A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
サーヴァントとなったアイドル達は、各々が好きなように行動している。
が、やはり一番の行動原理はカルデアのお手伝い。
その中でも、大小含めた特異点の解明、解決がメインだ。
戦闘を介する機会も多いため、基本的に真面目な彼女達が訓練に精を出すことも多々見受けられる。
当然、各サーヴァントたちと模擬戦も行われる。
今回は、その一部始終をご覧頂こう。
――――――――――
VS フェルグス・マック・ロイ
「むん!」
――――――剣で攻撃を振り払う。
アイドルサーヴァントは、近接戦闘が不得手である。
セイバー、アーチャー、ランサーの三騎士に該当する者も少ない。
スポーツや武道ならばともかく、戦闘を経験した人物が皆無なのだから当然だ。
アイドルサーヴァントの三騎士でも、ケルト神話などの戦士系サーヴァントには分が悪い。
サーヴァントになって戦闘能力が向上したとはいえ、彼女達は多人数で行動する事が前提のサーヴァントである。
「せいや!」
――――――思った以上にやりづらいと、フェルグスは感じた。
だが、そんなアイドルたちの中にも例外はある。
一つ目に、彼女達が真面目に戦闘訓練をこなしていること。
経験がないのならば、鍛錬を積めばいい。
一朝一夕で勝てるわけはないが、差は縮められる。
「はっはぁー!予想以上だ!戦いが終わったら、是非一夜を共にして欲しいな!」
――――――そう言った直後、攻撃が激化した。
そしてもう一つ。
サーヴァントとして、基本性能を含めた
「はっ!寝言を語るには早すぎるわよ、
その数少ない例外の一人。
財前時子。クラス、ランサー。
女王様アイドルとして有名な彼女は、プロデューサーはおろかファンですら豚扱いする生粋のサディスト。
そのキャラクター故に、彼女のファンは紳士達の集まりであるらしい。(比喩)
本来は、他のアイドルと同様に戦闘経験は持っていない。
が、それを覆すスキルを保持している。
スキル『女王特権EX』。
皇帝系サーヴァントが保持する『皇帝特権』の亜種。
生来の王族ではない彼女だが、
彼女自身にも優れた才覚があり、裕福な生まれの環境による経験値も含まれている。
多岐にわたる能力を獲得できるスキルであり、それ故に戦闘もこなす事が出来る。
無論、「戦闘をこなす」と「戦闘で強い」は別だ。
「にべもないな!まあ、今はこの戦いを楽しむことで由としよう!」
彼女はまるで当然のごとく、フェルグスと一対一で打ち合っていた。
「楽しむ?なら【ご褒美】を受け取りなさい。とっても、楽しいわよ!」
鞭がしなり、四方から連続で迫ってくる。
鞭は強度に乏しいはずだが、宝具であるためか一向に断ち切れる気配がない。
それは、扱っている彼女の技量も関係あるのだろう。
「残念だが、俺はマゾヒストではないのでな!それに、楽しいのはお主の方だろう!」
それを許すはずもなく、
彼女の武器に硬度は無いため、一気に距離を詰めて打ちに行く。
パシイィン!!
「私は近づくことを許したかしら?」
鞭による攻撃で、
思わず愛剣を手放しそうになるくらいの重さに、内心驚愕するフェルグス。
いかに戦闘訓練とはいえ、様々な英雄を輩出したケルト神話で指折りの勇士である自身でも押し切れない。
攻撃こそ最大の防御を体現した戦闘スタイル。
叶うなら、死闘による全力勝負で相対したかった。
そう思うほどのバトルセンス。
「本当に、やりにくいことこの上ないな、――――
加えて、彼女の象徴たる宝具。
その性質は、アイドルサーヴァントの中でも攻撃的。
一度嵌ったら最後、もう抜け出すことはほぼ不可能。
「だったら大人しくしてたらどう?楽に成れるわよ」
「むっ」
しまった!と思った頃にはもう遅い。
既にフェルグスは彼女の術中に在り、これで勝負は決してしまった。
「
「ぬうおおおおぉぉぉ!!」
必死に抵抗するフェルグス。
しかし彼の意思とは別に、彼女へ向かって突進する。
構えることなく、防御の姿勢をとることなく、ただ無防備に。
それも全て、――――
バッシイイイィィン!!
