A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ 作:赤川島起
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IF第1章 シンデレラのキャスター
深夜の結界は砕け、消滅した。
あの結界は既に、欠片ですら残ってはいない。
アイドルとの冒険も終わり、舞台は終幕している。
ならば、
かつての物語を思わせるこの場所は、
あの結界の『残響』だ―――――。
――――――――――
Side IF story
『結界の残響』
――――――――――
→「うん…………ん?」
→「ここは……」
カルデアのマスター、藤丸立香が目を覚ます。
マイルームにて就寝し、来たはずの朝に違和感を感じる。
硬い地面から起き上がり、瞼を開け、室内に無いはずの冷えた外気で眠気を失う。
そこは、星の輝く深夜の大都会であった。
→「うん、いつものだ」
「はっはっはっ。いやー、少々こういう事態に慣れすぎではないかな?マスター」
後ろからの呼びかけ。
慣れ親しんだカルデアのサーヴァントの声。
白いローブに身を包み、大きな杖を持った若い見た目の男性。
サーヴァントキャスター、花の魔術師マーリン。
アーサー王に仕えた宮廷魔術師であり、人と夢魔の混血。
冠位の資格を持つ魔術師、なのだが本人は呪文を噛むので魔術を得意としていない。
今はただのキャスターとして、カルデアに協力してくれるサーヴァントの一騎である。
「いやね。異常事態に取り乱さず、冷静なのはいいことだよ。ただ、ここまで慣れてしまうのも考え物だと思っただけさ」
はっはっはっ、と笑うマーリン。
無音の空間であるからか、辺りに笑い声がよく通る。
その声を聞いてか、この場にいたもう一人が目を覚ます。
「ん……。あれ?……せん……ぱい?――――うぇっ!?先輩!?なんで私の部屋にいるんで……私の部屋じゃない!?」
「はははっ。いやー、いいリアクションをありがとう。マスターもこれくらいの反応があると面白いんだけどね」
「マーリンさん!?えっと、ここは……一体?」
「そうだね。まずは今置かれた状況下について、考察していこうか」
――――――――――
深夜の都会。
雲一つ無い星空の下、三人は状況を確認する。
マスター藤丸立香にとっては慣れてしまった状況だが、今一度整理しなおす。
「マスターはもう気付いているね?ここは夢の世界。本来の肉体から意識が離れ、この場所に迷い込んだという今までにもあったケースだ」
→「よくあることだったからね」
「先輩がこの状況に慣れきってしまっているのは分かりました……。しかし、今までのケースとは大きく異なる点があります」
マシュの言うことに、他の二人も既に気付いている。
肉体から意識が離れ、別の世界や特異点へ介入することは今までにもあった。
が、その今までに共通する状況が今回は異なるのだ。
「今までの意識のみの転移は、先輩
少なくとも、最初の時点では。
と、繋げたマシュ。
当然だ。
意識のみの転移なら、他のサーヴァントと同時に行うことなどほぼありえない。
事態が発覚し、カルデアからの介入があってサーヴァントを送り込める場合はある。
が、スタートの時点から行動を共にできるケースは、思い出してみる限りでは初である。
「ああ、そうそう。僕は除外していいよ。僕は夢魔との混血であり魔術師だ。夢への介入は得意分野でね。後から素早く着いただけさ」
→「マシュと一緒に?」
「いや、それは違う。僕が来たときは既に、マスターとマシュは揃ってここで添い寝してたよ」
「添い寝……、はぅぁっ!もうっ、からかわないで下さい!」
「だっていちいち反応が楽しいからね。からかい甲斐があるってものさ」
かんらかんらと笑うマーリン。
人でなしである彼だが、かといって無意味に勘違いさせるような悪意がある人物ではない。
サーヴァントの一人として、信頼する彼の言うことは真実なのだろう。
この場所に来たのはマスターとマシュ。
後追いできたのがマーリンというわけだ。
→「この場所、見覚えがあるんだけど……」
「はい。それは私も感じていたことです」
大都会。
それだけで、今までの経験から当てはまる状況がある。
その絞られた情報に一致しそうな出来事。
辺りを見回す。
整った道路。
人はおろか気配さえない無音の空間。
破壊痕の無い整理されたビル群。
深い夜にもかかわらず、不自然なほど夜目が利く状況。
ここはまるで、あの時の――――。
現代の東京に現れた、現世に影響を与えない偶像特異点。
シンデレラと駆け抜けた、深夜の結界舞台を連想してしまう。
「二人が思っていることに、間違いは無いだろう」
考えが顔に出ていたのか、二人を肯定するマーリン。
二人は彼に向き直り、次の言葉を待つ。
そう言い切るには、何か確信があるのだと感じて。
