ならともかく、蘭子をいじめるのをボクは看過できない」

 

 カップを置き、ジャンヌ・オルタをにらみつける飛鳥。

 親友である蘭子へのこの仕打ちは、同じ陣営とはいえ許さないと。

 

 そんな様子の飛鳥に対し、さらに口撃をしようとするオルタ。

 

「止めておくことだ、竜の魔女」

 

 こちらもカップを置き、静かに語りかける巌窟王。

 怒気は無いが、止めるという意思は伝わってくる。

 

「何よ、アンタは言いたいこと無いわけ?アンタも復讐者には思うところがあるんじゃないの?」

 

 復讐心をもたないアヴェンジャー。

 それは、復讐者(アヴェンジャー)でしか存在していないジャンヌ・オルタにとっては、看過できない自己の否定だ。

 世に名高い復讐者である巌窟王が、この二人のアイドルに何を考えているのかも気になることではある。

 

「オレも同意見だね~、ケケケ。アンタの言動はお門違いさ」

 

「アンタにゃ訊いてないわよ!」

 

 横槍を入れた人物を怒鳴る為、そちら側を見るジャンヌ・オルタ。

 アンリマユは飄々としており。

 ゴルゴーンは沈黙を貫いている。

 巌窟王にいたっては、キッチンにコーヒーの追加をアイドルの分も含めて注文していた。

 

「…………なによ」

 

 復讐者であるはずの英霊達が、善なるアヴェンジャーに何も思うことが無い。

 そういった様子の彼らに、口を閉じるオルタ。

 

「竜の魔女。貴様は復讐者というものをどのように解釈する?もしくは自身が呪う、復讐の対象はどいつだ?」

 

「私を売ったフランスという国そのものよ。偽者の記憶だろうと、これが私の根幹なのよ」

 

「だろうな。話は変わるがこの二人の少女は、世界への反逆、がアヴェンジャーの適正となったらしい」

 

「それが何よ!?」

 

 淡々と語る巌窟王の言に対し、苛立ちを爆発させるオルタ。

 怒声交じりの質問に対し、答えを告げるのはアンリマユ。

 

だからだよ(・・・・・)。こいつらはあくまでクラスがアヴェンジャーなのであって、復讐者ではないのさ。原典におけるシンデレラであれば、話は別だろうがね、ケケケ」

 

「復讐というのは個人、もしくは組織に対して行うものだ。この少女たちのように、人ではなく世界や社会に対して行う反逆など復讐ではない。ただ、それだけのことだ」

 

 つまり、彼らはアヴェンジャーのアイドルに対して、同じ(・・)復讐者だとは思っていない。

 ゴルゴーンにいたっては、人間そのものが嫌いなので、何も特別に感じることは無い。

 彼女たちのことは、アヴェンジャーではなく他のアイドルサーヴァントやマシュたちなどと同様に扱っているだけなのである。

 

「………………。」

 

 二人の復讐者の言葉に対し、黙っていたジャンヌ・オルタだった。

 

 ニタァ。

 

 が、突如邪悪な笑みを浮かべた。

 このアイドル達は復讐者ではない。

 ならば、聖女と同じように扱えばいい(・・・・・・・・・・・・・)のだと。

 

 

 

 結局、ジャンヌ・オルタが二人に絡むことは無くならなかった。

 嫌味な言い方は相変わらずだが、その様子を見た聖女のジャンヌに、説教をされたりしていたようだ。

 

 この一連の出来事とその後の交流に対し、

 

 蘭子は「怖かったけど、趣味が意外でした」

 

 飛鳥は「ある意味、彼女は蘭子に似てるのかもしれないね。傷つけられたくないから、攻撃的になるのさ」

 

 とコメントしていた。

 どうやら、オルタの行動は空振りかつ逆効果だったらしい。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

 アイドル達との交流は、必ずしも良い関係を築くものではない。

 だが、空気が悪くなるのも、彼女たちには似合わないだろう。

 どんなときでも、最後は笑顔で。

 それが、彼女たちアイドルの力なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 


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