フェルグスにめがけて、全力で振り切った鞭が襲い掛かった。
勝負ありと判定され、シミュレーターが終了していく。
後に残ったのは、倒れ付すフェルグスと勝ち誇る様子も無い女王様。
対人宝具、『
攻撃力自体はそこまで高くない。
本人の手加減によって威力が変化しやすいが、最大でも致命傷にはなりにくい。
だが、それを補って余りある凶悪な性能をしている。
効果は単純明快。
この宝具に対峙した人物は、その一撃をたまらないほどに
相手の防御そのものを奪い去り、燃費の良さ相まって連続で使用可能。
一度でも魅了されたら最後、何度でも【ご褒美】を受け取ることになる。
込めた魔力では手加減したとはいえ、この惨状がその結果であり。
「………………ふん」
最後にフェルグスを豚を見るような目で一瞥し、女王様はシミュレータールームを後にしたのであった。
なお、件のフェルグスは懲りずにまた彼女に申し込むのであった。
訓練的な意味でも、夜戦的な意味でも(比喩)。
蛇足だが、彼女の鞭が癖になったわけではないと追記しておく。
――――――――――
VS三蔵法師一行
やはり、アイドルサーヴァントの本領はチーム戦だ。
個々ではなく、チームワークで相対する。
そのため、模擬戦も指導という形でなければチーム戦になる事が多い。
英霊達もまた、チームワークの向上に繋がると好意的だ。
とりわけ仲の良いメンバーというものがあり、彼女達もその類のチーム。
三蔵法師ことキャスター、玄奘三蔵。
猪八戒ことアーチャー、ダビデ。
沙悟浄ことランサー、李書文。
白龍馬ことバーサーカー、呂布奉先。
なお、俵藤太は人数調整の為審判役。ただの見物とも言う。
そんな彼らに相対するアイドルサーヴァント達。
「うーん、君はとってもアビシャグだけど。苛烈すぎて気後れしちゃいそうだね」
「あら、魅了されてもいいのよ。まあ、私はそんなに安くないけどね」
ダビデに対峙するアイドル。
速水奏。クラス、アサシン。
新田美波と同様、『女神の神核』を保持するサーヴァント。
「是非魅了されたいけど、今はご遠慮願おうかな。だってその瞬間に負け確定なんだもん」
「よく分かってるのね」
そう言い終わったが早いか、投げキッスで魔力が編まれ、
彼女のサーヴァントとしての性質は魅了特化。
男女構わず隙あらば籠絡する。
ステンノ、エウリュアレに迫る程の魅了スキル。
「呵々、良く訓練されておる。あやつらの指導を真面目に受けている証拠よな!」
「何の!いつまでも下忍のままではありませんよ!」
こちらは完全に指導状態。
神槍と謳われた李書文相手では、無理も無いことなのだが。
だが一矢報いようと、距離をとっての投擲。
それも空しく、手裏剣と苦無は簡単に弾かれてしまった。
浜口あやめ。クラス、アサシン。
忍者系サーヴァントたちを師として、日夜稽古に励む彼女。
しかし、いかに訓練したかといって李書文はハードルが高すぎた。
あやめと彼との体術では、埋められない差が存在する。
「応とも!その向上心こそ大事な燃料よ!それを絶やさず燃やし続けることだ、な!」
死角からの挟撃は、いとも簡単に迎撃される。
そのシルエットは人間よりも小さく、犬と鳥の形をしていた。
「コタロウ!?ハンゾウ!?」
彼女のスキル、『使い魔(忍)C』。
忍犬コタロウ、忍鳥ハンゾウを使役する事が出来る。
今まで隠してきたとっておき。意識外からの二匹による奇襲。
ただ残念だが、かの拳聖には通じなかったようだ。
「■■■■■■■■■■■―――!」
雄たけびを上げる呂布。
その姿はぐるぐる巻きと呼称すべきだろう。
赤いリボンで雁字搦めに拘束され、抜け出そうと力を振り絞る。
「やっぱり手ごわいですね。まゆの拘束が切れ掛かってます……」