「この特異点は、そもそも現代の東京ではない。――――そういう形をした
深夜の結界舞台は2012年東京に展開されていた固有結界であった。
そういう意味では確かに共通点と言えるだろう。
だが、今回は
以前とは、前提がそもそも違う。
他の場合なら、前例はあるにはある。
人理修復の最後。終局特異点。
が、それは『獣』の力をもってして始めて存在できていたのだ。
「とは言っても、そんなに大規模じゃないけどね。展開には術者であるサーヴァントが一人いれば十分。世界の狭間、いわゆる
まあ、いつまでも続くわけじゃないけどね。
と、冠位の資格を持つ魔術師は語る。
人理が焼却され、修正力が無かったあの時の場合とは違う手順を踏まえているのだろう。
規模が小さく、発生しても勝手に収束される無人の空間。
後にも先にも残らない、点だけの世界。
そして、ここで重要なワードが出てきた。
術者であるサーヴァント、と。
魔術師では世界の狭間に固有結界を展開することはおろか、到達すら不可能。
世界を渡れる魔法使い、あるいはどの時空にでも存在できる英霊であれば可能性が生まれる。
「理屈は分かりました。しかし、なぜ深夜結界と似通った状況なのかは不明ですが……」
「それは、今の段階では断定できないね。強いて言うなら――――、術者と関係があると予想できるかな」
→「……ということは」
深夜の結界における関係者。
加えて、固有結界を展開できる人物はかなり限られる。
独自の固有結界を持つエミヤは除外。
例えば、いずれかのアイドルサーヴァントであるのか。
あるいは――――――。
――――――――――
「先輩!敵性反応ありです!」
素早く戦闘態勢に入る三人。
カルデアの制服を着たマスターとマシュを庇うように、前に出るマーリン。
今ここで、戦えるのはマーリンのみ。
対して反応は複数。
だがしかし、マーリンに焦りの表情は無い。
余裕を持ち、諭すように話しかける。
「マシュ、ここに君の肉体は無い。意識のみの転移であり、君やマスターの身体もサーヴァント同様にエーテルで構成されている。だからこそ、ここではデミサーヴァント化してもデメリットは無い。イメージすれば、できるはずだよ」
やってごらん、と促される。
最高峰の魔術師からのアドバイス。
イメージする、いつもの工程を。
姿が変わる。
カルデアの制服を着た少女から、頼れるサーヴァントの姿へと。
大盾を構え、敵がいるであろう反応地点へと向き直る。
音も無く現れたその敵の正体は、シャドウサーヴァント。
→「――――――!?」
「そんな!?」
だが、それは予想外の輪郭。
通常ではどんな場所でも縁が無い。
彼女たちを召喚できる触媒も無い。
サーヴァントと化した彼女たちを召喚できるのは、ほぼカルデアのみ。
そんな考えを否定するかのように。
彼らの目の前には、シャドウ化したアイドルサーヴァント達が敵意を持って対峙していた。
――――――――――
アイドルサーヴァントは、特異点ではほぼ召喚できない。
通常の英霊と異なり、彼女たちの『座』は現世に人として、今を生き存在しているからだ。
人類史ごと焼き尽くされた人理焼却事件の最中では召喚できず。
人理修復後でも2012年以降の彼女達が生存している年代でのみ召喚が可能になる。
カルデアは現在2017年。
加えて2012年にレイシフトするか、年代を設定して召喚することもできる。
例外はあるかもしれないが、現状では不明。
ましてやここは『無』の空間。
未来や過去の無い閉じられた世界。
高次元に『座』が存在しない彼女達は、召喚が不可能であるはずなのだ。
もしくは、不完全な為にシャドウサーヴァントなのか。
対峙するアイドルは3人。
セイバー、前川みく。
アーチャー、赤城みりあ
ランサー、城ヶ崎莉嘉。
かつて、深夜結界で共に戦ったアイドルサーヴァントの三騎士。
『■――――■―――■―■!!』
ノイズまみれの叫び声を上げ、威嚇するように戦闘態勢に入る。
その叫び声から感じる声色は――――
不満、恐怖、不安、拒絶。
美しいはずの声は、負の感情を絶叫するだけに成り果てていた。
襲われることは明白。
マスター達も、理解の及ばぬままに構える。
前川みくのシャドウサーヴァントが、今まさに飛び出そうとした瞬間――――――
「待ってください!!」
戦闘は開始されず、予期せぬ乱入者――――いや、関係者によって中断された。
「私に、彼女たちと話をさせてください!」
全力疾走で駆け抜けて、カルデアとシャドウサーヴァントの間に横入りした人物。
黒の紳士用スーツ服はかっちりとしており、着崩しやだらしなさは見当たらない。
三白眼の強面な顔つきだが、その表情には焦りが浮かんでいる。
纏った気配、そしてマスターとしての経験則から立香は察した。
彼はサーヴァントであると。
その件のサーヴァントは今なんと言った?
