A.D.2012 偶像特異点 深夜結界舞台シンデレラ   作:赤川島起

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IF第1章 シンデレラのライダー

「■■■■■■―――■■■!」

 

シャドウサーヴァントは撤退した。

戦闘の中、絶えずノイズだらけの叫びを上げ続けて。

 

「戦闘終了。シャドウサーヴァントの撃退に成功しました」

 

→「お疲れ、みんな」

 

「これくらいはお安い御用さ」

 

張り詰めた空気が弛緩し、改めて共闘したサーヴァントを確認する。

大柄な体躯、人によっては怖いと感じるような強面。

複雑な心情なのか、暗い表情の人物。

 

「……先ほどは私のわがままを聞いていただき、ありがとうございます」

 

こちらに向き直り、ビジネスマナーにのっとった所作で頭を下げる。

それだけでも、彼が生真面目な性格をしているのだと感じ取れる。

体格や顔立ちで先入観を持つことは、歴戦のマスターである立香にはもはや無い。

 

→「どういたしまして」

 

「はい。では、改めて自己紹介を――――」

 

 

 

「プロデューサーさーん!探しましたよ!」

 

 

 

互いの情報を精査しようとしたところで、新たに聞こえた知らない声。

その声を聞いてか、彼はしまった、あるいは忘れてた、という表情を浮かべる。

一同に駆け寄ってくるのは、黄緑色をしたやや派手な事務服を身に纏った人物。

一直線に彼のサーヴァントの元へ近づいたところで、先んじて彼のほうが話しかける。

 

「すみません、千川さん。アイドルの皆さんを見つけたと思って、とっさに動いてしまいました……」

 

「ええ、急ぐ気持ちは分かります。でも、報告・連絡・相談。こんな時だからこそ、焦らずに行動するのが肝心ですよ」

 

「はい、肝に銘じます…………」

 

話は終わったのか、二人は改めてカルデアと対面する。

一歩こちらに歩み寄り、ポケットからとあるケースを取り出す。

そこからさらに一枚の紙を取り出し、両手で持ってこちらへと差し出す。

そこにあったのは、――――二枚の名刺。

思わずこちらも頭を下げて受け取り、その内容を確認する。

 

→「346プロダクション、プロデューサー?」

 

「はい、改めまして。サーヴァント、キャスター。真名は……、特にありません。プロデューサー、あるいはシンデレラのキャスターと呼んでもらえれば」

 

「サーヴァント、ライダー。千川ちひろ、もしくはシンデレラのライダーとお呼び下さい」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

丁寧に挨拶された二人のサーヴァント。

シンデレラ――――、アイドル達の関係者とは思っていたが、彼女たちの話にも度々登場していたプロデューサーとアシスタントだということに素直に驚く立香とマシュ。

ただ、アイドルサーヴァントは非常に特殊な存在だ。

本来は、あの結界の中でしか存在できないイレギュラー。

その後、奇跡のような確率でカルデアと縁を持った故の召喚。

だが、どうも彼女たちとは事情が違うようだ。

シンデレラ(アイドル)に該当しない以上、召喚方法そのものが異なるのだろう。

先ほども、自然な様子でサーヴァントと自己紹介していたのだから。

 

「カルデア……の皆さんですか……はい。此度は、当社のアイドル達がお世話になっているようで真にありがとうございます」

 

→「こちらこそ、助かってます」

 

「先輩の言うとおり、アイドルの皆さんはとても頼もしいですよ」

 

「そうだね。戦闘に無縁だったはずの彼女達はよくやっているね。――――さて、では早速質問させていただこう。先程、真名が無い、と言っていたがどのような意味か説明してもらえるかな」

 

「そう、ですね……。いえ、答えたくないと言うわけではないです。一応、サーヴァントとしての基本知識はありますので」

 

なんと言ったらよいのか困惑したようなプロデューサー。

対して、説明する言葉を見つけたようで助け舟に入るちひろ。

 

「ですが、私たちにはその最低限の知識しか(・・)無いんです」

 

「しか?つまり、君たちには英霊として積み上げているはずの『記録』が無い、と言うことかな?」

 

「おそらく、そうなのだと思います……」

 

「これは、……あの時と同じ」

 

→「フランスでのジャンヌみたいな?」

 

マスターの語った内容が、実に的を得ている。

彼らは本来与えられるべきの記録はおろか、サーヴァントとしての基礎知識やバックアップですら最小限となっている。

かつて、ジャンヌが呼称したサーヴァントの新人という状態なのだろう。

 

「ふむふむ。なるほどね」

 

「ですので、その最低限の知識に含まれるもので、『シンデレラのキャスター』と名乗りました」

 

→「シンデレラたちの魔法使い(キャスター)、ってことかな?」

 

「はい。まさに文字通りです(・・・・・・)

 

「と言うと?」

 

「私自身は、英霊になれる器ではありません。あくまで一介のプロデューサーに過ぎませんから。だから、――――擬似サーヴァントとして召喚されたのです」

 