拘束する側も楽ではない。
呂布の筋力はA+。
このレベルになると一瞬でも気を抜けば簡単に引きちぎられてしまう。
佐久間まゆ。クラス、アサシン。
拘束に秀でたある種アサシンらしい能力。
幾条もの赤いリボンを武器に、気配遮断で隙を突き縛り上げる。
にもかかわらず、力技で拘束を引き裂こうとする呂布のパワーはまゆにとって計算外。
ある程度予想してはいたが、ここまでとは思っていなかった。
アサシンのアイドルサーヴァント三人。
連携し、あるいは分断されて模擬戦に集中する。
特筆するべき点があるとすれば、
――――――三人共、普段はしていないメガネをかけていることだろうか。
「はっはっはー!メガネは偉大!三蔵ちゃん!貴女にもメガネを進呈しましょう!」
「それは別に構わないんだけど……、それをやられるのは勘弁願いたいわね!」
ドシーン!と、大きな地響きが広がる。
そこに居るのは上条春菜。
その宝具こそ、ライダークラスである証。
諸星きらりと同種である、対巨大兵器宝具。
「
グラッシーロボのメガネから放たれた、二条の極太レーザー(模擬戦により麻痺効果)が三蔵ちゃんに降りかかる。
予想していたのか、危なげなく回避する。
しかし、それによって隙が出来た。
「いっけー!グラッシーロボー!」
春菜の指示に従い、両の拳で連続パンチをお見舞いする。
手ごたえは――――無し。
決着はついていないようだ。
これが、ライダー上条春菜の宝具。
ランクにしてA++。
諸星きらりの『きらりんロボ』と対を成すロボット系宝具、『グラッシーロボ』。
春菜が熱演した、悪のグラッシー帝国の総帥グラッシー・ハルナの最終兵器。
その火力は並みの宝具を凌駕する性能を持つ。
強力無比な巨大兵器に搭乗するライダー。
宝具やスキルに秀でたアイドルサーヴァントの中でも、トップクラスの威力。
ただ、それでも――――必勝とは限らないのが世の常である。
「チャンスは貰ったわよ!」
巨大兵器を前にしてなお、自信に満ちたその表情。
師匠として、情けない姿は見せられないという意地。
そして、このピンチを押し返す宝具を彼女は持っている。
「御仏の加護、見せてあげる!」
キャスター、玄奘三蔵。
彼女の宝具は対軍・対城宝具。
敵対者を懲らしめる、覚者掌底。
「
ドドドドドドドドドドドッ!!
非力なはずの人型の連打は、一撃一撃が釈迦如来の力。
「うわああぁぁ!?」
その攻撃によって機体は大きく揺れ、肩に乗っているだけの春菜は振り落とされまいと必死につかまる。
だが、奮闘空しく最後の一撃が放たれた。
「ええぇぃ!!」
バッゴオオオォォォン!!
ロボは吹っ飛び、攻撃を受けすぎた為かエーテルへと戻り霧散する。
勝負あり。
リーダーである春菜の気絶によって、模擬戦はチーム三蔵法師の勝利。
「やったわ!今回は私たちの勝ちね!」
自らの弟子たちに、Vサインを見せ付ける三蔵ちゃん。
アイドルサーヴァント達も残念そうだが、模擬戦はあくまで模擬戦。
ここからどう発展させていくかが大切だ。
「春菜ちゃん。大丈夫ですか~?」
「きゅうぅ……」
目を回し、メガネをかけたひよこが飛び回っている春菜が回復するのに、少し時間がかかりそうだ。
今回の敗因は宝具への過信。
乗っていれば攻撃は届かないと油断した為の結果。
宝具の運用は適切に出来てこそ。
今日の模擬戦を経て、又一つ経験値を重ねたグラッシー帝国メンバーであった。
――――――――――
単体で強力なアイドルも居る。
チームでのアイドルも無敵ではない。
勝負は時の運、相性、実力、そして判断力が左右する。
マスターの力になる為に。
アイドル達はカルデアで、今日も真面目にトレーニングを重ねていく。