シャドウではあるが、アイドルであるサーヴァントを
十中八九、アイドルの関係者。
そしておそらく、――――この固有結界の当事者。
「先輩……」
マスターである立香の指示を待つマシュとマーリン。
予想外の出来事だらけで、いろいろと状況が複雑だ。
仮にあのサーヴァントが敵対者であるならば、だまし討ちやあちらの加勢を考慮しなければならない。
→「大丈夫だよ。きっと」
しかしこのマスター、善悪の機微に関しては百戦錬磨。
記憶ごと偽ってでもいない限り、その人物の感情に関してとても敏感であり、今敵対するのか否かの判断は非常に鋭い。
なお、根本的に善人なので将来的に裏切ったりする場合の予想はつかない。
悪く言えばお人よし、よく言えば器の大きいマスターなのだ。
「ありがとうございます」
勘ではあるが、アイドルに対する優しげな所作に偽りは無いと考えた。
今回の場合、その判断は正しかった。
彼は、彼女達が最も信頼する人物。
アイドルサーヴァント、シンデレラガールズの関係者。
シンデレラに『魔法』をかける
故に、こう呼称するのが適切なのだろう。
シンデレラのキャスター、と。
――――――――――
『■――■■■―――■■■!!』
ノイズまみれの声を荒げ、責めるように叫び続けるシャドウアイドルサーヴァント。
その言を、聞き漏らさないよう真剣に彼は耳を傾け続ける。
「前川さん……」
果たしてその叫び声の理由を理解できたのか、出来なかったのか。
おそらく、ノイズが酷すぎて聞き取れなかったのだろう。
彼の焦りは未知への焦り。
彼女の言っている事が聞き取れないゆえの焦り。
「――――――私は」
『■■■■■■―――■―■!!』
口数が少ないのが原因か、話しかけようとした時点で一方的に打ち切られた。
臨戦態勢は元々整っていた。
己の爪を振るわんと、彼へ襲い掛かるシャドウサーヴァント。
寸前に迫る、影の凶刃。
ガイィィン!!
その斬撃は、マシュの盾によって防がれた。
→「やった!マシュ!」
「はい、
「一方的で悪いけど、こっちはそう判断したよ。君に、異存はあるかい?」
「いえ、助かります。あと身勝手で申し訳ないのですが、――――彼女たちへ温情を」
「先輩」
→「了解。出来るだけ手加減してね」
苦しそうな彼の表情から、彼女たちとの親愛を察するマスター。
主命は撃退。
倒さずに無力化する。
シャドウサーヴァント相手では初めての試みだが、今のメンバーでやってやれないことは無い。
予想外の即席パーティーで、突発的な戦闘は開始されたのであった。
戦闘可能サーヴァント
☆4 シンデレラのキャスター
☆5 マーリン
☆4 マシュ・キリエライト
シンデレラのキャスター:戦闘時スキル構成
スキル1:プロデューサーA+++
味方単体のバスターカード性能アップ+アーツカード性能アップ+クイックカード性能アップ〔Lv6〕(3T)[CT7]
スキル2:強面B+
敵単体に中確率でスタンを付与〔Lv6〕+自身の被ダメージ時のNP獲得量アップ(3T)〔Lv6〕〔CT6〕
宝具:????