擬似サーヴァント。

グランドオーダー時に限り召喚が許される、特例的なサーヴァント。

霊核の高すぎる神霊、または低すぎる幻霊を召喚する際に、人間を寄り代(ベース)に構成される。

この場合はおそらく、幻霊による擬似サーヴァントだろう。

彼の名乗り、シンデレラの関係者から推測される幻霊は一つ。

 

「私は『シンデレラの魔法使い』という幻霊を核としたサーヴァント、と言うことになります」

 

つまり、彼はアイドルサーヴァントと異なり、本人の肉体に『座』が存在しない。

御伽噺のシンデレラ。その登場人物の一人である幻霊によるサーヴァント。

彼女たちとは、明確に規格が違うサーヴァントなのだ。

 

「うんうん」

 

→「ちひろさんも?」

 

「はい。私もシンデレラを導く登場人物。かぼちゃの馬車を操縦する『シンデレラの御者』が元となっています。――――それだけではありません」

 

目を瞑り、一息入れ、改めて発言する。

 

「私の持つスキル『二重召喚(ダブルサモン)』。――――ライダーとアサシンの混成。幻霊である『シンデレラの御者』の霊核が低い為なのか、中途半端にクラスが分割されてしまったのだと思います」

 

スキル『二重召喚(ダブルサモン)』。

二つのクラススキルを保持できるスキルである。

だが、本来は様々な制限がかかる。

一つ、召喚時に特殊な条件付けを行うこと。

一つ、三騎士、エクストラクラス(例外あり)との組み合わせは出来ないこと。

ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーからのいずれかで組み合わさったクラス。

霊核の低さゆえに、クラス適性ですら半端となってしまったことによる適性。

 

「――――いや、それは違うね。霊核が低ければ、サーヴァントと言う形すら取れない。君がダブルクラスであるのは、もっと別の理由だ」

 

その説を、冠位の資格を持つ魔術師は明確に否定する。

ここまで聴きに徹していたが、整理が終わったのか一つずつ確認していく。

 

「まず一つ、この空間についてだ。この固有結界は、君達どちらか二人の宝具(・・)だね?」

 

「はい、そうなのでしょう。私の宝具、『魔法をかけられた女の子達(シンデレラ・プロジェクト)』による空間です」

 

「そして、君はそれを制御できていない(・・・・・・・・)と」

 

「恥ずかしながら……。申し訳ありません」

 

右手を頭の後ろへと回し、ばつの悪そうな表情を浮かべるプロデューサー。

今回の結界の基点は彼。

宝具『魔法をかけられた女の子達(シンデレラ・プロジェクト)』。

アイドル達と同種の、アイドルを召喚する固有結界。

そのアイドル達がシャドウ化しているのは、制御が出来ていないからだろうか。

自身の不手際によって発生した空間に、皆を巻き込んでしまったことに対して謝罪する。

 

→「気にしないで」

 

「まあ、気にすることは無いと思うよ。何せ君にとっては初めての宝具行使なのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「それは、どのような意味なのでしょう?」

 

状況を掴み取れていないからか、困惑した様子の二人。

現状を正しく理解しているマーリンが、今回の核心に迫る。

 

 

 

「この空間そのものが、君たちのサーヴァントとしてのスタートライン(・・・・・・・)だからさ。英霊に時間の概念は無い。時間軸や平行世界よりも高次の存在ゆえにだ。だけどもし、サーヴァントとしての最初の場所、そんなものがあるとしたら。そんな回答の一つが、ここと言うわけさ」

 

 

 

この場所は、完全なる『無』の空間に展開された結界。

過去も未来も無いどこでもない場所。

時空と言う概念に囚われない、だからこそのスタートライン。

その舞台として、プロデューサーが持つ宝具が採用されたのだ。

 

「おそらく、マスター達が経験した深夜の結界舞台。それに付随して発生したアイドルサーヴァント達の二百近い『英霊の座』。その大きな事象変化に波及して生じた『残響』。本来英霊になりえない『幻霊』が、サーヴァントとして始まるため(・・)の世界」

 

二百近い『英霊の座』の発生。

あの奇跡の出来事に起因する、新たなる英霊の登録。

特異点における連鎖召喚ならぬ、連鎖登録である。

 

「せっかくだし、もっとロマンチックに言おうかな。シンデレラの名を冠するアイドル達を支える為に、君達はサーヴァントとして呼び出されようとしている。彼女たちが信頼する人物の代表として、ね」

 

シンデレラによる奇跡の『残響』は、無論その関係者に届く。

まさに本当の意味で、彼らは新人(・・)のサーヴァントなのだ。

 

→「じゃあ、俺たちがここにいるのは……」

 

「無論、君がシンデレラ達のマスターであることに他ならない。マシュの場合は、シンデレラとの親和性の高さが原因だろうね」

 

「親和性、ですか?」

 

「ああ。例えば、君は卯月ちゃんの宝具『硝子の靴のお姫様(S(mile)ING!)』の効果を最も強く受けた影響さ」

 

卯月の宝具『硝子の靴のお姫様(S(mile)ING!)』は、シンデレラの霊基を譲渡する性質を持つ。

つまり、マシュは最もシンデレラに近い人物(・・・・・・・・・・・・)

この始まりの為の結界に引き寄せられたのも、マスター同様ある種の必然なのだろう。

 

そしてもう一つ。

先ほどのちひろの発言を否定したことへの回答がまだであった。

 

「擬似サーヴァントは本来、『器』ではなく『中身』の人物が主導権を握る。彼ら幻霊が、主導権を手渡せばその限りではないし、おそらくそれもあるだろう。だけど、それ以上に君達はシンデレラ(アイドル)達から影響を受けた」

 

「それは、どんな影響なんですか?」

 

「ちひろちゃんの質問に答えよう。『幻霊』でありながら、童話シンデレラの登場人物として高い知名度を持つ『魔法使い』と『御者』。それに加えて、君たち自身(・・・・・)の知名度が霊基に刻まれている。共に『魔法使い』の性質を持つプロデューサーはキャスターに。器と幻霊が異なるクラス適性を持つちひろちゃんはダブルクラスへと派生したのさ」

 

アイドルサーヴァントは、ファンからの応援と言う『知名度』によって恩恵を受けている。

だが、彼女たちの場合それだけではない。

彼女たちの逸話はファン第一号であるプロデューサーや、他のアイドル達からも語られている。

彼らはその逆。

プロデューサーとして、アシスタントとして、アイドル達からの逸話が霊基に刻み込まれているのだ。

無論、アイドルには劣るがファンの持つ知名度も含まれるのだろう。

 

結界の正体。

彼ら二人の召喚の理由。

サーヴァントとして構成されている要素。

 

そのどれをとっても、彼らはアイドル達に影響を受けている。

それが、彼らにとっては嬉しくもあり。

プレッシャーでもあり、誇らしくもあった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「話は大変分かりやすかったです。そこで相談なんですが、――――今から、何をすべきなのでしょうか?」

 

「そうだね。君は固有結界の展開限界という制限時間の中、その『正解』を探し出す事が目的になるだろうさ」

 

→「正解?」

 

「そう。ここは始まるための(・・・)世界。サーヴァントとしてアイドル達を支える為に、プロデューサー君がまずやらなければいけないこと。それを見つけ、解明し、正解する。そういう試練の時間、と言うわけなのさ」

 

「なるほど。やるべきことは分かりました。ですが……、前回ほどではないにしろ、この結界は十分広いです。歩き回って探すだけでは、時間がかかるばっかりです」

 

「大丈夫ですよ」

 

マシュの懸念に対し、にっこりとした表情で伝えるちひろ。

そんな彼女を見て、マシュは彼女のクラスを思い出す。

ちひろの肩から、二匹の白いネズミが顔を覗かせる。

 

「『チーちゃん』『ユーくん』、行きますよ」

 

その二匹は彼女の使い魔。

共に駆ける仲間であり宝具。

 

 

 

彼女はライダー。

 

 

 

「綺麗に着飾るシンデレラ」

 

 

 

その幻霊は『シンデレラの御者』。

 

 

 

「親愛なる友を乗せ、いざ舞踏会への道へ」

 

 

 

お姫様を乗せて、お城へと案内する操縦者。

 

 

 

 

 

「それが私の役目。進め!『かぼちゃの馬車は煌びやかに(シンデレラ・ロード)』!!」

 

 

 

 

 

仰々しい口上のによって、出現した騎乗物。

 

「これは……」

 

シンデレラを乗せるにふさわしい、アイドル達を運ぶ乗り物。

 

→「もしかして……」

 

 

 

その形状は、黒い大きめの乗用車(バン)であった。

 

 

 

→「確かにアイドル達の移動方法だけども!?」

 

「えっと、期待させていたようですみません。私の宝具『かぼちゃの馬車は煌びやかに(シンデレラ・ロード)』は概念的な乗り物なんです。様々な形状を取れて、もちろんかぼちゃの馬車にもなれるんですが……そちらは魔力の消費が激しいので」

 

申し訳なさ気で、しょんぼりとするちひろと二匹の使い魔。

どうやら車の形態では『白馬』を必要としないからか、ネズミの姿で居続けるようだ。

そんな二匹に対し、指で頭をなでるちひろ。

 

さておき。

 

どうやら5人が乗るには十分な大きさ。

道の整備された東京が結界のモチーフなので、車で動くのに支障はない。

 

「では、よろしくお願いします」

 

→「じゃあ、よろしくお願いします」

 

「よろしくね、二人とも」

 

カルデア含めた一同5人。

千川ちひろの操縦する乗用車へと乗り込んでいく。

 

 

 

始まりの結界の中で、彼らの道のりが始まったのであった。

 

 

 

 

 


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